この記事の要点
- 糖度は「どれだけ溶けているか」、水分活性は「水がどれだけ自由か」を表す、別々の物差しです。
- 菌の増えやすさを直接語るのは水分活性で、糖度はそれを推し量るための目安にあたります。
- 糖度が高いほど水分活性は低くなりますが、比例はしません。発酵の境目は水分18%前後とされています。
「糖度が高いから腐らない」と「水分活性が低いから腐らない」は、同じことを言い換えただけだと思われがちです。けれど二つは、測っているものが違います。瓶のラベルに書かれた糖度の数字と、食品の資料に出てくる水分活性の数字を並べて眺めると、その違いがはっきりします。

先に結論——糖度は「溶けている量」、水分活性は「水の自由さ」
糖度は、液体にどれだけ糖などが溶けているかを示す数字です。水分活性は、その液体の中の水が、微生物にとってどれだけ自由に使える状態にあるかを示す数字です。腐りにくさに直接つながるのは後者で、前者はそれを推し量る手がかりになります。
二つの数字をひと目で比べる対比表
| 糖度(Brix) | 水分活性(Aw) | |
|---|---|---|
| 何を表すか | 溶けているものの量(ショ糖基準) | 水の自由さ |
| 単位・範囲 | 度(%) | 純水を1.00とした比 |
| 測り方 | 屈折計で光の曲がりを読む | 水蒸気圧の比、または周囲の湿度との釣り合い |
| 腐りにくさとの関係 | 間接的な目安 | 直接の指標 |
なぜ同じ「腐らない理由」として並べられてしまうのか
はちみつは糖が多く、水が少ない食品です。糖が多ければ水分活性は下がるので、「糖度が高い」と「水分活性が低い」は同じ方向を向いて起こります。そのため解説記事では、両方がひとまとめに「腐らない理由」として並びます。ただ、原因と結果に近い関係であって、同じ数字ではありません。はちみつが腐らない理由の全体像ははちみつが腐らない理由の全体像で、糖・酸・過酸化水素という複数の要素は糖と水・酸・過酸化水素という三つの守りで扱っています。この記事は、糖と水の部分を二つの物差しに分けて読むことに絞ります。
糖度とは何を測っている数字か
糖度とは、屈折計で測った屈折率を、ショ糖水溶液の濃度(w/w%)に置き換えて表した値です。あいち産業科学技術総合センター 食品工業技術センターの資料では、この値はBrixと呼ばれ、20℃が基準とされています。はちみつの場合、中身の大半は糖で、残りが水ですから、糖度は実質的に水分の裏返しを読んでいることになります。
屈折計が見ているのは光の曲がり方
屈折計は、液体の中で光が曲がる角度を読む道具です。溶けているものが多いほど光は大きく曲がります。その曲がり具合を、ショ糖水の濃度という目盛りに読み替えたものが糖度です。しくみの詳細は糖度を屈折計で測るしくみにまとめています。
ショ糖基準ゆえ、果糖とブドウ糖のはちみつでは厳密には一致しない
同じ資料によれば、ショ糖以外の糖では、Brixと糖度は厳密には一致しません。10%水溶液のBrixは、ショ糖で10.0、トレハロースで9.3、食塩で11.6、クエン酸で8.8とされています。同じ濃度でも、溶けているものによって光の曲がり方が違うということです。はちみつの主な糖は果糖とブドウ糖です。FAO(国連食糧農業機関)の資料にある米国産はちみつの平均では、果糖38.2%、ブドウ糖31.3%でした。ショ糖が主役ではないので、屈折計の数字は目安として読むのが正確です。
規約が水分を屈折率法で測ると定めている意味
全国はちみつ公正取引協議会の「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」では、水分の試験法として屈折率法(AOAC969.38B)が示されています。屈折の読みから水分を求める方法が、公式の測り方に採用されているわけです。糖度と水分は、同じ屈折を別の目盛りで読んだものと言えます。
水分活性とは何を測っている数字か
水分活性とは、食品の水蒸気圧を、同じ温度の純水の水蒸気圧で割った値です。日本食品分析センターの資料では、Awという記号で表され、純水は1.00とされています。水がたくさん含まれているかではなく、水がどれだけ動きやすい状態にあるかを示す数字です。
純水を1.00としたときの水蒸気圧の比
水に糖や塩が溶けると、水分子は溶けたものに引き寄せられ、空気中へ飛び出しにくくなります。その結果、水蒸気圧が下がり、水分活性も1.00より小さくなります。愛知県産業技術研究所 食品工業技術センターの資料によれば、水分活性は1950年代にW.J.Scottが食品学に導入した考え方で、食品の変質は水分含量そのものではなく、平衡状態の相対湿度に関係するとされています。
自由水と結合水——菌が使えるのは片方だけ
食品の中の水には、自由に動ける自由水と、糖やたんぱく質などに結びついた結合水があります。微生物が使えるのは主に自由水のほうです。日本食品分析センターの資料は、塩蔵や糖蔵を、水分量を保ったまま自由水を減らす方法として説明しています。水の量が同じでも、自由な水が少なければ菌は増えにくい、ということです。
細菌0.90・酵母0.88・カビ0.80という生育の下限
生育最低水分活性は、微生物が増えられる水分活性の下限です。日本食品分析センターと愛知県産業技術研究所の資料では、細菌は0.90、酵母は0.88、カビは0.80とされています。日本食品分析センターの資料は、0.50以下であらゆる微生物の増殖を防げるとも述べています。同じ資料の表では、0.65〜0.60で阻止されるのが好浸透圧酵母です。好浸透圧酵母とは、糖の濃い環境でも増えられる酵母のことです。
糖度を上げると水分活性はどう下がるのか
糖や塩で「水の自由さ」を抑える保存の知恵
糖度が上がれば水分活性は下がりますが、比例して下がるわけではありません。砂糖水で見ると、その様子がよく分かります。
砂糖水58.4%で0.90、67.2%で0.85という対応
愛知県産業技術研究所の資料では、25℃の砂糖水で水分活性0.90にするには濃度58.4%、0.85にするには67.2%が必要とされています。
| 25℃の砂糖水の濃度 | 水分活性 |
|---|---|
| 58.4% | 0.90 |
| 67.2% | 0.85 |
濃度を8.8ポイント上げて、水分活性が0.05下がる計算です。糖度の数字が大きく動いても、水分活性の動きは小さい。二つが別の物差しだと言える理由の一つです。
はちみつの水分活性はいくつなのか——資料で幅がある理由
はちみつの水分活性は、資料によって値が違います。日本食品分析センターの表では、蜂蜜はジャムと同じ0.80〜0.75の帯に置かれています。一方、ミツカン 水の文化センター(執筆:畑江敬子 お茶の水女子大学名誉教授)の表では、蜂蜜は0.60〜0.50、ジャム・マーマレードは0.80〜0.70です。帯が異なる理由は資料からは分かりませんが、一般には、はちみつの水分量や測定条件で値が動くため、一つの数字に決めにくいのだと考えられます。ここでは、幅があることを幅のまま受け取るのが誠実だと思います。はちみつの水分活性がなぜ低いのかは、はちみつの水分活性がなぜ低いのかでも整理しています。
ジャムは糖度65度、はちみつは80度前後——開封後の扱いが違うわけ
国立国会図書館 レファレンス協同データベースは、「塩と砂糖と食品保存の科学」(日刊工業新聞社、2014年)を典拠に、砂糖濃度65%以上で大部分の微生物の増殖が抑えられるとしています。従来型のジャムは糖度60〜65%、糖度40〜55%の低糖度ジャムが国内の約45%を占めるとのことです。はちみつは、規約の水分20%以下という基準から考えると、糖度は80度前後になる計算です。瓶に「糖度80度」と書かれているのは、そういう意味だと読めます。
| 糖度の目安 | 水分活性(ミツカン 水の文化センター) | |
|---|---|---|
| はちみつ | 80度前後 | 0.60〜0.50 |
| 従来型ジャム | 60〜65% | 0.80〜0.70 |
| 低糖度ジャム | 40〜55% | 同資料に個別の記載なし |
ジャムはより水分が多く、水分活性の帯も高めです。開封後に冷蔵が勧められるのは、こうした違いによるものと考えられます。
二つの数字をつなぐもの——湿度との釣り合い
湿った空気の中では、はちみつも水を取り込む
水分活性は、周りの相対湿度と釣り合う値でもあります。相対湿度とは、空気がどれだけ水蒸気を含んでいるかを、含みうる上限に対する割合で示したものです。はちみつは瓶の口から空気とやり取りをするため、置かれた環境の湿度によって水分が動き、糖度も動きます。
相対湿度60%と水分18.3%が釣り合うというFAOのデータ
FAOの資料には、はちみつの水分と相対湿度の釣り合いが示されています。相対湿度60%で水分18.3%、70%で24.2%、80%で33.1%です。湿度が高い場所に口を開けて置けば、はちみつは空気から水を取り込み、水分が増えていきます。保存中に糖度が下がる流れは、保存中に糖度が下がるしくみで詳しく扱っています。
糖度が下がれば水分活性は上がる——発酵の境目は水分18%前後
FAOの資料では、水分18%未満のはちみつは発酵のおそれがほとんどなく貯蔵できるとされています。裏を返せば、水分がそれを超えると発酵の可能性が出てきます。糖度が下がれば水分活性は上がり、好浸透圧酵母が活動できる条件に近づくからです。発酵する水分の境目については、はちみつが発酵する水分の境目にまとめています。
結晶化すると、残った液の部分で数字がずれる
はちみつは、ブドウ糖が結晶になると白く固まります。結晶化とは、水に溶けきれなくなったブドウ糖が固体として出てくる現象です。この結晶には水があまり含まれないため、瓶全体の水分は同じでも、残った液の部分は相対的に水が多くなります。ここは出典の数字ではなく一般論ですが、結晶化した瓶では液の部分の糖度が下がり、水分活性が上がる方向にずれると考えられます。結晶のしやすさは果糖とブドウ糖の比率に左右されます。詳しくは果糖とブドウ糖の比率と結晶のしやすさをご覧ください。
なぜ基準は水分活性ではなく水分で決められているのか
はちみつの規約が水分を基準にしているのは、水分のほうが測りやすく、表示としても扱いやすいからだと考えられます。ただし、その理由が規約に書かれているわけではありません。確かなのは、基準に水分活性の項目がないという事実です。
組成基準に水分活性の項目はない
全国はちみつ公正取引協議会の規約では、はちみつの組成基準は水分20%以下(国産はちみつは22%以下)、果糖及びぶどう糖含有量60g/100g以上とされています。水分活性の項目は含まれていません。水分は屈折率法で測れるので、現場でも確かめられます。
花の蜜から水が飛ぶほど、両方の数字が動く
花の蜜は水分が多く、はちみつになる過程で水が抜けて濃縮されます。水が減れば糖度は上がり、水分活性は下がります。二つの数字は、同じ出来事の別の側面です。成分の変化については花の蜜がはちみつになるまでの成分の変化で触れています。
糖度表示がある瓶・ない瓶の読み方
糖度の数字は、品質の優劣ではなく、水分の目安として読むものです。規約も、特定の成分の多寡で品質が優れるかのような表示を不当表示の例に挙げています。糖度が書かれていれば、水分が少なめかどうかの手がかりになります。書かれていなくても、水分20%以下という基準は満たされているはずです。
腐りにくいことと、無菌であることは別の話
水分活性が低いことは、菌が増えにくいという意味です。菌がいないという意味ではありません。
増えないことと、いないことの違い
愛知県産業技術研究所の資料では、ボツリヌス菌の生育最低水分活性は0.94〜0.97とされています。はちみつの水分活性はこれより低いので、成長しにくい条件です。ところが、増殖しにくいことと、芽胞が存在しないことは別の話です。芽胞とは、菌が過酷な環境をやり過ごすための休眠のような姿で、条件が整えば再び目を覚ましうるものです。
1歳未満の乳児には与えない——加熱しても変わらない
厚生労働省は、1歳未満の赤ちゃんがハチミツを食べると乳児ボツリヌス症にかかることがあるとしています。ボツリヌス菌は熱に強く、120℃4分でも死なないとされ、通常の加熱や調理では取り除けません。ハチミツ入りの飲料やお菓子も、1歳未満には与えないよう呼びかけています。規約も、容器に「1歳未満の乳児には与えないで下さい」と明記し、加熱すれば安全と誤解される表示をしないことを求めています。詳しくは1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由をご覧ください。
台所でできる確かめ方
糖度計がなくても、瓶の扱いを見直すだけで水分の動きは抑えられます。ここからは、公的資料の数字を台所の習慣に置き換えた一般的な考え方です。
糖度計がなくても見られる三つのサイン
一つ目は、表面に水っぽい層ができていないか。二つ目は、泡が出ていないか、酸っぱいにおいがしないか。三つ目は、フタの周りがべたついたり、湿っていたりしないか。いずれも水分が増えて発酵に傾いているときに起こりうる変化で、見つかれば水分が上がっているサインと考えられます。結晶化しただけなら、白く固まるだけで、これらのサインは伴いません。
濡れたスプーンと開けっぱなしのフタが数字を動かす
湿った場所に口を開けて置けば、FAOの釣り合いの数字のとおり、はちみつは水を取り込みます。濡れたスプーンを入れれば、その分だけ水が加わります。使うスプーンは乾いたものにして、使い終えたらフタを閉める。湯気の立つコンロの脇や、水回りを避けて置く。糖度と水分活性という二つの数字は、結局そうした日々の手当てで守られていると思います。
よくある質問
Q:はちみつの糖度が高ければ、水分活性は必ず低いのですか?
傾向としては低くなりますが、比例はしません。愛知県産業技術研究所の資料では、25℃の砂糖水で水分活性0.90には濃度58.4%、0.85には67.2%が必要とされています。糖度の動きに比べ、水分活性の動きは小さくなります。溶けている糖の種類でも変わります。
Q:はちみつの水分活性は結局いくつなのですか?
資料によって幅があります。日本食品分析センターの表では0.80〜0.75、ミツカン 水の文化センターの表では0.60〜0.50です。水分量や測定条件によって値が動くため、一つの数字に決めにくいのだと考えられます。
Q:ジャムも糖度が高いのに、なぜ開封後は冷蔵なのですか?
国立国会図書館 レファレンス協同データベースによれば、従来型ジャムは糖度60〜65%、低糖度ジャムは40〜55%です。ミツカン 水の文化センターの表では、ジャムの水分活性は0.80〜0.70で、蜂蜜の0.60〜0.50より高い帯にあります。はちみつより水分が多く、開封後は冷蔵が勧められるのはそのためと考えられます。
Q:糖度計で測った数字から、水分は分かりますか?
目安にはなります。規約の水分試験は屈折率法(AOAC969.38B)で、糖度と水分は同じ屈折を別の目盛りで読んだものです。測り方は糖度を屈折計で測るしくみで案内しています。
Q:結晶化したはちみつは、糖度や水分活性が変わるのですか?
瓶全体の水分は変わりませんが、ブドウ糖が固体に抜けた分だけ、液の部分は水が多くなります。一般論として、液の部分は発酵しやすい側にずれると考えられます。結晶化しただけで傷んだわけではありません。
Q:水分活性が低いなら、赤ちゃんに与えても安全ですか?
安全ではありません。菌が増えにくいことと、芽胞がいないことは別です。厚生労働省は、1歳未満の赤ちゃんにはハチミツを与えないよう注意を呼びかけています。加熱しても取り除けないとされています。
六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドを準備しています。まだ蜜蜂を迎える前の段階で、こうした数字の読み方を、準備のなかで調べたこととして書き留めています。これから確かめたいことが増えたら、また読みものに加えていきます。