この記事の要点
- はちみつの粘りは添加物ではなく、糖分約8割・水分約2割という濃い水溶液そのものの性質です
- 水分がわずか1〜2%減るだけで、粘度は数十倍に跳ね上がることがFAOの実測値で示されています
- 温度が下がると粘度は数百倍に増えるため、サラサラかどうかは本物・偽物の判断材料になりません
- 本物かどうかは見た目ではなく、名称欄と原材料名という表示で確かめるのが確実です

糸を引く正体は「糖8割の濃い水溶液」
はちみつは糖分約8割、水分約2割の濃い水溶液
はちみつがスプーンから落ちるとき糸を引くのは、防腐剤や添加物のせいではありません。はちみつそのものが、糖の塊にかなり近い、極端に濃い水溶液だからです。
100g中、水分17.6gに糖がぎっしり溶けている
文部科学省の日本食品標準成分表によれば、はちみつ100gに含まれる水分は17.6g、炭水化物は81.9g、エネルギーは329kcalです。重さの8割以上を糖が占め、水はわずか2割弱しかありません。この配合比が、はちみつの成分は糖約8割・水分約2割という粘りの土台になっています。糖度がどのように測られているか気になる方は、糖度は屈折計でどう測るのかもあわせて読んでみてください。
糖の分子が水を抱え込み、流れにくくなる
はちみつの糖の大半は果糖とブドウ糖という単糖です。ショ糖がブドウ糖と果糖に分解されてできる糖は転化糖と呼ばれ、はちみつはこの転化糖を主成分とする過飽和の水溶液だと説明されます。過飽和とは、本来溶けきれる量を超えるほど多くの糖が水に溶け込んだ、不安定に濃い状態を指す言葉です。糖の分子どうしが少ない水分子を取り合いながら密に並ぶため、層がずれにくくなり、流れにくい液体になります。糸を引くとろみは、この濃さの表れです。
水分がわずか1〜2%違うだけで、粘りは何倍も変わる
はちみつの粘度を最も大きく左右するのは水分量です。ほんの1〜2%の違いが、体感できるほどの粘りの差になります。
FAOのデータで見る、水分と粘度の関係
FAO(国際連合食糧農業機関)の資料では、クローバー系のはちみつを使った実測で、水分13.7%のときの粘度は420ポアズ、水分20.2%のときは20ポアズという結果が示されています。
| 水分量 | 粘度(ポアズ) |
|---|---|
| 13.7% | 約420 |
| 20.2% | 約20 |
水分の差はわずか6.5ポイントですが、粘度にはおよそ20倍の開きがあります。数%の水分量の違いが、手で感じ取れるほどの粘りの差になって現れる計算です。
公正競争規約の水分20%基準は、粘りの基準でもある
全国はちみつ公正取引協議会が定める公正競争規約では、はちみつの水分は20%以下(国産は22%以下)、果糖とブドウ糖を合わせた含有量は100gあたり60g以上(甘露はちみつは45g以上)と決められています。この水分の上限は発酵を防ぐための品質基準であると同時に、FAOの実測値に照らすと、はちみつらしい粘りを保つための実質的な境界線でもあると読み取れます。
冬に固く、夏にゆるくなる——温度と粘りの関係
同じ瓶のはちみつでも、冬は重く、夏は軽く感じることがあります。これは水分量ではなく温度が変わったためで、粘度は温度によっても大きく動きます。
14℃と71℃で200倍以上——FAOの温度別データ
FAOの資料では、水分16.1%のはちみつの粘度が13.7℃で600ポアズ、39.4℃で21.4ポアズ、71.1℃で2.6ポアズと報告されています。
| 温度 | 粘度(ポアズ) |
|---|---|
| 13.7℃ | 約600 |
| 39.4℃ | 約21.4 |
| 71.1℃ | 約2.6 |
同じはちみつが、温度差だけでおよそ230倍も粘度を変えている計算になります。冷蔵庫から出したばかりの瓶が重く感じられ、湯せんで温めるとさらりと流れ出すのは、成分が変わったのではなく、この温度依存性によるものです。
「固くなった」が粘度上昇か結晶化かの見分け方
農林水産省の消費者向け案内では、はちみつが固まる結晶化は主成分のブドウ糖によるもので、ブドウ糖の割合が多い蜜ほど結晶化しやすく、15℃前後から結晶が生じやすくなると説明されています。透明なまま重くなっただけなら温度による粘度上昇、白く濁って粒状の結晶が現れたなら結晶化だと切り分けられます。結晶化した場合も、フタをゆるめて湯せんにかけ、かき混ぜながらゆっくり溶かせば元の状態に戻り、成分は変わらないとされています。温度と戻し方の詳細は白く固まる結晶化が起きる温度と戻し方にまとめています。
「糸を引くのが本物」は本当か——俗説をルールで検証する
確かめるなら見た目より名称欄と原材料名の表示
「よく糸を引く=本物」「サラサラ=偽物」という見方は、はちみつの粘度が水分や温度だけでなく蜜源によっても変わるという事実を踏まえていません。
サラサラでも本物、ねっとりでも加糖はありうる
はちみつの粘度は、アカシア、レンゲ、クローバーといった蜜源によっても変わります。蜜源が違えば果糖とブドウ糖の比率も変わり、この比率は粘度だけでなく結晶のしやすさにも関わると考えられています(詳しくは果糖とブドウ糖の比率が決める味と結晶のしやすさ)。ここで押さえておきたいのは、粘度の強さを本物・偽物の判定に使うことはできないという点です。同じ本物のはちみつでも、蜜源・採蜜時期・保管温度によってサラサラにもねっとりにもなります。逆に、粘度を調整した加糖はちみつが、見た目だけでは区別できない場合もあります。
確かめるなら名称欄と原材料名——「純粋」表示の意味
全国はちみつ公正取引協議会の規約では、「純粋」という表示は、はちみつ類以外のものが混入していないことを意味すると定められています。粘度という感覚的な手がかりに頼るより、パッケージの名称欄と原材料名を確認するほうが、本物かどうかを確かめる確実な方法です。純粋・加糖・精製という区分そのものについては、純粋・加糖・精製という3つの区分の見分け方で整理しています。
粘りとつきあう、日々の小さな手当て
粘度の仕組みがわかると、はちみつの扱い方にも応用できます。
計量のコツ——スプーンを温める・油を薄く塗る
温度が上がるほど粘度が下がるという性質を利用すれば、計量は楽になります。スプーンを熱い湯にくぐらせて温めておく、あるいは薄く油を塗っておくと、はちみつが表面に張り付きにくくなり、すっと流れ落ちやすくなります。瓶ごと湯せんで少し温めておくのも同じ理屈です。
開封後にサラサラになってきたら——吸湿と発酵のサイン
FAOの資料では、相対湿度60%の環境に置かれたはちみつは、水分量がおよそ18.3%で平衡に達するとされています。はちみつは周囲の湿気を吸いやすい性質を持つため、フタを開けたまま湿気の多い場所に置いておくと、水分量がじわじわと増えていきます。水分が増えれば粘度は下がりサラサラとした質感に近づきますが、これは品質が保たれたままの変化とは限らず、公正競争規約が定める水分基準を超えて発酵に近づいていくサインでもあります。吸湿の仕組みについてははちみつが空気中の水分を吸う吸湿性で詳しく扱っています。なお、はちみつは1歳未満の乳児には与えないでください。乳児ボツリヌス症を防ぐため、消費者庁と厚生労働省が繰り返し注意を呼びかけている点です。
よくある質問
Q:サラサラしたはちみつは偽物なのでしょうか? サラサラしているからといって偽物とは限りません。粘度は蜜源、水分量、そのときの温度によって変わるため、見た目だけで本物かどうかを判断することはできません。確かめたい場合は、パッケージの名称欄と原材料名を確認するのが確実な方法です。
Q:はちみつが固くなったのは粘度が上がったから?結晶化? 透明な状態のまま重くなっているだけなら、温度低下による粘度上昇です。白く濁って粒状のものが見えるようになった場合は結晶化で、こちらは農林水産省の案内にあるように、フタをゆるめて湯せんにかけ、かき混ぜながらゆっくり溶かすと元に戻ります。
Q:冷蔵庫に入れるとはちみつはどうなりますか? 低温になるほど粘度は大きく上がり、扱いにくくなります。加えて15℃前後の温度帯を通ると結晶化も進みやすくなるため、冷蔵よりも常温の冷暗所で保管するのが基本とされています。
六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの立ち上げに向けて準備を進めています。まだ蜜蜂を迎える前の段階で、巣箱もはちみつも手元にはありませんが、成分や品質表示について調べる中で、粘りひとつをとっても数字で語れることの多さに気づかされます。これから確かめていきたいことは、まだたくさんあります。
「ポアズ」はどのくらいの粘り?——身近な単位に読みかえる
本文で使っているFAOの数値は「ポアズ」という単位です。ただ、今の食品や工業製品の資料では「mPa·s(ミリパスカル秒)」の方をよく見かけます。単位の定義では、1ポアズは0.1Pa·s、つまり100mPa·sです。換算すると、本文の数値は次のようになります。
| 条件(FAOの資料より) | ポアズ | mPa·sに換算 |
|---|---|---|
| 水分13.7% | 約420 | 約42,000 |
| 水分20.2% | 約20 | 約2,000 |
| 水分16.1%・13.7℃ | 約600 | 約60,000 |
| 水分16.1%・71.1℃ | 約2.6 | 約260 |
物理の便覧などでは、室温の水の粘度はおよそ1mPa·sとされています。これと並べると、常温のはちみつは水の数千倍から数万倍も流れにくい液体です。湯せんでかなり温めても、なお水の数百倍の粘りが残っています。他の資料でmPa·sの数値を見かけたときは、100で割ればポアズになるので、本文の表とそのまま比べられるかなと。
2つのはちみつの粘りを比べるときは、条件をそろえる
「この蜜はゆるい気がする」と感じても、比べる条件がそろっていないと、その差が何から来ているのか判断できません。本文のとおり、粘度は温度でとても大きく変わります。比べる前に、条件をそろえる手順を踏むのが確実だと思います。
- 温度をそろえる:2つの瓶を同じ部屋に並べて、しばらく置いてなじませます。片方だけ冷蔵庫や窓際に置いていた、という状態では比べられません
- 道具と量をそろえる:同じスプーンで同じくらいの量をすくい、同じ高さから垂らします
- 見るところを決めておく:落ちきるまでの速さと、糸がどこで切れるかを見比べます
つまずきやすいのは次のような点です。
- 結晶が混じっている:白い粒があると、液体の粘りではなく、粒がひっかかる重さを感じてしまいます。結晶のない透明な部分どうしで比べます
- 表面だけ変わっている:フタを開けたままの時間が長かった瓶は、空気に触れる表面から湿気を吸います。上の層だけゆるくなっている場合もあるので、表面だけで決めつけない方が良さそうです
- 蜜源の違いを品質の差と思い込む:蜜源が違えば粘りが違うのは自然なことです。差があっても、それだけで良い・悪いは決められません
意味のある比較になるのは、同じ商品の以前の状態と比べる場合です。明らかにゆるくなっていて、表面に泡が出ている、酸っぱいにおいがする、といった変化がいっしょに見られるなら、吸湿や発酵が進んでいることを疑う手がかりになると考えています。
料理で「のばして」使うときの判断基準
ドレッシングや冷たい飲み物にはちみつを使うと、底に沈んでうまく混ざらないことがあります。冷たい液体の中では温度が低いので粘度が高いまま保たれ、まわりとなじみにくいためです。こういうときは、先に少量のぬるま湯や酢、レモン汁などで溶いてゆるくしてから、全体に加えると混ざりやすくなります。
注意したいのは、水でのばしたはちみつはもう「はちみつ」の状態ではないという点です。公正競争規約が水分20%以下を求めている理由のひとつは発酵を防ぐことでした。水で薄めた時点で、その基準を大きく超えることになります。はちみつは長く保存がききますが、薄めたものにはその性質が期待できないと考えた方が安全です。
- 薄めるのはその場で使う分だけにして、作り置きは避ける
- 使い残しを元の瓶に戻さない
- 濡れたスプーンを瓶に入れない(瓶の中の水分が増える原因になる)
粘りをゆるめたいとき、瓶ごと扱うなら温度で、使う分だけなら薄めて、という分け方を覚えておくと、品質を落とさずに済むかなと思います。