冷蔵庫に入れたはちみつは白く固まるのに、冷凍庫に入れるととろりとしたまま。寒いほうが固まりそうなものなのに、逆になる。この不思議は、「凍る」と「結晶化する」を別の現象として分けると、ほどけていきます。

この記事の要点

  • 冷凍庫のはちみつが凍らないのは、水が約2割で糖が約8割と濃く、凍る温度が計算上マイナス41.3℃まで下がるためです。
  • 冷蔵庫で固まる白い塊はブドウ糖の結晶で、氷ではありません。FAOは5℃より下では結晶化が実質的に起きないとしています。
  • 冷凍保存は必須ではなく、常温の冷暗所で足ります。冷凍しても加熱しても、1歳未満の赤ちゃんには与えないでください。

霜のついた冷凍庫の棚に置かれた、凍らず透明な液状のままのはちみつの瓶を朝の台所で描いた淡彩イラスト

「凍る」と「固まる」は別の現象——まず二つを分ける

凍結は水が氷になる現象、結晶化ははちみつのブドウ糖が固体として析出する現象で、起きている中身が違います。結晶化とは、溶けきれずにいたブドウ糖が粒になって現れることです。

冷凍庫のはちみつは、硬くなっても氷にはなっていない

冷凍庫から出したはちみつが重たく、スプーンが沈みにくいことがあります。これは氷になったのではなく、冷えて粘りが増した状態です。氷になるかどうかは、次の章で見る「凍る温度」と庫内の温度の関係で決まります。

白く固まるのはブドウ糖の結晶——農林水産省の説明

農林水産省の消費者の部屋は、白く固まるのはブドウ糖の結晶で、ブドウ糖の多いはちみつほど結晶しやすいと説明しています。保存温度も影響し、15℃前後から結晶しやすくなります。結晶しても成分が変化したわけではない、とも述べています。

見分け方:透明なまま重たくなるか、白く濁って粒が出るか

見た目起きていること
透明のまま、とろみが強い冷えて粘りが増した状態
白く濁る、ざらつく粒があるブドウ糖の結晶

白く濁っているのに「凍った」と感じたなら、それは氷ではなく結晶です。

はちみつは何度で凍るのか——計算上はマイナス41.3℃

農林水産省の消費者の部屋は、はちみつが凍る温度を、計算上およそマイナス41.3℃と紹介しています。水が少なく糖が多いため、水の0℃よりはるかに低くなります。

水は2割しかない——公正競争規約の水分20%以下という基準

全国はちみつ公正取引協議会の「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」は、はちみつを、みつばちが植物の花みつを採集し、巣房に貯えて熟成した天然の甘味物質と定義しています。組成基準は水分20%以下(国産は22%以下)、果糖とぶどう糖の合計が100g中60g以上、しょ糖が100g中5g以下などです。糖8割・水2割という構成は、糖8割・水2割というはちみつの成分として別の記事で整理しています。

溶けているものが多いほど凍る温度は下がる(凝固点降下)

凝固点降下とは、水に何かが溶けていると凍り始める温度が下がる現象です。冬の道に撒く塩が氷を溶かすのと同じ理屈で、溶けているものが多いほど下がり幅は大きくなります。はちみつは、水に糖がぎっしり溶けた状態といえます。

糖度80%でマイナス41.3℃という計算値と、冷凍室マイナス18℃との開き

農林水産省は、凝固点降下の式に糖度(Brix)80%と、ぶどう糖・果糖の分子量180を当てはめて、この値を紹介しています。一方、家庭用冷凍室の目安はどうでしょうか。シャープ株式会社の説明では、JIS C 9607:2015の試験条件で測った冷凍室の食品温度は、スリースターでマイナス18℃以下とされています。計算上の凍る温度より20℃以上高いので、冷凍庫の中でも氷にはなりません。

「誤差は生じる」というただし書きの読み方——目安の数字として受け取る

農林水産省は、ほぼ糖分で占められているため誤差は生じるとも述べています。実際の凍結温度を保証する数字ではなく、桁の見当をつける目安として受け取るのが妥当です。

冷蔵庫では固まるのに、冷凍庫では固まりにくい理由

冷蔵庫で白く結晶した瓶と、冷凍庫で透明な液状のままの瓶を上下に並べた朝の台所の淡彩イラスト 冷蔵庫では白く固まり、冷凍庫では透明なまま

結晶化には速く進む温度帯があり、冷蔵庫はその帯に近く、冷凍庫は外れているためです。

結晶化が速いのは14℃前後、15℃前後から始まりやすい

FAO(国連食糧農業機関)の資料では、速い結晶化の最適温度は14℃前後とされています。農林水産省も15℃前後から結晶しやすくなると説明しており、二つの数字はほぼ重なります。冬の台所や冷蔵室は、この温度帯に近づきます。結晶ができる速さは蜜の種類でも変わります(花の蜜ごとに違う結晶化の速さ)。

5℃より下と25℃より上では結晶化がほぼ起きない——FAOの数値

同じFAOの資料は、25℃より上と5℃より下では、結晶化は実質的に起きないとしています。冷凍室はこの5℃より下に入ります。ただし「ほぼ起きない」であって、止まると言い切れる話ではありません。結晶の大きさと温度の関係は結晶の粒の大きさを決める結晶核と保存温度でも触れています。

冷えるほど粘りが増す——13.7℃で600ポアズ、29℃で68.4ポアズ

FAOの資料には、水分16.1%のスイートクローバー蜜の粘度が、13.7℃で600ポアズ、20.6℃で189.6ポアズ、29.0℃で68.4ポアズと冷えるほど大きくなる例が載っています。粘りが増すと、ブドウ糖の分子が動いて集まりにくくなり、結晶ができにくくなります。粘りの正体は糖度と水分が決める粘りの正体にまとめました。

条件で分ける:冬の台所・冷蔵室・冷凍室、それぞれで起きること

置き場所温度の目安瓶の中で起きること
冬の台所10〜15℃前後結晶化の速い帯に近い
冷蔵室数℃〜10℃前後帯に近く、固まることがある
冷凍室マイナス18℃以下結晶化は進みにくく、粘りが増す

冷蔵室の温度は機種や場所で異なるため、表の数字は目安です。

さらに冷やすとどうなるか——氷にならず、ガラスになる

マイナス40〜50℃付近まで冷やすと、はちみつは氷になる前に、ガラスのような固体になるという研究報告があります。

ガラス転移温度はマイナス42〜マイナス51℃という測定

ガラス転移とは、粘い液体が、結晶にならないまま動かない固体に変わる現象です。Kantor、Pitsi、Thoenらが示差走査熱量測定(DSC)で調べた報告(Journal of Agricultural and Food Chemistry 47(6), 1999)では、純粋はちみつのガラス転移温度はマイナス42〜マイナス51℃でした。

蜜の種類で動く——ヒマワリ蜜マイナス34.8℃から百花蜜マイナス49.7℃

Tomaszewska-Grasらの報告(Journal of Apicultural Science 59(1), 2015)では、ガラス転移温度は百花蜜のマイナス49.7℃から、ヒマワリ蜜のマイナス34.8℃まで幅があります。結晶を溶かしきったはちみつは、結晶したままのものより6〜11℃低い値だったともされています。

水分が多いほど低くなる(相関 r=マイナス0.94)という報告

同じ報告で、ガラス転移温度は水分量と強く相関し、相関係数はr=マイナス0.94でした。水分が多いほど低くなるということです。前者の報告でも、はちみつを90重量%まで水で薄めると、ガラス転移温度は13〜20℃低くなるとされています。

家庭の冷凍庫は、その手前の「とても粘い液体」の領域にある

これらの報告の値と比べると、マイナス18℃の冷凍室は、ガラス転移の手前にあたります。氷でもガラスでもなく、とても粘い液体という段階です。冷凍庫で硬く感じるのは、この粘りのためだと考えられます。

冷凍保存してよいのか——向く場合と、常温で足りる場合

冷凍しても差し支えありませんが、必須ではありません。

ふだん使いの一瓶なら、常温の冷暗所で足りる

はちみつは、水分が少なく糖が多いため、傷みにくい食品です(はちみつが腐らない理由、糖度と水分活性という二つの数字の違い)。置き場所の決め方は常温の冷暗所という置き場所の決め方にあります。

結晶させたくない蜜を長く置くなら、冷凍という選択肢

白く固まらせたくない蜜を長く置くなら、5℃より下で結晶化がほぼ起きないというFAOの数値から、冷凍は一つの選択肢といえます。ただし固まらないと断定はできません。

出し入れのたびの結露に注意——水分18%という発酵の分かれ目

冷たい瓶を温かい部屋に出すと、表面に結露が生じます。はちみつは水分を吸いやすい性質があり(はちみつが空気中の水分を吸う性質)、水が混ざると薄まります。FAOの資料では水分18%未満なら発酵のおそれはほぼないとされ、それを超えると変わっていきます(水分が増えたはちみつが発酵するしくみ)。出し入れは減らし、室温に戻してからふたを開けるのが無難です。

すでに結晶した蜜は、冷凍しても液状には戻らない——戻すなら湯せん

冷凍は結晶を溶かしません。農林水産省は、戻すときはふたをゆるめてビンごと水に入れ、少しずつ加熱しながらかき混ぜるよう案内しています。湯せんは、電子レンジなどの強い加熱を避けるための方法です。強く加熱すると風味が損なわれるためです。温度と手当ては結晶化が起きる温度と、もとに戻すときの手当てにもあります。

冷凍したはちみつを食べるとき——1歳未満には与えない

厚生労働省は、1歳未満の赤ちゃんがはちみつを食べると乳児ボツリヌス症にかかることがあるとしています。ボツリヌス菌の芽胞は耐熱性が120℃4分とされ、通常の加熱や調理では死にません。冷凍でもなくなりません。はちみつ入りの飲料やお菓子も含め、1歳未満には与えないでください(1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由)。

まとめ——温度の目盛りで瓶の中を読む

温度の目盛りを頭に置くと、瓶の中の様子を推し量れます。

温度の物差し:25℃/14℃/5℃/マイナス18℃/マイナス41.3℃

  • 25℃より上:結晶化は実質的に起きない(FAO)
  • 14℃前後:結晶化が最も速い(FAO)
  • 5℃より下:結晶化は実質的に起きない(FAO)
  • マイナス18℃以下:家庭用冷凍室の目安(シャープ株式会社の説明)
  • マイナス41.3℃:計算上の凍結温度(農林水産省、誤差を含む目安)

その先のマイナス40〜50℃付近に、ガラス転移の報告値があります。氷になる前に、結晶にならないまま固まる領域です。

これから確かめたいと思っていること

準備を進めるなかで、置き場所による固まり方の違いを、公開されている資料と照らして確かめたいと考えています。

よくある質問

Q:はちみつは何度で凍りますか?家庭の冷凍庫で凍らせることはできますか?

農林水産省が紹介する計算値は、糖度80%でマイナス41.3℃です。誤差はある目安ですが、家庭用冷凍室のマイナス18℃以下では氷にならず、硬くなるだけです。

Q:冷蔵庫に入れると白く固まるのに、冷凍庫だと固まりにくいのはなぜですか?

FAOによると結晶化は14℃前後で速く、5℃より下では実質的に起きません。さらに冷えるほど粘度が上がるため、ブドウ糖が集まりにくくなります。

Q:はちみつを冷凍保存しても成分や品質は変わりませんか?

農林水産省は、結晶しても成分が変化したわけではないと説明しています。冷凍による成分の変化を示した資料は、今回の出典にはありません。注意したいのは、出し入れの結露による吸湿です。

Q:冷凍庫に入れたはちみつが白く固まったのは、凍ったのですか?

氷ではなく、ブドウ糖の結晶です。入れる前から結晶の種があったか、冷える途中の結晶化の速い温度帯で進んだ可能性があります。

Q:冷凍庫でカチカチになるはちみつは、純粋はちみつではないのでしょうか?

硬さだけでは判断できません。冷えて粘りが増しただけのことも多いためです。加糖の有無は、名称欄と原材料名で確かめてください。

Q:冷凍したはちみつを子どものおやつにしてもよいですか?

1歳未満には、冷凍でも加熱でも与えないでください。厚生労働省は、ボツリヌス菌の芽胞が通常の加熱や調理では死なないと注意を呼びかけています。1歳以上であれば、一般の食品として扱えます。

六角門は京都で、養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。蜜蜂を迎える前の段階で、はちみつの性質や、日々をととのえる暮らしについて調べたことを、この「読みもの」に書きとめています。