この記事の要点

  • 「完熟はちみつ」に公的な定義はなく、はちみつ類の公正競争規約では「完熟」の文字は現在使えない語とされています。
  • 花の蜜は糖20〜30%ほどから、蜂の手で水分20%前後まで濃縮・熟成され、蜜蝋のふたがかけられて、腐りにくい蜜になります。
  • 熟成は水分を減らすことだけではなく、酵素による糖の分解や酸の生成を伴うため、ラベルの文字より水分や糖度の開示が手がかりになります。

「完熟」と書かれたはちみつを前に、普通のはちみつとどこが違うのかと立ち止まったことはないでしょうか。果物なら熟れ具合は見た目でわかりますが、瓶に入ったはちみつでは見当がつきません。ここでは、準備を進めるなかで調べた公的資料をもとに、「完熟」という言葉の位置づけと、花の蜜が熟すとはどういうことかを整理します。

薄い花蜜の巣房と蜜蝋のふたがかかった巣房が並ぶ巣板で、働き蜂が羽ばたいて風を送る朝の淡彩イラスト

「完熟」に、公的な定義はあるのか

完熟はちみつに、公的な定義はありません。「完熟」は法令上の用語ではなく、はちみつ類の表示ルールである公正競争規約でも、現在は使えない語とされています。

公正競争規約が認めているのは「純粋」と「Pure」だけ

一般社団法人 全国はちみつ公正取引協議会は、「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」を運用している団体です。同協議会の公開資料によると、規約はまず、はちみつを「みつばちが花蜜などを集め、巣に貯え、熟成した天然の甘味物質」と定義しています。組成基準は、水分20%以下(国産は22%以下)、果糖及びぶどう糖60g/100g以上、しょ糖5g/100g以下です。

表示については、「純粋」「天然」「生」「完熟」といった意味の文言のうち、使用できるのは「純粋」または「Pure」のみとされています。

「天然」「生」「完熟」は解禁を検討中という位置づけ

同協議会は、「天然」「生」「完熟」について、解禁を検討中としています。つまり、禁止が確定した語というより、使い方の基準がまだ定まっていない語です。「生」や「非加熱」の読み方は「生はちみつ」「非加熱」という表示の読み方で別に扱っています。

では、売り場の「完熟」は何を言おうとしているのか

売り場で見かける「完熟」は、おおむね、蜜蓋がかかるまで巣の中で熟した蜜を指す言い方として使われてきたようです。ただ、その中身は規約上の基準ではなく、事業者ごとの説明に委ねられています。表示している事業者を疑う必要はありません。大切なのは、「完熟」が共通の物差しを持たない言葉だと知っておくことです。物差しになるのは、次の章から見ていく水分の数字です。

花の蜜が「熟す」とは、どういうことか

花の蜜が熟すとは、薄い糖液だった花蜜が、蜂の手で水分を減らされ、糖が分解され、酸が生まれて、貯蔵できる蜜に変わることです。

出発点は糖20〜30%、到達点は水分20%前後

出発点の数字として、プレトリア大学のNicolson・Human・Pirkらが2022年に学術誌『Scientific Reports』で報告した研究があります。マカダミアの花の中の蜜は糖濃度が20〜30%(重量比)だったのに対し、巣の入口に戻ってきた蜂の蜜胃の中身は平均64%でした。濃縮は巣に帰る前から始まっていて、巣に貯えるには糖80%超まで濃くする必要があるとしています。

巣の中では、ミツバチ(ここではセイヨウミツバチ)が花蜜を巣房の壁に貼り付け、翅で風を起こして水分を蒸発させます。一般社団法人 日本養蜂協会の解説では、水分が20%程度になると、蜜蝋で薄くふたをするとされています。糖分は成分の約80%弱です。

水分が減る・糖が分かれる・酸が生まれる、三つが同時に進む

熟成には三つの動きがあります。

動き内容
水分が減る風と蒸発で、花蜜の水分が20%前後まで下がる
糖が分かれる唾液由来のインベルターゼ(転化酵素)が、主成分のショ糖を果糖とブドウ糖に分解する(日本養蜂協会)
酸が生まれるグルコースオキシダーゼなどの酵素の働きで酸ができ、pHが下がる(Apimondiaの声明)

酵素や酸の話は、蜜の中で何が起きているかという成分の話です。蜂が加える酵素の働きはミツバチが蜜に加える酵素の働き、弱酸性になるしくみははちみつが弱酸性になるしくみで詳しく扱っています。成分がどう変わっていくかの全体像は、花の蜜がはちみつになるまでの成分の変化にまとめました。

規約の定義にある「巣に貯え、熟成した」の一語

先に引いた規約の定義に、「巣に貯え、熟成した」という言葉があることにも注目したいところです。規約の考え方では、熟成ははちみつであることの前提に含まれています。そのため、わざわざ「完熟」と書き添えなくても、定義の上では、熟成したものがはちみつと呼ばれることになります。

なぜ水分20%前後が境目になるのか

水分20%前後が境目とされるのは、そのあたりを超えると、保存中に発酵が起こりやすくなるためです。ここには18%、20%、22%という三つの数字が出てきます。

FAOが示す18%——発酵のおそれがほとんどない水分

FAO(国連食糧農業機関)の資料は、水分18%未満のはちみつだけが、発酵のおそれがほとんどない状態で貯蔵できるとしています。発酵は、はちみつに含まれる酵母が、水分の多い蜜の中で働くことで起こります。そのしくみは水分が多いはちみつが発酵するしくみで解説しています。

規約の20%と、国産の22%

一方、先ほどの規約の組成基準は水分20%以下で、国産は22%以下です。FAOの18%は「ほとんど心配がない」水準、規約の20%と22%ははちみつとして流通させる上限の線、と役割が違います。数字が食い違っているというより、問うている内容が違うと見るほうが近いでしょう。

糖度に読み替えると——屈折計の78度・80度が指すもの

水分が20%前後なら、残りの約80%が糖などの固形分です。水分の基準を糖度の言葉に置き換えると80度前後になり、売り場で78度という数字が語られるのも、このあたりの水分に対応しているためです。ただし「糖度何度以上が完熟」という決まりはありません。測り方ははちみつの糖度を屈折計で測るしくみに、水分活性との違いは糖度と水分活性という二つの数字の違いにまとめています。

蜜蓋は「熟した」の合図——ただし、それだけでは決まらない

巣枠の蜜蓋を蜜刀で切り落とす採蜜の場面を描いた淡彩イラスト 蜜蓋がかかった巣枠を、蜜刀で開ける

蜜蓋は、蜂が水分20%程度に達した蜜にかける蜜蝋のふたで、熟した目安として使われてきました。ただし、蓋の有無だけで水分が決まるわけではありません。

水分20%程度で蜜蝋のふたがかかる

日本養蜂協会の解説どおり、蜂は水分が20%程度になった巣房に蜜蝋でふたをします。養蜂では、この蓋を待ってから採蜜するのが基本とされています。手順は蜜蓋を待ってから採蜜する手順で整理しています。

はちみつは湿度60%を超えると水を吸う

蓋がかかっていても、蜜は外気の影響を受けます。FAOの資料では、はちみつは吸湿性があり、相対湿度50%で水分15.9%、60%で18.3%、70%で24.2%、80%で33.1%と釣り合います。つまり、湿度60%を超える環境に置かれた蜜は、水分18%を上回る方向へ動きます。この性質ははちみつが空気中の水分を吸う性質に詳しくあります。

またFAOは、部分的に結晶すると液の部分の水分が上がり、保存上の問題が出ることがあるとも述べています。

蓋の有無ではなく、水分で確かめるという考え方

こうして見ると、「蓋がかかっている=熟している=そのまま変わらない」という単純な二分法は成り立ちません。熟したかどうかは蓋の有無ではなく、その時点の水分という数字で確かめるもの、というのが公的資料から読み取れる考え方です。

人の手で水分を飛ばした蜜は、何が違うのか

人の手で水分を飛ばした蜜が問題にされるのは、水分の数字が同じでも、熟成の中身が同じとは限らないからです。この点は、国際団体の声明という形で示されています。

国際養蜂協会連合が問題にしている生産方式

Apimondia(国際養蜂協会連合)は、はちみつの不正に関する声明で、未熟な蜜を計画的に収穫し、真空乾燥機などで脱水する生産方式を、不正の類型の一つに挙げています。特定の国や事業者を指す話ではなく、生産方式についての整理です。

水分を抜いても、蜂が加えるはずだったものは足されない

同声明は、熟成は乾燥と切り離せないものであり、酵素などミツバチ由来の物質の付加や、酸の生成によるpHの低下を伴う、としています。花の蜜を煮詰めて水分だけ減らしても、こうした過程は含まれません。規約の定義が「巣に貯え、熟成した」としている点とも重なります。

20%から18%への仕上げ調整は別の話とされている

一方、同じ声明は、熟した蜜の水分を瓶詰め前に20%から18%前後へ下げる調整を、目的がまったく異なるものと区別しています。水分を下げる行為がすべて同じに扱われているわけではありません。「脱水=偽物」と決めつけるのではなく、何を脱水しているのかが分かれ目です。なお、精製や加糖といった表示上の区分は純粋・加糖・精製という区分の見分け方に整理しました。

瓶の前で確かめられること、確かめられないこと

ラベルから読めるのは名称などの表示項目までで、完熟かどうかそのものは読めません。何が読めて何が読めないかを分けておくと、迷いが減ります。

ラベルで読めるのは名称・原材料名・採蜜国まで

全国はちみつ公正取引協議会の規約が定める表示から確認できるのは、名称、原材料名、採蜜国といった項目です。熟度の欄はありません。

「完熟」の文字より、水分や糖度の数字を示しているか

「完熟」の語は基準がない上に、規約では現在使えない語です。それよりも、水分や糖度を数字で開示しているか、問い合わせに答えているかのほうが、確かめる手がかりになります。ただしこれは、数字がなければ良くないという意味ではありません。

結晶する・しないは、完熟かどうかの目印にならない

固まるかどうかも熟度の目印にはなりません。結晶化は、ぶどう糖と果糖の比率や温度で決まります。固まりやすい蜜と固まりにくい蜜の違いは固まりやすい蜜と固まりにくい蜜の違いで扱っています。

確かめられること確かめにくいこと
名称・原材料名・採蜜国巣でどこまで熟したか
水分・糖度の開示の有無蜜蓋を待って採ったか
結晶しているかどうか(熟度の目印ではない)仕上げ調整か、未熟蜜の脱水か

まとめ——完熟は、水分と時間の話

要点を三つにまとめます。

  • 「完熟」に公的な定義はなく、規約では現在使えない語です。
  • 熟成は、水分が20%前後まで減ること、糖が分かれること、酸が生まれることの三つが同時に進む過程です。
  • 見るべきは「完熟」の文字ではなく、名称・原材料名と、水分や糖度の数字です。

熟した蜜を、台所で湿らせない

FAOの数字が示すとおり、はちみつは湿度の高い場所で水を吸います。開封後は蓋をしっかり閉め、濡れたスプーンを入れないようにするだけで、水分の変化は小さく抑えられます。

1歳未満の赤ちゃんには与えない

1歳未満の乳児には、はちみつを与えないでください。乳児ボツリヌス症の恐れがあるため、消費者庁・厚生労働省が注意を呼びかけています。熟度や種類に関わらず、加熱の有無にも関わらず当てはまる注意です。理由は1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由にまとめています。

よくある質問

Q:完熟はちみつと普通のはちみつは、何が違うのですか?

公的な区分はありません。蜜蓋がかかるまで巣で熟した蜜を指す言い方として使われることが多く、違いがあるとすれば、水分と熟成の進み具合です。

Q:ラベルに「完熟」と書いてあれば、信頼してよいのでしょうか?

規約では現在使えない語で、基準もありません。文字そのものよりも、名称・原材料名、水分や糖度の開示で確かめるのが現実的です。

Q:完熟はちみつは、糖度が何度以上のものを指しますか?

決まりはありません。78度前後がよく語られるのは、規約の基準値である水分20%以下に対応する数字だからです。

Q:未熟なはちみつを食べても問題はありませんか?

水分が多いと発酵しやすい、という保存性の話になります。FAOは水分18%未満なら発酵のおそれがほとんどないとし、規約の上限は20%(国産は22%)です。どちらが優れているという話ではなく、保存のしやすさの違いです。なお、1歳未満の乳児には熟度に関わらず与えないでください。

Q:固まらないはちみつは、完熟していない証拠ですか?

いいえ。結晶化は糖の比率と温度で決まり、熟度の目印にはなりません。固まりにくい蜜源があります。

Q:花の蜜を煮詰めれば、はちみつと同じものになりますか?

水分は減りますが、酵素による糖の分解や酸の生成は伴いません。規約の定義にある「巣に貯え、熟成した」ものとは別物と整理されます。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの立ち上げを準備しています。蜂を迎える前の今は、はちみつや養蜂について公的な資料を読み、わかったことをこの「読みもの」に書き留めています。派手な言葉より、水分や時間といった地味な事実を大切にしたいと考えています。