梅雨の台所で、蓋を開けたままにしていたはちみつが、いつのまにか少し緩くなっている気がする。「はちみつは湿気を吸う」と聞いたことがあっても、なぜそんなことが起きるのかまではよく知らない、という方が多いのではないかと思います。

この記事の要点

  • はちみつは糖の濃度が高いため、空気中の水分を引き寄せる吸湿性という性質をもちます
  • FAOの資料では、水分18.3%のはちみつが相対湿度60%の空気と釣り合うとされています
  • 吸湿性は、菌が育ちにくい「腐らない」性質と同じ、糖が水を抱え込む力の表と裏です
  • 開封後は水分が増えて糖度が下がりやすく、公正競争規約は水分20%以下(国産22%以下)を基準としています

梅雨の曇った窓辺に置かれた、蓋を開けたままの蜂蜜の瓶

はちみつは「湿気を吸う食品」——吸湿性とはなにか

はちみつは、空気中の水分を引き寄せて自分の中に取り込む性質をもっています。これを吸湿性といいます。乾燥した食品が湿気で傷みやすくなるのとは逆に、はちみつはもともと水分が少ないからこそ、周囲から水を吸おうとする力が働きます。

水分約2割という、食品のなかでも際立った乾き方

はちみつは、果糖とブドウ糖を中心とした糖分がおよそ8割を占め、水分は2割程度しかありません。この組成についてははちみつは何でできているのかで詳しく扱っていますが、たとえばクローバーはちみつのような淡い風味の花蜜でも、基本の水分量は大きく変わりません。糖の濃度がこれほど高い液体状の食品は珍しく、この濃さそのものが吸湿性の出発点になっています。

梅雨どきに蓋を開けっぱなしにすると起きること

湿度の高い季節に容器の蓋を開けたままにしておくと、はちみつの表面は空気中の水蒸気にさらされ続けます。糖の濃い液体は周囲より水分が少ない状態にあるため、空気との差を埋めようとして水分を取り込んでいきます。これが繰り返されると、表面から徐々に水分が増えていきます。

なぜ吸うのか——濃い糖の液体は、空気の湿度と釣り合おうとする

はちみつが水分を吸うのは、糖の濃い液体と周囲の空気が、水分のやり取りを通じて釣り合った状態に落ち着こうとするためです。この釣り合いの点は、空気の相対湿度によって変わります。

糖が水を引き寄せる——浸透圧と同じ向きの力

糖の分子は水分子と結びつきやすく、周囲に水があれば引き寄せようとします。塩漬けや砂糖漬けの食品が水分を抜き出す浸透圧の働きと、向きとしては同じ現象です。はちみつの場合は逆に、糖の濃度が空気中の水蒸気よりも「乾いた」状態にあるため、空気の側から水を受け取る方向に働きます。

湿度60%で水分18.3%——FAOが示す釣り合いの表

FAO(国連食糧農業機関)の資料には、はちみつの水分と釣り合う相対湿度の関係が示されています。

相対湿度釣り合う水分(平衡水分)
60%18.3%
65%20.9%
70%24.2%

水分18.3%のはちみつは、相対湿度60%の空気とちょうど釣り合い、それ以上は水分を吸いも吐きもしません。逆にいえば、はちみつを取り巻く空気の湿度が60%を超えていれば、はちみつはその湿度に見合うところまで水分を吸い続けることになります。

日本の梅雨は湿度70%超——放置すると水分24%まで進む計算

日本の梅雨どきは、相対湿度が70%を超える日が珍しくありません。FAOの表に沿って考えると、この湿度が続く環境に蓋を開けたまま置かれたはちみつは、理屈のうえでは水分24.2%あたりまで吸湿が進む計算になります。実際には容器の形状や置き場所によって進み方は変わりますが、梅雨の時期に保存の手当てが必要になる理由は、この数字の並びに表れています。

吸湿性は「腐らない」の裏返し——水分活性から読み直す

はちみつが空気中の水分を吸うのは、糖が水を抱え込んで菌が育ちにくい環境をつくる性質と、同じ力のふたつの表れ方です。片方だけを見ると矛盾しているように感じられますが、実は同じ原理から出発しています。

自分の水は渡さず、よその水は欲しがる

糖の濃度が高い液体は、内部の水分子が糖と強く結びついていて、微生物が使える自由な水がほとんど残っていません。この「微生物が利用できる水の割合」を水分活性といい、はちみつは水分活性が低いために菌が増えにくいとされています。詳しい仕組みははちみつの水分活性はなぜ低いのかにまとめています。一方で、糖が水と結びつきたがる性質そのものは、外部の空気中に水蒸気があれば、それも引き寄せようとする力として働きます。自分の中の水は手放さないのに、よそにある水は欲しがる——この二面性が、腐りにくさと吸湿性を同時に説明します。

よくある誤解——吸湿するなら腐るのでは?への答え

「水分を吸うなら傷みやすくなるのでは」と感じるのは自然なことですが、これは吸湿の量による話です。FAOの資料では、水分18%未満であれば発酵のリスクはほぼ無いとされています。問題になるのは、吸湿が進んで水分がある水準を超えたときです。次の章で、その境目を数字で見ていきます。

開封後に起きること——水分20%の基準と、発酵の境目

蓋を開けた蜂蜜の瓶から細かい泡が立ちのぼる様子 水分が増えすぎると、発酵のサインである泡が現れる

開封後のはちみつが水分を吸って増えていくと、糖の濃度が下がり、やがて酵母が働ける水分活性の水準に近づいていきます。ここで手がかりになるのが、業界の規約が定める水分の基準です。

規約が水分20%以下と定めている理由

全国はちみつ公正取引協議会が運用する「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」では、はちみつの組成基準として水分は20%以下(国産のものは22%以下)、果糖とブドウ糖の合計は100g中60g以上と定められています。この規約は昭和44年に制定されたもので、水分の上限が定められているのは、水分が増えるほど発酵しやすくなるためです。一般社団法人日本養蜂協会の品質規格でも、水分は20℃において22%以下、果糖及びぶどう糖の合計は60g/100g以上、しょ糖は5g/100g以下という基準が示されています。

水分が増えると糖度が下がる——屈折計が示すもの

はちみつの糖度は、屈折計という器具で測ることができます。仕組みについてははちみつの糖度はどう測るのかで扱っていますが、原理としては、液体中の糖の割合が高いほど光の屈折率が変わることを利用しています。吸湿によって水分の割合が増えれば、その分だけ糖の割合は相対的に下がり、屈折計の示す数値も下がります。開封後のはちみつが「緩くなった」と感じるとき、体感の裏側ではこの糖度の低下が起きている可能性があります。

濡れたスプーン・結露・開けっぱなし——水分が入る3つの経路

家庭でのはちみつへの水分の混入は、主に三つの経路で起こります。ひとつは濡れたスプーンやナイフを直接入れてしまうこと、もうひとつは冷蔵庫から出したときなど温度差で容器の内側に結露が生じること、そして蓋を開けたまま長く放置することです。いずれも、空気中や器具についた水分がはちみつの表面に触れ、そこから吸湿が進む入り口になります。

台所でできる手当て——湿気から糖度を守る保存

乾いたスプーンで蜂蜜をすくい、瓶の蓋を閉めようとする手元 乾いたスプーンと、すぐ閉める蓋。手当ては小さな習慣から

開封後のはちみつを扱ううえで難しい作業は必要なく、水分が入る経路をふさぐことが基本になります。

蓋はすぐ閉める、スプーンは乾いたものを

使い終えたらすぐに蓋を閉め、はちみつに触れるスプーンや計量スプーンは乾いたものを使う。この二点だけで、水分が入る主要な経路の多くをふさぐことができます。特別な道具は要りませんが、習慣にするかどうかで開封後の状態は変わってきます。

常温の冷暗所が基本——15℃前後で結晶が始まるから冷蔵庫は避ける

日本養蜂協会の品質規格では、はちみつは直射日光を避けて常温で保存する旨を表示するよう定められています。冷蔵庫での保存が勧められないのは、農林水産省の資料にあるとおり、はちみつはブドウ糖の作用で15℃前後から結晶しやすくなるためです。結晶化とは、はちみつに含まれるブドウ糖が結晶として析出し、白っぽく固まって見える現象で、成分が変化したわけではありません。ただしFAOの資料にもあるように、結晶化が進むと液体として残った部分の水分の割合が上がり、かえって発酵しやすい状態になることがあります。仕組みの詳細と戻し方は結晶化のしくみと戻し方にまとめています。結晶が気になる場合は、蓋を緩めて容器ごと湯に浸し、少しずつ熱を加えて混ぜると徐々に溶けるとされています。

白く固まったとき・泡が出たときの見分けと対処

白く固まっているだけであれば、それは結晶化であり、湯せんで戻して問題なく食べられるとされています。見分けが必要なのは、表面に泡が浮いていたり、酸っぱいにおいがしたりする場合です。これは発酵が進んでいるサインで、通常の保存で得られる品質とは異なります。詳しい見分け方ははちみつが泡立ち酸っぱくなるのはなぜかで扱っています。

よくある質問

Q:濡れたスプーンをはちみつに入れてしまいました。もう食べられませんか? 一度濡れたスプーンを入れたからといって、すぐに発酵するわけではありません。ただし、水分が入る経路としては代表的なもののひとつなので、今後は乾いたスプーンを使う習慣にするのが無難です。表面に泡が出ていたり、酸っぱいにおいがしたりする場合は、通常の状態とは異なりますので、食べるのは控えたほうがよいとされています。

Q:梅雨の時期は、はちみつを冷蔵庫に入れた方がいいですか? 蓋をしっかり閉めて保存できているのであれば、冷蔵庫に移す必要はなく、直射日光を避けた常温の冷暗所で保存するのが基本とされています。農林水産省の資料にあるとおり、はちみつは15℃前後から結晶しやすくなるため、冷蔵庫に入れるとかえって結晶化を招きやすくなります。

Q:開封後のはちみつが緩く、水っぽくなった気がします。傷んでいますか? はちみつの粘度は温度によっても変わるため、緩く感じることがすぐ傷みを意味するわけではありません。ただし、吸湿が進んで水分の割合が増えると糖度が下がり、発酵のリスクは高まります。見分ける手がかりは、泡立ちや酸っぱいにおいの有無です。それらが無ければ、通常の保存の範囲にあると考えられます。

Q:小さな子どもにはちみつを与えても大丈夫でしょうか? 1歳未満の乳児については、はちみつを与えないでください。消費者庁は、乳児は腸内細菌の環境が整っておらず、はちみつに含まれることのあるボツリヌス菌が腸内で増えて毒素をつくることがあるとして、1歳未満の乳児には与えないよう注意を呼びかけています。理由の詳細は1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由で解説しています。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドとして準備を進めています。まだ蜂を迎える前の段階ですが、はちみつという食品の性質を一つひとつ調べ、暮らしの中でどう向き合えるかを整理しているところです。これから確かめていきたいことも多く、少しずつこの読みものに残していければと考えています。

吸湿したかを確かめる——屈折計で測るときの手順と読み方

「緩くなった気がする」が本当に吸湿によるものかは、見た目や手触りだけではなかなか判断できません。粘りは温度でも大きく変わるので、冬と夏で同じはちみつを比べても当てにならないことが多いと思います。数字で確かめたいなら、はちみつ用の屈折計を使うのがいちばん手堅いかなと。

測るときに気をつけたい点は、主に次の3つです。

  • 温度をそろえる:屈折率は温度で変わります。日本養蜂協会の規格も「20℃において」と温度を指定しています。温度補正機能(ATC)のない機種なら、室温になじませてから測った方がいいと思います
  • 表面と中ほどの両方を測る:吸湿は空気に触れている表面から進みます。表面だけ水分が高く、乾いたスプーンで少し下からすくった分は基準内、ということもあり得ます。どちらか片方だけで判断しない方が安全です
  • プリズムを毎回乾いた状態で拭く:前に測った分や水滴が残っていると、それだけで数値がずれます。測る器具そのものが、水分の入り口になってしまうわけです

読み方の目安は、記事の前半で紹介した規約の基準(水分20%以下、国産は22%以下)になると思います。屈折計にはBrix表示と水分%表示の両方を持つものがあるので、自分の機種がどちらを示しているかを最初に確認しておくと、読み違いを防げます。

水分が増えてしまったはちみつの扱い——混ぜない・急がず使い切る

測ってみて水分が高めだった場合や、明らかに表面が緩くなっている場合、どう扱うかで迷う方も多いと思います。泡や酸っぱいにおいといった発酵のサインがないことを前提に、判断のポイントを整理してみます。

新しいはちみつと混ぜない。 量を減らしたくて継ぎ足したくなるところですが、水分の高い分を混ぜると全体の水分が上がり、発酵しやすい範囲を広げてしまうおそれがあります。すでに発酵が始まっていた場合は、新しい分まで巻き込むことになります。容器は分けたままにした方が無難かなと。

早めに使い切る方へ回す。 水分が上がったものは、保存の余裕が小さくなっていると考えた方がよさそうです。料理の甘みづけなど、短い期間で使い切れる使い道に回すのがひとつの考え方だと思います。

家庭で乾かそうとしない。 FAOの表の理屈でいえば、湿度の低い空気の中では逆に水分を手放す方向に動くはずです。ただ、家庭で蓋を開けて置いておくと、ほこりや虫が入るリスクの方が大きくなります。加熱して水分を飛ばすやり方も、風味や成分への影響を考えるとおすすめしにくいです。「戻す」より「これ以上増やさない」に力を入れる方が現実的かなと思います。

容器と小分けで差がつく——開ける回数と空気に触れる面を減らす

吸湿は「空気に触れる面積」と「空気に触れる回数」の積み重ねで進みます。蓋をすぐ閉める習慣に加えて、容器そのものの選び方でも差がつきます。

  • 大容量は小分けにする:大きな瓶を毎日開けると、そのたびに中身全体が台所の空気にさらされます。普段使う分だけ小さな容器に移して、元の瓶はあまり開けないようにすると、大部分を湿気から遠ざけられます。移すときは、容器もスプーンもしっかり乾いていることが前提です
  • 口の広さと中身の量の関係:口の広い容器は使いやすい反面、開けたときに露出する表面が広くなります。また、中身が減って容器の中に空気が多く残ると、蓋を閉めるたびにその空気ごと閉じ込めることになります。残りが少なくなったら小さい容器に移すのも一つの手かなと
  • 蓋のパッキンや口元を拭く:口元に垂れたはちみつが固まると、蓋がきちんと閉まらず隙間ができることがあります。湿ったふきんで拭くと水分を持ち込むので、乾いた布かキッチンペーパーで拭いた方がいいと思います

梅雨どきに限らず、湿度の高い時期には「開ける回数を減らす」設計にしておくことが、吸湿性への一番シンプルな備えになると考えています。