この記事の要点
- 水分活性は、はちみつと釣り合う空気の湿度を100で割った値で、部屋の湿度と同じものさしで比べられます。
- FAO(国連食糧農業機関)の表では、水分18.3%のクローバー蜜は湿度60%を超える空気から水分を吸います。
- 吸った水分はまず表面に溜まります。水分活性0.7を超えると表面に酵母が出たという研究報告があります。
- 一晩の開けっ放しなら、見た目・におい・泡を確かめて判断します。異変があれば食べません。
ふたを開けたまま一晩置いたはちみつが、翌朝なんだか表面だけゆるく見える。そう感じたとき、湿気を吸ったのか、気のせいなのか、まだ食べてよいのかが気になります。
この疑問は、「水分活性」という一つの数字を使うと整理できます。瓶の中のはちみつと、台所の空気を、同じ目盛りで見比べられるからです。

水分活性と部屋の湿度は、同じものさしで比べられる
水分活性とは、食品の中の水が、どれだけ自由に動ける状態にあるかを表す数字です。はちみつと釣り合う空気の相対湿度を100で割った値にあたり、湿度65%と釣り合うなら水分活性は0.65になります。
水分活性は「水の自由さ」の数字
はちみつには水分が15〜20%ほど含まれますが、その水の多くは糖と強く結びついています。そのため含まれる水の量が同じでも、微生物が使える水は多くありません。この「使える水の度合い」が水分活性です。糖度との違いは、糖度と水分活性の違いで詳しく扱っています。
瓶の中と空気が釣り合うまで、水は動き続ける
ふたを開けた瓶は、空気と水のやり取りができる状態です。空気の湿度が、はちみつの水分活性に換算した値より高ければ水は瓶に入り、低ければ出ていきます。両者が等しくなるまで動きは止まりません。部屋の湿度という身近な数字が、そのまま瓶の行き先を決めるわけです。
なぜ吸うのか——果糖が多い濃い糖液の性質
はちみつが湿気を吸うのは、糖が約8割を占める濃い液が、普通の室内の空気よりずっと「乾いた」状態にあるからです。乾いた側へ向かって、水は移動します。
砂糖は湿気にくく、はちみつは湿気を吸う
同じ甘いものでも、乾いた砂糖の結晶は湿気をあまり吸いません。結晶は水と触れる面が少なく、水が入り込む余地がないためです。はちみつは液体で、しかもぶどう糖より水に溶けやすい果糖が多く含まれます。吸湿性の細かなしくみは、はちみつの吸湿性そのもののしくみにまとめました。
腐らない性質の裏返しとしての吸湿
はちみつが腐りにくいのは、水が自由に動けないほど糖が濃いからだと言われています。吸湿は、その性質の裏返しです。水を強く引き寄せる液だから微生物が育ちにくく、同じ理由で、空気中の水も引き寄せます。
ただし、水が増えれば腐りにくさは弱まります。水で薄めると腐らない性質が消える境目があるのは、このためです。
湿度何%から吸い始めるのか——FAOの対応表を読む
部屋の湿度と、瓶の中の蜜を並べて見る
吸い始める湿度は、はちみつの水分によって決まります。FAO(国連食糧農業機関)は、水分18.3%以下のはちみつは、湿度60%を超える空気から水分を吸うと示しています。
湿度と水分の対応表
FAOが示す、クローバー蜜の水分と釣り合う相対湿度は次のとおりです。
| 相対湿度 | 釣り合う水分 |
|---|---|
| 50% | 15.9% |
| 55% | 16.8% |
| 60% | 18.3% |
| 65% | 20.9% |
| 70% | 24.2% |
| 75% | 28.3% |
| 80% | 33.1% |
表のとおり、湿度が5ポイント上がるごとに、釣り合う水分は2〜5ポイントずつ増えていきます。湿度が高いほど増え幅が大きい点も読み取れます。蜜源が違えば値も多少変わるので、クローバー蜜の表は目安として見るのが妥当です。
湿度65%で、すでに水分20%を超える
全国はちみつ公正取引協議会の「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」では、はちみつの水分は20%以下とされ、国産はちみつは22%以下とされています。FAOの表では、湿度65%の空気と釣り合う水分は20.9%で、この基準をすでに超えます。つまり、湿度65%の部屋に長く置けば、瓶のはちみつは規約の水分基準を超える方向へ向かうことになります。
京都の台所の湿度で考える
台所の空気は、一年のほとんどの期間で、はちみつが水を吸い始める湿度を上回っています。
月平均湿度が60%を下回るのは4月だけ
気象庁の京都の平年値では、月平均の相対湿度は1月67%、2月65%、3月61%、4月59%、5月60%、6月66%、7月69%、8月66%、9月67%、10〜12月68%、年平均65%です。FAOの目安である60%を下回るのは4月だけで、5月はちょうど境目、それ以外の月は上回ります。
ここで見ているのは月平均です。実際の室内は、暖房や調理、天気で上下します。それでも、乾燥した季節のほうが少ないという傾向は、台所でも大きくは変わらないと考えられます。
梅雨と夏の台所、浴室に近い棚は一段高い
6〜7月は、平年値でも湿度が高い時期です。7月の69%は、FAOの表でいえば水分20%台前半と釣り合う湿度にあたります。さらに、湯気の出るコンロの脇や、浴室に近い棚、シンクの真上は、部屋の平均より湿度が高くなりがちです。はちみつ 梅雨 保存の悩みが多いのは、このためだと思われます。
吸った水はどこへ行くのか——表面から先に変わる
吸われた水分は、瓶全体に均等に広がるわけではなく、まず空気に触れている表面に溜まります。
瓶全体の平均と表面の水分は違う
はちみつは粘りが強く、水が下へ混ざり込むにはとても時間がかかります。そのため、空気に触れる表層だけ水分が上がり、中ほどや底はほぼ元のままという状態になりえます。瓶全体の平均で見れば大きな変化がなくても、表面の薄い層だけは水分活性が上がっていることがあります。「表面だけゆるい」という感覚は、このしくみで説明がつきます。
水分活性0.7を超えると表面に酵母が出たという研究
Journal of Apicultural Science に載った Arslan と Turhan の研究(2022年)は、松の甘露蜜と柑橘の花蜜を、20・30・40℃、湿度10〜95%の条件に最長90日置いて調べたものです。報告によると、どの温度でも水分活性が0.7を超えると試料の表面に酵母が目に見えて現れ、0.7が酵母の出る・出ないの境目になりました。0.7より下では水分を放し、上では吸ったとされます。温度の影響は、統計的に有意ではありませんでした。
水分活性0.7は湿度70%と釣り合う状態で、FAOの表なら水分24.2%にあたります。この研究では、糖を好む耐浸透圧性酵母が、表面から出やすいことが示されています。ただし、これは長期の条件を変えた実験での報告です。一晩の開けっ放しで同じことが起きると決めつけるものではありません。
開けっ放しにしてしまったら——瓶を見て決める手順
泡やにおいは、食べる前に確かめたいサイン
判断は、見た目・におい・泡という、目で確かめられる条件で分けます。食べられるかどうかを外から断定することはできないので、迷ったときは食べない側に倒します。
一晩程度で見た目が変わらないなら
表面のつやや粘りがいつもと変わらず、泡も酸っぱいにおいもなければ、ふたを閉めて、乾いたスプーンで早めに使い切る方向で考えます。FAOは、水分18%未満なら発酵の心配はほとんどないとしていますが、湿気を吸った分は水分が増えているので、長期保存には回さないほうが無難です。
表面がゆるい・泡・酸っぱいにおいがあるなら
表面だけゆるく、泡やにおいがなければ、全体をよく混ぜて早めに使います。一方、細かい泡、白っぽい膜、酸っぱいにおいやアルコールのようなにおいがあれば、発酵が進んでいる可能性があります。その場合は表面だけでなく瓶ごと食べないようにします。見分け方は、泡立ちや酸っぱいにおいの見分け方で扱っています。
結晶した瓶は液の部分を特に見る
FAOは、結晶化すると液の部分の水分が上がり、発酵しやすくなると述べています。結晶化は水分の少ないぶどう糖から進むため、残った液が相対的に薄まるからです。結晶した瓶を開けっ放しにしたときは、上の液の部分を特に注意して見てください。しくみは、結晶した瓶で液の部分が発酵しやすくなる理由に書きました。
| 瓶の状態 | 目安 |
|---|---|
| 見た目・においに変化なし | ふたを閉め、早めに使う |
| 表面がゆるいだけ | よく混ぜて早めに使う |
| 泡・酸っぱいにおい・膜 | 表面に限らず食べない |
ふたを閉める意味と、台所での手当て
ふたを閉める第一の理由は、虫よけではなく湿気よけです。全国はちみつ公正取引協議会も、開封後は吸湿性があるので、きちんとフタをしめ、高温多湿を避けて保存するとよいと案内しています。常温で保存し、賞味期限内に食べるのがよいとも述べています。
閉めるのは虫よけではなく湿気よけ
ふたの役目は、空気との水のやり取りを止めることです。使うたびに短時間で閉める習慣が、水分活性を保ついちばん確実な手当てになります。
乾いたスプーン、湯気の立たない棚
濡れたスプーンを入れると、水を直接持ち込むことになります。使うスプーンは乾いたものにしてください。置き場所は、コンロや浴室から離れた、湯気の立たない棚が向いています。梅雨や夏は、特に意識したいところです。
1歳未満の乳児には与えない
消費者庁は、はちみつには熱や乾燥に強いボツリヌス菌の芽胞が混じっていることがあり、腸内環境が整っていない1歳未満の乳児には与えてはいけないと注意を呼びかけています。乳児ボツリヌス症を防ぐためで、はちみつと、はちみつを含む食品には、1歳未満に与えない旨の表示が必要とされています。湿気を吸ったかどうかにかかわらず、この点は変わりません。背景は1歳未満にはちみつを与えてはいけない理由にあります。
よくある質問
Q:はちみつのふたを一晩開けっ放しにしました。食べても大丈夫ですか?
見た目、におい、表面のゆるさを確かめます。つやや粘りに変化がなく、泡や酸っぱいにおいもなければ、ふたを閉めて早めに使うのが一つの手順です。少しでも異変があれば食べないでください。
Q:冷蔵庫に入れれば湿気を吸わないのでは?
冷やすと結晶しやすくなり、出し入れのたびに瓶の外側や表面に結露もします。基本は常温で、ふたをきちんと閉めて保存することです。
Q:湿気を吸ったはちみつは、天日に当てると戻りますか?
家庭で水分を確実に飛ばす方法はありません。日光に当てたり加熱したりすると、風味を損なうことがあります。
Q:表面だけ水っぽいとき、混ぜればよいですか?
泡やにおいがなければ、よく混ぜて早めに使います。泡や酸っぱいにおいなどの異変があるときは、表面に限らず食べません。
Q:湿度が何%を超えるとはちみつは水分を吸いますか?
FAOの表では、水分18.3%のクローバー蜜は、湿度60%を超える空気から水分を吸います。もとの水分や花の種類によって、この数字は変わります。
六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドの立ち上げを準備しています。蜜蜂を迎える前の今は、はちみつや養蜂について、公開されている情報を調べ、読みものとしてまとめているところです。暮らしを少しずつととのえるための材料として、これからも確かめたことを書いていきます。