瓶の底でジャリジャリと固まったはちみつと、パンに塗ったときにすっと伸びるクリーム状のはちみつ。同じ「結晶」という言葉で語られますが、口に入れたときの印象はまるで違います。どちらも成分としては同じはちみつで、違っているのは結晶の粒の大きさだけです。

この記事の要点

  • はちみつの結晶が粗いか細かいかは品質の差ではなく、結晶核の数と結晶が進む速さで決まる粒径の違いです。
  • 結晶が最も速く進むのは14℃前後で、25℃を超えると数か月で香りが落ちるとFAOは記しています。
  • クリームドハニーは混ぜ物ではなく、撹拌と温度管理で細かい結晶にわざと導いたはちみつです。

白く結晶化したはちみつの瓶を、静かな朝の台所の光の中で描いた淡彩イラスト

同じ結晶なのに、口あたりが違う——ジャリジャリとなめらか

結晶したはちみつのざらつきは、結晶そのものの量ではなく、一粒一粒の大きさで決まります。瓶の底で歯に当たるような粗い結晶も、指で塗り広げてもざらつきを感じない微細な結晶も、糖の結晶が液体の中で析出しているという点では同じ現象です。

瓶の底のジャリジャリと、市販のなめらかなクリーム状

冬場に常温で放置した国産はちみつが、瓶の底から白く固まっていくのを見たことがある方は多いと思います。スプーンを入れるとザクザクと音がして、粒が舌に残る。一方で、パン売り場に並ぶクリームドハニーはバターのようになめらかで、粒の存在をほとんど感じません。両者を並べて比べると、まるで別の食品のように見えます。

粒の大きさが舌ざわりを決めている

しかし結晶の中身は同じ糖です。舌でざらつきとして感知できる粒径になるか、感知できないほど微細な粒径にとどまるかの違いにすぎません。この粒径の差がどこから生まれるのかを、結晶が始まるしくみから順に見ていきます。

結晶はどうやって始まるのか——結晶核という出発点

はちみつの結晶は、糖が溶けきれずに析出する現象です。結晶核とは、糖の分子が集まり始めるきっかけとなる微小な足場のことで、この核の数が結晶の粒径を左右する出発点になります。

水2割に糖8割——溶けきれないほど濃い液体

日本食品標準成分表(八訂)増補2023年によると、はちみつ100gあたりの成分は果糖39.7g、ブドウ糖33.2g、しょ糖0.3g、水分17.6gとされています。水分が2割に満たない一方で糖が8割近くを占めており、これは水に溶ける糖の量としてはぎりぎり、あるいはそれを超えた過飽和の状態です。過飽和とは、本来溶けきれる量以上の物質が液体中に溶け込んでいる、不安定な状態を指します。全国はちみつ公正取引協議会が定める「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」でも、純粋はちみつは果糖とブドウ糖の合計が60g/100g以上、水分は20%以下(国産は22%以下)と組成が定められており、はちみつがもともと濃厚な糖液であることがわかります。

核になるのは花粉・気泡・小さな結晶のかけら

過飽和の糖液は、何かきっかけがなければ結晶し始めません。そのきっかけが結晶核です。FAOの資料では、花粉粒のような固形の微粒子や、緩やかな撹拌が結晶化を促す要因として挙げられています。はちみつに自然に含まれる花粉や、瓶詰めの際に入り込む小さな気泡、あるいはすでにできている小さな結晶のかけらが、新たな結晶が育つ足場になります。この核の周りにブドウ糖の分子が次々と付着していくことで、結晶は少しずつ大きくなっていきます。ちなみに結晶するのは主にブドウ糖で、果糖は溶けたままはちみつ全体をとろりとさせています。

速さが粒の大きさを決める——ゆっくり固まると粗くなる

結晶の粒が粗くなるか細かくなるかは、結晶が進む速さで決まります。速く結晶が進むほど核が多くでき、一つひとつの粒は小さいまま留まります。逆にゆっくり進むと、少ない核が時間をかけて大きく育ち、粗い粒になります。

いちばん速く結晶が進むのは14℃前後

FAOの資料によれば、はちみつの結晶化が最も速く進む温度は14℃前後とされています。この温度帯では過飽和の糖が効率よく核に付着し、結晶化そのもののスピードが上がります。農林水産省の案内でも、15℃前後から結晶しやすくなるとされており、家庭の冷暗所や台所の床下収納など、涼しい季節の室温はちょうどこの範囲に入りやすいところです。

核が少ないままゆっくり育つと、粒は大きくなる

ここで押さえておきたいのは、「速く進む」と「粒が細かくなる」がセットになっているという点です。FAOは、結晶化がゆっくり進むと結晶粒は大きく不規則な形になりやすいと述べています。核の数が少ないまま長い時間をかけて結晶が育つと、糖分子は少数の核に集中して付着し、一粒あたりのサイズが大きくなります。瓶の底でジャリジャリと感じる粗い結晶は、多くの場合、こうした緩やかな条件のもとで時間をかけてできたものです。

25℃超と5℃未満ではほとんど進まない

一方でFAOは、25℃を超える温度や5℃を下回る温度では結晶化がほとんど進まないとも記しています。夏場の室温で保存していると結晶しにくく感じるのはこのためです。ただしFAOは、25℃を超える温度で保存を続けると、数か月のうちに香りが大きく損なわれるとも指摘しており、結晶しにくいからといって高温での保存が望ましいわけではありません。結晶が始まる15℃前後という温度の分かれ目についても、あわせて確認しておくと保存場所を選ぶ判断がしやすくなります。

蜜源で違う、結晶のしやすさ

結晶しにくいアカシアの花と、結晶しやすい菜の花畑を並べた淡彩イラスト アカシアは結晶しにくく、ナタネや菜の花は結晶しやすい蜜源

結晶のしやすさは蜜源によって差があります。全国はちみつ公正取引協議会は、アカシアが結晶しにくく、レンゲ・ミカン・クローバーがこれに続き、ナタネ・ウド・ソバは結晶しやすいという序列を示しています。

アカシアは固まりにくく、ナタネ・ソバは固まりやすい

この違いの背景には、ブドウ糖と果糖の比率があります。ブドウ糖の割合が多い蜜ほど過飽和の度合いが強く結晶しやすい傾向があり、逆に果糖の割合が高い蜜は結晶しにくい傾向があるとされます。アカシアの蜜が長く液状を保ちやすいのに対し、ナタネやソバの蜜が早い時期から白く固まり始めるのは、こうした糖組成の違いが影響していると考えられます。果糖とブドウ糖の比率が決める結晶のしやすさを見ると、蜜源ごとの傾向がより具体的につかめます。

結晶するから本物、とは言い切れない理由

ここで注意したいのは、結晶のしやすさが蜜源の性質による差にすぎないという点です。全国はちみつ公正取引協議会は、結晶の有無だけでははちみつの良し悪しは判断できないと明記しています。結晶しやすい蜜源のはちみつが冬に固まるのも、結晶しにくい蜜源のはちみつが液状のままなのも、どちらも自然な性質の表れであり、どちらかが優れているという話ではありません。

クリームドハニー——細かい結晶をわざと作るはちみつ

クリームドハニーとは、あらかじめ細かく結晶させた種蜜を混ぜ、温度を管理しながら撹拌することで、全体を微細な結晶の集合体に導いたはちみつのことです。混ぜ物が入っているわけではなく、結晶化という現象そのものを制御して作られています。

正体は、ごく小さな結晶の集まり

クリームドハニーがなめらかに感じられるのは、結晶が存在しないからではありません。むしろ結晶の数はジャリジャリのはちみつよりずっと多く、その分ひとつひとつの粒が舌で感知できないほど小さいのです。粗い結晶が「少ない核がゆっくり育った」結果だとすれば、クリームドハニーは「多くの核が一斉に、しかし小さいまま育った」結果だといえます。

細かく結晶した種蜜と撹拌が核を増やす

作り方の要は、核の数を意図的に増やすことにあります。すでに細かく結晶している種蜜を新しいはちみつに混ぜ込むと、無数の微小な結晶核が一度に供給されます。そこに緩やかな撹拌を加えることで、FAOが結晶化を促す要因として挙げる固形粒子と撹拌の両方が働き、糖分子は少数の核に集中する暇なく、多数の核へ均等に分散して付着していきます。温度もあわせて管理することで、粒が育ちすぎる前に結晶化を完了させる、という製法です。栄養や酵素の優劣を語るものではなく、あくまで結晶の粒径を調整する技術だと理解しておくとよいと思います。

ジャリジャリになった瓶をどうするか——戻すか、そのまま楽しむか

結晶したはちみつは、湯せんで液状に戻すことも、結晶のまま食べることもできます。農林水産省は、結晶しても成分が変化したわけではないと案内しています。

60℃を超えない湯せんで、かき混ぜながら

農林水産省は、フタをゆるめて水の状態から弱火にかけ、かき混ぜながら溶かす方法を案内しています。全国はちみつ公正取引協議会も、60℃以上にならないよう湯せんでかき混ぜることを勧めています。急激に高温を加えると風味を損ねるおそれがあるため、あくまで低い温度からゆっくり温めるのが基本です。結晶化が劣化ではない理由と湯せんでの戻し方にも、あわせて手順をまとめています。

中途半端に溶かすと、残った結晶が核になってまた粗く固まる

湯せんの途中で「もう溶けた」と早めに切り上げると、瓶の底や側面に結晶のかけらが残っていることがあります。この残った結晶は、そのまま新たな結晶核として働き、時間の経過とともに周囲の糖を巻き込んで再び結晶を育てます。しかも今度は核の数がさらに少ない状態から始まるため、以前よりも粗いザラザラとした結晶になりやすくなります。溶かすときは、瓶を揺すったり軽くかき混ぜたりしながら、結晶の粒が完全に見えなくなるまで確認するのが望ましいと言えます。

結晶のまま楽しむという選択(1歳未満には与えない)

結晶したはちみつを無理に溶かさず、そのまま楽しむという選択肢もあります。粗い結晶はパンに乗せるとほろほろとした食感になり、細かい結晶はヨーグルトに混ぜても粒がなじみやすいなど、食感の違いとして楽しむことができます。なお、はちみつは乳児ボツリヌス症を防ぐため、1歳未満の乳児には与えてはいけないとされています。結晶のまま食べる場合も溶かして食べる場合も、この点は変わらず守る必要があります。1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由もあわせてご確認ください。また、結晶と白カビは見た目が紛らわしいことがあるため、判断に迷う場合は白いのはカビか結晶かの見分け方を参考にしていただければと思います。

よくある質問

Q:結晶がジャリジャリと粗いはちみつは、品質が悪いのですか? 品質が劣っているわけではありません。結晶しても成分が変化したわけではないと農林水産省は案内しています。粗い結晶は、結晶核の数が少ないままゆっくり結晶化が進んだ結果、一粒あたりのサイズが大きくなっただけのものです。

Q:クリームドハニーは何か混ぜてあるのですか? 混ぜ物が加えられているわけではありません。細かく結晶させた種蜜を混ぜ込み、撹拌と温度管理によって全体を微細な結晶の集合体に導いた、はちみつそのものです。結晶の粒径を制御する製法上の工夫といえます。

Q:一度溶かしたはちみつが、前よりザラザラに固まったのはなぜ? 湯せんで溶かしきれずに残った小さな結晶が、新たな結晶核として働いたためと考えられます。核の数が少ない状態から再び結晶が始まると、以前より粗い結晶に育ちやすくなります。60℃を超えない湯せんで、粒が見えなくなるまでかき混ぜながら溶かすことが勧められています。

Q:結晶しないはちみつは偽物ですか? そうとは言えません。全国はちみつ公正取引協議会によれば、アカシアのように結晶しにくい蜜源もあり、蜜源によって結晶のしやすさには差があります。結晶の有無だけで、はちみつの良し悪しや真贋は判断できないとされています。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドとして準備を進めています。まだ蜜蜂を迎える前の段階ですが、はちみつの結晶や保存についても、公的な資料をひとつずつ確認しながら理解を深めているところです。これから蜂を迎え、実際の営みを重ねていく中で、確かめられたことを少しずつお伝えできればと考えています。

粒の粗さ以外に見ておきたい変化——上に浮く液、白い筋、泡

結晶したはちみつを見て気になるのは、粒の粗さだけではないと思います。瓶の中では、粗さとは別の変化もよく起きます。

ひとつめは、固まった層の上に透明な液が浮いてくるケースです。前の節で触れたとおり、結晶になるのは主にブドウ糖で、果糖は溶けたまま残ります。ブドウ糖が結晶として抜けると、残った液の側は相対的に水分が多くなります。結晶の部分と液の部分に分かれて見えるのは、このためだと考えられます。クリームドハニーでも、暖かい場所に置いておくと表面がゆるみ、液がにじむことがあります。

ふたつめは、瓶の内側に出る白い霜のような筋やまだら模様です。結晶と瓶のすき間に入り込んだ細かい空気が白く見えている場合が多く、それだけで傷んだと考える必要はないかなと思います。

注意したいのは三つめで、表面にこまかい泡が立ち続けている、酸っぱいにおいやアルコールのようなにおいがする、といった変化です。水分の多くなった液の部分では、酵母が働いて発酵しやすくなるとされています。結晶や白い筋とは別の変化なので、においと泡はあわせて確かめておくと判断しやすいと思います。迷ったら食べずに、購入先に問い合わせるのが確実です。

粗い結晶を、なめらかな結晶に整え直すという考え方

ジャリジャリになった瓶は、湯せんで液状に戻すか、そのまま食べるかの二択で語られることが多いです。ただ、クリームドハニーのしくみを踏まえると、「細かい結晶に作り直す」という三つめの考え方もあります。

手順の流れは次のようになります。

  1. 60℃を超えない湯せんで、粗い結晶が見えなくなるまで完全に溶かす。粗い粒が残ると、それがまた大きく育ってしまいます
  2. 室温まで冷ましてから、細かく結晶しているはちみつ(市販のクリームドハニーなど)を種として少し混ぜ込む
  3. 結晶がもっとも速く進む14℃前後に近い涼しい場所に置き、ときどき清潔なスプーンでゆっくり混ぜる

ポイントは、2の段階で「細かい核」をまとめて入れることです。粗い結晶が残ったままだと、少ない大きな核から結晶が育ってしまいます。順番を逆にしないことが大事です。

つまずきやすいのは、使う道具の水気です。濡れたスプーンや瓶を使うと水分が増え、先ほどの発酵の心配が大きくなります。完全に乾いたものを使うのが安心です。また、家庭では温度を一定に保つのが難しいため、市販品と同じなめらかさになるとは限りません。種の量や混ぜる頻度の目安は資料によって違うので、ここでは数字を挙げません。仕上がりはある程度ぶれるものと考えておくのが現実的かなと思います。

保存場所の「温度の上下」も、粒を粗くする原因になる

保存の話では、何℃で置くかが注目されがちです。ただ、結晶の粗さという点では、温度が上がったり下がったりすることも気にした方がよいと思います。

たとえばコンロや炊飯器のそば、日の差す窓辺では、昼に温まって夜に冷えることを繰り返します。温まったときに細かい結晶の一部が溶け、冷えたときに残った結晶へ糖が付いて大きくなる。これは、湯せんを途中でやめたときに粗く固まり直すのと同じしくみが、少しずつ起きている状態だと考えられます。冷蔵庫からの出し入れが多い場合も、似たことが起きる可能性があります。

保存場所を選ぶときは、次のように整理すると考えやすいと思います。

  • なめらかなまま保ちたい: 温度の変化が少ない冷暗所に置く
  • 液状のまま使いたい: 結晶しやすい温度帯を避ける
  • 25℃を超える場所: 香りが落ちやすいので避ける

ジャリジャリしてきたと感じたら、蜜源や容器より先に、置き場所の温度が上下していないかを見直すのが近道かなと思います。