この記事の要点
- はちみつ1kgに要る花の蜜は、花蜜の糖度が20%なら約4kg、40%なら約2kgという概算になります。
- 糖は減らず水だけが減ると仮定すると、はちみつ1kgの裏で、糖度20%なら約3kg、40%なら約1kgの水が飛んでいます。
- リーズ大学のモデル計算では、糖30%のナタネ蜜で運び込んだエネルギーの25%が濃縮に使われると報告されています。
瓶のはちみつを見て、「これは花の蜜の何倍分なのだろう」と思ったことはないでしょうか。巣の中で水を飛ばして濃くする、という工程の説明は読んだことがあっても、量の感覚はつかみにくいものです。この記事では工程ではなく、量の収支として花の蜜とはちみつの差を数えてみます。計算はすべて概算です。

花の蜜とはちみつは、濃さがまるで違う
花の蜜は糖が10〜50%ほどの薄い液体で、はちみつは水分が20%以下まで濃縮されたものです。同じ「甘い液体」でも、始点と終点では水の量がまるで違います。
花の蜜の糖度は花ごとに10〜50%と幅がある
花蜜とは、植物が花の中でつくる甘い分泌液のことです。日本養蜂協会によると、主成分はショ糖です。リーズ大学のDerek Mitchell氏がJournal of the Royal Society Interfaceに発表した研究(2019年、2023年に訂正あり)では、花蜜の糖濃度は10〜50%とされ、濃縮は典型的に20%から80%へ進むと整理されています。花ごとの糖度の違いについては、花ごとに違う花蜜の糖度で別にまとめています。
はちみつの終点は水分20%以下(国産は22%以下)
はちみつとは、全国はちみつ公正取引協議会の「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」で、みつばちが植物の花みつを採集し、巣房に貯え熟成した天然の甘味物質と定義されるものです。組成基準は水分20%以下(国産はちみつは22%以下)、果糖とぶどう糖の合計が100gあたり60g以上、しょ糖は原則5g以下とされています。日本養蜂協会は、はちみつの糖分を成分の約80%弱としています。
工程のおさらいは短く——酵素と風
日本養蜂協会の説明では、外勤蜂から花蜜を受け取った貯蜜係が、巣房の壁に蜜を貼り付けます。そして翅で風を起こして水分を蒸発させます(扇風)。同時に、唾液に含まれる転化酵素がショ糖を果糖とブドウ糖に分解します。水分が20%程度になると、蜜蝋で薄く蜜蓋をかけて仕上がりです。成分の変化そのものは花の蜜がはちみつになるまでの成分の変化に詳しく書いています。
はちみつ1kgに、花の蜜は何kgいるのか
糖度20%の花蜜なら約4kg、30%なら約2.7kg、40%なら約2kg、50%なら約1.6kgが、はちみつ1kgの目安です。糖度が低いほど、必要な蜜の量は増えます。
計算の考え方——糖は残り、水だけが出ていく
考え方は単純です。濃縮の間、糖の量は変わらず水だけが減ると仮定します。はちみつ1kgの糖分を約0.8kg(糖80%)とすると、必要な花蜜は「0.8kg ÷ 花蜜の糖度」で求まります。糖度が分かれば、誰でも電卓で出せます。飛ばす水は、花蜜の量からはちみつ1kgを引いた残りです。
早見表:糖度20%なら約4kg、30%なら約2.7kg、40%なら約2kg、50%なら約1.6kg
| 花蜜の糖度 | はちみつ1kgに要る花蜜 | 飛ばす水の量 |
|---|---|---|
| 20% | 約4.0kg | 約3.0kg |
| 30% | 約2.7kg | 約1.7kg |
| 40% | 約2.0kg | 約1.0kg |
| 50% | 約1.6kg | 約0.6kg |
この表は、糖は減らず水だけ減ると仮定した概算です。はちみつの糖度を実際に測る方法は、はちみつの糖度の測り方にあります。
この数字に含まれていないもの——ミツバチ自身が使う分
表の数字には、ミツバチ自身が飛行や巣の維持で消費する糖は入っていません。実際には、蜂が使う分だけ、さらに多くの蜜が必要になるはずです。したがって表は「最低でもこのくらい」という下限に近い数字として読むのが適切かと思います。
水を飛ばすのにかかる元手——蜜の4分の1以上が濃縮に使われるという計算
巣の中で翅をふるわせ、蜜の水を飛ばす
水を飛ばすことには、エネルギーがかかります。リーズ大学のモデル計算では、運び込んだ蜜のエネルギーのうち、糖30%のナタネ蜜で25%、糖20%のクローバー蜜で40%が濃縮に使われると報告されています。
1群が1年に蒸発させる水は400kgを超えうるという試算
同じ論文は、1群が1年に蒸発させる水が400kgを超えうると試算しています。水の蒸発潜熱は、305K(約32℃)で1kgあたり2.426MJとされます。熱の使い方が理想的でもなお、典型的な条件では濃縮に使う割合が50%を超えうるというのが、論文のモデルの結論です。なおこの論文には2023年に訂正が出ており、数字を引用するときは訂正後のものを確かめる必要があります。
糖30%の蜜で25%、20%の蜜で40%——薄い蜜ほど元手がかさむ
薄い蜜は、運ぶ水も飛ばす水も多くなります。上の早見表で、20%の蜜は1kgあたり約3kgの水を飛ばす計算だったのに対し、40%では約1kgでした。使うエネルギーの割合が20%で40%、30%で25%と開くのは、この差を反映したものです。
帰り道で先に飛ばすと得になる理由(1匹あたり16〜27mgの水)
プレトリア大学のNicolson氏らがScientific Reportsに発表した2022年の研究は、マカダミアの蜜を扱っています。マカダミアの蜜は糖20〜30%(重量比)ですが、巣の入口に戻った蜂の蜜胃の中身は平均64%でした。つまり蜂は帰る前に、飛びながら水を飛ばしていることになります。その量は1匹あたり16〜27mgで、巣の中で蒸発させれば35〜65Jを要する計算です。論文は、濃縮の手間を先に減らす得を、体が軽くなることによる飛行コストの節約の平均35倍と試算しています。
だから濃い蜜の花が選ばれ、近い花が選ばれる
こうした研究を踏まえると、蜂が糖度の高い花や、巣から近い花を好む理由が量の収支として説明できます。濃い蜜なら運ぶ水も飛ばす水も少なく、近ければ飛行にかかる分も減ります。ただし、これはモデル計算と実測からの考察であり、個々の蜂の判断を直接見たものではありません。
濃くなった蜜に起きること——腐りにくさ・結晶化・とろみ
糖度80%前後まで濃縮されたはちみつは、水分が少ないために保存がきき、結晶化しやすく、粘りが強くなります。三つの性質は、すべて水の少なさにつながっています。
水分18%未満で発酵のおそれがほとんどなくなる
FAO(国連食糧農業機関)の資料は、水分18%未満のはちみつだけが、発酵のおそれがほとんどない状態で貯蔵できるとしています。これは殺菌力のような話ではなく、水が少ないために微生物が増えにくい、という食品の保存性の話です。糖度と水分活性の違いは、糖度と水分活性の違いで整理しています。日本養蜂協会も、濃縮されたはちみつは長期間貯蔵しても成分的な変化がほとんどないとしています。
溶けきれないほど糖が濃い——過飽和が結晶化の前提
FAOの資料によれば、はちみつは溶けていられる量を超える糖を含む過飽和の糖液です。過飽和とは、本来その温度の水に溶けられる限度を超えて糖が溶けている状態のことです。この不安定さがあるので、条件が揃うとブドウ糖が結晶になります。蜜の種類による差は、固まりやすい蜜と固まりにくい蜜の違いにあります。
水分が7ポイント違うと粘りは約20倍違う
FAOの資料では、25℃での粘度は、水分13.7%で420ポアズ、20.2%で20ポアズです。水分が約7ポイント違うだけで、粘りは約20倍変わります。とろみの違いは、とろみを決める糖度と水分でも触れています。
台所で思い出したい、この収支のこと
乾いたスプーンと、きちんと閉めた蓋
飛ばした水は、条件が揃えば空気から戻ってきます。フタをきちんと閉め、乾いたスプーンを使うことが、巣で行われた濃縮を台所で保つ方法になります。
湿度60%を超える空気からは水を吸い戻す
FAOの資料によれば、水分18.3%のはちみつは相対湿度60%の空気と釣り合います。65%では20.9%、70%では24.2%で釣り合うため、湿度の高い環境に置くと水分が増える方向に進みます。国産の規約上限は22%ですから、70%の空気とは釣り合いません。仕組みは、はちみつが空気中の水分を吸う理由で詳しく書いています。
フタを閉める・乾いたスプーンを使う
使い終わったらフタを閉め、スプーンは乾いたものを使います。水が戻れば、蜂がせっかく飛ばした分が台所で元に戻るようなものです。
1歳未満の乳児には与えない
1歳未満の乳児にはちみつを与えてはいけません。消費者庁や厚生労働省が周知している乳児ボツリヌス症への注意喚起です。理由は1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由で説明しています。
よくある質問
Q:はちみつ1kgをつくるのに、花の蜜はどれくらい必要ですか?
花蜜の糖度で変わります。糖は減らず水だけ減ると仮定した概算では、20%で約4kg、40%で約2kgです。蜂自身が消費する分は含みません。
Q:「ミツバチは一生でスプーン1杯のはちみつしか集めない」は本当ですか?
広く語られる言い習わしですが、今回参照した資料からは、測定に基づく数字としては確認できませんでした。事実として断定せず、よく聞く話として紹介するにとどめます。
Q:花の蜜をそのまま煮詰めれば、はちみつになりますか?
なりません。公正競争規約の定義は、巣房に貯え熟成した甘味物質です。転化酵素による糖の分解は煮詰めでは起きないため、水分が同じでも別のものになります。
Q:薄い蜜の花と濃い蜜の花では、ミツバチにとって何が違いますか?
薄いほど、運ぶ水も飛ばす水も増えます。リーズ大学のモデル計算では、糖30%の蜜で25%、20%の蜜で40%のエネルギーを濃縮に使うと報告されています。
Q:せっかく飛ばした水分が、瓶の中で戻ることはありますか?
あります。湿度60%を超える空気からは吸湿します。フタを閉め、乾いたスプーンを使うことで防げます。詳しくははちみつが空気中の水分を吸う理由をご覧ください。
六角門は京都で、養蜂を主軸にした健康ブランドの準備を進めています。まだ蜜蜂を迎える前の段階で、こうした資料を読み、量や仕組みを一つずつ確かめているところです。採蜜の流れについては、蜜蓋を待ってから行う採蜜の手順も調べた範囲でまとめています。