この記事の要点

  • はちみつの糖度は甘さの強さではなく、溶けている糖の量、言いかえれば水分の少なさを示す数字です。
  • 甘さの感じ方は、果糖とブドウ糖の内訳、口に入れるときの温度、そして香りの三つで大きく動きます。
  • 1歳未満の赤ちゃんには、加熱した料理や菓子に使ったものも含めて、はちみつを与えてはいけません。

糖度80度と表示されたはちみつを買ったのに、78度のものと比べて甘さの違いがよく分からなかった。そんな経験は、実は不思議なことではありません。糖度の数字と舌の感じ方は、そもそも別のものを見ているからです。

朝の台所で、冷たいヨーグルトと湯気の立つ紅茶の横にはちみつの匙を並べた情景

結論:糖度の高さと甘さは同じ物差しではない

はちみつの糖度とは、屈折計で測った「溶けている成分の量」の目安であり、甘さの強さを直接示す数字ではありません。甘さは、糖の内訳・温度・香りという三つの要素で変わります。

糖度78度と80度の差は、舌ではほとんど分からない

糖度で2度の差は、おおまかに言えば水分の2%ぶんの違いです。同じ重さをすくったときの糖の量はわずかに違いますが、その差よりも、どんな糖がどんな割合で入っているか、どんな香りがするかという違いのほうが、舌には大きく響くと考えられます。

甘さを動かす三つの要素——糖の内訳・温度・香り

  • 糖の内訳:果糖(フルクトース)は甘みが強く、ブドウ糖(グルコース)は控えめです。
  • 温度:果糖は冷たいほど甘く感じられるとされます。
  • 香り:鼻から抜ける香りが、甘さの感覚を支えています。

以下、この三つを順に見たあとで、糖度の数字が本当に教えてくれることと、甘さで選ぶ手順をまとめます。

糖度の数字は何を数えているのか

糖度(Brix)とは、液体に溶けている成分の量を、ショ糖(砂糖の主成分)の水溶液の濃さに置きかえて表した値です。屈折計で光の曲がり方を測って求めるため、はちみつでは「どれだけ詰まっているか」の目安として使われます。測り方の詳しい読み方は、屈折計が示す糖度の数字の意味にまとめています。

はちみつ100gは果糖39.7g・ブドウ糖33.2g・水分17.6g

文部科学省の食品成分データベース(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年)によると、はちみつの可食部100gあたりの組成は次のとおりです。

成分100gあたり
果糖39.7g
ブドウ糖(ぶどう糖)33.2g
ショ糖(しょ糖)0.3g
水分17.6g
利用可能炭水化物(単糖当量)75.3g

砂糖の主成分であるショ糖はほとんど入っておらず、果糖がブドウ糖をやや上回る組成になっています。はちみつの甘さは、ほぼ果糖とブドウ糖の二つの糖でできている、と言ってよさそうです。もともと花の蜜にはショ糖が多く含まれていますが、これが果糖とブドウ糖に分かれていく過程は、花の蜜のショ糖が果糖とブドウ糖に変わるしくみで扱っています。

糖度が教えてくれるのは甘さより水分

糖度が高いということは、溶けている成分が多い、つまり水が少ないということです。水分が減れば、同じ量をすくったときの糖の量は増えます。ただし、その糖が果糖寄りなのかブドウ糖寄りなのかは、糖度の数字からは分かりません。糖度は水分の裏返しであって、甘さの質を教えてくれる数字ではないのです。

甘さを決める一つ目の要素——果糖とブドウ糖の内訳

甘さの一つ目の要素は、果糖とブドウ糖の比率です。同じ糖度でも、果糖の多い蜜は甘みが強く、ブドウ糖の多い蜜は穏やかになる傾向があります。

果糖は砂糖の1.7倍程度、ブドウ糖は砂糖より控えめ

農畜産業振興機構(ALIC)の解説では、果糖の甘味度は砂糖の1.7倍程度とされています。甘味度とは、砂糖を基準にして甘さの強さを比べた値です。一方でブドウ糖は、砂糖より控えめな甘さの糖として扱われます。二つの糖が同じ割合で混ざっているわけではないので、はちみつごとに甘さの質が変わるのは自然なことです。

花ごとに果糖27〜44%、ブドウ糖22〜41%と幅がある

FAO(国際連合食糧農業機関)がまとめた米国産はちみつの平均組成は、水分17.2%(13.4〜22.9%)、果糖38.2%(27.2〜44.3%)、ブドウ糖31.3%(22.0〜40.7%)、ショ糖1.3%です。果糖だけでも27%から44%まで幅があり、ブドウ糖も22%から41%まで開きがあります。蜜源(蜜蜂が蜜を集める花)によって、糖の内訳はこれだけ違うということです。

果糖が多い蜜は甘く、固まりにくい——アカシアとナタネ

国内でよく知られた蜜源で言えば、アカシアは果糖の割合が高く固まりにくい蜜、ナタネはブドウ糖の割合が高く固まりやすい蜜として、養蜂や販売の現場で語られることが多いです。果糖が多ければ甘みの強い印象になりやすく、ブドウ糖が多ければ穏やかな印象になりやすい。そして、結晶化のしやすさもこの比率と連動します。比率と結晶のしやすさの関係は、果糖とブドウ糖の比率と結晶のしやすさでも整理しています。

甘さを決める二つ目の要素——温度

甘さの二つ目の要素は、口に入れるときの温度です。ただし、温度で甘さの感じ方が変わるのは、すべての甘味料ではなく、果糖のような一部の糖に限られます。

7℃・25℃・43℃で比べた国内の実験

日本調理科学会誌47巻2号(2014年)に、甘味料8種と市販の甘味飲料11種を、液温7℃・25℃・43℃で比べた報告があります。女子学生27名が甘味の強さを評価したもので、甘味料のうち温度によって甘味の強さに変化がみられたのは、フルクトース(果糖)とキシリトールだけでした。ほかの甘味料には変化がみられなかったと報告されています。砂糖やブドウ糖は、冷たくても温かくても、感じ方があまり変わらないということです。

ALICの解説も同じ方向で、ショ糖(砂糖)は温度の影響をほとんど受けないため料理に使いやすく、果糖は温度が低いほど甘く感じられるとしています。冷たい飲みものに甘みを足すなら、果糖が向くとも説明されています。

冷たいヨーグルトと温かい紅茶で甘さの印象が変わる理由

果糖が多めのはちみつを、冷たいヨーグルトにかけた場合と、温かい紅茶に溶かした場合とでは、同じ量でも甘さの印象が変わりうる、というのが上の報告から導ける見通しです。冷たいほうが甘く感じられ、温かいほうは穏やかに感じられる。もちろん味覚には個人差があり、一つの実験がすべての人に当てはまるわけではありません。ご自身の舌で確かめる余地は十分にあります。

甘さを決める三つ目の要素——香り

朝の窓辺で蜂蜜をすくった匙にそっと顔を近づけ、香りを確かめる人物の手元 鼻に抜ける香りが、甘さを支えている

甘さの三つ目の要素は香りです。甘さは舌だけで決まるのではなく、鼻に抜ける香りも一緒になって、はじめて「甘い」という感覚になります。

香りがあると、はちみつは砂糖と同じくらい甘かった

ミシガン州立大学の研究チームが、Journal of Food Science 89巻12号(2024年)に報告した官能評価があります。アルファルファ、クローバー、オレンジ、ワイルドフラワーの4種のはちみつと砂糖を比べたところ、香りがある通常の状態では、同じg/Lの濃度で砂糖とほぼ同じ甘さと評価されました。ところが鼻をふさいで香りを感じにくくすると、はちみつは砂糖より甘くないと評価されたそうです。

香りが甘さを押し上げた幅は、最大42.6%という報告

同じ報告によると、100g/Lの濃度で、香りがはちみつの甘さを23.1〜42.6%押し上げていました。砂糖では5.4%です。はちみつの甘さは、砂糖に比べて香りへの依存度がかなり高いことになります。花ごとに香りの成分が違えば、甘さの感じ方も変わるはずで、その背景は花ごとに違う香りの成分で触れています。

風邪で鼻が詰まると甘さが物足りなく感じる、という素朴な疑問への答え

鼻が詰まっているときに、甘いものの味がぼんやりすると感じたことがある方は多いと思います。この研究は鼻をふさぐ条件で比べたもので、鼻づまりそのものを調べたものではありません。ただ、香りが甘さの感覚を支えているという点では、同じ方向の話として受け取れそうです。体調と味覚の関係について、ここで断定的なことは言えません。

糖度が教えてくれるのは甘さより保ちやすさ

糖度の数字がはっきり教えてくれるのは、甘さではなく、腐りにくさと結晶化のしやすさです。どちらも水分の量に深く関わっています。

水分18%未満なら発酵の心配はほとんどない(FAO)

FAOによると、水分が18%未満であれば、はちみつが発酵する心配はほとんどありません。糖度が高い、つまり水分が少ないはちみつは、それだけ保存しやすいということです。糖度と水分活性(食品中の自由な水の割合)の違いについては、糖度と水分活性の違いをご覧ください。

腐らない性質を支えているのは、甘さではなく水の少なさ

「甘いから腐らない」と思われがちですが、実際に効いているのは水の少なさです。酵母などが増えるには水が必要で、水分が少なければ増えにくい。甘さの強さと保存性は、同じ「糖度」という数字の表と裏にはあっても、別の性質です。

ブドウ糖が多く水分が低いほど結晶しやすい

FAOは、水分が低くブドウ糖が多いはちみつほど結晶化が速いと述べています。25℃を超える温度と5℃を下回る温度では、ほとんど結晶しないともされています。結晶したからといって傷んだわけではなく、ブドウ糖が固まっているだけです。花による結晶化の速さの違いは、花の蜜ごとに違う結晶化の速さで詳しく扱っています。

甘さで選ぶときの台所の手順

好みの甘さに近づけるには、蜜源・温度・量の三つを組み合わせて考えます。以下は、ここまでの報告をもとにした見当のつけ方であって、感じ方には個人差があります。

好みの甘さ選ぶ蜜の目安合わせる温度合わせる食べ方
強め果糖の多い蜜(アカシアなど)冷たいヨーグルト、冷たい飲みもの
控えめ香りの穏やかな蜜温かい紅茶、温かい飲みもの

強い甘さが好きなら果糖の多い蜜を冷たい料理に

果糖が多く、冷たいほど甘く感じられるという二つの性質を重ねる考え方です。冷やしたヨーグルトやアイスクリームに、果糖の多い蜜を合わせると、甘さがはっきり立つと考えられます。

控えめな甘さが好きなら香りの穏やかな蜜を温かい飲みものに

温かいと果糖の甘さの増幅は小さくなり、香りも立ちやすくなります。甘さの印象を穏やかにしたいときは、香りの穏やかな蜜を温かい飲みものに少量使うのが一案です。砂糖のかわりに使うときの量の見当は、砂糖のかわりにはちみつを使うときの甘さの換算に書いています。

1歳未満の赤ちゃんには、加熱したものも含めて与えない

消費者庁は、はちみつを生後1歳未満の乳児に与えてはいけないと注意を呼びかけています。ボツリヌス菌の芽胞は、一般的な細菌と違って、100℃で数分加熱しても生き残ることがあるためです。そのため、加熱した料理や菓子に使ったはちみつも避ける必要があります。理由の詳細は、加熱しても芽胞が残る理由で説明しています。

よくある質問

Q:糖度80度のはちみつは78度のものより甘いのですか?

差は主に水分2%ぶんです。数字の上ではわずかに糖が濃くなりますが、舌で感じる甘さの違いは、果糖とブドウ糖の内訳や香りの違いのほうが大きいと考えられます。

Q:はちみつは砂糖より甘いのですか?

ミシガン州立大学の研究では、香りがある状態なら、同じ重さ(g/L)ではちみつと砂糖はほぼ同じ甘さと評価されました。ただ、はちみつは果糖が多いぶん、冷やすと甘く感じやすい面があります。

Q:はちみつは冷やすと甘くなるのですか?

温度で甘さが変わるのは果糖で、低温ほど甘く感じられるとされます。日本調理科学会誌の報告では、砂糖やブドウ糖には温度による変化がみられませんでした。果糖の多いはちみつは、冷たいほうが甘く感じられる可能性があります。

Q:甘さが強いはちみつと控えめなはちみつは、ラベルで見分けられますか?

糖度の表示だけでは分かりません。蜜源名が手がかりになり、果糖が多く固まりにくい蜜は、甘めの印象になりやすいという見当をつけられます。ただし香りや個人差もあるので、あくまで目安です。

Q:糖度が高いほど腐りにくいのですか?

水分が少ないほど発酵しにくいのは事実です。FAOは水分18%未満を目安としています。ただし、これは保存性の話であって、甘さの強さとは別のことです。

六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。蜜蜂を迎える前の段階で、はちみつの成分や味わいについて調べ、分かったことをこの「読みもの」に少しずつ書き留めています。