この記事の要点
- ミツバチは羽であおぐ前から水分を減らし始めており、巣に帰る前に最初の水分の56〜81%が除かれていたという研究報告があります。
- 濃縮は帰り道、舌の上、巣房での扇風、蜜蓋の四段階で進み、水分20%前後でふたをかけて完成とされます。
- 水分18%未満のはちみつは発酵のおそれがほとんどなく、この数字が腐りにくさと表示基準の背景にあります。
羽であおいで乾かす。はちみつの作り方は、そう説明されることが多いものです。けれど、さらさらの花の蜜があの濃さになるまでには、羽ばたきより前に始まっている工程があります。ここでは、ミツバチが水分を飛ばす動作を、順番に追っていきます。

花の蜜は、そのままでは貯められない
花蜜をそのまま貯めると発酵してしまうため、ミツバチは水分を大きく減らして保存できる濃さにします。花蜜とは、植物が花の中につくる甘い液体のことで、水分がとても多いのが特徴です。
花の中の蜜は糖20〜30%という報告
プレトリア大学のNicolson・Human・Pirkによる2022年のScientific Reports掲載の研究では、花の中の蜜の糖濃度は重量比で20〜30%でした。残りの70〜80%ほどは水ということになります。
一方、日本養蜂協会によると、はちみつの糖分は約80%弱です。水っぽい蜜が、糖の割合で見ればおよそ3倍近くまで濃くなる計算です。花蜜の主成分はショ糖で、はちみつでは果糖とブドウ糖が中心になります。この成分の変化は、花の蜜とはちみつで成分がどう変わるかで別に扱っています。
水分18%という、発酵の分かれ目
FAO(国連食糧農業機関)の資料は、水分18%未満のはちみつだけが、発酵のおそれがほとんどない状態で貯蔵できるとしています。ここが一つの分かれ目です。水分が多い蜜は酵母が働きやすく、発酵の原因になります。仕組みは水分が多いはちみつが発酵するしくみに詳しく書きました。
同じ研究は、貯蔵のためには糖80%超まで濃縮する必要があるとも述べています。ミツバチの水分管理は、この数字に向かう作業です。
この記事で追う四つの段階
追うのは次の四つです。
| 段階 | 場所 | 主な動き |
|---|---|---|
| 第一 | 巣に帰る道 | 蜜胃の中で濃縮が進む |
| 第二 | 舌の上 | 蜜滴を出しては戻す |
| 第三 | 巣房 | 壁に塗り広げ、風を送る |
| 第四 | 巣房の口 | 蜜蝋でふたをする |
第一段階——濃縮は巣に帰る前から始まっている
濃縮は、ミツバチが花を離れて巣へ向かう途中ですでに始まっています。羽であおぐだけという通説は、この段階を含んでいません。
蜜胃の中で糖濃度が約2倍になる
蜜胃とは、ミツバチが花蜜を運ぶために体内に持つ袋状の器官です。前述のScientific Reportsの研究によると、花の中の蜜が糖20〜30%だったのに対し、採餌蜂の蜜胃の中身は約2倍の40〜60%でした。巣に戻った蜂では平均64%に達していました。巣に帰る前に、最初の水分の56〜81%が除かれていたと報告されています。
なぜ帰り道で水を捨てるのか——運ぶ重さの話
理由について、研究は運搬の効率に関わると考えられるとしています。水の多い蜜をそのまま運ぶより、飛びながら水分を減らせば、同じ蜜胃の容量でより多くの糖を持ち帰れます。これは研究者による解釈の一つで、飛行中の水分の行き先まで含めて、すべてが解明されているわけではありません。
この研究が調べた条件と、言えること・言えないこと
この研究は特定の地域と条件で行われたもので、結果をすべての蜂群や蜜源にそのまま当てはめることはできません。言えるのは、少なくとも調べられた条件では、巣に入る前に大きな濃縮が起きていたという点です。花の種類や気温、湿度が違えば、割合も変わると考えるのが自然です。通説を否定するのではなく、扇風の前にも段階があると補って読むのが適切だと思います。
第二段階——舌の上で蜜を薄く広げる
巣の中で、蜜は口から口へ渡されていく
巣に戻った蜂は、蜜を舌の上で薄く広げて水分を蒸発させます。薄く広げるのは、空気に触れる面積を増やすためです。
蜜滴を出しては戻す、という動き
Scientific Reportsの研究とInsects(学術誌)2025年のYangらの報告では、ミツバチは口器で蜜を広げる能動的な蒸発を行うとされています。蜜滴を口の先に出しては飲み込む動きを繰り返し、そのたびに蜜の表面が空気にさらされます。同じ量の液体でも、丸い塊より薄く広げたほうが乾きやすいのは、お皿に広げた水が早く減るのと同じ理屈です。
口移しで渡すあいだに酵素が混ざる
日本養蜂協会によると、外勤蜂は巣で待つ貯蜜係に花蜜を口移しで渡します。FAOの資料では、はちみつの酵素は働き蜂の唾液腺分泌物に由来し、インベルターゼ、ジアスターゼ、グルコースオキシダーゼが挙げられています。日本養蜂協会は、唾液の転化酵素がショ糖を果糖とブドウ糖に分解すると説明しています。転化酵素とは、ショ糖を二つの単糖に分ける酵素のことです。受け渡しのたびに、水分は飛び、酵素は混ざります。酵素の働きはミツバチが蜜に加える酵素の働きにまとめています。
「吐いたもの」という誤解——蜜胃は消化の胃とは別の袋
「はちみつは吐き戻したもの」と言われることがありますが、蜜胃は食べ物を消化する胃とは別の、花蜜を一時的に運ぶための袋です。口から出す蜜は消化された食べ物ではなく、運ばれてきた花蜜に酵素が加わり、水分が減りつつあるものです。「吐く」という言葉の印象と、実際の仕組みは分けて考えたほうがよさそうです。
第三段階——巣房に塗り広げ、風を送る
羽の風で水分を飛ばし、仕上がった巣房にふたをかける
巣房では、蜜を壁に貼り付け、翅の風で湿った空気を動かして乾かします。ここで初めて、よく知られた扇風の出番になります。
壁に貼り付けるのは、乾きやすい形にするため
巣房とは、蜜蝋でできた六角形の小部屋のことです。日本養蜂協会によると、貯蜜係は巣房の壁に花蜜を貼り付けます。Insects 2025年の報告では、壁に蜜を塗り広げたり、一時的に滴として吊るしたりするとされています。どちらも、深い溜まりにせず、空気に触れる面を大きくする形です。能動的な蒸発(舌の上)に対し、こちらは巣の温度と換気を使う受動的な蒸発と呼ばれます。
巣内は33〜36℃——洗濯物が乾く条件と同じ理屈
同じ報告では、巣内温度は33〜36℃に保たれるとされています。暖かい空気はより多くの水蒸気を含めるので、薄く広げた蜜から水分が抜けやすくなります。洗濯物が、風通しのよい暖かい日によく乾くのと同じ考え方です。
翅の風は、湿った空気を外へ出す換気でもある
扇風とは、翅を震わせて巣内に風を起こす行動です。日本養蜂協会は、貯蜜係が翅で風を起こして水分を蒸発させると説明しています。風は蜜の表面を乾かすだけでなく、蜜から出て巣房の周りに溜まった湿った空気を、巣の外へ押し出す役目も持つと考えられます。蜂の仕事が日齢で分かれる様子は、働き蜂の日齢による仕事の分担で見られます。
花の蜜がはちみつになるまで、何日かかるのか
一律の日数はなく、蜂の種類・蜜の濃さ・天候・群れの大きさなど、条件によって変わります。「3日」「4〜5日」「2週間」と情報が割れるのは、条件が違う数字が並んでいるからだと考えられます。
実験では24時間と48時間——種による差
Insects 2025年の報告に、60%ショ糖液の濃縮実験があります。セイヨウミツバチは24時間、トウヨウミツバチは少なくとも48時間を要しました。トウヨウミツバチとは、日本のニホンミツバチを含むアジアのミツバチ類のことで、セイヨウミツバチとは別の種です。違いについてはニホンミツバチとセイヨウミツバチの違いで触れています。ただしこれは砂糖水を使った実験で、野外の花蜜にそのまま当てはまる日数ではありません。
蜜の濃さ・天気・群れの大きさで変わる
元の蜜が薄ければ、飛ばす水分は増えます。湿度の高い日は蒸発が進みにくいと考えられます。群れの大きさについては、この記事の出典に数字がないため、断定は控えます。
日数ではなく水分で区切る、という考え方
日数より確かな目安は、水分の数字です。日本養蜂協会は、水分が20%程度になると蜜蝋で薄くふたをすると説明しています。完成の基準が日にちではなく水分であることが、数字が割れる理由の根っこにあります。水分や糖度の測り方ははちみつの糖度を屈折計で測るしくみで扱っています。
第四段階——水分20%前後で蜜蓋をかける
蜜蓋とは、熟成した蜜の入った巣房の口にかけられる、蜜蝋の薄いふたのことです。水分が20%前後になったという合図であり、同時に湿気を戻さないための封でもあります。
蜜蝋の薄いふたが意味すること
蜜蝋とは、働き蜂が分泌する蝋で、巣房の材料になります。日本養蜂協会によると、水分が20%程度になると蜜蝋で薄くふたをします。人が採蜜するときも、このふたを切ってから蜜を取り出します。手順は蜜蓋を切って採蜜する手順で紹介しています。
はちみつは湿度60%を超えると水を吸う
FAOの資料では、水分18.3%のはちみつは相対湿度60%と釣り合い、それより湿った空気からは水分を吸います。相対湿度70%では水分24.2%で釣り合います。せっかく乾かしても、開けたままでは周りの湿気で水分が戻りうるということです。この性質ははちみつが空気中の水分を吸う性質で詳しく書いています。蜜蓋は、その吸い戻しを防ぐふたと読めます。
蓋をかける前の蜜が「未熟」と呼ばれる理由
ふたの前の蜜は、水分が多く残りやすい状態です。水分18%未満という発酵の分かれ目や、後述する規約の20%(国産22%)という数字を上回りやすいため、「未熟」と呼ばれます。これは水分という数字の上での話で、他の製品との優劣を言うものではありません。
ミツバチの仕事は、ラベルの数字につながっている
ミツバチが水分を飛ばす仕事は、はちみつの表示基準にそのまま反映されています。
公正競争規約の定義にある「巣に貯え、熟成した」
全国はちみつ公正取引協議会の「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」では、はちみつを、みつばちが植物の花蜜などを集め、巣に貯え、熟成した天然の甘味物質と定義しています。組成基準は、水分20%以下(国産はちみつは22%以下)、果糖及びぶどう糖含有量は100g中60g以上、しょ糖は100g中5g以下(アカシアなど一部の蜜源は10g以下)です。水分の基準は蜜蓋の20%前後と重なり、しょ糖の少なさは、酵素による分解が進んだことを示しています。
水分が少ないから腐りにくく、結晶もしやすい
水分が少ないほど、微生物が使える水が少なくなります。腐りにくさは、食品の保存性としてこの水分の数字で説明できます。仕組みははちみつの水分活性が低い理由にあります。また、糖の濃度が高いはちみつは、ブドウ糖が結晶になりやすい性質を持ちます。白く固まっても品質が変わったわけではありません。詳しくははちみつが白く固まる結晶化のしくみをご覧ください。
台所で引き継ぐこと——ふたと置き場所
蜂が封をした蜜も、瓶に移れば、あとは台所が引き継ぎます。FAOの数字が示すように、湿った空気からは水分を吸うので、使ったらふたをきちんと閉め、湿気の少ない場所に置くのが基本です。なお、1歳未満の乳児にはちみつを与えてはいけません。乳児ボツリヌス症の注意は、消費者庁・厚生労働省も周知しています。詳しくは1歳未満にはちみつを与えない理由をご覧ください。
よくある質問
Q:花の蜜がはちみつになるまで、何日くらいかかりますか?
一律の日数はありません。Insects 2025年の報告にある60%ショ糖液の実験では、セイヨウミツバチが24時間、トウヨウミツバチが少なくとも48時間でした。実際には蜜の濃さや天候などの条件で変わり、日本養蜂協会は、水分が20%程度になったところで蜜蓋がかかると説明しています。
Q:はちみつはミツバチが吐き戻したものだと聞きました。汚くないのでしょうか?
蜜胃は消化の胃とは別の、花蜜を運ぶ一時的な袋です。口移しや吐き戻しに見える動きは、蜜に酵素を混ぜ、水分を飛ばすための工程だと研究では説明されています。消化された食べ物とは別のものです。
Q:ミツバチは羽であおぐだけで水分を飛ばしているのですか?
扇風は工程の一部です。Scientific Reportsの2022年の研究では、巣に帰る前に最初の水分の56〜81%が除かれていたと報告されています。舌の上で蜜を広げる動きも、扇風の前後に水分を飛ばしています。
Q:蜜蓋がかかる前に採ったはちみつは何が違うのですか?
水分が多く残りやすく、発酵しやすくなります。FAOは水分18%未満なら発酵のおそれがほとんどないとし、公正競争規約は水分20%以下(国産は22%以下)を基準にしています。この数字を超えるかどうかが、判断の目安になります。
Q:花の蜜をそのまま煮詰めれば、はちみつになりますか?
水分は減りますが、はちみつにはなりません。規約の定義は「巣に貯え、熟成した」ものであり、酵素によるショ糖の分解と巣での熟成が欠かせないからです。煮詰めただけの蜜は、定義の上では別のものとして扱われます。
六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの準備を進めています。蜂を迎える前のいま、はちみつができる工程を、公開されている資料と研究を読みながら学んでいるところです。わかったことは、これからもこの「読みもの」に静かに書いていきます。
養蜂の現場では、熟成をどう見分けているのか
蜜蓋は熟成の目安になりますが、採蜜するときに巣枠のすべての巣房にふたがかかっていることはあまりありません。一枚の巣枠の中に、ふたのかかった巣房と、まだ開いている巣房が混ざっているのが普通です。そこで、いくつかの見方を組み合わせて判断することになります。
ふたのかかった面積を見る
まず見るのは、巣枠全体のうちどれくらいにふたがかかっているかです。ふたの部分が多い巣枠ほど、開いている巣房の蜜も濃くなっていると考えられます。ただ、何割あれば採ってよいかは養蜂家や地域によって言い方が違い、この記事で確かめた出典には共通の数字がありませんでした。なので、ここでは割合の目安は挙げずにおきます。
巣枠を振って、蜜が飛ぶかを見る
ふたのない巣房が多い巣枠については、巣箱の上で軽く振って、蜜が飛び散るかを見る方法が養蜂の解説書でよく紹介されています。さらさらの蜜が雨のように落ちるなら、まだ水分が多いということです。一方で、振っても落ちないから十分に乾いている、とまでは言い切れないので、あくまで「明らかに早い」ものを外すための見方かなと思います。
最後は屈折計で数字を確かめる
ふたの面積も振ったときの様子も、どちらも目で見た印象です。湿度の高い時期は、ふたがあっても乾き方が足りない可能性もあります。規約の水分基準に合っているかを確かめるには、屈折計で数字を測るのがいちばん確かだと考えられます。日数で区切らず水分で区切るという本文の考え方は、採る側にとってはこの計測の作業になります。
夜の羽音と水運び——外から見える濃縮のサインと、混同しやすい点
巣の中の作業は外からは見えませんが、巣箱の周りには濃縮が進んでいる様子がいくつか表れます。ただ、似た行動が別の目的で行われていることもあるので、読み違えやすいところでもあります。
流蜜期の夜に聞こえる羽音
花がたくさん咲いて蜜が多く入る時期には、夜になっても巣箱から低い羽音が続くことが知られています。昼に集めた蜜の水分を飛ばすために、夜通し扇風が続いているためと説明されることが多いです。巣門の前でお尻を外に向けて羽ばたく蜂がいれば、巣の中の湿った空気を外へ送っている姿だと考えられます。
暑い日に水を運ぶのは、蜜を薄めるためではない
つまずきやすいのは、水を運ぶ蜂の存在です。水分を飛ばしているはずのミツバチが、暑い日には水場から水を巣に持ち帰ります。これは蜜に混ぜるためではなく、巣の中で水を蒸発させて温度を下げるための行動とされています。同じ「水と羽ばたき」でも、蜜の濃縮と巣の冷却は目的が違うので、分けて読んだほうが混乱しにくいかなと思います。
夜のあいだに巣箱が軽くなる
巣箱の重さを継続して量っている養蜂家のあいだでは、昼に重くなった巣箱が夜のあいだに少し軽くなる、という観察がよく語られます。この減り分には、蜜から抜けた水分が含まれていると考えられます。ただし、蜂の呼吸や消費も重なるので、減った分をそのまま蒸発した水の量と読むことはできません。
結晶化と発酵は、見た目と匂いが違う
結晶化は、ブドウ糖が粒になって白く固まる現象で、匂いはほとんど変わりません。一方の発酵では、表面に細かい泡が出る、酸っぱいような匂いやお酒のような匂いがする、ふたを開けるとガスが抜ける、といった変化がよく挙げられます。白く固まっただけなら品質の問題ではありませんが、泡と匂いを伴うなら発酵を疑ったほうがよいと思います。
上に水っぽい層ができるのも一つのサイン
結晶化が進むと、固まった部分と液体の部分に分かれることがあります。上の液体の層は水分が相対的に多くなりやすく、そこから発酵が始まりやすいとされています。表面だけが緩んでいたり泡立っていたりするときは、全体ではなく上の層から変化していないかを見るのが手がかりになりそうです。
ラベルの言葉より、保存の仕方で差が出る
「完熟」「熟成」といった言葉がラベルに使われることがありますが、どの段階で採ったものを指すかは販売者によって違う可能性があります。気になる場合は、ふたのかかった巣枠から採ったものか、水分を測っているかを販売者に尋ねるのが確実かなと思います。家に届いてからは、ふたを閉めて湿気を避けるという、本文で触れた基本がそのまま効いてきます。