この記事の要点

  • はちみつは空気の湿度と水をやり取りし、湿った季節は吸い、乾いた季節は手放す食品である。
  • FAOの対応表では、湿度60%で水分18.3%、70%で24.2%と、空気の湿度に応じて水分が釣り合う。
  • 水分活性が0.7を超えると表面に酵母が出たという報告があり、吸う量が少ない松の甘露蜜でも酵母は早かった。

梅雨の台所に、ふたを開けたままのはちみつの瓶がある。スプーンですくうと、なんとなく緩い。腐ってしまったのか、糖度は下がったのか。そんな不安は、はちみつが「腐らない食品」と言われる一方で「湿気を吸う食品」でもあることから生まれます。実はこの二つは同じ性質の表と裏で、空気の湿度と季節、蜜の種類によって、どちらの顔が強く出るかが変わります。

梅雨の台所で、蓋を開けたままの蜂蜜の瓶が雨に曇る窓辺に置かれている淡彩イラスト

はちみつは空気と水をやり取りしている

はちみつの吸湿は、水を吸うだけの一方通行ではありません。空気が湿っていれば吸い、乾いていれば手放し、空気の湿度と釣り合う水分に落ち着こうとする動きです。

濃い糖の液は空気の湿り気と釣り合う

はちみつは、水分が2割に満たない濃い糖の液です。糖は水を引き寄せる力が強く、瓶を開けておくと、表面で空気中の水蒸気とやり取りが起こります。ある湿度の空気のなかに十分長く置いたとき、水分がそれ以上増えも減りもしなくなる状態を、平衡水分といいます。空気の湿度が高ければ平衡水分は高く、低ければ低くなります。

つまり、梅雨のように湿度の高い台所では水分が増える向きに、冬の暖房の効いた乾いた部屋では減る向きに、瓶の中身は動きます。はちみつが吸湿性を持つ仕組みそのものは、はちみつが空気中の水分を吸う吸湿性の記事で詳しく扱っています。

「腐らない」と「湿気を吸う」は同じ性質の表と裏

はちみつが腐りにくいのは、水分が少なく、微生物が使える水が乏しいからだと説明されます。微生物が利用できる水の度合いを示す指標が水分活性で、数値が低いほど、酵母やカビは増えにくくなります。

ところが、水を強く抱え込む性質は、空気の水分も抱え込む性質と同じものです。水分が少ないから腐りにくく、水分が少ないから湿気を引き寄せる。腐りにくさは固定された性質ではなく、水分が増えれば薄れていく、条件つきの性質だと言えます。

湿度何%で吸い、何%で手放すのか

朝の台所の棚に、蓋を開けた蜂蜜の瓶と湿度計が並んでいる淡彩イラスト 部屋の湿度が、瓶の中の水分を決めていく

境目は、おおよそ湿度60〜70%前後にあります。ただし数字は資料によって少しずつ異なり、その理由もはっきりしています。

FAOの対応表:60%で18.3%、70%で24.2%

FAO(国連食糧農業機関)の資料(表2.5)には、クローバー蜜が空気の湿度と釣り合うときの水分が載っています。

空気の湿度釣り合う水分
50%15.9%
60%18.3%
65%20.9%
70%24.2%
80%33.1%

FAOは、水分18.3%以下の通常のはちみつは、湿度が60%を超えると空気から吸湿すると述べています。湿度80%の空気と釣り合うまで置けば、水分は3分の1に達する計算です。

67.9%以上で吸い、51.4%以下で手放したという報告

Journal of the Science of Food and Agricultureに掲載された研究(Yao et al., 2003)では、オーストラリアのユーカリ系の単花蜜2種を30℃で71日間、湿度を変えて置いています。湿度67.9%以上で吸湿し、51.4%以下で放湿した、という報告です。その間の湿度では、水分はあまり動かなかったことになります。

ここで見えてくるのは、はちみつが湿った季節に吸うだけでなく、乾いた条件では水を手放すという、両方向の動きです。

境目がずれるのは、もとの水分と蜜の種類が違うから

FAOの「60%超」と、論文の「67.9%以上」では数字が違います。同じ論文は、どこで吸い始めるかは、もとのはちみつの水分活性で変わったとも述べています。

資料対象境目の目安
FAOクローバー蜜(水分18.3%以下の通常のはちみつ)湿度60%超で吸湿
Yao et al., 2003ユーカリ系単花蜜2種(30℃)67.9%以上で吸湿、51.4%以下で放湿

もとの水分が多い蜜ほど低い湿度でも釣り合いが先に来て、水分の少ない蜜は、もう少し湿った空気でないと吸い始めません。60%や67.9%は、絶対の線ではなく、蜜ごとに少しずれる目安として受け取るのが実態に近いと思います。

糖度と水分は表裏——開けた瓶で動く数字

糖度と水分は、足し合わせるとほぼ全体になる関係にあります。水分が増えれば、その分だけ糖度は下がります。

水分20%(国産22%)という規約の線

全国はちみつ公正取引協議会が定める規約(はちみつ類の表示に関する公正競争規約)では、はちみつの水分は20%以下、国産はちみつは22%以下とされています。あわせて、果糖とブドウ糖の合計は100gあたり60g以上(甘露はちみつは45g以上)と決められています。

湿気を吸って水分が上がると、はちみつの中身はこの基準の外側へ寄っていきます。糖度が下がるしくみは、保存中に糖度が下がるしくみでも整理しています。

梅雨の台所なら釣り合う先は20%を超えうる

FAOの表を見ると、湿度65%で20.9%、70%で24.2%です。梅雨の台所の湿度が65〜70%を超える日が続くなら、開けたままの瓶は、時間をかけて規約の20%の線も、国産の22%の線も越える方向へ動きます。

ただし、これは「十分に長く置いたとき」に向かう先の数字です。一晩開けたくらいで、瓶全体が一気にそこへ届くわけではありません。まず変わるのは空気に触れている表面です。

糖度が下がると、腐りにくさはどこで揺らぐか

揺らぎの目安は、水分18%、そして水分活性0.7の二つです。なお糖度と水分活性は別の指標で、違いは糖度と水分活性の違いにまとめています。

水分18%未満なら発酵の心配はほぼない

FAOは、水分18%未満のはちみつは、発酵の心配がほぼないとしています。逆に言えば、水分がこの線を超えて上がるほど、発酵の可能性は無視できなくなります。FAOの表では、湿度60%で水分は18.3%と、この線のすぐ上に位置しています。

水分活性0.7を超えると表面に酵母が出たという研究

Journal of Apicultural Science の研究(Arslan & Turhan, 2022)は、松の甘露蜜と柑橘蜜を20・30・40℃で調べています。水分活性0.7未満では水を手放し、0.7を超えると水を吸いました。そして0.7を超えたときは、三つの温度すべてで表面に酵母が出たと報告されています。

水分活性0.7が、吸うか手放すかの境目であり、酵母が出るかどうかの境目でもあったということです。

結晶した瓶は液の部分が先に薄まる

結晶したはちみつでは、ブドウ糖が固体として析出するため、残った液の部分の水分が上がります。FAOもこの点を指摘しています。そこへ湿気が加われば、液の部分がさらに薄まります。仕組みは結晶すると液の部分が発酵しやすくなる理由で扱っています。

花の蜜か甘露か——蜜の成分で吸い方が変わる

単糖が多い蜜ほど吸いやすい一方、単糖が少ない蜜は酵母が早く出る、という逆転があります。吸う量と腐りにくさは、単純には比例しません。

果糖とブドウ糖が多い花の蜜ほど水を引き寄せる

果糖とブドウ糖は単糖と呼ばれる小さな糖で、水を引き寄せる力が強い成分です。この二つが多い花の蜜、たとえば柑橘はちみつのような蜜は、水を吸いやすくなります。規約が、花の蜜は二つの糖の合計60g以上、甘露はちみつは45g以上と分けているのも、成分の構成が違うからです。

吸う量が少ない松の甘露蜜で、酵母は早く出た

松の甘露蜜(パインハニー)は、植物の汁を吸う虫が出す甘露から作られる蜜で、花の蜜からはできません。違いは花の蜜からできない甘露蜜で詳しく述べています。

Arslan & Turhan(2022)では、単糖が少ない松の蜜は吸う量が少なかったものの、pHが高く単糖が少ないため、酵母は早く出たと報告されています。吸いにくいから安心、とは言えない例です。

季節ごとの瓶の扱い方

朝の台所で、乾いたスプーンで蜂蜜をすくい、瓶の蓋を閉める様子を描いた淡彩イラスト 乾いた匙を使い、使い終えたらふたを閉める

湿度の高い季節は閉めて湿る場所を避け、乾いた季節は香りを守るために閉め、開けっ放しに気づいたら見た目と匂いを確かめます。

梅雨から夏:ふたを閉める・乾いたスプーン・湿る場所を避ける

全国はちみつ公正取引協議会は、保存は常温とし、開封後は吸湿性があるので、きちんとふたを閉め、高温多湿を避けるとよいと案内しています。梅雨と夏には、ふたを閉める、乾いたスプーンを使う、シンクやコンロの近くなど湿る場所に置かない、が基本になります。濡れたスプーンは、水を直接持ち込むことになります。

冬の乾いた部屋:開けたままでも吸いにくいが、香りは逃げる

冬は空気が乾き、湿度が50%前後なら、FAOの表では平衡水分は15.9%で、吸いにくい条件です。ただ、開けたままにすれば香りは逃げ、ほこりも入ります。湿気の面で有利でも、閉めておく理由は残ります。

開けっ放しに気づいたら:泡・酸っぱい匂い・表面のゆるさを見る

気づいたら、泡が出ていないか、酸っぱい匂いがしないか、表面だけが緩くなっていないかを見ます。見分け方は泡立ちと酸っぱい匂いの見分け方に整理しました。食べられるかどうかは、見た目と匂いという食品の品質で判断することで、健康への影響を断定できる話ではありません。

なお、はちみつの状態にかかわらず、1歳未満の乳児には与えません。消費者庁は、乳児ボツリヌス症を発症することがあるため与えてはいけないとしています。理由は1歳未満にはちみつを与えてはいけない理由で触れています。

よくある質問

Q:ふたを一晩開けっ放しにしたはちみつは食べられますか?

多くの場合、表面がわずかに吸湿する程度と考えられます。泡や酸っぱい匂いがなければ、ふたを閉めて様子を見ます。気になる変化があれば、無理に食べない判断も大切です。

Q:冷蔵庫に入れれば湿気を吸わないのでは?

冷蔵庫は結露で水が入りやすく、低温では結晶が進んで液の部分が薄まります。常温でふたを閉めて保管するのが基本です。

Q:乾燥した冬なら開けたままでもよいですか?

湿度が低いと水は吸いにくいものの、香りが逃げ、ほこりも入ります。季節を問わず閉めておくのがよいと思います。

Q:吸湿したはちみつは赤ちゃんに与えても大丈夫ですか?

吸湿とは関係なく、1歳未満の乳児にははちみつを与えません。消費者庁は、芽胞が100℃で数分の加熱でも生き残ることがあると周知しています。1歳以上は避ける必要はないとされています。

六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。蜜蜂を迎える前の今は、はちみつの性質や保存の考え方を、公開された資料をもとに調べているところです。瓶の中で起きていることを知ることが、日々をととのえる小さな手がかりになればと考えています。