この記事の要点
- はちみつは水分が約2割しかなく、糖が溶けているぶん凍る温度が下がるため、家庭の冷凍室に入れても氷にならず、粘りが増すだけにとどまります。
- 結晶化はブドウ糖が析出する現象で、水が氷になる凍結とは別物です。FAOによれば14℃前後が最も速く、5℃より下ではほぼ起きません。
- 冷凍保存は必須ではなく、数か月で食べきるなら常温の冷暗所で足ります。冷凍しても、1歳未満の乳児には与えません。
冷蔵庫に入れたら白く固まったのに、冷凍庫のはちみつはとろりとしたまま。冷たいほうが固まりそうなものなのに、順番が逆に見えます。実はここには、凍ることと固まることが別の現象だという前提があります。

「凍る」と「固まる」は別の現象——まず二つを分ける
凍結とは、水が氷になることです。結晶化とは、はちみつに溶けているブドウ糖が溶けきれずに粒として現れることです。同じ「固まる」に見えても、瓶の中で起きていることはまったく違います。
冷凍庫のはちみつは、硬くなっても氷にはなっていない
冷凍庫から出したはちみつが重く、スプーンが沈みにくいことがあります。これは氷ができたのではなく、冷えて粘りが増した状態です。透明なまま、ゆっくり垂れます。
白く固まるのはブドウ糖の結晶
白く濁り、ざらつきや粒が出てくるのは結晶化です。京都府 消費生活安全センターは、結晶ができやすい温度を13〜14度ぐらいとしています。氷ではなく糖の結晶なので、品質の劣化とは別の話です。結晶化が起きる温度と、もとに戻すときの手当ては、結晶化が起きる温度と、もとに戻すときの手当てにまとめています。
見分け方:透明なまま重くなるか、白く濁って粒が出るか
| 見た目 | 起きていること |
|---|---|
| 透明で、冷えて重くなった | 粘度が上がっただけ(室温に戻せば流れる) |
| 白く濁る、粒がある | ブドウ糖の結晶化 |
なぜ凍らないのか——水が2割しかなく、糖が凍る温度を下げる
はちみつが家庭の冷凍室で凍らないのは、水分が約2割しかなく、残りの大部分を占める糖が、凍る温度を大きく押し下げているからです。
水は2割しかない——公正競争規約の水分20%以下(国産22%以下)という基準
全国はちみつ公正取引協議会の「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」では、はちみつの水分は20%以下(国産はちみつは22%以下)とされています。果糖とぶどう糖の合計は100g中60g以上、しょ糖は100g中5g以下という基準もあります。つまり、中身の大半は糖です。成分の全体像は糖8割・水2割というはちみつの成分で触れています。
溶けているものが多いほど凍る温度は下がる(凝固点降下)
凝固点降下とは、水に何かが溶けていると、水が凍り始める温度が下がる現象です。冬の道路に塩をまくと氷が溶けるのと同じ考え方です。はちみつは糖度が高く、水に対して糖が非常に多いので、凍る温度は真水よりはるかに低くなります。糖度と水分活性の違いは、糖度と水分活性という二つの数字の違いで整理しています。
家庭の冷凍室の温度では氷になる手前にとどまる
家庭の冷凍室は一般にマイナス18℃前後に設定されます。はちみつが氷になる温度や、後述するガラス転移の温度は、それよりずっと低いところにあります。そのため冷凍室の中でも、はちみつは「とても粘い液体」の側にとどまります。
よくある誤解:凍るはちみつは偽物、とは硬さだけでは言えない
冷凍庫でカチカチになったから偽物、あるいは凍らないから本物と、硬さだけで決めることはできません。水分や蜜の種類で粘りは変わります。確かめるなら、容器の名称欄と原材料名です。ラベルの区分は純粋・加糖・精製というラベルの区分が手がかりになります。
冷蔵庫では固まるのに、冷凍庫では固まりにくい理由
冷蔵庫では白く固まり、冷凍庫では透明なまま
結晶化には速く進む温度帯があり、それより低くても高くても進みにくくなります。冷蔵庫はその温度帯に近く、冷凍庫はそこから大きく外れています。
結晶化が速いのは14℃前後——FAOと京都府の数字
FAO(国連食糧農業機関)の資料では、速い結晶化の最適温度は14℃前後とされています。京都府 消費生活安全センターも、結晶ができやすいのは13〜14度ぐらいと説明しており、二つの数字は近い値です。
5℃より下と25℃より上では結晶化がほぼ起きない
FAOは、25℃より上と5℃より下では、結晶化は実質的に起きないとしています。京都府は、10度以下ではゆっくり、16度以上ではほとんど結晶しないと書いており、境目の取り方に違いがあります。いずれにせよ、冷凍室の温度は結晶化の速い帯から遠く、進みにくい側にあります。ただし「止まる」と言い切れるわけではなく、「ほぼ起きない」「進みにくい」と受け止めるのが妥当です。
冷えるほど粘りが増し、ブドウ糖の分子が動きにくくなる——13.7℃で600ポアズという実測
結晶になるには、ブドウ糖の分子が動いて集まる必要があります。FAOの資料には、水分16.1%のはちみつの粘度が13.7℃で600ポアズ、71.1℃では2.6ポアズという値が載っています。温度が下がると粘度は桁違いに上がります。25℃のシロツメクサ蜜では、水分13.7%で420ポアズ、20.2%で20ポアズという値もあります。粘りの正体は、糖度と水分が決める粘りの正体でも説明しています。
条件で分ける:常温の棚・冷蔵室・冷凍室、それぞれで起きること
| 置き場所 | 瓶の中で起きること |
|---|---|
| 常温(25℃より上になる夏場など) | 結晶化はほぼ起きない |
| 常温の涼しい場所〜冷蔵室(5〜14℃前後) | 結晶化が進みやすい帯にかかる |
| 冷凍室 | 結晶化は進みにくく、粘りが大きく増す |
結晶の粒の大きさや口あたりは、結晶の粒の大きさを決める結晶核と保存温度に詳しい話があります。花の蜜ごとの違いは花の蜜ごとに違う結晶化の速さを参照してください。
さらに冷やすとどうなるか——氷にならず、ガラスになる
冷えるほど粘りを増し、ガラスへ向かう蜜
さらに温度を下げても、はちみつは氷にならず、ガラス転移という状態の変化を迎えます。ガラス転移とは、液体が結晶を作らないまま、動かない固体のような状態に移る現象です。
ガラス転移温度はマイナス42〜マイナス51℃という測定
Journal of Agricultural and Food Chemistry 47(6)(1999年)に載った、Kantor、Pitsi、Thoenの研究では、示差走査熱量測定(DSC)で調べた純粋はちみつのガラス転移温度が、マイナス42〜マイナス51℃と報告されています。はちみつを90重量%まで水で薄めると、ガラス転移温度は13〜20℃低くなったとも報告されています。
蜜の種類と水分で動く——ヒマワリ蜜マイナス34.8℃から百花蜜マイナス49.7℃
Journal of Apicultural Science 59(1)(2015年)のTomaszewska-Grasらの報告では、ガラス転移温度は百花蜜のマイナス49.7℃からヒマワリ蜜のマイナス34.8℃まで幅があり、水分量と強く相関する(r=マイナス0.94)とされています。結晶を溶かしきったはちみつは、結晶したままのものより6〜11℃低い値を示したとも報告されています。
家庭の冷凍庫は、その手前のとても粘い液体の領域にある
家庭の冷凍室はこれらの値より高い温度です。つまり、ガラスになる手前の、非常に粘い液体の領域にあると考えられます。冷凍庫で重くなったはちみつは、氷ではなく、ガラスへ向かう途中の姿です。
冷凍保存してよいのか——向く場合と、常温で足りる場合
冷凍は可能ですが、必須ではありません。置く期間と目的で選びます。
数か月で食べきるなら常温の冷暗所で足りる
冷暗所とは、直射日光と高温を避けた涼しい場所です。置き場所の考え方は常温の冷暗所という置き場所の決め方で扱っています。
結晶させたくない蜜を長く置くなら冷凍という選択肢
結晶化が進みにくい温度帯に置けるという点で、冷凍は選択肢になります。ただし、結晶化を完全に止めると断定はできません。
出し入れのたびの結露に注意——水分18%という発酵の分かれ目
冷たい瓶を室温に出すと結露します。FAOによれば、水分18%未満ならはちみつが発酵するおそれはほぼなく、湿度60%の空気とは水分18.3%で釣り合います。水分が増えると発酵しやすくなります。吸湿の性質ははちみつが空気中の水分を吸う性質、発酵は水分が増えたはちみつが発酵するしくみに詳しく書いています。室温に戻してから蓋を開け、水滴を入れないようにします。
すでに結晶した蜜は冷凍しても液状には戻らない——戻すなら60度を超えない湯せん
結晶は冷凍しても溶けません。京都府 消費生活安全センターは、約50度の湯に容器ごとつけ、60度以上にならないようじっくり溶かすよう案内しています。湯せんは、この温度を守って行います。
冷凍しても変わらないこと——1歳未満には与えない
厚生労働省は、1歳未満の赤ちゃんがはちみつを食べると乳児ボツリヌス症にかかることがあるとしています。ボツリヌス菌の芽胞は120℃で4分の耐熱性とされ、通常の加熱や調理では死にません。冷凍でも同様で、菌は減りません。はちみつ入りの飲料やお菓子も、1歳未満には与えません。理由は1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由にまとめています。
まとめ——温度の目盛りで瓶の中を読む
温度の物差し:25℃/14℃前後/5℃/冷凍室/マイナス42〜51℃
- 25℃より上:結晶化は実質的に起きない(FAO)
- 14℃前後:結晶化が最も速い(FAO)
- 5℃より下:結晶化はほぼ起きない(FAO)
- 冷凍室:氷にならず、粘りが大きく増す
- マイナス42〜51℃:純粋はちみつのガラス転移温度の報告値
これから確かめたいと思っていること
準備を進めるなかで、冷凍した蜜の口あたりや、解凍後の流れやすさなど、公開資料だけでは分からない点を、これから確かめていきたいと考えています。
よくある質問
Q:はちみつは何度で凍りますか?家庭の冷凍庫で凍らせることはできますか?
水分が約2割で糖が約8割という組成のため、凍る温度は大きく下がっています。家庭の冷凍室では硬くなっても氷にはならず、粘りが増すにとどまります。
Q:冷蔵庫に入れると白く固まるのに、冷凍庫だと固まらないのはなぜですか?
FAOによれば、結晶化は14℃前後が最も速く、5℃より下ではほぼ起きません。冷蔵室はその速い帯に近く、冷凍室は粘りが大きく増して、ブドウ糖の分子が動きにくくなります。
Q:冷凍庫に入れたはちみつが白く固まったのは凍ったのですか?
氷ではなく、ブドウ糖の結晶です。入れる前から結晶の種があった、または冷える途中の温度帯で進んだ可能性があります。
Q:はちみつを冷凍保存しても品質は変わりませんか?
凍結も結晶化も、成分が変わる現象ではなく物性の範囲の話です。出し入れ時の結露で水分が入らないように、室温に戻してから開けます。
Q:冷凍庫でカチカチに固まるはちみつは純粋ではないのでしょうか?
硬さだけでは判断できません。名称欄と原材料名で確かめます。
Q:冷凍したはちみつを子どものおやつにしてもよいですか?
1歳未満には、冷凍でも加熱でも与えません。厚生労働省が乳児ボツリヌス症について注意を呼びかけています。1歳以上であれば、通常はリスクの高い食品ではありません。
六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドを準備しています。まだ蜜蜂を迎える前の段階ですが、はちみつの性質を丁寧に調べ、暮らしをととのえる手がかりとして、この「読みもの」に書き留めています。