この記事の要点
- はちみつのpHはFAOの資料で平均3.91、レモンとオレンジのあいだに入る酸性の食品です。
- 酸の主役グルコン酸は、ミツバチ由来の酵素がブドウ糖に働いてでき、過酸化水素も同時に生まれます。
- はちみつの腐りにくさは酸だけでなく、高い糖度と低い水分活性との組み合わせで支えられていますが、1歳未満には与えません。

はちみつは実は酸性——pHの数字で見てみる
はちみつは、pHで見るとはっきり酸性の食品です。あれほど甘いものが酸性と聞くと意外に思えますが、数字にすると、その位置はかなり身近な果物のそばにあります。
pHとは、水溶液の酸性・アルカリ性の度合いを表す数値です。7が中性で、数字が小さいほど酸性が強くなります。
平均pH3.91という測定値(FAO)
FAO(国連食糧農業機関)の資料によると、はちみつのpHは平均3.91で、範囲は3.42〜6.10とされています。中性の7からは遠く、平均は明らかに酸性側にあります。ただし最大値の6.10のように中性に近いものもあり、蜜源や個体によって幅があることも、同じ資料から読み取れます。
レモンとオレンジのあいだ——検査センターの実測より
エフコープ生活協同組合の商品検査センターが市販のはちみつのpHを実際に測ったところ、pH3〜4の酸性でした。同センターは比較として、レモンがpH2程度、オレンジがpH4程度と紹介しています。並べると次のとおりです。
| 食品 | pHの目安 | 出典 |
|---|---|---|
| レモン | 2程度 | エフコープ商品検査センター |
| はちみつ(市販品の実測) | 3〜4 | エフコープ商品検査センター |
| はちみつ(平均値) | 3.91 | FAO |
| オレンジ | 4程度 | エフコープ商品検査センター |
はちみつは、強い酸味で知られるレモンと、ほのかに酸味のあるオレンジのあいだに収まります。平均値の3.91は、オレンジ側にかなり寄った位置です。「弱酸性」という言葉は、このあたりの数字を指していると考えてよさそうです。
グルコン酸はどうやって生まれるのか——ミツバチの酵素の仕事
はちみつの酸の主役は、グルコン酸です。グルコン酸とは、ブドウ糖(グルコース)が酵素の働きで酸化されてできる有機酸のことです。FAOの資料は、はちみつに含まれる有機酸のうち、ブドウ糖の酵素分解で生まれるグルコン酸が最も多いと記しています。
グルコースオキシダーゼという酵素
この反応を進めるのが、グルコースオキシダーゼです。グルコースオキシダーゼとは、ブドウ糖に酸素を働かせて、グルコン酸と過酸化水素を生み出す酵素です。全国はちみつ公正取引協議会も、この酵素を「ぶどう糖からグルコン酸と過酸化水素を生成させる働きを持つ酵素」と説明しています。
酵素はもともと、ミツバチの体内で分泌され、集めた花の蜜に混ぜ込まれると言われています。日本の養蜂で広く飼われているセイヨウミツバチが、蜜を巣に持ち帰って加工するあいだに、この酵素が蜜へ加わっていくという流れです。
ブドウ糖から生まれる酸と過酸化水素
反応を式にすると、次のようになります。
ブドウ糖+酸素 → グルコン酸+過酸化水素
過酸化水素は、この反応の副産物として同時に生まれる物質です。この記事では、はちみつという食品そのものが腐りにくい理由を考える文脈に限って触れます。人の体にどう作用するかという話は、ここでは扱いません。
花の蜜がはちみつになる過程との関係
花の蜜はもともと水分が多く、ミツバチの手を経て水分が減り、成分が変わっていきます。酵素の働きによる糖の変化も、その過程の一部です。蜜がはちみつになる道のりは、花の蜜がはちみつになるまでの成分変化で詳しく書いています。酸はできあがってから生まれるのではなく、蜜が変わっていくあいだに少しずつ増えていく、と捉えるとイメージしやすいと思います。
酸は腐りにくさをどう支えているのか——糖度・水分活性との三本柱
棚の奥で静かに変わらずにいる、はちみつの瓶
酸は、はちみつの腐りにくさを支える柱の一本ですが、単独で働くわけではありません。FAOの資料は、糖濃度の高さと酸性(pH3.5〜5.0)の両方が、はちみつの抗菌性に寄与すると述べています。水分活性という三本目の柱を加えて、三つで一組と考えると全体像が見えてきます。
水分活性とは、食品のなかで微生物が利用できる自由な水の割合を示す指標です。数値が低いほど、菌が使える水が少ないことを意味します。この考え方は、水分活性が低いことの意味でも整理しています。
多くの細菌が苦手なpH域
FAOの資料が挙げるpH3.5〜5.0という範囲は、多くの細菌が育ちにくいとされる領域と重なります。はちみつの平均pH3.91は、その真ん中あたりです。酸そのものが、菌にとってはやや居心地の悪い環境をつくっていると言えます。
濃い蜜では酵素は眠っている——二段構えのしくみ
もうひとつ、おもしろい記述がFAOの資料にあります。濃いはちみつのなかでは、グルコースオキシダーゼはほぼ不活性だというのです。つまり、酸を生む酵素は、水分の少ないはちみつの中では眠っている状態にあります。
一方で、蜜が薄まると酵素が動き出し、グルコン酸と過酸化水素を生むと考えられます。濃いあいだは糖と低い水分活性が守り、薄まったときには酵素が起きて別の形で守る。そういう二段構えとして読めるのが、この記述のおもしろいところです。全体像ははちみつが腐らない理由(糖度・水分活性・酸性度)でも、三つの要素をまとめています。
遊離酸度50ミリ当量以下という国際基準
酸には、国際的な基準まで設けられています。FAOとWHOが定めるコーデックス規格(Codex)では、はちみつの遊離酸度は1000gあたり50ミリ当量以下とされています。遊離酸度とは、はちみつに含まれる遊離した酸の量を示す指標です。同じ規格には、水分は20%以下(ヒースはちみつは23%以下)、果糖とブドウ糖の合計は100gあたり60g以上という基準もあります。糖、水分、酸の三つが、そろって品質の物差しになっている点は、腐りにくさの構図と重なります。
酸っぱくないのはなぜか——甘さの陰に隠れる有機酸
pH3〜4という酸性でも、はちみつを口に含んで酸っぱいと感じる人は多くありません。理由は単純で、はちみつがとても甘いからです。エフコープ生活協同組合の商品検査センターも、酸っぱさを感じないのは、はちみつが非常に甘いためと説明しています。
甘さが酸味を覆い隠す
強い甘さは、酸味の感じ方を弱めます。たとえばレモン果汁に砂糖を溶かすと、酸味がまるくなる経験をした方は多いと思います。はちみつでは、糖が全体の約8割を占めるため、酸が舌に届いても、甘さのほうが前に出てきます。成分の全体像ははちみつの成分の全体図(糖8割・水2割と残り1〜2%)にまとめています。
グルコン酸以外の有機酸たち
有機酸とは、炭素を含む酸の総称で、果物の酸味のもとになるものが多く含まれます。FAOの資料によれば、はちみつの遊離酸は、グルコン酸換算で平均0.43%です。グルコン酸が最多とはいえ、全体の量はごくわずかです。
酸味として強くは主張しない一方で、この少量の有機酸が、甘さの後ろで味の輪郭を整えていると言われています。甘いだけのシロップと、はちみつを食べたときの印象が違うのは、酸を含む微量成分の存在も一因かもしれません。ただし、酸だけで説明がつくわけではなく、蜜源ごとの香りの成分なども関わります。
加熱や保存で酸と酵素はどうなるか
加熱すると、酵素は弱まりますが、すでにできた酸は残ります。ここでは、その違いを二つに分けて見ていきます。
グルコースオキシダーゼは熱に弱い——残存活性の数字
全国はちみつ公正取引協議会は、はちみつを50℃で1時間加熱した後の酵素の残存活性を紹介しています。アミラーゼが90%、αグルコシダーゼが54%、グルコースオキシダーゼが25%です。
酵素ごとに熱への強さが違い、グルコースオキシダーゼはこの三つのなかで最も弱い、という並びになっています。50℃という穏やかな温度でも、1時間で活性は4分の1まで下がることになります。「生はちみつ」「非加熱」といった表示を読み解くうえで、酵素の熱への弱さは手がかりの一つです。表示の読み方は、「生はちみつ」「非加熱」表示の読み解きで扱っています。
できあがったグルコン酸と酸性は消えない
酵素が弱まっても、すでに生まれたグルコン酸がなくなるわけではありません。酵素は「これから酸をつくる働き」を担うもので、加熱の影響を受けるのは主にその働きの側です。ここでは、公的な出典に沿って、酵素の残存活性の数字までを事実として示します。加熱したはちみつの酸度を直接測った数値は、この記事の出典には含まれていません。したがって、加熱で酸性が消えるという説明は、少なくとも出典から導くことはできないということになります。
腐りにくい、でも万能ではない——覚えておきたい二つの注意
乾いたスプーンで取り、蓋をしっかり閉める
はちみつは腐りにくい食品ですが、腐らないわけでも、誰にとっても安全というわけでもありません。二つの注意点を、線を引く意味で書いておきます。
水分を吸うと発酵することがある
腐りにくさの土台は、糖の濃さと水分の少なさです。保存中に水分を吸って薄まると、その土台が崩れます。すると酵母などが働き出し、泡立ったり酸っぱいにおいがしたりする発酵が起こることがあります。見分け方ははちみつが泡立ち酸っぱくなる発酵のサインで整理しています。酸があるから大丈夫、と考えず、蓋をしっかり閉めて保管することが、腐りにくさを保つ基本です。
1歳未満の赤ちゃんには与えない——酸でも加熱でも防げない理由
厚生労働省は、1歳未満の乳児にはちみつを与えてはいけないと注意を呼びかけています。ボツリヌス菌の芽胞は耐熱性が高く、120℃で4分の加熱をしても死滅しません。乳児は腸内環境が未発達なため、腸内で菌が増えて毒素を出すことがあります。国内では1999年以降、16例の報告があるとされています。
酸性であることも、加熱することも、この危険を避ける手段にはなりません。理由の詳細は1歳未満にはちみつを与えてはいけない理由で書いています。「腐りにくい」と「誰にとっても安全」は、まったく別の話です。
よくある質問
Q:はちみつのpHはどのくらいですか?酸性なのに酸っぱくないのはなぜ?
FAO(国連食糧農業機関)の資料では、平均3.91、範囲は3.42〜6.10です。エフコープ生活協同組合の商品検査センターによる市販品の実測でも、pH3〜4の酸性でした。酸っぱく感じにくいのは、はちみつがとても甘く、その甘さが酸味を覆うためだと説明されています。
Q:はちみつは酸性食品ですか、アルカリ性食品ですか?
液性としては、pH3〜4のはっきりした酸性です。「アルカリ性食品」という言い方は、食品を燃やした後に残る灰分の性質で分ける古い分類に基づくもので、口に入れた食品の液性そのものとは別の話です。また、食べたものによって体のpHが変わるという意味でもありません。はちみつは酸性の食品で、その酸は味と保存性に関わる成分として理解するのが、最も事実に近いと思います。
Q:グルコン酸とは何ですか?体に良い成分ですか?
グルコン酸は、ブドウ糖が酵素の働きで酸化されてできる有機酸で、はちみつの酸のなかでは最も多い成分です。ただし、FAOの資料では、遊離酸全体でも平均0.43%と少量です。全国はちみつ公正取引協議会の説明でも、含有量の少なさは指摘されています。体への効果を語る成分ではなく、はちみつの味と保存性に関わる成分として紹介するのが適切です。
六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。蜜蜂を迎える前の今は、はちみつの成分や保存のしくみのような基本を、公的な資料にあたりながら調べている段階です。調べたことは、この「読みもの」に少しずつ書いていきます。