「毒素は熱で壊れると聞いたから、はちみつ入りのパンなら焼いているし平気では」。離乳食づくりの途中で、そう考える方は少なくありません。半分は正しく、半分は食い違っています。壊れるのは毒素で、問題になるのは別のものだからです。

この記事の要点

  • 1歳未満の乳児には、はちみつも、はちみつ入りのパンや焼き菓子などの加熱した食品も与えません。
  • ボツリヌス菌の毒素は80℃30分で失活しますが、芽胞は120℃4分の加熱まで生き残ります。
  • 台所の煮る・焼く・蒸すは100℃前後が上限で、芽胞を死なせる温度には届きません。
  • 乳児は腸内細菌叢が未成熟なので、芽胞が腸で育って毒素を作ることがあります。

はちみつを使った後に手とスプーンを洗い、赤ちゃんの食器と分けて扱う朝の台所の淡彩イラスト

先に結論——1歳未満には、加熱したものも含めて与えない

結論から書くと、1歳未満の乳児には、はちみつもはちみつを含む食品も、加熱の有無にかかわらず与えません。理由は、はちみつに混じることのあるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の芽胞が、家庭の加熱では死なないためです。乳児がこれを口にすると、腸の中で菌が育ち、乳児ボツリヌス症を起こすことがあります。

「1歳未満」は月齢で数える

「1歳未満」とは、生まれてから満1歳の誕生日を迎える前日までの期間です。11か月でも1歳の誕生日の前日でも、まだ1歳未満です。離乳食が進んで何でも食べられそうに見える時期でも、月齢が基準になります。誕生日を過ぎれば対象から外れる、という数え方で足ります。

生・加熱・加工品の区別はない

生のはちみつ、加熱したはちみつ、はちみつを使ったパン、焼き菓子、煮物、飲み物は、いずれも同じ扱いです。島根県は、100℃程度で加熱調理したはちみつも乳児には与えないよう求めています。乳児ボツリヌス症の基本と、黒糖など他の原因食品については、乳児ボツリヌス症の基本と、黒糖など他の原因食品で別にまとめています。

菌・芽胞・毒素を分けて考える

加熱して残るものと消えるものは、菌・芽胞・毒素のどれを指すかで答えが変わります。三つを分けると、「毒素は壊れるのに加熱してもだめ」という一見の矛盾が解けます。

芽胞は菌の「殻にこもった姿」

芽胞とは、細菌が厳しい環境をやり過ごすために作る、硬い殻に包まれた休眠の姿です。滋賀県によると、ボツリヌス菌は土壌や、海・湖・川の泥砂にいる嫌気性菌で、熱に強い芽胞を作ります。酸素のない場所で増える菌ですが、芽胞になれば空気があっても耐えます。消費者庁も、芽胞は乾燥や熱に強いと説明しています。

毒素は熱に弱く、芽胞は強い

ボツリヌス菌が作る毒素は、増えた菌が出すたんぱく質で、熱に弱い性質があります。滋賀県は、毒素は80℃30分(100℃なら数分以上)の加熱で失活するとしています。一方、芽胞は120℃4分(または100℃6時間)以上の加熱をしないと完全には死なないと示されています。厚生労働省も、芽胞の耐熱性は120℃4分で、通常の加熱や調理では死なないとしています。

加熱で変わる条件性質
毒素80℃30分(100℃なら数分以上)で失活熱に弱い
芽胞120℃4分、または100℃6時間以上で死滅熱に強い

はちみつ入りの食品を加熱すれば、毒素は壊せるかもしれません。ただし乳児の場合、食べ物に毒素が入っていることより、口から入った芽胞が腸で菌になり、そこで毒素を作ることが問題になります。この点は後の章で詳しく触れます。

台所の加熱では届かない温度

はちみつで焼いた焼き菓子の縁が色濃く焼けたトレイを描いた淡彩イラスト 焼いても、生地の中は100℃前後にとどまる

台所の加熱で到達できるのは100℃前後までで、芽胞を死なせる条件には届きません。沸騰した水は、通常の鍋ではそれ以上温度が上がらないからです。

煮る・焼く・蒸すの上限は100℃前後

水が沸騰すると100℃で頭打ちになります。芽胞を100℃で死なせようとすると、滋賀県の示す条件では6時間が必要です。120℃4分を出すには、圧力をかけて100℃を超える環境を作る必要があり、これがレトルト殺菌のような工業的な加熱です。消費者庁は、芽胞は100℃で数分加熱しても生き残ることがあり、加熱すれば安全とはいえないと説明しています。

パンや焼き菓子、煮物も同じ扱い

オーブンの設定温度が高くても、水分を含む生地や具材の中心温度は100℃前後にとどまることがほとんどです。蒸しパンも煮物も、同じ理屈で芽胞の死ぬ温度には届きません。はちみつを少量しか使っていなくても、「加熱したから大丈夫」という判断にはなりません。島根県が100℃程度の加熱調理品も与えないよう求めているのは、このためです。加熱そのものの安全性や栄養面については、はちみつは加熱しても大丈夫かで扱っています。

瓶の中で芽胞は眠っている

朝の台所の棚に蓋を閉めたまま静かに置かれた透明な蜂蜜の瓶と、傍らの木のスプーン 増えも死にもせず、瓶の中で眠る芽胞

はちみつの中のボツリヌス菌の芽胞は、増えもせず、死にもせず、眠った状態で残ると考えられます。蜜は水分活性が低く、菌が育つ環境ではありません。しかし、それは芽胞が消えることを意味しません。

腐らないことと無菌は別

水分活性とは、食品の中で微生物が使える水分の度合いを示す指標で、値が低いほど菌が増えにくくなります。はちみつはこの値が低いため、発酵や腐敗が起こりにくい食品です。仕組みははちみつの水分活性はなぜ低いのかとはちみつはなぜ腐らないのかで詳しく書いています。ただ、増えにくいことと菌がいないことは別の話です。しかも、はちみつは包装前に加熱殺菌されないのが一般的で、混じった芽胞はそのまま瓶に入る可能性があります。

173検体で見つからなくても注意が続く理由

東京都健康安全研究センターは、2006年4月から2018年3月までの12年間に都内で売られたはちみつ173検体(国産8、外国産165)を調べました。ボツリヌス菌は見つかりませんでした。一方で、嫌気性芽胞菌(クロストリジウム属)は36.1%(26/72)、セレウス菌は66.5%(115/173)の検体から検出されています。

見つからなかった結果は安心材料に見えますが、調べた範囲で見つからなかったという報告です。ほかの瓶に含まれないことまでは保証しません。また、乳児ボツリヌス症は少量の芽胞でも起こりうるため、どの瓶にも含まれる可能性があるものとして、一律に与えない対応が取られています。この部分は、報告の数字からの筆者の考察です。

なぜ赤ちゃんだけなのか——腸内細菌という守り

乳児だけが問題になるのは、腸内の環境が大人と違うからです。厚生労働省によると、大人は腸内細菌との競争に負けて菌が増えませんが、乳児は腸内環境が整っておらず、菌が増えて毒素を出します。

大人の腸では芽胞が育たない

腸内細菌叢とは、腸に住む多様な細菌の集まりのことです。大人の腸ではこの集まりがすでに出来上がっていて、口から入ったボツリヌス菌の芽胞は居場所を得にくくなります。乳児の腸は、この細菌叢がまだ育ちきっていません。島根県は、口から入った芽胞が乳児の腸で発芽・増殖し、作られた毒素が吸収されて神経が麻痺する症状が出ると説明しています。ここで述べているのは乳児と大人の違いだけで、はちみつが腸内環境を整えるという話ではありません。

便秘から始まるサインと潜伏期間3〜30日

潜伏期間は、口にしてから症状が出るまでの期間で、内閣府食品安全委員会は3〜30日と推定しています。消費者庁によると、症状は数日続く便秘に始まり、筋力の低下、哺乳力の低下、泣き声が弱くなる、首がすわらなくなる、などが挙げられています。初めは便秘程度に見えるため、気づきにくい点に注意が要ります。

通知から減った事例と、2017年の死亡例

件数は淡々と並べて見るのが適切です。内閣府食品安全委員会によると、国内の乳児ボツリヌス症は、初めて確認された1986年から2017年2月までに36例あります。

はちみつが原因とされたのは13例

はちみつが推定原因とされたのは、1989年までの12例に2017年2月の1例を足した計13例です。1987年10月に厚生省が通知を出してから、はちみつが原因の例は減りました。1987年厚生省通知の前後で、周知が行き渡った結果と読めます。2017年には、市販のジュースにはちみつを混ぜて飲んでいた生後5か月の乳児が亡くなりました。食品安全委員会はこの事例も記録しています。

はちみつ以外の原因(井戸水など)

すべてがはちみつ由来ではありません。厚生労働省は、井戸水が原因の例もあるとしています。届出の面では、食中毒として届けられたのは1986年以降3例、医師が乳児ボツリヌス症として届けたのは1999年以降16例です。乳児ボツリヌス症は感染症法の四類感染症にあたり、島根県によれば、診断した医師はすぐ保健所に届け出ます。なお、食品安全委員会ははちみつからA・B・C・E・F型菌が見つかった報告があることも記しています。

ラベルで確かめる、うっかり口にしたとき

市販品を選ぶときは、食品表示の注意書きを確認します。うっかり食べさせたときは、あわてず、症状の有無で動き方を分けます。

「1歳未満の乳児には与えないで下さい」の表示

消費者庁は、はちみつとはちみつを含む食品に、「1歳未満の乳児には与えないで下さい」のような分かりやすい表示を求めています。原材料欄の「はちみつ」の文字とあわせて、この一文の有無を見ます。ラベルの読み方全般ははちみつのラベルの見方に、「非加熱」の言葉の意味は「非加熱」表示の意味にあります。

症状があれば小児科へ、なければ様子を見る

食べさせてしまったときは、潜伏期間にあたる3〜30日の間、便秘、哺乳力の低下、泣き声の弱さなどの様子を見ます。厚生労働省や消費者庁が挙げる症状が見られたら、すぐに小児科を受診します。症状がなければ様子を見ることになりますが、問題があるかどうかの判断は医師の領分で、この記事で診断はできません。気になるときは、かかりつけの医師や保健所に相談してください。なお、厚生労働省は1歳以上ではリスクの高い食品ではないとしています。授乳中の母親については、妊娠中・授乳中にはちみつを食べてよいかで扱っています。

よくある質問

Q:はちみつ入りのパンや焼き菓子なら、焼いているので1歳未満でも大丈夫?

大丈夫とはいえません。オーブンで焼いても生地の中は100℃前後で、芽胞が残ります。島根県も、100℃程度で加熱調理したはちみつも乳児には与えないよう求めており、与えないのが公的な指針です。

Q:毒素は熱で壊れると聞いたが、なぜ加熱してもだめなの?

壊れるのは毒素だけで、芽胞は残るからです。乳児の場合は、食べ物の毒素ではなく、腸に入った芽胞が育って毒素を作ることが問題になります。

Q:うっかり少しなめさせてしまったらどうすればいい?

3〜30日の間は、便秘や哺乳力の低下などに気をつけます。症状があればすぐ小児科を受診してください。量の多少で安全かどうかは判断できないため、目安は示しません。

Q:1歳を過ぎたら、急にはちみつを食べても平気なの?

1歳を過ぎると腸内環境が整い、リスクの高い食品ではない、というのが厚生労働省と消費者庁の立場です。1歳の誕生日を過ぎれば、与えられる食品として扱われます。

Q:国産や非加熱でないはちみつなら安全?

安全とはいえません。包装前に殺菌しないのが一般的で、産地や表示にかかわらず1歳未満には与えません。東京都の調査の検体も、国産と外国産の両方でした。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドを準備している段階で、まだ蜜蜂を迎える前です。はちみつを扱うことになれば、こうした注意点を丁寧に伝える側でありたいと考えています。準備を進めるなかで調べたことは、これからもこの「読みもの」に書いていきます。