「はちみつは、ミツバチが集めた花の蜜でできている」。多くの人がそう思っていますが、国際的な規格には、花の蜜を原料としないはちみつが、はっきり書かれています。黒に近い褐色の瓶に「甘露蜜」「森のはちみつ」と記されたものが、それにあたります。

この記事の要点

  • 甘露蜜とは、植物の汁を吸う昆虫が出す甘い分泌物を原料とするはちみつで、Codex委員会とEUがはちみつの一種と定めています。
  • Codex委員会の規格では、果糖とブドウ糖の合計の基準が花のはちみつは60g以上、甘露蜜は45g以上と分けられています。
  • 甘露蜜は三糖のメレジトースが多く、電気伝導度が高く、色が濃い傾向があります。メレジトースが多すぎると巣の中で固まります。
  • 日本の東京都の要領の定義は「花みつ」で、輸入の甘露蜜はラベルの原産国・原材料・区分欄で確かめます。1歳未満には与えません。

朝の針葉樹の枝先で、アブラムシが出した甘いしずくが光り、蜜蜂が静かに集めに来ている淡彩イラスト

はちみつの原料は花の蜜だけではない

はちみつの原料は、花の蜜だけではありません。国際規格では、花の蜜からできるものと、甘露からできるものの二つが、どちらも「はちみつ」とされています。

Codexとecの定義は二つに分かれている

FAO(国連食糧農業機関)とWHOが設けるCodex委員会のはちみつ規格は、花のはちみつを「植物の花蜜から」つくられるものと定義しています。これに対して甘露蜜は、おもに植物の汁を吸うカメムシ目(Hemiptera)の昆虫の排泄物、または植物の生きた部分の分泌物からつくられるものとされています。

EU理事会指令2001/110/ECの附属書にも、同じ区分があります。花蜜から得たものをBlossom honey(花のはちみつ)、昆虫の排泄物や植物の分泌物から得たものをHoneydew honey(甘露蜜)と呼んでいます。この二つの規格を並べると、甘露蜜は例外扱いの特殊品ではなく、はちみつの正式な分類の一つだと分かります。

「森のはちみつ」と呼ばれることがあるわけ

甘露蜜は、森のはちみつと呼ばれることがあります。後で見るように、甘露を出す昆虫が針葉樹や広葉樹の樹液を吸うことが多いためで、花畑ではなく樹木が舞台になるからです。ただし「森のはちみつ」は法令上の区分名ではなく、販売の場面で使われる通称です。ラベルの言葉だけで中身を決めつけず、後の章で触れる確認欄とあわせて読むのが安全です。

なお、花の蜜そのものがどのように生まれるかは、花はなぜ蜜を出すのかで、花の蜜がはちみつになる過程は花の蜜がはちみつになるまでの成分の変化で扱っています。ここでは、そこから外れるもう一つの道筋を追います。

甘露はどうやってできるのか——アブラムシが出す甘いしずく

甘露(ハニーデュー)とは、植物の汁を吸う昆虫が出す、糖分を含んだしずくのことです。ミツバチがこれを集めて巣に貯えると、甘露蜜になります。

植物の汁を吸うカメムシ目の昆虫たち

主役は、カメムシ目の昆虫です。アブラムシやカイガラムシの仲間がここに入ります。Foods誌(MDPI)に掲載された総説によると、イタリアの森の甘露蜜は、おもにアブラムシの一種 Cinara pectinatae に由来すると報告されています。

これらの昆虫は、植物の汁(師管液)を吸います。汁には糖がたっぷり含まれる一方、昆虫にとって必要な量はそれほど多くないため、余った糖分がしずくとして外に出されます。これが甘露です。

モミやオークの森で甘露が集まる条件

甘露蜜の例としてよく挙がるのが、モミ(Abies alba)やオークなど、樹木からの甘露です。ミツバチが甘露を集めるには、樹木に昆虫がいて、しずくが出ていて、ミツバチがそこへ通えるという条件が重なる必要があります。収量が年や場所によって大きく変わりうる、という点は、花の蜜と共通する自然相手の仕事の性質だと言えます。

花の蜜とはどこが違う原料なのか

花の蜜は、植物が花から出す糖液です。甘露は、植物の汁をいったん昆虫が通過して出てくる糖液です。出どころが違うので、糖の組み合わせや、ミネラルの量に差が出ます。原料を「昆虫の排泄物」と強く言うと印象が悪くなりますが、中身は植物の汁に含まれていた糖分です。規格がはちみつと認めている点を押さえておけば、過度に構える必要はありません。

国際規格は甘露蜜をどう定義しているか

Codex委員会もEUも、甘露蜜をはちみつの一種と認めたうえで、花のはちみつとは別の基準値を設けています。

果糖とブドウ糖の合計は60g以上か45g以上か

Codex委員会の規格では、果糖とブドウ糖の合計は、一般に100gあたり60g以上と定められています。ただし甘露蜜とその混合は、45g以上です。糖の基準が低く設定されているのは、後で見るように、甘露蜜には三糖が多く含まれ、果糖とブドウ糖の割合が花のはちみつより少なくなりやすいからです。

電気伝導度0.8mS/cmという分かれ目

電気伝導度とは、はちみつを水に溶かしたとき、どれだけ電気を通しやすいかを示す値で、ミネラルなどの量を反映します。Codex委員会は、電気伝導度は一般に0.8mS/cm以下とし、甘露蜜とクリ蜜は0.8mS/cm以上としています。

項目花のはちみつ(一般)甘露蜜(Codex委員会)
果糖とブドウ糖の合計(100gあたり)60g以上45g以上
電気伝導度0.8mS/cm以下0.8mS/cm以上
水分20%以下20%以下

糖とミネラルの違い——数字で比べる花蜜と甘露

Foods誌の総説では、甘露蜜は花のはちみつと比べてブドウ糖と果糖が少なく、三糖のメレジトースが多いとされています。pH、電気伝導度、ミネラル量は高い傾向があり、色が濃く、風味の強いはちみつだとまとめられています。

メレジトースという三糖は甘露の目印になる

メレジトースとは、糖が三つつながった三糖の一種です。ポーランド養蜂研究所などが『Journal of Apicultural Science』で報告したモミの甘露蜜の分析では、メレジトースは平均3.2g/100g(0.9〜5.9g)でした。同じ報告で、単糖の合計は平均62.0g/100gです。この値は、甘露蜜の個体差が大きいことも示しています。

ミネラルが多いと電気を通しやすくなる

同じ報告で、モミの甘露蜜の電気伝導度は平均1.14mS/cm(0.96〜1.32)でした。Codex委員会が示す0.8mS/cmの分かれ目を、上回っています。電気伝導度はミネラルなどの量を反映する指標ですが、この数値だけで体への働きは語れません。ここでは成分の違いを示す値として読むにとどめます。

pHは高めでも、それだけでは見分けられない

pHは平均4.63(4.23〜4.99)でした。甘露蜜は高めになる傾向があるとされますが、pHだけでは花のはちみつとの判別は難しく、糖の組成や電気伝導度とあわせて見る必要があります。

色と味の違い——黒に近い褐色と、こく

淡い金色から黒褐色まで、色の異なる蜂蜜の瓶が朝の光の中で一列に並んでいる様子 淡い金色から黒褐色まで、瓶の色はこれほど違う

甘露蜜は、色が濃く、風味の強いはちみつとされています。ただし味の表現は、数値で測れる部分と、人の感じ方に委ねられる部分を分けて読む必要があります。

Pfund値で平均93mmという濃さ

Pfund値とは、はちみつの色の濃さを長さ(mm)で表す尺度です。くわしくは色を測るPfundスケールで書いています。モミの甘露蜜の報告では、平均93mmでした。

黒糖にたとえられることがある風味

風味は、黒糖にたとえられることがあります。これは一般的な言い方で、測定値ではなく、人によって感じ方も異なります。色が濃いから必ず強い味とは言い切れないので、買う前に少量で確かめるのが確実です。

甘露蜜は固まりやすいのか——巣の中で固まるセメントハニー

白く結晶した蜂蜜と透明なままの蜂蜜の瓶が、朝の光の差す木棚に並んでいる様子 固まる蜜と固まらない蜜は、糖の組み合わせで分かれる

甘露蜜は、一般的なブドウ糖による結晶化は起こりにくい傾向がありますが、別の理由で固まることがあります。

ブドウ糖が少なければ固まりにくい、とは限らない

花のはちみつが固まるのは、おもにブドウ糖が結晶になるためです。固まりやすさを決める糖の比率にくわしく書いたとおり、ブドウ糖の割合が大きいほど固まりやすくなります。甘露蜜はブドウ糖が少なめなので、この仕組みでは固まりにくい傾向があります。ところが、メレジトースが多い蜜では、別の固まり方が起こります。

メレジトース20%を超えると巣から絞れない

スイス連邦農業研究センターのAgroscopeによると、メレジトースが非常に多く固まったはちみつは「セメントハニー」と呼ばれます。メレジトースが20%を超えると、遠心分離機で巣から絞り出せません。

ミツバチの越冬にとっても厄介な蜜

Agroscopeは、メレジトースを含む餌だけで冬を越す群は、冬か翌春に滅びるおそれがあるとしています。養蜂の側にとっても、甘露蜜の流蜜は扱いに気をつける対象だということです。

甘露蜜も腐りにくいのか——糖度と水分活性で考える

甘露蜜も、花のはちみつと同じく、糖の濃さによって腐りにくくなっています。

水分の基準は花のはちみつと同じ

Codex委員会の水分の基準は、一般に20%以下です。甘露蜜にも、この水分の上限が適用されます。

単糖が少なくても守りが崩れない理由

はちみつの腐りにくさは、水が少なく糖が濃いことで、微生物が使える水が少ないことによります。この考え方ははちみつの水分活性はなぜ低いのかで詳しく書きました。甘露蜜は果糖とブドウ糖が少なくても、メレジトースなどの糖を含めて全体の糖が濃いため、水分が基準内であれば守りは崩れません。

日本のラベルでは甘露蜜はどう扱われるか

日本の表示の枠組みは、花みつを前提に書かれています。甘露蜜が国内のラベルでどう扱われるかは、まず定義の文言を見るのが近道です。

要領の定義に書かれているのは「花みつ」

東京都(保健医療局)のはちみつ類品質表示実施要領は、はちみつ類の表示に関する公正競争規約を参考にしています。そこに載るはちみつの定義は「みつばちが植物の花みつを採集し、巣房に貯え熟成した天然の甘味物質」です。区分としては、精製はちみつ、加糖はちみつ(はちみつ60%以上)、巣はちみつ、巣はちみつ入りはちみつなどが示されています。純粋・加糖・精製の違いは純粋・加糖・精製の3つの区分で整理しています。

輸入の甘露蜜を選ぶときに見る三つの欄

定義が花みつなので、国内でどう扱われるかは、個別の表示や取り扱いによって変わりえます。そこで、輸入品を選ぶ場合は、次の三つの欄を見ます。

  • 原産国の欄:どこの国でつくられたか。
  • 原材料の欄:はちみつのみか、ほかの糖が加えられていないか。
  • 区分や種類の欄:純粋、加糖、精製などのどれにあたるか。

名前が甘露蜜でも、原材料に別の糖が並ぶ加糖はちみつなら、中身は別物です。ラベルの文言から、判断できる範囲で確かめてください。

甘露蜜を味わうときに

甘露蜜は、こくの強さを生かす食べ方が向いています。ただし、1歳未満の乳児には与えません。

こくを生かす合わせ方

風味が強いはちみつなので、香りの穏やかな食材より、味のしっかりした食材と合わせやすいと言えます。たとえば黒糖に近いとされる風味は、焼き菓子や、濃いめのお茶と相性がよいと考えられます。これは個人の好みの範囲の話で、体への働きを示すものではありません。

1歳未満の乳児には与えない

厚生労働省によると、1歳未満の乳児は腸内環境が整っていないため、ボツリヌス菌が腸内で増えて毒素を出すことがあります。芽胞の耐熱性は120℃・4分とされ、通常の加熱や調理では死にません。はちみつは包装前に加熱処理しないのが一般的です。これは甘露蜜も花のはちみつも変わりません。詳しくは1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由をご覧ください。

よくある質問

Q:甘露蜜は虫の排泄物からできていると聞きました。食べても大丈夫なものですか?

Codex委員会もEUも、甘露蜜を正式にはちみつの一種と定義しています。原料は植物の汁に含まれていた糖分で、植物の汁を吸う昆虫が出したものをミツバチが集めます。規格の上で認められたはちみつですので、必要以上に構える必要はありません。

Q:甘露蜜と花のはちみつは、見た目や味でどう見分けられますか?

色の濃さと風味の強さは目安になります。モミの甘露蜜ではPfund値の平均が93mmでした。ただし花のはちみつにも濃い色のものがあり、確実な判別は、電気伝導度や糖の分析によります。

Q:甘露蜜は普通のはちみつより固まりにくいのですか?

ブドウ糖による結晶化は、起こりにくい傾向があります。一方、メレジトースが多い蜜は、巣の中で固まることもあります。Agroscopeは、メレジトースが20%を超えると遠心分離機で絞れなくなるとしています。

Q:甘露蜜はミネラルが多いと聞きましたが、体にいいのですか?

言えるのは、電気伝導度が高く、ミネラル量が高い傾向があるという成分の事実までです。モミの甘露蜜の電気伝導度は、平均1.14mS/cmでした。ただし、成分の量と体への働きは別の話で、健康に良いと言い切れる根拠は、ここでは示されていません。

Q:甘露蜜は赤ちゃんに与えてもよいですか?

花のはちみつと同じく、1歳未満には与えません。厚生労働省は、芽胞の耐熱性は120℃・4分で、通常の加熱や調理では死なないとしています。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドを準備しています。蜜蜂を迎える前の段階で、はちみつの種類や規格、暮らしの整え方について、調べたことを「読みもの」として少しずつ書いています。花の蜜だけでなく、森の甘露までを含むはちみつの広がりも、これから確かめていきたい題材の一つです。