この記事の要点
- 屈折計は糖を数える道具ではなく、光の曲がり方から糖度を換算して示す道具です。
- はちみつの糖度(Brix)はショ糖水溶液を基準にした目安で、実際の糖の組成とは別の数字です。
- 糖度は水分量の言い換えとして読むのが実用的で、温度・結晶・ムラで数字は読み違えやすくなります。
「糖度80度」と書かれていれば、はちみつの8割が糖だと受け取るのが自然です。ところがこの数字は、糖の量をそのまま数えた結果ではありません。屈折計という道具が光の曲がり方を読み取り、それを別の物差しに置き換えて見せている値です。数字の成り立ちを知っておくと、ラベルや販売ページの表記が急に読みやすくなります。

屈折計は「糖」を数えていない——光の曲がり方を読む道具
屈折計(糖度計)とは、液体に光を通したときの曲がり方、つまり屈折率を測る道具です。糖の量を直接数えているわけではありません。表示される糖度は、屈折率から計算で導かれた数字です。
溶けているものが多いほど、光は大きく曲がる
水に砂糖を溶かすと、光は水だけのときより大きく曲がります。溶けているものが増えるほど、液体の中を進む光の向きが変わりやすくなるためです。この性質を利用すると、曲がり具合の大きさから「どれくらい濃いか」を逆算できます。
はちみつは糖が非常に濃く溶け込んだ液体なので、水よりずっと大きく光を曲げます。屈折計は、その曲がり方を目盛りに置き換えて見せているにすぎません。測っているのは屈折率で、糖の重さではないという点が出発点になります。
プリズムに一滴のせて境界線を読む、という測り方
一般的な手持ち式の屈折計では、プリズムと呼ばれる小さな面に試料を一滴のせ、カバーを閉じて光にかざします。接眼レンズをのぞくと、視野が明るい部分と暗い部分に分かれ、その境界線が目盛りの上のどこにあるかで数字を読みます。
境界線の位置は屈折率で決まります。濃いほど光が大きく曲がり、境界線は目盛りの高い側へ動きます。わずかな量で測れる手軽さがある反面、プリズムの上の一滴がその瓶全体を代表しているとは限りません。この点は後の章で触れます。
Brixは「砂糖水だったら」という換算の数字
Brix(ブリックス)とは、ショ糖(砂糖の主成分)を水に溶かした液の濃度を基準に、屈折率を換算して表す目盛りです。「この液と同じ曲がり方をする砂糖水なら、どのくらいの濃さか」を示す数字だと言い換えられます。
はちみつの糖はショ糖ではなく、果糖とブドウ糖が中心
はちみつの糖の中心は、果糖とブドウ糖です。ミツバチが花の蜜を巣の中で加工する過程で、蜜に含まれていたショ糖が分解され、果糖とブドウ糖に変わっていくためです。そのほかにも、少量の糖類や有機酸、ミネラルなどが含まれます。
つまりBrixが基準にしているショ糖と、はちみつの中身は同じ糖ではありません。屈折計は、はちみつの実際の組成にかかわらず、「砂糖水に置き換えると」という物差しで答えを出します。
だから「糖度◯度=糖が◯%」とは厳密には言えない
糖の種類が違えば、同じ量でも光の曲げ方には微妙な差が出ます。さらに、糖以外の成分も屈折率に影響します。そのため、糖度の数字をそのまま「糖の含有割合」と読むのは正確ではありません。
糖度はあくまで換算の結果で、実際の組成を直接示した値ではありません。ただし、はちみつ同士を同じ物差しで比べる目安としては十分に役立ちます。その理由が次の章の話です。
糖度の数字が水分量に読み替えられる理由
糖度の数字を水分量に読み替えられるのは、はちみつが主に糖と水でできているからです。糖が多ければ水は少なく、糖が少なければ水は多い。この裏表の関係があるので、光の曲がり方から水分量を推定できます。
糖が多い=水が少ない、という裏表の関係
はちみつの成分の大半は、糖と水が占めています。糖の割合が上がれば、その分だけ水の割合は下がります。屈折率が「どれだけ濃いか」を教えてくれるなら、同時に「どれだけ水が少ないか」も教えてくれることになります。
ここで大切なのは、糖度そのものに優劣はないということです。数字が高いから上等、低いから劣る、という話ではありません。糖度は、水分量の目安として読む数字です。
はちみつ専用の目盛り・換算表がある理由
屈折計の目盛りは、ふつうショ糖水溶液を基準につくられています。ところがはちみつは糖の組成が異なるため、そのままでは水分量を正確に表せません。そこで、はちみつ向けに屈折率と水分量を対応づけた換算表や専用の目盛りが用意されています。
はちみつ用の屈折計には、水分量を直接読めるタイプもあります。どの目盛りを見ているのかによって、同じ装置でも数字の意味が変わります。使う前に、糖度(Brix)の目盛りなのか、水分の目盛りなのかを確かめておくと取り違えを防げます。
表示基準が「糖度」ではなく「水分」で書かれている意味
はちみつ類の表示に関する公正競争規約(全国はちみつ公正取引協議会が運用しています)や、国際的な食品規格であるCodex(コーデックス)のはちみつ規格では、品質に関わる基準が糖度ではなく水分を軸に定められています。細かい数値はここでは取り上げませんが、基準の物差しが「水分」であることは構造として押さえておく価値があります。
糖度はあくまで、その水分量を知るための手段として使われています。販売ページに糖度が載っていたら、水分量の言い換えとして読む、という姿勢が基本になります。基準の考え方については、糖度の基準と熟成の見きわめで別の角度から整理しています。
数字を読み違える三つの分かれ目——温度・結晶・気泡
結晶した瓶は、液の部分だけでは全体を語れない
屈折計の数字は、条件によってずれます。とくに温度、結晶、気泡・ムラの三つが読み違いの典型です。どの場面で数字を疑うべきかを知っておくと、測定値に振り回されません。
温度:冷えた蜜と温かい蜜では同じ蜜でも数字がずれる
温度補正とは、測定時の温度による屈折率の変化を、基準の温度の値に直す操作です。屈折率は温度によって変わるため、同じはちみつでも、冷えているときと温かいときで数字がずれます。
屈折計には、温度補正の機構が組み込まれているもの(自動温度補正)と、換算表で自分で補正するものがあります。補正の有無を確認せずに数字を読むと、蜜そのものの違いなのか、温度の違いなのか見分けられません。冷蔵庫から出したばかりの瓶と、室温になじんだ瓶を測り比べるのは避けたいところです。
結晶:白く固まった蜜は、溶かしてから測らないと液の部分だけを読んでしまう
結晶化とは、はちみつの中のブドウ糖が結晶になって析出し、白く固まる現象です。結晶した瓶では、固まった部分と液のまま残った部分で、水分の分布が変わっています。結晶はブドウ糖が水から抜けて固体になったものなので、残った液の側は相対的に水分が多くなる傾向があります。
白く固まった蜜からプリズムに液の部分だけをのせて測ると、瓶全体より水分を高めに読むおそれがあります。結晶の粒そのものも光の読みを乱します。正確に測るには、全体を均一にしてから測るのが原則です。結晶した瓶の中で水分が動くしくみは、結晶した瓶の中で水分が動くしくみで詳しく扱っています。
気泡・ムラ:瓶の上と下で水分が違うことがある
気泡が混ざると、プリズムの上で光が乱れて境界線がぼやけます。また、瓶の中で上と下の水分が均一でないこともあります。とくに保存中は、空気に触れる上の層で水分が変化しやすくなります。
どこから取った一滴なのかで数字が変わる可能性があるため、測るときはよく混ぜてから、気泡を含まない部分をのせるのが基本です。一度の測定で決めつけず、複数回の測定で傾向を見る方が安全です。
| 分かれ目 | 起きること | 対処の方向 |
|---|---|---|
| 温度 | 同じ蜜でも数字がずれる | 温度補正の有無を確認し、温度をそろえる |
| 結晶 | 液の部分だけを読み、水分を高めに見る | 溶かして均一にしてから測る |
| 気泡・ムラ | 境界線がぼやける、位置で数字が変わる | よく混ぜ、気泡のない部分で測る |
糖度が高い=甘い、ではない
はちみつは、糖と水の割合でできている
糖度が高いはちみつが、そのまま甘く感じられるとは限りません。糖度は光の曲がりから換算した濃さの目安で、甘さの感じ方は別の要素にも左右されます。
同じ糖度でも花によって甘さの印象が違う
果糖はブドウ糖より甘みを強く感じやすい糖だと言われています。はちみつの中の果糖とブドウ糖の比率は蜜源の花によって異なるため、糖度が同じでも、甘さの印象に差が出ることがあります。香りや酸味、風味の成分も印象に影響します。
糖度の数字だけで、甘さや好みを予測することはできません。比率と甘さの関係は、果糖とブドウ糖の比率が決める甘さで整理しています。
冷やすと甘く感じる、という話との関係
果糖は温度によって甘さの感じ方が変わる糖としても知られ、冷たいほうが甘く感じられやすいと言われています。同じはちみつでも、冷えた状態と常温では印象が違うことがあるわけです。
ここにも糖度とのずれがあります。屈折計の数字は温度で補正して水分量の目安を示すものですが、舌が感じる甘さは温度でも変わります。測定値と味わいは、別々の物差しだと考えておくと混乱しません。
糖度と水分活性——腐りにくさを語るのはどちらか
はちみつの腐りにくさを語るなら、糖度よりも水分活性の方が適しています。水分活性とは、食品の中の水のうち、微生物が利用できる自由な水の度合いを示す指標です。糖度は「どれだけ溶けているか」、水分活性は「菌が水を使えるか」を表します。
糖度は「どれだけ溶けているか」、水分活性は「菌が水を使えるか」
はちみつでは、水の多くが糖と強く結びついているため、微生物が使える自由な水がごくわずかです。この状態が、はちみつが腐りにくいと言われる大きな理由のひとつです。
糖度は濃さの目安にはなりますが、水の自由さそのものを測る数字ではありません。腐りにくさの説明には、水分活性という物差しを使う方が筋が通ります。両者の違いは糖度と水分活性の違いでも取り上げています。
糖度が下がると発酵の心配が出てくる理由
開封後のはちみつは、空気中の水分を吸うことがあります。水分が増えれば糖度は下がり、微生物が使える水も増えていきます。その結果、酵母による発酵が起きやすい状態に近づきます。
腐りにくい性質は、水分が少ないという条件の上に成り立っています。その条件が崩れれば、性質も崩れます。保存中に糖度が下がる流れは、保存中に糖度が下がる理由に詳しく書いています。
| 指標 | 示すもの | 向いている説明 |
|---|---|---|
| 糖度(Brix) | 屈折率から換算した濃さ | 水分量の目安 |
| 水分活性 | 微生物が使える水の度合い | 腐りにくさ |
花の蜜の糖度と、はちみつの糖度は何が違うのか
花の蜜はもともと薄く、ミツバチが巣の中で水分を飛ばして濃縮することで、はちみつの糖度に近づきます。同じ蜜でも、花にあるときと巣の中で仕上がったときでは、数字は大きく違います。
薄い蜜を濃くする巣の中の仕事
花の蜜は水分が多く、ほとんどが水に近いほどのものもあります。ミツバチは持ち帰った蜜を巣の中で加工し、羽ばたきで風を送るなどして水分を減らしていくと言われています。同時に、蜜に含まれる糖が分解されて果糖とブドウ糖が増え、組成も変わっていきます。
この過程を経て、蜜は保存に耐える濃さに近づきます。成分の変化は、花の蜜がはちみつになるまでの成分の変化で詳しく説明しています。
屈折計は熟成の目安としても使われる
養蜂の現場では、屈折計は蜜が十分に濃縮されたかどうかを見る目安として使われると言われています。水分が多いうちに採ると、のちの保存で発酵しやすくなるためです。
ここでも、糖度は品質の優劣ではなく、水分量を知るための道具としての数字です。濃縮の見きわめの考え方は、先ほどの糖度の基準と熟成の見きわめで扱っています。
ラベルや販売ページの「糖度」表記を読むときの手順
糖度の表記を見たら、水分量の言い換えとして読み、同時に商品の名称と原材料も確かめます。数字だけを見て良し悪しを決めないことが、いちばんの要点です。
「糖度◯度」は水分量の言い換えとして読む
まず、糖度の数字を「糖の割合」ではなく「水分の少なさの目安」として受け取ります。次に、可能なら次の点を確かめます。
- どの方法で測った数字か(屈折計によるBrixか、水分の目盛りか)
- 温度補正がされているか
- 結晶していない状態で測ったか
これらが書かれていない場合、数字の背景は読み取れません。数字が高いことを根拠に、優れていると判断するのは避けた方が安全です。
名称欄・原材料名で純粋はちみつかを先に確かめる
糖度の数字より前に、名称欄と原材料名を確かめます。純粋なはちみつなのか、加糖や精製のものなのかは、数字ではなく表示で分かれるからです。ラベルの見分け方は、純粋・加糖・精製のラベルの見分け方にまとめています。
食べ方の注意:1歳未満の乳児には与えない
はちみつは、1歳未満の乳児には与えないでください。乳児ボツリヌス症の原因になりうるためで、消費者庁や厚生労働省が注意を呼びかけています。加熱しても、あるいは糖度が高くても、この注意は変わりません。理由は1歳未満にはちみつを与えてはいけない理由で説明しています。
よくある質問
Q:はちみつの糖度80度は、糖が80%入っているという意味ですか?
厳密にはそうとは言えません。Brixはショ糖水溶液を基準にした換算の目安で、はちみつの実際の糖組成とはずれがあります。糖の含有割合ではなく、水分量の言い換えとして読むのが実用的です。
Q:結晶したはちみつも屈折計で測れますか?
そのままでは正確に測れません。結晶部分は光の読みを乱し、液の部分だけを測ると、瓶全体より水分を高めに読むおそれがあります。溶かして均一にしてから測るのが原則です。
Q:糖度が高いはちみつほど甘いのですか?
そうとは限りません。甘さの感じ方は、果糖とブドウ糖の比率、温度、香りや酸味などでも変わります。同じ糖度でも花によって印象が違うため、糖度だけでは甘さは決まりません。
Q:糖度が高ければ腐らないと考えてよいですか?
そう単純ではありません。腐りにくさは、水分活性や酸性度などが重なって成り立つ性質です。開封後に空気中の水分を吸うと糖度は下がりうるため、フタをしっかり閉めるなど保存の手当てが必要です。
六角門は、京都で養蜂を軸にした暮らしの健康ブランドを準備しています。蜜蜂を迎える前のいまは、はちみつや養蜂について調べたことを、こうした読みものにまとめています。数字の読み方のような小さなことも、確かめながら整えていきたいと考えています。