この記事の要点

  • はちみつの色と香りの違いは、糖と水を除いた1〜2%ほどの微量成分が、蜜源の花ごとに異なることから生まれます。
  • はちみつの色は、USDA(米国農務省)の分類で7段階のPfundスケールにより測られ、FAOは濃色蜜、とくに甘露蜜でミネラルが最も豊富としています。
  • そば蜜特有の麦芽様の匂いは、3-メチルブタナールが主因とみられると日本食品科学工学会誌で報告されています。
  • 花の名前をつけて表示できるのは、公正競争規約により、その花から全部または大部分を採蜜し、花の特徴を有し、採蜜国名を表示する場合に限られます。

店頭に並ぶ瓶を見比べると、アカシア(ニセアカシア)のように淡い黄色のものもあれば、ソバのようにほとんど黒に近い褐色のものもあります。同じはちみつのはずなのに、なぜここまで違うのか。濃い色は古いからではないか、何か混ぜているのではないか。そう感じて手が止まった経験のある人は、きっと少なくないと思います。色と香りの違いを、出典のある物差しに置き換えながら整理していきます。

淡い金色から黒褐色まで、色の異なる蜂蜜の瓶が朝の光の中で一列に並んでいる淡彩イラスト

糖8割は同じなのに、なぜこんなに違うのか

はちみつの色と香りの違いは、糖と水では説明がつきません。違いを生んでいるのは、糖と水を除いた1〜2%ほどの微量成分です。

どのはちみつも骨格は糖と水

はちみつとは、蜜蜂が集めた花の蜜を巣の中で加工し、貯蔵したものです。成分の骨格は糖で、全体のおよそ8割を占めます。残りの大部分は水分で、全国はちみつ公正取引協議会の組成基準では、水分は20%以下(国産は22%以下)とされています。

ソバの蜜でもアカシアの蜜でも、この骨格に大きな差はありません。糖と水の割合や酵素の働きといった全体像は、はちみつの成分の全体図(糖8割・水2割と残り1〜2%)で整理しています。花の蜜が巣の中でどう変わっていくかは、花の蜜がはちみつになるまでの成分の変化に書きました。

個性は残り1〜2%に宿る

微量成分とは、含まれる量はわずかでも、色や香りに大きく響く成分の総称です。ミネラル、色素、ポリフェノール、揮発して香りになる成分などが含まれます。

蜜源植物が違えば、蜜に含まれるこうした成分の顔ぶれも変わります。ここに、はちみつが「花の個性」を帯びる理由があります。ただしFAO(国連食糧農業機関)は、色や香味をつくる物質の多くはなお未同定だとしています。何がどれだけ入っているのか、すべてが解き明かされているわけではありません。

色の違いは7段階で測られている——Pfundスケールという物差し

はちみつの色は、感覚ではなく数値で測る物差しがあります。USDA(米国農務省)の色分類は、Pfundスケールにもとづく7段階です。

USDAの7段階とPfund値

Pfundスケールとは、はちみつの色の濃さをmm単位の値で表す物差しです。FAO(国連食糧農業機関)の資料によると、USDAの分類は無色透明に近いwater whiteから、最も濃いdark amberまでの7段階に分かれます。water whiteは0〜8mm、dark amberは114mm超です。数字が大きいほど色が濃いことを示します。

この物差しがあると、「濃い」「薄い」という曖昧な言葉を、同じ基準で比べられるようになります。

ヒマワリは鮮黄、クリは赤み——蜜源が決める色

FAOは、色は植物起源、時間、保存条件によって変わると説明しています。植物起源、つまり蜜源が最初の決め手になります。

蜜源色の傾向出典
ヒマワリ鮮黄FAO
クリ赤みを帯びるFAO
ユーカリ灰色がかるFAO
ソバ色の濃いはちみつの蜜源として挙げられる京都府消費生活安全センター

同じ「黄色っぽい」「茶色っぽい」でも、蜜源によって色の方向まで違います。瓶の色は、花の名前が透けて見える手がかりのひとつです。

色が濃いはちみつは何が多いのか——ミネラルという手がかり

濃色のはちみつには、ミネラルが多い傾向があります。FAOは、濃色蜜、とくに甘露蜜でミネラルが最も豊富だとしています。甘露蜜とは、花の蜜ではなく、樹液を吸う昆虫が出す甘い分泌物を蜜蜂が集めてできるはちみつです。

この記事では成分の話にとどめ、体への働きには触れません。ミネラルの多さは、色と味の個性を読み解くための手がかりとして見ていきます。

ソバ蜜の鉄分と、紅茶が黒くなる小さな化学

京都府消費生活安全センターの解説によると、日本食品標準成分表2015年版では、はちみつ100gあたりの鉄は0.2mgとされています。同じ解説は、ソバなどを蜜源とする色の濃いはちみつは鉄分が多く、紅茶に入れるとタンニンと結びついてタンニン鉄ができ、黒く変色すると述べています。害はなく、色の薄いはちみつでは変色しないとも書かれています。

つまり、紅茶の中で黒ずむかどうかは、はちみつの鉄分の違いを目で確かめる小さな実験のようなものです。詳しくは紅茶にはちみつを入れると黒っぽくなる理由にまとめています。

濃い色=劣化とは限らない、劣化で濃くなる場合もある

濃い色のはちみつは、多くの場合、蜜源そのものが濃い色を持っているだけです。ソバやクリのように、最初から濃色になる花があります。

一方で、FAOが色を左右する要因に「時間」と「保存条件」を挙げているとおり、瓶の中で時間がたつうちに色が濃くなる場合もあります。濃いから劣化、薄いから新鮮と、色だけで決めつけることはできません。

香りはどこから来るのか——蜜源由来の香気成分

はちみつの香りは、蜜源の花に由来する成分が生みます。蜜源ごとに固有の香りが、特定の化合物から生まれている例が、そば蜜の研究で示されています。

そば蜜の個性は3-メチルブタナール——研究が特定した匂いの主因

香気成分とは、鼻に届いて香りとして感じられる、揮発しやすい成分のことです。

日本食品科学工学会誌(加島ほか、63巻10号、2016年)は、そば蜂蜜特有のmalty flavor(麦芽様の匂い)の主因とみられる成分を、3-メチルブタナールと報告しています。同じ報告の関連では、吸着材や膜処理でこの成分を減らす研究も行われています。ソバの蜜の独特な匂いは、雰囲気ではなく、名前のついた化合物で語れるということです。

多くの香り成分はまだ未同定という事実

3-メチルブタナールは、あくまで一例です。FAOは、色や香味をつくる物質の多くはなお未同定だとしています。

そば蜜のように主因が絞り込まれた例はむしろ少数で、ほかの多くの蜜源では、香りの正体はまだ見えていません。花の香りを思わせるはちみつも、複数の成分が重なり合って生まれているはずです。「アカシアの香りはこの成分」と言い切れる段階には、まだないと考えたほうが正確です。蜜源植物と味の関係は、はちみつの味は蜜源植物で決まるという考え方でも触れています。

「色が濃いほど味も香りも強い」はどこまで本当か

色が濃いほど味や香りが強い傾向は、目安にはなりますが、あらゆる場面で当てはまるわけではありません。ここからは出典のある事実に、筆者の考察を重ねて整理します。

目安になる場面、外れる場面

色をつくる成分と、香りをつくる成分は、別の物質であることが多いと考えられます。色の濃さは香りの強さを直接測る物差しではなく、あくまで間接的な手がかりです。

場面目安が当てはまりやすいか
濃色の蜜源(ソバなど)を、淡色の蜜源と比べる当てはまる例が多い(考察)
同じ色でも、蜜源が違う蜜どうしを比べる外れやすい
保存で色が変わった蜜を、買った当初の味と比べる外れうる

買ったときより濃くなった——時間と保存条件の影響

FAOが時間と保存条件を色の変化要因に挙げているため、買ったときより色が濃くなったこと自体は、自然な変化と考えられます。

ただし、色が変われば風味も変わる可能性があります。「色が濃くなった=強い香りになった」とは限りませんし、その逆もありえます。加熱による風味の変化は加熱で変わるはちみつの風味で別に整理しています。保存中の色の変化と、蜜源由来の濃さは、分けて見るのが安全です。

その香りはラベルでどう確かめるか——単花蜜表示のルール

「ソバ」「クリ」といった花名を表示できるのは、全国はちみつ公正取引協議会の規約が定める条件を満たした場合だけです。ラベルの花名は、香りの由来を確かめる一次的な手がかりになります。

花の名前を書ける条件

単花蜜とは、特定の1種類の花を主な蜜源とするはちみつです。はちみつ類の表示に関する公正競争規約は、花名を1つ表示できる場合を、次の三つを満たすときに限っています。

  • その花から全部または大部分を採蜜していること
  • その花の特徴を有していること
  • 採蜜国名を表示すること

また、規約で「純粋」とは、はちみつ類以外が混入していないことを意味します。純粋であることと、単花蜜であることは別の話です。表示のルールは単花蜜と百花蜜の違いと表示ルールでも読み解いています。

百花蜜は「劣る」ではなく「その土地の花ごよみ」

百花蜜とは、複数の花の蜜が混じったはちみつです。花名がなくても、質が劣るという意味ではありません。

季節ごとに咲く花が違えば、蜜の組み合わせも変わります。百花蜜には、その土地のその時期に咲いていた花の記録が映りこんでいます。単花蜜が「ひとつの花の輪郭を味わう」ものなら、百花蜜は「土地の花ごよみを味わう」もの。優劣ではなく、楽しみ方の違いだと考えています。

台所での楽しみ方——淡い蜜と濃い蜜の使い分け

淡色の蜜は素材の味を邪魔しにくいので、そのままや飲み物に。濃色の蜜は個性が立つので、料理や焼き菓子に。この使い分けは、一般的な目安として紹介されることが多いものです。

色の傾向向くと言われる使い方
淡い色そのまま、飲み物、ヨーグルトなど
濃い色料理の味つけ、焼き菓子など

食べ比べの小さな作法

食べ比べるなら、白い小皿に少量ずつ取ると、色の違いがはっきり見えます。口に含む前に香りを確かめ、次の蜜に移るときは水で口をゆすぐと、前の蜜の余韻が残りにくくなります。ラベルの蜜源名と、色、香りをメモしておくと、あとから自分の好みの傾向が見えてきます。

準備を進めるなかで、こうした比べ方の型を、これから丁寧に確かめていきたいと思っています。

1歳未満の赤ちゃんには与えない

1歳未満の乳児には、はちみつを与えないでください。乳児ボツリヌス症を防ぐため、消費者庁・厚生労働省が周知している重要な注意喚起です。はちみつそのものはもちろん、はちみつを使った飲み物や食べ物も避けるよう呼びかけられています。詳しくは1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由をご覧ください。

よくある質問

Q:色が濃いはちみつのほうが栄養があるのですか?

FAOは、濃色蜜、とくに甘露蜜でミネラルが最も豊富だとしています。成分の傾向としてはそう言えますが、体への働きについては、この記事では述べません。色の濃淡は、栄養の優劣ではなく、蜜源が持つ個性の違いとして見るのがよいと考えています。

Q:買ったときより色が黒っぽくなったのは劣化ですか?

FAOは、色は植物起源のほか、時間と保存条件でも変わるとしています。時間がたって色が濃くなること自体は、自然な変化と考えられます。風味が変わる場合はありますが、色が濃くなったからといって、直ちに劣化とは言えません。

Q:そばはちみつの独特なにおいは何ですか?

日本食品科学工学会誌(加島ほか、63巻10号、2016年)は、そば蜂蜜特有のmalty flavor(麦芽様の匂い)の主因とみられる成分として、3-メチルブタナールを報告しています。

Q:色が薄くてサラサラなのは偽物ですか?

色の薄さは、アカシアなど、蜜源そのものが持つ個性です。偽物かどうかの手がかりにはなりません。ラベルの花名が、はちみつ類の表示に関する公正競争規約の条件(全部または大部分の採蜜、花の特徴、採蜜国名の表示)を満たしているかを確認するのが確実です。

六角門は、京都で養蜂を主軸にした事業を準備しているブランドです。巣箱も採蜜もこれからで、いまは蜜源や香りの成り立ちについて、公開情報を調べて整理している段階です。「治す」より「ととのえる」という考え方のもと、日々の食卓で楽しめるはちみつの知識を、ここで少しずつ書き溜めていきます。

家で色を見比べるときのつまずきどころ:容器・光・結晶

Pfundスケールのような物差しがあるとはいえ、家で瓶を並べて「こっちが濃い」と比べるときには、見え方がずれる要因がいくつかあります。色の違いを蜜源の違いとして読むなら、先にこのずれを取り除いておくのがよいと思います。

容器の太さで見え方が変わる

はちみつは光を通す液体なので、光が通る厚みが増すほど色は濃く見えます。Pfundの測色器も、くさび形の容器に入れた蜜を基準の色ガラスと見比べる仕組みです。厚みをそろえないと、色の比較が成り立たないということです。

太い瓶と細い瓶をそのまま並べると、同じ蜜でも太い瓶のほうが濃く見えやすくなります。比べるときは、既存の節で触れた白い小皿に加えて、同じ形の透明なグラスやスプーンに同じくらいの量を取ると、厚みの差を減らせるかなと思います。

光の色と背景

電球色の照明の下では、全体が黄色や赤みに寄って見えます。ユーカリの灰色みやクリの赤みのような「色の方向」を見たいなら、昼間の窓辺のような自然光のもとで、白い背景に置いて見るほうが比べやすいはずです。

結晶した蜜は白っぽく見える

はちみつは保存中に結晶して白く濁ることがあります。結晶すると光が散らばるため、液体のときより淡く見えるのが一般的です。結晶した蜜と液状の蜜を並べて「こちらは淡色蜜」と判断するのは、つまずきやすい点だと思います。色を比べるのは、どちらも液状のときにしたほうが確かです。

香りを確かめる手順:温度と順番で感じ方が変わる

既存の節で書いたとおり、香りは揮発する成分が鼻に届いて感じられるものです。揮発のしやすさは温度で変わるので、香りの比べ方にもいくつか気をつけたい点があります。

冷えた蜜は香りが立ちにくい

冷えた蜜は香り成分が揮発しにくく、香りが弱く感じられることがあると考えられます。冷蔵庫から出したばかりの蜜と、室温に置いた蜜を比べると、蜜源とは関係のない差が出てしまいます。比べる蜜は同じ場所に置いて温度をそろえ、小皿に取ってから少し時間をおくと、条件が近づくかなと思います。

「かぐ」と「含む」は別の情報

瓶の口から直接かいだ香りと、口に含んだときに喉から鼻へ抜ける香りは、感じ方が違うことがあります。メモを取るなら、「かいだ香り」と「含んだあとの余韻」を分けて書いておくと、あとで蜜源ごとの違いを比べやすくなるかなと思います。

色や香りの変化と一緒に見たいサイン

時間がたって色が濃くなること自体は自然な変化だと、既存の節で触れました。ただ、色以外の変化が一緒に起きているときは、少し注意して見たほうがよいと思います。

泡・酸っぱいにおい・層の分離

はちみつは水分が少ないことで保存性が保たれている食品です。開封後に水分が入ったり、湿気の多い場所に置いたりすると、発酵が進むことがあるとされています。表面に細かい泡が出ている、酸っぱいにおいやお酒のようなにおいがする、上のほうに液状の層が分かれているといった様子は、色の濃さとは別に見ておきたいサインです。

においの強い食品の近くに置かない

はちみつは周りのにおいを吸いやすいといわれます。においの強い食品の近くでふたを開けたままにしておくと、蜜源由来ではない香りが混じるおそれがあります。香りを楽しみたい蜜ほど、ふたをしっかり閉めて保存するのがよいと思います。

迷ったら販売元に確かめる

ここに挙げたのは、あくまで目で見て気づくための一般的な目安です。食べてよいかどうかを家庭で確実に見分ける方法ではありません。気になる変化があるときは無理に食べず、ラベルに書かれた販売元に問い合わせるのが確実かなと思います。