台所の棚から瓶を取り出したら、下は白い塊、上はさらさらの液体に分かれていた。そんなとき、腐ったのではないかと手が止まる人は少なくないはずです。

この記事の要点

  • はちみつが下は白い結晶、上は液体の二層になるのは、ブドウ糖が結晶化している途中の姿で、腐敗ではありません。
  • 結晶ができると水が液の側に押し出され、液の水分が上がるため、結晶化したはちみつは発酵しやすい状態に近づきます。
  • 泡立ち、酸っぱい匂い、蓋の膨らみがなければ食べられます。戻すときは蓋を緩め、水から湯せんでゆっくり温めます。

瓶の中で起きていること——下に白い結晶、上に液という二層の正体

二層の正体は、結晶化の途中経過です。成分が傷んだわけでも、別の物が混ざったわけでもありません。農林水産省は、はちみつの白い固まりはブドウ糖の作用による結晶で、成分が変化したわけではないと説明しています。

沈んでいるのはブドウ糖の結晶

結晶化とは、はちみつに溶けているブドウ糖が固体の結晶になって現れる現象です。はちみつの主な糖はブドウ糖と果糖で、ブドウ糖のほうが溶けきれずに結晶になりやすい性質があります。結晶は液より重いため、瓶の底のほうへ沈み、白く濁った層をつくります。

農林水産省によると、15℃前後から結晶しやすくなります。冬場の台所や、涼しい食品庫の棚の奥は、ちょうどその温度帯に入りやすい場所です。結晶化のしくみそのものは、はちみつが白く固まる結晶化のしくみと戻し方でも整理しています。

上に残るのは果糖の多い液

結晶になるのはブドウ糖ですから、結晶が増えるほど、残った液のほうでは果糖など結晶になりにくい成分の割合が相対的に高くなります。上にたまる液は、結晶の隙間から押し出されて分かれた部分と考えると、イメージしやすいと思います。

つまり二層とは、「固まった部分」と「固まり残った部分」が、重さの違いで上下に分かれた状態です。瓶の中では、全体が固まる途中の景色が止まって見えています。

結晶は水を置き去りにする——固まるほど液の水分が上がるしくみ

結晶化が進むと、結晶にならなかった液の水分は上がります。ここが、「二層は劣化ではないから大丈夫」だけでは語りきれない部分です。

ブドウ糖一水和物という結晶のかたち

はちみつの結晶は、ブドウ糖一水和物という形をとります。ブドウ糖一水和物とは、ブドウ糖の分子1つに水の分子1つが組み込まれた結晶のことです。FAO(国連食糧農業機関)は、結晶化はブドウ糖一水和物の結晶ができることで起こり、その際に水が解放されて、液相の水分含量が上がると説明しています。

液相とは、結晶にならずに液のまま残っている部分のことです。結晶が育つほど水が液相へ放り出され、液のほうがだんだん「薄まる」ことになります。瓶全体の水の量は変わらなくても、水が結晶の外に集まるわけです。

結晶化が最も速いのは約14℃

FAOによれば、結晶化の進行が最も速いのは約14℃です。農林水産省の「15℃前後から」という説明とも重なります。この温度帯を室温が行き来する場所では、結晶化が進み、二層になりやすくなります。結晶の大きさと温度の関係は、結晶が粗くも細かくもなる理由と14℃という温度で詳しく扱っています。

水分が上がるとなぜ発酵しやすくなるのか——18%と20%という境目

蓋を開けた蜂蜜の瓶から細かい泡が立ちのぼる朝の台所の淡彩イラスト 発酵のサインは、細かな泡や匂いに出る

はちみつは水分が少ないから腐りにくい食品で、その前提が崩れかけているのが二層の瓶です。水分が上がった液の部分は、酵母が働ける条件に近づきます。

水分18%未満なら発酵リスクはほぼない(FAO)

FAOは、水分18%未満のはちみつだけが、ほぼ発酵のリスクなしに貯蔵できるとしています。さらに、水分18.3%のはちみつは、相対湿度が60%を超える環境では空気中の水分を吸うとも述べています。

はちみつが傷みにくいのは、糖が水を強く抱え込み、微生物が使える水が少ないためです。その考え方は、はちみつの水分活性が低く保たれているしくみで説明しました。水分活性とは、食品の中で微生物が実際に利用できる水の度合いを示す指標です。結晶化で液相の水分が上がると、この「使える水」が増える方向に傾きます。

公正競争規約の水分20%(国産22%)基準

全国はちみつ公正取引協議会の「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」(昭和44年制定)は、はちみつの組成基準として、水分20%以下(国産はちみつは22%以下)と定めています。

基準水分の数値出典
発酵リスクなしに貯蔵できる目安18%未満FAO
はちみつ類の組成基準20%以下全国はちみつ公正取引協議会
国産はちみつの組成基準22%以下全国はちみつ公正取引協議会

規約の基準は表示や品質の線引きであり、FAOの18%は貯蔵の安全側の目安です。基準内の水分で瓶詰めされていても、結晶化で液の側の水分が上がれば、局所的に条件が変わりえます。「結晶した瓶は発酵に近づく」というのは、この数値の隙間から見えてくる話だと考えています。

上にたまった液は捨てるべきか——食べられるかの見分け方

泡立ちや酸っぱい匂いがなければ、上にたまった液はそのまま食べられます。捨てるかどうかは、二層かどうかではなく、発酵のサインがあるかどうかで決まります。

発酵のサイン——泡立ちと酸っぱい匂い

発酵とは、酵母が糖を分解して、ガスやアルコール、酸ができる現象です。確認の順番は、見た目、匂い、蓋の状態です。液の表面に細かな泡が浮いていないか、蓋を開けたときに酸っぱい匂いやお酒のような匂いがしないか、蓋が膨らんでいないかを見ます。判断の細かな基準は、泡立ちや酸っぱい匂いで見分ける発酵のサインにまとめています。

発酵は、ここでは品質と保存の問題として扱います。サインが出た瓶は、風味が変わっているので、食べずに処分するのが無難です。

液状部分に微量元素が多かったという研究報告

少し視点を変えて、読み物として面白い研究を一つ紹介します。日本健康医学会雑誌(J-STAGE)には、結晶化したハチミツの液状部分と固体部分を比べた研究があります。そこでは、微量元素は液状部分に多く含まれ、結晶化によって液状部分に濃縮されていたと報告されています。

結晶になるのはブドウ糖が中心ですから、それ以外の成分が液に残るのは、理にかなった分布です。ただ、これは成分がどちらに偏るかという報告であり、上澄みを食べると何かに良いという話ではありません。そこまでは言えない、というのが正直なところです。

二層のまま置かない——湯せんで戻す手順と、置き場所の選び方

蜂蜜の瓶を湯煎でゆっくり温めて戻す様子を描いた淡彩イラスト 蓋を緩め、水からゆっくり温めて戻す

二層が気になるときは、湯せんで全体を溶かして混ぜ直します。農林水産省が示している方法にもとづく、一般的な手順です。

蓋を緩めて水からゆっくり温める

手順は次のとおりです。

  1. 瓶の蓋を緩めます。密閉したまま温めると、中の空気が膨らむためです。
  2. 鍋に瓶を入れ、水の状態から弱火にかけます。
  3. かき混ぜながら、結晶が溶けるまで温めます。

農林水産省は、蓋を緩めて水から弱火で温め、かき混ぜながら溶かす方法を紹介しています。湯せんとは、直接火にかけず、お湯や水を介して穏やかに温める方法です。結晶が溶けて液と混ざり、全体がなめらかに戻れば完了です。

電子レンジを避ける理由と、結晶しにくい置き場所

農林水産省は、電子レンジで熱をかけすぎると、はちみつのとろりとした特長が損なわれると注意しています。急に温度を上げず、湯せんで少しずつ戻すほうが向いています。

置き場所は、結晶化が最も進みやすい14〜15℃前後を避けた、温度が安定した場所が選択肢になります。冷蔵庫の中は、この温度帯に近く、かえって結晶化を進めやすいと考えられます。日の当たらない、室温の変化が小さい戸棚などが現実的です。

よくある質問

Q:結晶の上にたまった液体は捨てたほうがいいですか?

泡立ちや酸っぱい匂いがなければ、捨てる必要はなく、そのまま食べられます。気になる場合は、湯せんで全体を溶かし、混ぜ直してから使う方法もあります。

Q:二層に分かれたはちみつは腐っていますか?

二層になること自体は結晶化の途中経過で、腐敗ではありません。ただ、結晶化で液の水分が上がるため、発酵のサインは確かめておきたいところです。泡、匂い、蓋の膨らみの三点を見てください。

Q:毎年冬になると同じ瓶が二層になるのはなぜですか?

室温が、結晶化の速い14〜15℃前後を行き来するためと考えられます。温度が安定した置き場所に移すと、結晶化は進みにくくなります。

なお、はちみつを食べる方に、赤ちゃんがいる場合の注意があります。厚生労働省は、1歳未満の赤ちゃんは腸内環境が未発達なため、はちみつ中のボツリヌス菌で乳児ボツリヌス症を発症するおそれがあるとしています。菌は熱に強く、通常の加熱調理では死にません。はちみつ入りの飲料や菓子も対象です。結晶していても液体でも変わりません。1歳以上には、リスクの高い食品ではないとされています。理由は1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由に詳しく書きました。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの立ち上げを準備しています。まだ蜜蜂を迎える前で、はちみつを手にとって語れる段階ではありませんが、はちみつの性質や暮らしへの取り入れ方を、公開されている情報から調べて、この「読みもの」に書きとめています。不調が形になる手前の日々をととのえるという考え方のもとで、これからも少しずつ確かめていきたいと思っています。

湯せんの前に確かめたいこと——容器の素材と、瓶に水を入れない工夫

戻し方の手順は前の節のとおりですが、実際にやるときにつまずきやすいのは、手順そのものより「何に入っているか」と「水が入らないか」の二点かなと思います。

まず容器の素材です。ガラス瓶なら水から温める方法がそのまま使えます。一方、チューブ型やボトル型のプラスチック容器は、素材によっては熱で変形したり、においが移ったりするおそれがあります。容器の表示に耐熱温度が書かれていれば、その範囲で温めます。書かれていない場合は、必要な分だけ耐熱ガラスの器に移してから温めるほうが安心だと思います。

次に、水の入り込みです。この記事のテーマは「水分が上がると発酵しやすくなる」ことでした。湯せんの最中に鍋の水が瓶に入ってしまうと、自分で水分を足すことになり、本末転倒です。確認したいのは次の三つです。

  • 鍋の水位は、瓶の口より十分に低くする
  • 蓋は緩めるだけで、外して置かない(湯気の水滴が直接落ちるのを防ぐ)
  • 取り出したら、瓶の外側と口まわりの水気を拭いてから蓋を締め直す

蓋の裏や瓶の口に水滴が残ったまま締めると、その水がはちみつの表面に落ちます。表面は空気に触れていて、もともと条件が変わりやすい場所なので、ここは丁寧に拭いておきたいところです。

「混ぜるだけ」や「溶かし残し」だと、また二層に戻りやすい

二層の瓶を見て、スプーンでぐるぐる混ぜて済ませたくなる人もいると思います。食べるうえではそれで問題ありませんが、結晶は溶けていないので、結晶と液の性質の違いはそのまま残ります。しばらく置けば、重さの違いでまた分かれていく可能性が高いです。

もう一つ見落としやすいのが、温めて「だいたい溶けた」ところで止めてしまうケースです。結晶化は、すでにある結晶を足がかりにして広がりやすいと考えられています。底や壁に細かな結晶が残っていると、それが次の結晶化の起点になり、思ったより早く白く戻ってしまうことがあります。

見分け方としては、次のような点を確かめるとよいと思います。

  • 瓶を傾けたとき、底に白いざらつきが残っていないか
  • 光に透かして、液の中に細かな粒が浮いていないか
  • 瓶の肩や壁の内側に、白い筋や膜が残っていないか

粒が見えるうちは、もう少し温めてかき混ぜます。ただ、長く温めすぎると香りや風味への影響が気になるので、少しずつ様子を見ながら進めるのが現実的かなと思います。

大きな瓶なら、毎回全部を戻すより、使う分だけ小さな耐熱瓶に分けて温めるのも一つの手です。温め直しの回数が減り、残りの瓶は手をつけずに置いておけます。

開けたあとの扱いで、液の水分はさらに変わる

結晶化で液の水分が上がるという話は、瓶の中だけで完結する話ではありません。FAOが示しているように、水分の高いはちみつは湿度が高い環境で空気中の水分を吸います。結晶化で水分が上がった上の液は、開け閉めのたびに空気に触れる位置にあります。

日々の扱いで気をつけたいのは、次のような点です。

  • 濡れたスプーンや、ほかの食品に使ったスプーンを入れない
  • 湯気の立つ鍋やケトルの近くで、蓋を開けたままにしない
  • 使い終わったら、瓶の口に垂れたはちみつを拭いてから蓋を締める

口まわりにはちみつが残ると、蓋がきちんと締まらず、すき間から湿気が入りやすくなります。濡れたスプーンは、そのまま水を持ち込みます。どれも小さなことですが、結晶化で発酵寄りに傾いた瓶では、こうした積み重ねが効いてくるのだろうと考えています。

逆に言えば、二層の瓶でも、乾いた道具を使い、湿気を避け、蓋をきちんと締めておけば、液の部分の条件が急に悪くなることは考えにくいと思います。二層を見つけたら、慌てて捨てるより、まず発酵のサインを確かめ、そのあと扱い方を見直す。その順番がいちばん無理がないのかなと思います。