この記事の要点
- はちみつの糖度は採蜜時に固定されず、周囲の湿度と釣り合うところまで保存中も動きます。
- FAOの資料では、湿度60%で水分18.3%、70%なら24.2%という平衡点が示されています。
- 水分18%を超えたあたりから酵母が働きやすくなり、泡や酸味は発酵のサインです。
はちみつの瓶を開けて数週間、以前よりとろみが弱い気がする——そう感じたことがあるかもしれません。糖度が下がったのだろうか、傷んでしまったのだろうかと不安になりますが、この変化には理由があります。はちみつの糖度は、瓶に詰められた瞬間に固定される数値ではなく、周囲の空気の湿度と静かに釣り合いながら動くものだからです。

はちみつの糖度は、じつは一定ではない
はちみつの糖度は採蜜時の一点の値ではなく、保存中の湿度条件によって変わりうる数値です。多くの人は「糖度○度のはちみつ」という表示を、瓶の中でずっと変わらない固定値だと思い込みがちですが、実際には水分量と表裏一体で動いています。
規約が定める水分20%(国産22%)という線
はちみつの品質を定めた基準の一つに、全国はちみつ公正取引協議会による「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」があります。全国はちみつ公正取引協議会は、この規約ではちみつの水分は20%以下、国産はちみつについては22%以下と定めています。この数値は単なる目安ではなく、はちみつが「はちみつ」として流通するための境界線です。
糖度が高い=水分が少ない、という関係
同じ規約では、果糖とブドウ糖の合計が100g中60g以上であることも定められています。糖分と水分は同じ100gの中身を分け合っている関係にあるため、水分が増えれば相対的に糖の割合は下がり、水分が減れば糖度は上がります。つまり糖度が高いはちみつとは、水分が少ないはちみつのことでもあります。保存中に水分が動けば、糖度もそれに応じて動くという理屈がここから見えてきます。
糖が水を引き寄せる——吸湿性というはちみつの体質
糖と水、ほぼ同じ中身を分け合う関係
はちみつが周囲の湿気を吸いやすいのは、糖分の濃さそのものが持つ性質です。この性質を吸湿性(周囲の水分を取り込みやすい性質)と呼びます。
果糖とブドウ糖が8割を占めるということ
日本養蜂協会によると、はちみつの主成分は平均で水分20%・ブドウ糖35%・果糖40%・ショ糖数%とされ、微量成分として無機質、ジアスターゼなどの酵素、アミノ酸、ビタミンB群を含みます。果糖とブドウ糖だけで全体の8割近くを占める、非常に糖濃度の高い液体だということです。これほど糖が濃縮された液体は、周囲に水分があれば自らの中に引き込もうとする性質を強く持ちます。砂糖や塩を器に出しっぱなしにすると湿気を吸ってしまうのと同じ理屈が、はちみつにも働いています。
腐りにくさと湿気を吸いやすさは同じ性質の表と裏
はちみつが常温で長く保存できる食品として知られてきたのは、水分が少なく糖が濃いために、微生物が増殖しにくい環境になっているためだと考えられています。水分活性が低いとはどういうことかを理解すると、この保存性の理屈がより具体的につかめます。ただし、この性質は同時に、周囲の水分を取り込みやすいという裏返しでもあります。腐りにくさと湿気を吸いやすさは、切り離せない同じ体質の二つの顔だと捉えておくと分かりやすいでしょう。はちみつが腐らない理由についても、この糖濃度の高さが軸になっています。
湿度何%が境目か——空気と釣り合う点をFAOの数値で見る
はちみつの水分が増えるかどうかは、周囲の空気の相対湿度(空気中に含みうる最大水分量に対する実際の水分量の割合)によって決まる釣り合い点があります。
湿度60%で水分18.3%、70%なら24.2%
国際連合食糧農業機関(FAO)の資料には、はちみつが周囲の空気と平衡(つりあって安定する状態)に達する水分量の目安が示されています。相対湿度60%の環境では水分18.3%、65%では20.9%、70%では24.2%というのが、その平衡点です。この数値が意味するのは、水分18.3%以下のはちみつは湿度60%を超える空気に触れ続けると、空気中の水分を吸って水分量が増えていくということです。逆に言えば、瓶を開けたまま湿度の高い部屋に置いておくと、はちみつは静かに、しかし確実に水分を取り込み続けます。
梅雨どきの台所は湿度70%を超えることがある
日本の梅雨や夏場の台所は、相対湿度が70%を超えることが珍しくありません。先ほどのFAOの数値に当てはめると、この環境は水分24.2%というかなり高い水分量に向かって釣り合おうとする条件です。規約が定める水分20%の基準を超える方向に、ゆっくりと近づいていく計算になります。梅雨どきに「はちみつが緩くなった」と感じるのは、この平衡の力学が働いている結果だと考えられます。
水分が増えるとどうなるか——発酵という出口
水分が一定の境目を超えると、はちみつの中で眠っていた酵母が働き始める条件が整い、発酵(酵母が糖を分解してアルコールや二酸化炭素を生む変化)が進みやすくなります。
酵母が目を覚ます水分の境目
FAOの資料では、水分18%未満であれば発酵のリスクはほぼ無いとされています。裏を返せば、水分が18%を超えたあたりから、はちみつに自然に存在する酵母が働きやすい環境が整い始めるということです。糖度と水分は表裏の関係にあるため、糖度の高いはちみつほど、この境目までの余裕が大きいとも言えます。
泡立ち・甘酸っぱい匂いに気づいたら
水分が増えて発酵が進むと、瓶の中に細かい泡が立ったり、甘酸っぱい匂いが感じられたりすることがあります。これは吸湿による粘度の低下とは別の、もう一段階進んだ変化のサインです。泡立ちや酸っぱい匂いの見分け方を知っておくと、単に緩くなっただけなのか、発酵が始まっているのかを見分ける判断材料になります。
糖度を下げないための、台所の小さな手当て
乾いたスプーンとフタ、日々の小さな習慣
はちみつの糖度を保つための手当ては難しいものではなく、フタの閉め方と置き場所という日々のふるまいに集約されます。
フタは毎回きちんと閉める・濡れたスプーンを入れない
全国はちみつ公正取引協議会は、保存は常温を基本としつつ、開封後は吸湿性があるためきちんとフタを閉め、高温多湿を避けて保存するとよいと案内しています。使うたびにフタを緩めたまま置いてしまったり、水滴のついたスプーンを差し込んだりすると、その都度、瓶の中に湿気を持ち込むことになります。乾いたスプーンを使い、使い終わったら早めにフタを閉め直す——それだけで、湿度70%の台所の空気に瓶の中身をさらす時間を減らせます。
冷蔵庫ではなく常温の冷暗所——15℃前後で結晶が始まるから
湿気を避けたい一心で冷蔵庫を選びたくなるかもしれませんが、農林水産省の資料によると、結晶はブドウ糖の作用によるもので、ブドウ糖の多いはちみつほど固まりやすく、15℃前後から結晶しやすいとされています。冷蔵庫の温度は結晶が進みやすい範囲に入るため、常温の冷暗所で保存するほうが扱いやすいはずです。15℃前後で始まる結晶化についても、同じ資料が根拠になっています。結晶してしまった場合は、フタをゆるめて瓶ごと水から少しずつ加熱する湯煎で戻せると案内されています。
よくある質問
Q:開封してから緩く水っぽくなったはちみつは、もう食べられませんか? 吸湿によって粘度が下がっただけであれば、食べられないわけではありません。糖度が多少下がっても、それ自体は品質の劣化を直ちに意味するものではないためです。ただし、瓶の中に細かい泡が見えたり、甘酸っぱい匂いを感じたりする場合は発酵のサインの可能性があります。その見分け方は泡立ちや酸っぱい匂いの見分け方で詳しく触れています。
Q:はちみつは冷蔵庫に入れたほうが湿気を防げますか? 農林水産省の資料が示す15℃前後から結晶しやすいという数値を踏まえると、冷蔵庫はむしろ結晶が進みやすい温度帯です。常温の冷暗所で保存し、フタをきちんと密閉しておくほうが、扱いやすい状態を保ちやすいと考えられます。
Q:濡れたスプーンを一度入れてしまいました。捨てるべきですか? 一度の出来事で直ちに問題が生じるとは言えません。早めに食べきることを心がけつつ、その後しばらくは泡立ちや匂いの変化がないか気にかけておくとよいでしょう。なお、はちみつは乳児ボツリヌス症のリスクから、1歳未満の赤ちゃんには与えないでください。詳しくは1歳未満の赤ちゃんに与えてはいけない理由をご覧ください。糖度の測り方に関心のある方は糖度はどう測るのかも参考になります。
六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドとして準備を進めています。まだ巣箱を構える前の段階ですが、はちみつという食品がどのような性質を持ち、どう扱われてきたのかを一つずつ調べているところです。これから蜜蜂を迎え、実際の営みが始まったときに向けて、こうした基礎的な知識を積み重ねていきたいと考えています。
結晶したはちみつは、残った液体のほうが水っぽくなる
結晶すると、はちみつ全体が固まって安定したように見えるかもしれません。でも、湿気と発酵の面ではむしろ注意が必要な状態だと思います。結晶するのはおもにブドウ糖で、固まるときに水分はほとんど結晶の中に入りません。そのぶん、結晶のすき間に残った液体の部分は、もとのはちみつより水分の割合が高くなります。FAOの資料でも、結晶したはちみつは液体のものより発酵しやすいとされています。
瓶全体の水分量が規約の範囲内でも、結晶のすき間の液体は局所的に「酵母が働きやすい側」に寄っている可能性があります。そこに開封後の吸湿が重なると、境目をさらに越えやすくなるかなと。ジャリジャリに固まった瓶の上のほうや結晶の間に、さらっとした液体が分かれて見えるときは、この状態になっていると考えてよさそうです。結晶したはちみつほど、フタの閉め方や置き場所を気にかけておく価値があると思います。
「緩くなった気がする」ときに見る順番
吸湿なのか、発酵まで進んでいるのか。家庭では糖度計がなくても、次のような順番で見ていくと整理しやすいと思います。
- 表面だけが緩いか、全体が緩いか:吸湿は空気にふれる表面から進むので、上のほうに薄くさらっとした層ができやすいとされています。スプーンで少し下のほうをすくって、粘りに差があるかを比べてみてください。
- フタの内側と口まわり:水滴やべたつきが多いときは、湿気が入る経路がそこにあったと考えられます。
- 匂いと泡:甘酸っぱい匂いや細かい泡があれば、ただの吸湿ではなく、発酵の段階に入っている可能性があります。
- 温度が上がる時期の変化:涼しい時期は何ともなくても、気温が上がると発酵が目立ってくることがあります。梅雨入り前に一度見ておくと、変化に気づきやすいかなと。
表面だけが緩く、匂いにも泡にも変化がない段階なら、早めに使いきる方向に切り替えるのが現実的だと思います。たとえば加熱する料理に回すといった形です。反対に、発酵のサインがはっきりあるときは、無理に食べ続けずに判断したほうがよいと思います。一度吸った水分を家庭で抜くのは難しいので、「戻す」よりも「これ以上入れない」に重点を置いて考えるほうが、扱いやすいはずです。