花の蜜のショ糖は、なぜ果糖とブドウ糖に変わるのか——転化が決めるはちみつの甘さと結晶化

はちみつは「蜜を集めて濃くしたもの」だと思われがちです。けれど実際には、濃くするだけでは足りません。花の蜜の主役であるショ糖を、ミツバチが別の糖に分けているからこそ、あの濃さと保存性に届きます。

この記事の要点

  • 転化とは、ミツバチの酵素がショ糖を果糖とブドウ糖の二つに分ける反応で、はちみつの糖組成の土台になっています。
  • ショ糖のままでは、はちみつほどの濃さまで水に溶けていられません。分けることで、濃い蜜を液体のまま保てます。
  • 甘さの質、結晶化のしやすさ、腐りにくさは、ショ糖が二つの単糖に分かれたことから一本の筋でつながります。

朝の台所で、蜂蜜の瓶の傍らに角砂糖と、二つの小皿に分けた淡い蜜が並ぶ静かな情景

花の蜜とはちみつでは、糖の顔ぶれが違う

花の蜜はショ糖(スクロース)を多く含み、はちみつは果糖(フルクトース)とブドウ糖(グルコース)が主役です。同じ糖の液体でも、出発点と到着点では中身が入れ替わっています。ミツバチの巣の中で、その入れ替えが起きています。

ショ糖は果糖とブドウ糖が一つずつ結びついた糖

ショ糖とは、果糖とブドウ糖が一つずつ結びついてできた二糖です。二糖とは、単糖が二つつながった糖のことで、単糖とはそれ以上は分けられない最小単位の糖を指します。台所の砂糖は、このショ糖がほとんどを占めています。

つまりショ糖を二つに分ければ、果糖とブドウ糖が一つずつ得られます。はちみつの主成分がこの二つであることは、偶然ではなく、ショ糖が分けられた結果です。花の蜜がどのように姿を変えていくかは、花の蜜がはちみつになるまでの成分の変化でも順を追って触れています。

花によって、蜜の段階ですでに分かれ具合が違う

花の蜜は、どれもショ糖ばかりというわけではありません。花の種類によって、ショ糖が多い蜜もあれば、果糖やブドウ糖がもともと多い蜜もあります。蜜の糖の内訳は、花の段階ですでに違っているのです。その背景は花の段階で決まる蜜の糖の内訳で扱っています。

そのため、蜜源(ミツバチが蜜を集める花)が違えば、はちみつになったときの糖の割合も変わります。アカシア(ニセアカシア)の蜜とナタネの蜜が、同じ「はちみつ」でも性格が違うのは、この出発点の違いが一因です。

砂糖水とはちみつは、濃さだけでなく糖の種類が違う

砂糖を水に溶かして煮詰めれば、甘くて粘りのある液体はできます。けれど、中身はほとんどショ糖のままです。はちみつは濃さが似ていても、糖の種類が違います。

砂糖水を煮詰めたものはちみつ
主な糖ショ糖果糖とブドウ糖
糖の単位二糖が中心単糖が中心
香り・酸・酵素ほぼない花蜜由来のものを含む

見た目の濃さが同じでも、糖の種類が違えば、味も固まり方も保存のされ方も変わります。

転化とは何か——ミツバチの酵素がショ糖を二つに分ける

転化とは、ショ糖が水を受け取って果糖とブドウ糖に分かれる反応のことです。この反応を進めるのが、ミツバチの体から蜜に加えられる酵素、インベルターゼ(転化酵素・サッカラーゼ)です。

酵素はミツバチの体から蜜に加えられる

インベルターゼとは、ショ糖を果糖とブドウ糖に分解する酵素です。セイヨウミツバチでは、頭部にある下咽頭腺という器官から分泌されると言われています。花の蜜を吸い込んだ蜂は、蜜胃(蜜を運ぶための体内の袋)に蜜をためて巣へ戻ります。そのあいだ、蜜は蜂の体内の酵素と混ざり合います。

酵素は、蜂が蜜を加工する過程で加えられます。花の蜜そのものには、これほどの働きはありません。ミツバチの体という「道具」が蜜の性質を変えているのです。蜂が加える酵素全体の働きは、ミツバチが蜜に加える酵素の働きにまとめています。

口移しのあいだも、巣房に置かれてからも反応は続く

巣に戻った蜂は、蜜を別の蜂へ口移しで渡していくと言われています。そのたびに蜜は酵素と触れ合います。やがて巣房に置かれてからも、反応は止まりません。蜜は巣房の中で少しずつ濃くなりながら、ゆっくり転化が進みます。

転化は一瞬で終わる反応ではなく、巣の中で時間をかけて進む工程です。熟成という言葉が使われるのも、この時間の流れと関係しています。

「転化」の名は、光の振れる向きが逆転することから

転化という名は、旋光という性質に由来します。旋光とは、特定の光(偏光)が糖の溶液を通るとき、光の振動面が回る性質です。ショ糖の溶液では、光は右へ回ります。ところが分解して果糖とブドウ糖になると、果糖の左へ回る力が大きいため、全体として左向きに逆転します。

この向きの逆転(転化)が、反応の名前になりました。分かれた後の糖の混合物を転化糖と呼ぶのも、同じ理由からです。名前の中に、反応の本質が残っています。

なぜ分けるのか——ショ糖のままでは濃くしきれない

巣房で羽ばたいて花蜜の水分を飛ばす働き蜂と、蜜蓋がされた巣房を描いた淡彩イラスト 羽ばたきで水を飛ばしながら、蜜は濃くなっていく

ミツバチがショ糖を分けるのは、蜜をより濃くして、液体のまま保つためだと考えられます。ショ糖のままでは、はちみつほどの濃さに水が足りません。この点が、転化の理由の中心です。

ショ糖だけでは、はちみつほどの濃さまで溶けていられない

糖には、一定の水に溶ける量に限りがあります。これが溶解度です。ショ糖は水によく溶ける糖ですが、はちみつのように水分が少ない状態まで濃くすると、溶けきれなくなって結晶として出てきます。砂糖水を煮詰めすぎると、白く固まるのと同じ現象です。

蜜を巣の中で乾かして濃くしていくとき、ショ糖だけであれば、途中で固まってしまいます。はちみつは、そこを越えて濃い液体になっています。

果糖はとても水に溶けやすく、濃い蜜を液体のまま保たせる

果糖は、糖のなかでもとりわけ水に溶けやすい性質を持っています。果糖が増えると、蜜全体が水に溶けていられる量が増え、濃くても液体のままでいられます。

つまり、ショ糖が果糖を含む二つの糖に分かれることで、溶け込める糖の総量の余裕が生まれます。この余裕があるから、はちみつは水分の少ない濃さまで進めるのです。

一つが二つになると、水を抱え込む粒の数が増える

ショ糖一粒が分かれると、果糖一粒とブドウ糖一粒の、二粒になります。同じ重さの糖であっても、粒の数が増えるのです。粒の一つひとつが周りの水分子を引き寄せるため、粒が増えるほど、蜜の中の水は糖に抱え込まれやすくなります。

水を抱える粒が増えることは、あとで述べる腐りにくさに直結します。粒の数という見方は、数字を使わなくても、はちみつの性質を理解する手がかりになります。

転化と水分の蒸発は、どちらが欠けても蜜は仕上がらない

花の蜜は、もともと水分を多く含む薄い液体です。ミツバチは羽ばたきで風を送り、蜜の水分を飛ばしていきます。この工程は、ミツバチが蜜の水分を飛ばす四つの段階で詳しく扱っています。

水分を飛ばすだけでは、ショ糖が結晶になってしまいます。転化だけでは、薄いままで保存に向きません。蒸発で濃くしながら、転化で溶けやすい糖に変える。この二つがそろって、蜜ははじめてはちみつに仕上がります。

転化がはちみつの甘さの質を変える

転化によって、はちみつの甘さは、砂糖とは違う性格を帯びます。果糖とブドウ糖という二つの糖が、それぞれの甘さの特徴を持っているためです。

果糖はすっと立って早く引く甘さ、ブドウ糖はおだやかな甘さ

果糖の甘さは、口に入れるとすぐに立ち上がり、引きも早いと言われます。ブドウ糖の甘さは、それに比べておだやかで、やわらかく続きます。ショ糖は、その中間に位置する甘さです。

はちみつは、この二つが混ざった甘さです。ですから、果糖が多い蜜は軽くすっきりと、ブドウ糖が多い蜜はやわらかくまるい印象になりやすい傾向があります。比率による甘さの違いは、果糖とブドウ糖の比率が決める甘さでも触れています。

冷たいと甘く感じやすいのは果糖の性質による

果糖には、温度によって甘さの感じ方が変わりやすいという性質があります。冷たい状態のほうが甘く感じやすいと言われています。冷やしたはちみつや、冷たい飲み物に溶かしたときに甘さをはっきり感じるのは、果糖の性質が関わっていると考えられます。

誤解の訂正:甘さが強いからといって糖度が高いとは限らない

甘さの強さと糖度(含まれる糖の濃さ)は、別のものです。糖度は、溶けている糖の量の目安です。甘さは、糖の種類ごとの味の感じ方で決まります。

果糖が多ければ、同じ濃さでも甘く感じやすくなります。逆に、甘さが控えめでも、糖の量が少ないとは限りません。「甘いから濃い」「甘くないから薄い」とは、一概に言えないのです。

転化が結晶化の種をまく

白く結晶した蜂蜜と透明なままの蜂蜜の瓶を木棚に並べた朝の淡彩イラスト 固まる蜜と固まらない蜜は、糖の割合が違う

はちみつが固まる主役は、ブドウ糖です。転化でブドウ糖が生まれたからこそ、結晶化という現象が起こります。固まる性質の源にも、転化があります。

ブドウ糖は溶けにくく、濃い蜜の中では溶けすぎの状態にある

ブドウ糖は、果糖に比べて水に溶けにくい糖です。濃い蜜の中では、ブドウ糖は溶けられる限界を超えて、無理に溶けている状態になります。これを過飽和と呼びます。過飽和とは、本来溶けられる量を超えて溶液に糖が含まれている、不安定な状態のことです。

不安定な状態は、きっかけがあれば安定な形、つまり結晶へ戻ろうとします。花粉の粒や小さな気泡、温度の変化などが、そのきっかけになります。

果糖が多い蜜は固まりにくく、ブドウ糖が多い蜜は固まりやすい

果糖が多い蜜では、ブドウ糖が過飽和になりにくく、固まりにくくなります。ブドウ糖が多い蜜では、結晶ができやすく、固まりやすくなります。一般に、ナタネのようにブドウ糖の多い蜜は固まりやすく、アカシアのように果糖の多い蜜は液体のままでいやすいと言われます。

果糖が多い蜜ブドウ糖が多い蜜
固まりやすさ固まりにくい固まりやすい
舌ざわり液体が長く続く結晶はなめらか〜白くしっとり
例(一般に)アカシアナタネ

花ごとの結晶化の速さの違いは、花の蜜ごとに違う結晶化の速さで整理しています。

判断の分かれ目:固まる・固まらないは品質ではなく糖の割合の違い

はちみつが固まったからといって、傷んだわけでも、品質が落ちたわけでもありません。固まるかどうかは、果糖とブドウ糖の割合の違いにすぎません。

むしろ固まるのは、はちみつの糖が、蜜として自然な姿であることのしるしでもあります。固まったものは、湯せんなど穏やかな温め方でやわらかく戻すことができます。

転化が腐りにくさを支える

はちみつが腐りにくいのは、転化によって濃さと酸性という二つの守りが整うからです。どちらも、ショ糖が分かれたことから始まっています。

濃くできるから、菌が使える水が残らない

微生物が育つには、水が必要です。ただし、水があればいいわけではなく、糖などに抱え込まれていない、自由に使える水がなければなりません。この自由に使える水の量を表すのが、水分活性です。水分活性とは、食品の中の水のうち、微生物が利用できる割合を示す考え方です。

転化によって糖の粒が増え、蜜が濃くなると、水はほとんど糖に抱え込まれ、水分活性は低くなります。菌やカビが使える水が残らないため、はちみつは腐りにくいのです。しくみの詳細は、糖が水を抱え込む水分活性のしくみにあります。

分かれたブドウ糖から酸が生まれ、弱酸性になる

もう一つの守りが酸です。蜜に含まれる酵素グルコースオキシダーゼは、ブドウ糖に作用して、グルコン酸という酸を生みます。このため、はちみつは弱い酸性になります。

ブドウ糖は、転化で生まれた糖です。転化が起きなければ、この酸の元になる糖も増えません。ブドウ糖からグルコン酸が生まれるしくみは、ブドウ糖からグルコン酸が生まれるしくみで扱っています。

ここでいう腐りにくさは、瓶の中の食品としての性質の話です。人の体への作用を述べているわけではありません。

腐りにくいことと無菌であることは別——1歳未満には与えない

腐りにくいことと、無菌であることは別です。はちみつには、環境から入り込んだ細菌の芽胞(休眠状態の細菌)が含まれていることがあります。芽胞は、腐りにくい環境でも生き延びます。また、加熱しても、通常の調理程度では防げません。

そのため、1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけません。乳児ボツリヌス症の原因になることがあるためで、消費者庁や厚生労働省も注意を呼びかけています。理由は1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由で詳しく説明しています。

瓶の中の糖から読み取れること

転化のしくみを知ると、はちみつ選びと保存の判断が、少し確かなものになります。

ショ糖がどれだけ残っているかは、蜜の仕上がりを見る目安の一つ

はちみつにも、ショ糖は少量残るのが普通です。転化が十分に進んだかどうかを見るとき、ショ糖の残り方は仕上がりを知る目安の一つになります。ただし、蜜源によっても残り方は変わるため、これだけで良し悪しは決まりません。はちみつ類の表示に関する公正競争規約のように、表示の取り決めは別に存在しますが、ここでは数値には立ち入りません。

固まりにくさで選ぶなら果糖の多い蜜、なめらかな結晶を楽しむならブドウ糖の多い蜜

選び方の軸は二つです。

目的向いている蜜の傾向
液体のまま使いたい果糖が多い蜜
固まった、なめらかな食感も楽しみたいブドウ糖が多い蜜

どちらが良いという話ではなく、好みと使い方に合わせて選ぶものです。

水が入ると守りが崩れる——乾いたスプーンとフタの習慣

濃さという守りは、水が入ると崩れます。濡れたスプーンを瓶に入れたり、フタを開けたままにして湿気を含ませたりすると、水分が増えて、微生物が使える水が生まれます。乾いたスプーンを使うこと、使い終わったらフタをしっかり閉めること。小さな習慣が、転化で整った守りを保ちます。

よくある質問

Q:はちみつと、お菓子づくりに使われる転化糖は同じものですか?

糖の組み合わせは近いものの、同じ食品ではありません。転化糖は、ショ糖を分けて得られる果糖とブドウ糖の混合物を指します。はちみつは、これに加えて花の蜜由来の香りや酸、酵素などを含む、別の食品です。砂糖・はちみつ・みりん・甘酒の違いは、砂糖・はちみつ・みりん・甘酒の違いにまとめています。

Q:ショ糖が果糖とブドウ糖に分かれると、なぜはちみつは腐りにくくなるのですか?

分かれることで蜜をより濃くでき、水を抱え込む粒も増えるため、菌が使える水が減るからです。ただし、無菌になるわけではありません。芽胞が残ることがあるため、1歳未満には与えないでください。

Q:はちみつが固まるのは、転化がうまく進まなかったからですか?

逆です。転化で生まれたブドウ糖が結晶になるため、固まります。固まるのは自然な変化で、劣化ではありません。

Q:はちみつにショ糖はまったく残っていないのですか?

少量は残るのが普通です。残り方は蜜源や熟成の度合いで変わり、仕上がりを見る目安の一つになります。

Q:腐りにくいのなら、赤ちゃんに与えても大丈夫ですか?

1歳未満には与えないでください。腐りにくさと無菌は別のことで、加熱しても防げません。乳児ボツリヌス症の注意喚起は、消費者庁や厚生労働省が行っています。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドを準備しています。まだ蜂を迎える前ですが、準備のなかで、はちみつや蜂の営みについて調べたことを、こうして少しずつ書きとめています。「治す」よりも「ととのえる」という考え方を土台に、これからも静かに続けていくつもりです。