はちみつのラベルや紹介文に「糖度78度」と書いてあるのを見て、何を測ってその数字が出てくるのか、ふと気になったことはないでしょうか。糖度と聞くと甘さの強さを想像しがちですが、実はこの数字が語っているのは、はちみつにどれだけ水分が残っているかということです。
この記事の要点
- はちみつの糖度は約80%前後で、水分約20%の裏返しの数値として読める
- 屈折計は光の屈折角から濃度を読む器具で、糖度の単位はBrix(ブリックス)と呼ばれる
- 全国はちみつ公正取引協議会の規約は水分20%以下(国産はちみつは22%以下)を定めており、糖度78〜80度前後という目安はこの基準に対応する
- ミツバチは翅の風で花蜜の水分を飛ばし、水分が20%程度になると蜜蝋で蜜蓋をして熟成の完了を示す

はちみつの「糖度」とは何を指すのか——糖と水分は裏表
はちみつの糖度とは、はちみつ全体に占める糖分の割合を指す数値です。全国はちみつ公正取引協議会は、はちみつの糖度が約8割と高いことを紹介しています。この「約8割」という数字を裏から見ると、残りの2割ほどが水分だということになります。
糖分約80%・水分約20%という組成
一般社団法人日本養蜂協会の解説によれば、はちみつの糖分は約80%弱で、そのうちブドウ糖と果糖がそれぞれ30数%を占めるとされています。糖以外の残りの成分の大半は水分が占めており、糖度と水分量はほぼ表裏一体の関係にあります。糖度が高いはちみつほど水分が少なく、糖度が低いはちみつほど水分が多いと読み替えられるのは、このためです。
糖度が高い=水分が少ない、という読みかえ
「糖度78度」という表示を見たとき、糖分がぎっしり詰まっているというより、水分がその分だけ少ない状態だと捉えるほうが実態に近いといえます。この読みかえができると、後述する公正競争規約の水分基準や、ミツバチが行う濃縮の意味もつながって見えてきます。花の蜜が水分約60%からはちみつになるまでの成分の変化をたどると、この水分の減り方がより具体的にわかります。
屈折計はなにを見ているのか——光の曲がり方で濃度を読む
屈折計とは、光が液体を通るときに曲がる角度(屈折率)から、その液体の濃度を読み取る器具です。はちみつの糖度測定には、正式には屈折糖度計と呼ばれるこの器具が使われます。
Brix(ブリックス)という物差し
計測器メーカーのアタゴによると、Brix(ブリックス)とは、果汁100g中に糖分が何g含まれるかを目盛にした濃度のことで、単位は百分率(%)で表されます。液体は濃度が高くなるほど光を強く曲げる性質があり、屈折計はこの屈折の度合いをBrix値という数字に変換して表示します。もともとは果汁の糖度測定のために考えられた指標ですが、糖分を主成分とするはちみつにもそのまま応用されています。
一滴のせて空にかざす——アナログ屈折計の手順
アナログ式の屈折糖度計は、プリズム面に試料を一滴のせ、光にかざして接眼レンズをのぞきこむという単純な操作で数値を読み取れる器具です。視野の中に明暗の境界線が現れ、その線が示す目盛りの位置を読むことで濃度がわかります。操作自体はシンプルですが、正確な値を出すには校正や温度の管理が必要になります。
はちみつ用の屈折計には水分の目盛りもある
はちみつ測定用に作られた屈折糖度計の中には、Brix(糖度)の目盛りに加えて、水分含有量を直接読み取れる目盛りを備えたものがあります。糖度と水分は裏表の関係にあるため、どちらの目盛りで読んでも実質的には同じものを見ていることになりますが、はちみつの規約が水分基準で定められていることを踏まえると、水分目盛りのほうが規約の数値と直接照らし合わせやすいといえます。
なぜ「78度」が目安と言われるのか——規約が定める水分の上限
糖度78度や80度という数字が業界内でしばしば目安として語られるのは、全国はちみつ公正取引協議会が定める組成基準の水分上限に対応しているためです。
水分20%以下・国産22%以下という組成基準
同協議会が定める「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」では、はちみつの組成基準として水分20%以下(国産はちみつは22%以下)と規定されています。水分が20%であれば残りは概ね80%、国産の22%以下という基準であれば残りは概ね78%以上という計算になり、これが「糖度78度」「糖度80度」という目安の根拠になっています。つまりこの数字は、誰かが甘さの基準として決めた値ではなく、水分の上限を裏返しただけの数値だということです。
果糖・ブドウ糖60g以上——糖の中身にも基準がある
同規約は水分の上限だけでなく、糖の中身についても基準を設けています。果糖及びぶどう糖含有量は60g/100g以上(甘露はちみつは45g/100g以上)、ショ糖は5g/100g以下(蜜源植物により10gまたは15g以下となる例外あり)とされています。糖度という一つの数字の裏には、水分の上限とあわせて、どんな糖がどれだけ含まれているかという基準も存在しています。
ミツバチ自身が濃縮している——蜜蓋は熟成完了のサイン
はちみつの糖度が高い状態に仕上がっているのは、ミツバチ自身が巣の中で花蜜を濃縮する作業を行っているためです。糖度を測る話は、もとをたどればこの生態にたどり着きます。
転化酵素と翅の風——巣の中で起きていること
一般社団法人日本養蜂協会の解説によると、ミツバチの唾液に含まれる転化酵素が花蜜に含まれるショ糖を果糖とブドウ糖に分解します。分解された花蜜は巣房の壁に薄く貼り付けられ、ミツバチが翅で風を起こすことで水分が蒸発していきます。花の蜜として集められた時点では水分が多い液体が、この作業を経て少しずつ水分を失っていく過程です。
蜜蓋がかかったら「できあがり」の合図
同協会によれば、水分量が20%程度になると、ミツバチはその巣房に蜜蝋で薄くふたをします。この蜜蝋のふたを蜜蓋と呼び、養蜂の現場では蜜蓋がかかった巣房を熟成完了の合図として見きわめる目安にしていると一般に説明されています。糖度78〜80度という数字も、蜜蓋がかかる水分20%前後という状態と対応していることになります。採蜜で蜜蓋を待つ理由と手順にも、この見きわめの考え方が詳しくまとめられています。
糖度が足りないとどうなるか——発酵・保存性・結晶化との関係
糖度が基準より低い、つまり水分が多いはちみつは、変質を招きやすくなるとされています。ここでいう変質とは、腐敗というより発酵・発泡という現象を指します。
水分が多いと発酵・発泡しやすくなる
全国はちみつ公正取引協議会は、はちみつは水分が多い場合に発酵・発泡などの変質を招きやすくなると説明しています。糖度が高い状態は微生物が増殖しにくい環境をつくりますが、水分が基準より多く残っていると、この環境が保たれにくくなるということです。糖度が保存性の土台になっているというのは、こうした裏付けに基づいた話です。はちみつが腐らない理由——糖度・水分活性・酸性度では、水分活性という切り口からこの仕組みがより詳しく解説されています。
白く固まるのは結晶化——糖度不足とは別の話
はちみつが白く固まる現象は結晶化と呼ばれ、糖度不足とは別の理由で起こります。結晶化は、はちみつに含まれるブドウ糖が温度条件などによって結晶を作る自然な現象であり、品質が損なわれたわけではありません。同協議会は、結晶を溶かす際には60℃以上にならないように加温することを案内しています。白く固まるのは結晶化という自然現象に、この見分け方がまとめられています。
台所でわかること、わからないこと——ラベルの読み方へ
家庭で正確な糖度を測るのは、実のところ簡単ではありません。市販の屈折計を使えば数値は出せますが、校正や温度補正といった手間が伴います。
スプーンから垂らす観察でわかるのは粘度まで
はちみつをスプーンから垂らしたときの糸の引き方やとろみで、なんとなくの濃さを感じ取ることはできます。ただしこの観察でわかるのは粘度の印象にとどまり、糖度何度という正確な数値までは読み取れません。粘度は温度によっても変わるため、同じはちみつでも季節や保存場所によって垂れ方の印象が変わることもあります。
確かめたいなら裏ラベルの名称と採蜜国を見る
糖度そのものをラベルで確認できる商品は多くありませんが、はちみつの規約に沿った表示であれば、名称や採蜜国の記載から、そのはちみつがどの基準で扱われているかを読み取る手がかりになります。純粋・加糖・精製というラベルの3区分を踏まえてラベルを読むと、糖度の話がより具体的につながって見えてきます。
よくある質問
Q:はちみつの糖度は何度あればよいのですか? 全国はちみつ公正取引協議会の公正競争規約では、水分20%以下(国産はちみつは22%以下)という組成基準が定められています。糖度78〜80度前後という目安は、この水分基準を裏返した数字として語られています。
Q:はちみつの糖度は家庭で測れますか? 市販の屈折糖度計を使えば測定自体は可能です。ただし正確な値を出すには校正や温度補正が必要になり、家庭で手軽に扱える精度とは限りません。糖度を確かめたい場合は、屈折計を使うよりも、はちみつの裏ラベルに記載された名称や採蜜国の表示を確認するほうが現実的だといえます。
Q:糖度が低いはちみつはどうなりますか? 全国はちみつ公正取引協議会は、水分が多い場合には発酵・発泡などの変質を招きやすくなると説明しています。これは食べられないほどの腐敗とは異なり、規約上の基準を満たさない状態が続くと変質のリスクが高まるという意味合いです。
Q:糖度が高ければ赤ちゃんに与えても大丈夫ですか? 糖度の高さとは無関係に、1歳未満の乳児にはちみつを与えることはできません。厚生労働省は、乳児がはちみつを摂ると乳児ボツリヌス症にかかることがあり、ボツリヌス菌は120℃4分の加熱でも死滅せず通常の調理では除去できないことを周知しています。便秘やほ乳力の低下などの症状を起こし、まれに死亡することもあるとされています。
六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの立ち上げを準備しています。まだ蜜蜂を迎える前の段階ですが、糖度や水分基準といった数字の意味を一つずつ調べながら、はちみつという食品の成り立ちを丁寧に理解していきたいと考えています。これから確かめていきたいことは、まだたくさん残っています。
測った数字がぶれるとき——温度・校正・試料のとり方で確認したいこと
屈折計は一滴で数字が出る手軽な器具ですが、同じはちみつを測っても値が揃わないことがあります。原因として考えやすいのは、次の3つかなと思います。
- 温度:屈折率は温度によって変わるため、屈折計は基準となる温度を前提に目盛りが作られています。自動温度補正(ATC)つきの機種でも、補正されるのは本体側の温度です。暖かい場所から持ってきた試料を冷えたプリズムにのせた直後は、値が落ち着かないことがあります。のせてから少し待ち、試料と本体の温度をなじませてから読むほうが安定しやすいと思います。
- 校正:果汁用の屈折計は水をのせてゼロに合わせるのが一般的です。はちみつ用のような高濃度向けの機種は、目盛りの範囲にゼロが含まれず、水では合わせられないものがあります。その場合は付属の校正液や基準ブロックを使うことになるので、手順は機種の取扱説明書で確認するのが確実です。
- 試料の状態:気泡が入っていたり結晶が混じっていたりすると、明暗の境界線がぼやけて読みにくくなります。境界線がくっきり出ないときは、数字を無理に読まず、プリズムを拭いて試料をのせ直すほうが安全かなと思います。
あわせて気をつけたいのが、どこから一滴をとるかです。はちみつは空気中の湿気を吸いやすい性質があるとされていて、容器の表面近くと底のほうでは水分が同じとは限りません。一か所だけで判断せず、場所を変えて何度か測り、値が揃うかどうかを見るほうが、数字を信用しやすくなると思います。
屈折計を選ぶ前に見ておきたい点——測定範囲と目盛りの種類
屈折糖度計は、どれを選んでもはちみつが測れるわけではありません。つまずきやすいのは測定範囲です。果物や果汁向けの機種は低い濃度に合わせて作られていて、はちみつのような高濃度の試料は目盛りの外に出てしまうことがあります。その場合、視野の中に境界線が現れず、故障と勘違いしやすいので注意が必要です。
選ぶときに確認したいのは、次の点かなと思います。
- 測定範囲が、はちみつの濃度域をカバーしているか
- 水分目盛りがついているか(規約の基準と見比べたい場合)
- 温度補正が自動か、換算表を使う方式か
- 校正の方法と、校正液などの付属品が手に入るか
アナログ式は構造が単純で電池がいらない反面、境界線の位置を読むのは人の目なので、読む人によって差が出やすい面があります。デジタル式は数字で表示されるぶん読み取りの差は出にくいものの、校正や電池の管理が必要になります。どちらが優れているというより、測る頻度と、どの数字と比べたいのかで選ぶのが現実的だと思います。