この記事の要点
- 採蜜とは、巣房に貯えたはちみつを取り出し、ろ過しただけの工程を指します。加える工程はありません。
- 採蜜は蜜蓋がされてから行います。蜜蓋は水分がおよそ2割まで下がった完熟の合図です。
- セイヨウミツバチは巣枠式で遠心分離、ニホンミツバチは重箱式で垂れ蜜や圧搾という別の採り方をします。
- 採蜜は内検やダニ対策を含む一年の管理の結果であり、単発の作業ではありません。

採蜜とは——加えるのではなく、取り出してこすだけの工程
採蜜とは、ミツバチが巣房に貯えたはちみつを人の手で取り出し、ろ過する作業を指します。糖や水を加えたり、加熱で調整したりする工程は含まれません。
一般社団法人日本養蜂協会は、国産天然はちみつの定義を「その全てを国内において、みつばちの巣箱より採蜜し、濾過しただけの人工を加えないもの」としています。この定義を読むと、はちみつという食品がどれほど加工の少ないものかが分かります。原料をブレンドしたり、味を調えたりする工程が入る余地がそもそも定義に含まれていません。
巣房に貯えられた蜜を人の手で取り出す作業
ミツバチは集めてきた花の蜜を巣房というひとつひとつの六角形の部屋に運び入れ、そこで水分を飛ばしながら貯えます。採蜜は、この巣房からはちみつを外に出す作業です。巣枠ごと、あるいは巣ごと取り出し、あとで説明する道具を使って中身を引き出します。
「ろ過しただけ」で食品になる、加工の少なさ
日本養蜂協会の規格では、国産天然はちみつは水分22%以下、果糖及びぶどう糖含有量の合計60g/100g以上、HMF(ヒドロキシメチルフルフラール)5.9mg/100g以下といった数値で定められています。これらはミツバチが巣の中で作り上げた状態そのものを評価する基準であり、人の手による加工の余地が少ないことの裏返しでもあります。採蜜という言葉が指しているのは、この状態をできるだけ壊さずに巣の外へ移す作業だと考えると分かりやすいと思います。
採蜜のタイミング——蜜蓋が教える完熟のサイン
蜜蓋は完熟の合図、水分がおよそ2割まで下がった証
採蜜は、巣房に蜜蓋がされてから行います。蜜蓋がされる前のはちみつは水分が多く、そのまま採ると発酵しやすいためです。
花の蜜は水分が多すぎる——濃縮を待つ理由
ミツバチが花から集めてくる蜜は、もともと水分を多く含んでいます。巣に持ち帰ったあと、羽で風を送って水分を飛ばし、酵素の働きで糖の組成を変えながら濃縮していきます。この過程を経ないうちに採ってしまうと、規格を満たさない水っぽい液体になり、保存中に発酵してしまう可能性があります。花の蜜がはちみつになるまでの成分の変化については、花の蜜がはちみつになるまでの成分の変化でも触れています。
蜜蓋がされたら水分はおよそ2割——規約の数字と照らす
濃縮が進んで一定の水分量まで下がると、ミツバチは巣房に蜜蓋という薄い蝋のふたをします。これが完熟の合図です。全国はちみつ公正取引協議会の公正競争規約では、はちみつの組成基準として水分20%以下(国産は22%以下)、果糖とぶどう糖の合計60g/100g以上、しょ糖5g/100g以下といった数値が示されています。蜜蓋がされた巣房のはちみつは、おおよそこの基準に近い水分量になっているとされ、養蜂家はこの蓋の有無を目安に採蜜の時期を判断します。
採蜜の手順を順に追う——燻煙から瓶詰めまでの六つの工程
採蜜の手順は、燻煙、巣枠の取り出し、蜜蓋切り、遠心分離、ろ過、瓶詰めという流れで進みます。工学院大学みつばちプロジェクトが公開している採蜜実習の記録は、この一連の工程を具体的に示しています。
煙で静めて、巣枠を持ち上げる
まず燻煙器で煙を焚き、ミツバチをおとなしくさせます。煙を感じたミツバチは巣が火事に遭ったと判断して蜜を口に含み、逃げる準備に入るため、攻撃性が下がるとされています。ミツバチが落ち着いたところで、巣箱から巣枠を一枚ずつ取り出します。
蜜刀で蜜蓋を切り、遠心分離機にかける
取り出した巣枠は、表面の蜜蓋を蜜刀と呼ばれる専用のナイフで薄く切り取ります。蜜蓋を外すことで、中のはちみつが遠心力で飛び出せるようになります。蜜蓋を切った巣枠は遠心分離機にセットし、回転させてはちみつを外へ振り出します。
ろ過して瓶へ——巣のかけらを除く最後の仕事
遠心分離機から出てきたはちみつには、蜜蓋の蝋のかけらや小さな異物が混じっています。これをろ過器に通して取り除き、瓶に詰めます。工学院大学みつばちプロジェクトの記録では、この日の採蜜量はおよそ1リットルだったとされています。巣枠の枚数や群れの状態によって、採れる量は年によっても回によっても変わります。
採蜜の道具を知る——燻煙器・蜜刀・遠心分離機・ろ過器
採蜜には、燻煙器、防護服、蜜刀、遠心分離機、ろ過器、貯蜜容器という道具がそれぞれの役割を持って使われます。
蜂に触れる前の道具——燻煙器と防護服
燻煙器とは、木くずや麻布などを燃やして煙を発生させる筒状の道具です。ふいごを押すと煙が出て、巣箱の入り口や巣枠の隙間に吹きかけて使います。作業者は防護服と面布(めんぷ)を身につけ、刺されるリスクを抑えながら巣箱に近づきます。
蜜を取り出す道具——蜜刀と遠心分離機
蜜刀とは、巣房にかぶさった蜜蓋を薄く削ぎ取るための専用のナイフです。刃を巣枠の面に沿わせるようにして使います。遠心分離機とは、蜜蓋を切った巣枠を内側にセットして回転させ、遠心力ではちみつを外へ振り出す機械です。巣枠式の採蜜ではこの二つが中心の道具になります。
仕上げの道具——ろ過器と貯蜜容器
ろ過器とは、遠心分離機から出てきたはちみつを通し、蝋のかけらや蜂の体の一部などの異物を取り除く網状の道具です。目の粗さが異なる網を重ねて使うこともあります。ろ過を終えたはちみつは、貯蜜容器と呼ばれる大きな容器にいったん受け、そこから瓶に小分けにしていきます。
巣枠式と重箱式で採り方が違う——遠心分離・垂れ蜜・圧搾
採蜜の方法は、飼育している蜂の種類と巣箱の形式によって大きく変わります。セイヨウミツバチを飼う巣枠式では遠心分離機を使い、ニホンミツバチを飼う重箱式では垂れ蜜や圧搾という方法が使われます。
セイヨウミツバチとニホンミツバチは、体の特徴だけでなく巣の作り方や性質にも違いがあり、この違いが採蜜方法の違いにも直結しています。両者の詳しい違いはニホンミツバチとセイヨウミツバチの違いで解説しています。
| 項目 | 巣枠式(セイヨウミツバチ) | 重箱式(ニホンミツバチ) |
|---|---|---|
| 主な巣箱 | ラングストロース式巣箱 | 重箱式巣箱 |
| 採り方 | 遠心分離 | 垂れ蜜・圧搾 |
| 巣の扱い | 蜜蓋を切るだけで巣は残す | 最上段の巣を切り取る |
| 特徴 | 同じ巣枠を繰り返し使える | 巣ごと採るため巣の再利用はしない |
巣枠式なら遠心分離——巣を壊さず何度も使う
ラングストロース式巣箱に代表される巣枠式は、巣枠という木の枠に蜂が巣を作る構造になっています。蜜蓋を切り取ったあとも枠自体の巣は壊れないため、遠心分離機で蜜だけを振り出し、空になった巣枠を再び巣箱に戻して使えます。
重箱式なら垂れ蜜か圧搾——最上段を切り取る
重箱式巣箱は、箱を積み重ねた構造の中に蜂が自由に巣を作ります。この形式では巣枠のような枠がないため、遠心分離機は使えません。最上段の箱ごと巣を切り取り、そのまま吊るして自然に垂れてくる蜜を受ける垂れ蜜という方法や、布などで包んで搾る圧搾という方法が使われます。遠心分離機がなくても採蜜ができるのは、この重箱式の方法があるためです。
採蜜は一日にして成らず——内検・ダニ対策・届出という日常
採蜜は一年を通じた内検の積み重ねの先にある
採蜜という一日の作業は、その手前に一年を通じた巣箱の管理があって初めて成り立ちます。内検、ダニ対策、飼育の届出は、いずれも採蜜の前提になる日常の営みです。
巣箱の中を確かめる内検という習慣
内検とは、巣箱を開けて中の状態を確かめる作業です。女王蜂がいるか、産卵は順調か、蜜の貯まり具合はどうかといった点を定期的に見ることで、蜜蓋がされる時期の見通しを立てられます。内検で具体的に何を見るのかは、内検では巣箱の中の何を見ているのかで扱っています。
ダニ対策と薬剤の使用時期——蜜に入れないための決まりごと
ミツバチヘギイタダニは、ミツバチに寄生してコロニーを弱らせるダニです。対策のために薬剤を使う場合は、はちみつに残留しないよう使用時期や休薬期間が定められています。採蜜の直前に薬剤を使わないという判断も、日々の管理の一部です。
飼育には届出がいる——養蜂振興法のルール
農林水産省によると、養蜂振興法(昭和30年法律第180号)にもとづき、ミツバチの飼育には都道府県への飼育届が、都道府県域を越えた蜂群の移動には転飼許可が必要です。同省のサイトでは養蜂家向けのマニュアルや養蜂をめぐる情勢も公開されています。趣味で飼育を始める場合であっても、この届出は欠かせません。詳しくは蜜蜂飼育届と養蜂振興法の話で整理しています。
よくある質問
Q:採蜜はいつ、年に何回くらい行うものですか? 採蜜は、その地域の主な蜜源植物が咲き終わり、蜜蓋がされてから行うのが基本です。回数は飼い方や地域によって異なり、蜜源が豊富な地域で複数回行われることもあれば、年に一度にまとめる飼い方もあります。群れの勢いや天候によっても左右されるため、決まった回数があるわけではありません。
Q:遠心分離機がなくても採蜜はできますか? できます。ニホンミツバチを重箱式巣箱で飼う場合は、遠心分離機を使わず、巣を切り取って吊るす垂れ蜜や、布に包んで搾る圧搾という方法で採蜜します。遠心分離機を使うのは、巣枠式でセイヨウミツバチを飼う場合が中心です。
Q:なぜ蜜蓋がされるまで待つのですか? 蜜蓋がされる前のはちみつは水分が多く、そのまま採ると発酵しやすいためです。全国はちみつ公正取引協議会の規約では、はちみつの水分基準は20%以下(国産は22%以下)とされており、蜜蓋は蜂自身がこの水分量まで濃縮を終えた合図と考えられています。なお、はちみつは1歳未満の乳児には与えないという注意も広く周知されています。理由については1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由をご覧ください。
六角門は現在、京都でミツバチを迎える準備を進めている段階です。巣箱も採蜜の道具も、まだ手元にはありません。この記事で扱った燻煙器や蜜刀、遠心分離機の使い方は、公開されている資料をもとに整理したものであり、いつか自分の手で確かめたいと考えている工程でもあります。準備の過程で分かったことは、これからも少しずつ記していく予定です。
採蜜当日の段取り——どの巣枠を採り、何を残すか
手順の流れが分かっても、当日に「どの巣枠を抜くか」で迷うことはけっこう多いと思います。一般的な考え方をまとめておきます。
採るのは貯蜜の巣枠だけで、育児の巣枠には手を付けない
巣箱の中には、女王蜂が卵を産んで幼虫を育てている育児圏と、蜜を貯めている貯蜜圏があります。採蜜の対象になるのは貯蜜圏の巣枠です。幼虫やさなぎが入っている巣枠を遠心分離機にかけると、蜜に異物が混じるうえ、群れの次の世代を減らしてしまいます。巣枠を持ち上げたら、蜜蓋の下が蜜なのか、蛹の蓋なのかを確かめる習慣が必要かなと思います。
蜜蓋が一部にしかない巣枠は、未熟な蜜が混じる可能性があります。そのため、蓋がされていない部分が多い巣枠は見送って次回に回す、という判断をすすめる資料が多いです。
群れの食べる分を残す
はちみつは、ミツバチにとっては蜜源の少ない時期を乗り切るための食料です。全部を採ってしまうと、そのあとの群れの維持が難しくなります。採蜜の量は「採れるだけ」ではなく、「この先の季節に群れが何を食べるか」から逆算して決めるものだと考えると分かりやすいと思います。残す量は地域の蜜源や季節で変わるため、決まった数字があるわけではありません。
蜂を巣枠から離す方法と、盗蜂への備え
巣枠に付いている蜂は、巣箱の上で軽く振り落としたり、柔らかいブラシで払ったりして離します。払い方が強すぎると蜂が興奮するため、燻煙と組み合わせて落ち着いて行うのが基本です。
もうひとつ気をつけたいのが盗蜂です。蜜の匂いがあたりに広がると、ほかの群れの蜂が蜜を奪いに集まってくることがあります。採った巣枠を外に置いたままにしない、こぼれた蜜を放っておかない、作業は屋内や囲われた場所で行う、といった対策が各所で紹介されています。
遠心分離でつまずきやすいところ——重さのそろえ方と回し方
遠心分離機は入れて回すだけの機械に見えますが、失敗しやすい点がいくつかあります。
向かい合う巣枠の重さをそろえる
遠心分離機は回転する機械なので、片側だけが重いと本体が揺れて安定しません。蜜がたっぷり入った巣枠と軽い巣枠を向かい合わせにしないで、重さの近いものを対にしてセットするのが基本とされています。
いきなり高速で回さない
蜜がたくさん入った巣枠をいきなり速く回すと、遠心力に耐えられずに巣が枠から外れたり割れたりすることがあります。まずゆっくり回して片面の蜜をある程度抜き、裏返して反対の面を抜き、もう一度最初の面に戻す、という順番をすすめる資料もあります。巣枠式の強みは巣を壊さずに再利用できることなので、ここで巣を傷めるとその強みがなくなってしまいます。
空になった巣枠と、切り取った蜜蓋の行き先
蜜を抜いた巣枠は、巣箱に戻すと蜂が残った蜜を掃除し、また貯蜜に使います。切り取った蜜蓋にも蜜がかなり付いているため、網の上に置いて蜜を垂らしてから、残った部分を蜜蝋として活用する方法が紹介されています。
採った蜜を傷ませないために——水分の確かめ方と器具の扱い
蜜蓋を目安にしても、それだけで水分量を確かめたことにはなりません。瓶に詰めたあとで発酵するのを防ぐための確認がいくつかあります。
目安だけに頼らず、屈折計で測る
はちみつの水分は、屈折計(糖度計)という器具で測れます。蜜蓋は完熟の目安ですが、未熟な巣枠が混じっていないか、全体の水分が規格の範囲に収まっているかは、数値で確かめると安心です。販売を考える場合は、前半で触れた公正競争規約の水分基準を満たしているかを、測った数値で確認できる状態にしておくのが大事かなと思います。
はちみつは湿気を吸う
はちみつは空気中の水分を吸いやすい性質があります。雨の日や湿度が高い部屋で長時間ふたを開けたまま作業すると、せっかく濃縮された蜜の水分が上がる可能性があります。天気のいい日を選ぶこと、貯蜜容器や瓶のふたをこまめに閉めることが、地味ですが効いてくる点だと思います。
器具は乾いた清潔な状態で使い、加熱しすぎない
蜜刀や遠心分離機、ろ過器に水滴や汚れが残っていると、発酵や異物混入の原因になります。洗ったあとはしっかり乾かしてから使うのが前提です。また、ろ過を早めようとして強く加熱すると、前半で触れたHMFが増えたり、はちみつの風味が変わったりするとされています。「取り出してこすだけ」という採蜜の性質を守るには、温めるとしてもごく穏やかにとどめるのが無難だと思います。