この記事の要点

  • はちみつが固まる速さは糖度では決まらず、果糖とブドウ糖の比(F/G比)と、ブドウ糖と水分の比(G/W比)で決まります。
  • 研究レビューの目安では、F/G比が1.11未満なら速く、1.33を超えると遅く、1.58を超えると結晶しにくいと報告されています。
  • 結晶化は品質の劣化ではありませんが、固まって液が分かれた部分は水分が上がるため、泡や酸っぱい匂いがないかを見ます。

ラベルの糖度も水分もほとんど同じなのに、菜の花の瓶だけが白く固まった。そんな経験から「数字のどこを見れば固まり方がわかるのか」と調べる人は少なくありません。結論から言うと、見るべきなのは糖度ではなく、二つの比率です。この記事では、その二つの物差しと、花の名前から瓶の先行きを見立てる方法を整理します。

白く結晶した蜂蜜と透明なままの蜂蜜の瓶が、朝の光の中で木棚に並んでいる淡彩イラスト

同じ糖度8割でも、固まる瓶と固まらない瓶がある

はちみつが固まる速さは、採蜜源となる花の種類によって大きく違います。これは俗説ではなく、業界の規約自体が認めている性質です。

規約の別表に書かれている「結晶の遅速」

全国はちみつ公正取引協議会の「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」の別表には、はちみつの性状として「結晶を生ずることがある(採蜜源となる花等の種類又は保存条件によって結晶の遅速が甚しく異なる。)」と書かれています。「甚しく異なる」という強い言い方で、花によって固まる速さに大きな差が出ることが明記されているわけです。糖度が同じ8割前後でも、瓶ごとに固まり方が違うのは、むしろ当たり前のことと言えます。

固まり方は品質の良し悪しではない

別表の書きぶりは、結晶を欠点としてではなく、はちみつの性状として扱っています。固まりやすい花の蜜と、固まりにくい花の蜜があるだけで、どちらが上という話ではありません。以降では、その違いがどこから生まれるのかを、糖の仕組みから順に見ていきます。

固まるのはブドウ糖だけ——二つの糖の溶けやすさの差

はちみつが白く固まるのは、ブドウ糖が結晶になるためです。農林水産省(消費者の部屋)も、白く固まるのはブドウ糖と果糖のうちブドウ糖の作用によるもので、ブドウ糖が多いはちみつほど結晶しやすいと説明しています。成分が変わったわけではなく、溶けていたものが固体として現れただけです。

果糖27〜44%、ブドウ糖22〜41%という幅

はちみつの主成分は果糖とブドウ糖で、その量は蜜によってかなり違います。FAO(国連食糧農業機関)の資料によると、米国産はちみつの平均組成は果糖38.2%(27.2〜44.3%)、ブドウ糖31.3%(22.0〜40.7%)、しょ糖1.3%、水分17.2%(13.4〜22.9%)です。果糖もブドウ糖も、最小と最大で10〜20ポイント近い開きがあります。同じ「はちみつ」という名前でも、糖の中身はこれだけばらつきます。

過飽和という、溶けきれない状態

過飽和とは、本来その温度で水に溶けられる量を超えて、糖が溶けている状態のことです。はちみつは水分が2割に満たない濃い糖の液ですから、とくにブドウ糖は溶けきれない量を抱え込んだ状態で瓶に入っています。果糖は水に溶けやすく、この状態でも液のままでいられます。一方、ブドウ糖は溶けにくいため、何かのきっかけで結晶の芽ができると、そこから一気に固体へ移っていきます。固まりやすさとは、つまりブドウ糖がどれだけ溶けきれずにいるかの度合いです。

糖度ではなく「比率」を見る——果糖とブドウ糖の比(F/G)

固まり方を見立てる一つめの物差しは、果糖とブドウ糖の比であるF/G比です。F/G比とは、果糖の量をブドウ糖の量で割った値で、大きいほど果糖が優勢で固まりにくくなります。

屈折計の糖度が教えてくれないこと

糖度は、光の曲がり方から液体に溶けている成分の量を読み取る屈折計で測ります。仕組みは屈折計で糖度を測るしくみで詳しく扱っていますが、ここで大事なのは、屈折計の値が示すのは糖の総量だということです。果糖が多くてもブドウ糖が多くても、合計が同じなら糖度は同じに出ます。

規約の組成基準も同じ考え方です。水分は20%以下(国産は22%以下)、果糖とぶどう糖の合計は60g/100g以上、しょ糖は5g/100g以下とされています。ここで決められているのは果糖とブドウ糖の「合計」であり、その内訳までは問われません。内訳が違えば固まり方は変わるのに、糖度にもラベルの基準にも、その差は表れません。ちなみに果糖とブドウ糖の比が甘さにどう関わるかは、果糖とブドウ糖の比率が甘さをどう変えるかにまとめています。

F/G比の目安で三段に分ける

The Pharma Innovation Journalに掲載されたレビュー論文は、既存の研究をまとめて次のような目安を示しています。

F/G比結晶の進み方
1.11未満速く結晶する
1.33を超える遅い
1.58を超える結晶しにくい

ブドウ糖に対して果糖が多いほど、液のままでいる時間が長くなる、という読み方になります。数字はあくまで研究での目安ですが、「糖度」では見えなかった差が、この比では見えてきます。

もう一つの物差し——ブドウ糖と水分の比(G/W)

二つめの物差しは、ブドウ糖と水分の比であるG/W比です。G/W比とは、ブドウ糖の量を水分の量で割った値で、大きいほど固まりやすくなります。

水が少ないほど固まりやすい理由

直感では、水分が少ないほうが固まりにくそうに思えます。しかし結晶になるのは水に溶けきれなくなったブドウ糖ですから、水が少ないほど溶かしておける量が減り、溶けきれない分が増えます。FAOの資料も「水分が少なく、ブドウ糖が多いほど結晶化は速い」としています。水とブドウ糖の釣り合いが崩れるほど、結晶の芽ができやすくなるということです。

ナタネ蜜のG/W比は2.0

The Pharma Innovation Journalのレビューでは、G/W比は1.7未満で結晶が遅く、2.0を超えると速いとされています。そしてナタネ(菜の花)の蜜のG/W比は2.0と報告されています。ちょうど「速い」側の境目にあたる数字で、菜の花の瓶が早く白くなる経験とも合います。F/G比とG/W比のどちらか一方ではなく、二つを合わせて見ると、糖度が同じでも固まり方が違う理由が説明できます。

花の名前で見立てる——固まりやすい蜜・固まりにくい蜜

アカシアの花と菜の花畑を並べた淡彩イラスト。蜜源の花による違いを思わせる 花が違えば、瓶の中の固まり方も変わる

数字を知らなくても、花の名前から固まりやすさはおおよそ見当がつきます。ここでは、The Pharma Innovation Journalのレビューが紹介している報告をもとに並べます。

速く固まる花の蜜

ナタネ(菜の花)、ヒマワリ、クローバーは、速く結晶する蜜として報告されています(レビューでは綿も同じ側に挙げられています)。ブドウ糖の割合が高く、G/W比も高めの蜜です。採蜜から日が浅くても、白く固まり始めることがあります。

ゆっくり固まる花の蜜

柑橘類やクリ、タイムの蜜は遅いという報告があります。果糖が優勢で、F/G比が大きい側にあるためと読めます。なお、ニセアカシア(ハリエンジュ)や柑橘類は、規約で、しょ糖が10g/100g以下までという例外が認められている蜜でもあります。ラベンダーなどは15g/100g以下です。花ごとに成分の特徴が違うことを、規約も前提にしているわけです。

アカシアが最も固まりにくいとされる理由

同レビューは、アカシアを結晶が最も遅い蜜として紹介しています。果糖の比率が高く、F/G比が大きいため、ブドウ糖が溶けきれずにいる状態になりにくいからと考えられます。「アカシア」という名前で売られる蜜の表示ルールは、アカシアなど単花蜜の表示ルールで確認できます。

花以外に速さを動かすもの——温度と花粉

同じ花の蜜でも、瓶によって固まる速さが違うことがあります。その差を生むのが、温度と、蜜に混ざっている小さな粒です。

14〜15℃前後で速く進む

FAOの資料は、結晶が最も速く進む温度を約14℃としています。サザンクロス大学(Southern Cross University)の資料も、最も結晶しやすい温度は約14℃です。農林水産省は、15℃前後から結晶しやすくなると説明しています。冷蔵庫の中や、冬の涼しい部屋が、まさにこの温度帯にあたります。

ろ過の度合いと結晶の足場

結晶は、きっかけとなる小さな粒があると一気に進みます。この粒を結晶核といいます。FAOは、花粉などの固形粒子があると結晶が速まるとしており、サザンクロス大学の資料は、花粉や蜜蝋の粒子が足場になるため、ろ過したものより生の蜜のほうが早く固まりやすいとしています。また、ゆっくり進んだ結晶は粗く不規則になるとFAOは述べています。結晶の粗さと温度の関係は、結晶が粗くなるか細かくなるかを決める結晶核と温度でも整理しています。

固まっても腐らないのか——結晶化と水分活性

固まったはちみつは、それだけで傷んだわけではありません。ただし、条件によっては一点だけ注意が要ります。

固まること自体は劣化ではない

サザンクロス大学の資料は、結晶化ははちみつを傷めず、食べても安全だとしています。農林水産省も、成分が変わったわけではないという立場です。はちみつが傷みにくいのは、水分活性、つまり微生物が使える水の割合が低いためです。仕組みははちみつの水分活性が低い理由にあります。

液の部分の水分が上がるという一点

結晶になるのはブドウ糖で、水分は結晶に取り込まれません。そのため、瓶の中でブドウ糖が抜けると、結晶の隙間や上にたまった液の部分では水分の割合が上がります。FAOの資料は、水分18%未満なら発酵のリスクはほとんどないとしています。逆に言えば、水分が高い蜜や、液が分かれて水分が上がった部分では、発酵の可能性が出てきます。理由は結晶の上に液がたまると発酵しやすくなる理由で詳しく書いています。泡立ちや酸っぱい匂いがなければ、慌てる必要はありません。

固まらない瓶は偽物? 固まる瓶は本物?

どちらの俗説も成り立ちません。固まるかどうかは、花、温度、ろ過の度合いで説明がつくからです。

固まらない理由は花・温度・ろ過で説明できる

固まりにくい蜜は、アカシアのようにF/G比が大きい花の蜜かもしれません。温度が高めの場所に置かれていたか、細かくろ過されて結晶核が少ないのかもしれません。固まらないことだけで偽物とは言えません。逆に、固まっていることだけで本物と言えるわけでもありません。結晶の有無は、真贋の判断材料にならないのです。

ラベルの名称欄と原材料名で確かめる

本物かどうかを確かめるには、結晶ではなくラベルを見ます。規約では、はちみつ類の名称や原材料の表示が定められており、組成基準も決まっています。名称欄に「はちみつ」とあり、原材料名がはちみつだけであるかを確認します。白いものが結晶かカビかで迷ったときは、白いのがカビか結晶かを見分ける手順が参考になります。

固まり方で選び、固まったら戻す

蜂蜜の瓶を低めの湯にそっと浸し、温度計を添えた朝の台所の淡彩イラスト 固まったら、低めの湯でそっと戻す

固まり方の性質がわかれば、使い方に合わせて蜜を選べます。

使い方から選ぶ蜜の目安

使い方選びやすい蜜の傾向理由
液のまま使いたい(飲み物、料理、ドレッシングなど)アカシア、柑橘類、クリなどF/G比が大きく、結晶が遅いと報告されている
固まったものを楽しみたい(パンに塗る、スプーンですくうなど)ナタネ、ヒマワリ、クローバーなど結晶が速く、なめらかに固まることが多い

湯せんで戻す手順と置き場所

農林水産省は、フタをゆるめて瓶ごと水に入れ、少しずつ熱を加えながら混ぜる方法を示しています。サザンクロス大学の資料は、温めるときに45℃を超えないようにとしています。置き場所は、14〜15℃前後を避けた常温の冷暗所が基本です。冷蔵庫に入れると、かえって結晶が進みやすくなります。

1歳未満の赤ちゃんには与えない

厚生労働省は、1歳未満の赤ちゃんには、はちみつや、はちみつ入りの飲料・お菓子などを与えないよう呼びかけています。ボツリヌス菌の芽胞は120℃で4分の加熱に耐えるとされ、通常の加熱や調理では死なないためです。固まった蜜を湯せんで戻しても、この注意は変わりません。理由は1歳未満にはちみつを与えてはいけない理由にまとめています。

よくある質問

Q:アカシアのはちみつが固まらないのはなぜですか?

果糖の比率が高く、F/G比が大きいためと考えられます。The Pharma Innovation Journalのレビューでは、アカシアは結晶が最も遅い蜜として紹介されています。

Q:糖度が高いはちみつほど固まりやすいのですか?

いいえ。糖度は糖の総量を示す値で、固まり方は比率で決まります。水分が少なくブドウ糖が多いとG/W比が上がり、固まりやすくなります。

Q:固まらないはちみつは偽物ですか?

偽物とは限りません。花の種類、温度、ろ過の度合いで説明できます。確かめるときは、ラベルの名称欄と原材料名を見ます。

Q:固まったはちみつは腐っていますか?

腐っているわけではありません。農林水産省は、成分が変わったわけではないとしています。ただし、液が分かれた部分は水分が上がるため、泡や酸っぱい匂いがないかを見ます。

Q:冷蔵庫に入れると固まりやすいのはなぜですか?

14〜15℃前後で結晶が進みやすいためです。保存は、常温の冷暗所が基本です。

Q:固まったはちみつを溶かせば赤ちゃんにも与えられますか?

与えられません。ボツリヌス菌の芽胞は120℃で4分の加熱に耐えるため、湯せんで戻しても、厚生労働省は1歳未満には与えないよう呼びかけています。

六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。まだ蜜蜂を迎える前の段階で、はちみつや養蜂について調べたことを、こうして「読みもの」に書きとめています。不調が形になる手前の日々をととのえる、という考え方を軸に、これからも公開されている情報をていねいに読み解いていくつもりです。

戻したのにすぐまた固まる——溶け残りが次の結晶核になる

湯せんで液に戻したはずの瓶が、少し経つとまた白くなる。調べている人がよくつまずく点の一つかなと思います。本文で触れたとおり、結晶は小さな粒(結晶核)を足場にして一気に進みます。戻したあとの瓶では、この足場が残っていることが多いです。

足場になりやすいのは、次のようなところです。

  • 見えにくい溶け残り:中心が透明になっても、瓶の底や角、肩の部分に細かい結晶が残っていることがあります。全体が均一に透き通るまでは、溶けきったと考えないほうが良いと思います。
  • フタの裏とネジ山:ここに付いた結晶は湯に浸からないので、溶けずに残ります。フタを閉めたときに液に触れて、そこから結晶が戻ることがあります。
  • 使ったスプーン:固まった部分をすくったスプーンをそのまま液の瓶に戻すと、結晶をわざわざ足すことになります。

そこで、戻すときは次の手順で見ていくと失敗しにくいかなと。

  1. フタをゆるめて湯せんし、ときどき混ぜながら、底や角まで透明になるかを見る(温度は本文の45℃を超えない目安で)
  2. フタの裏やネジ山の結晶は、湯で拭うなどして取り除く
  3. 一度に使いきれない量なら、使う分だけ別の容器に取って戻す

3つめは大事で、瓶全体を何度も温め直すより、必要な分だけ戻すほうが熱をかける回数が減ります。ナタネのように固まりやすい蜜は、戻してもまた固まりやすい性質そのものは変わりません。F/G比やG/W比は温めても変わらないので、「戻しても固まりやすい蜜は固まりやすいまま」と考えておくと、何度も白くなっても慌てずにすむと思います。

花の名前が書いていない瓶はどう見立てるか

本文の「花の名前で見立てる」方法は、アカシアやナタネのような単花蜜なら使えます。ただ、店に並ぶ瓶には「百花蜜」や、花の名前がない「はちみつ」もたくさんあります。この場合、どんな花の蜜がどの割合で入っているかはラベルからはわからないので、名前から固まり方を予想するのはむずかしいです。

こういう瓶は、予想するより瓶の様子を見て判断するほうが現実的かなと思います。見ておくと良いのは次の3つです。

瓶の様子読み取れそうなこと
買った時点で、すでにうっすら白く濁っている結晶が始まっている。ブドウ糖が多めの蜜が入っている可能性がある
冷暗所に置いておくと、全体が細かく、なめらかに白くなる結晶核が多く、まとまって固まっている状態と考えられる
下だけ固まり、上に透明な液が残る本文の「液の部分の水分が上がる」状態。上の液に泡や酸っぱい匂いがないかを見る

もう一つ気をつけたいのは、単花蜜でも毎回同じ固まり方をするとは限らない点です。蜜蜂は一つの花だけを訪れるわけではないので、同じ花の名前でも、採れた年や場所でほかの花の蜜が混ざる割合が変わる可能性があります。「前に買ったアカシアは固まらなかったのに、今回は少し白い」ということが起きても、それだけで品質を疑う必要はないと思います。

迷ったときの順番をまとめるとこうなるかなと。

  1. まずラベルの名称欄と原材料名を確かめる(本文の手順)
  2. 花の名前があれば、本文の「速い・遅い」で大まかに見立てる
  3. 花の名前がなければ、置き場所を14〜15℃前後から外したうえで、瓶の変化を見て判断する

固まり方は、花だけでなく温度やろ過の度合いも合わさって決まります。名前だけで決めつけず、ラベル→花→瓶の様子の順に見ていくのが、いちばん外れにくい見方だと思います。