この記事の要点

  • はちみつが腐らないのは成分の特別さではなく、糖が約8割という濃さに支えられているからです。
  • 水を足すと水分活性が上がり、ショ糖水の目安では糖濃度が約58%を下回ると細菌が育てる領域に入ります。
  • はちみつ水やはちみつ湯は腐らない食品ではなくなるため、その日のうちに飲み切るのが基本です。

台所の棚の奥で朝の光を受けて静かに佇む、透明な蜂蜜の瓶。濃いまま変わらない状態を思わせる

結論:腐らないのは「濃いまま」だから——水を足した時点で守りは外れ始める

はちみつは腐らないと言われますが、水で溶いた飲み物には当てはまりません。腐りにくさは、はちみつという物質の性質ではなく、糖が濃く詰まった状態の性質だからです。

腐らないのは濃さの性質

全国はちみつ公正取引協議会のよくある質問ページは、はちみつが長期間腐らない理由として、糖度が約8割と高いこと、水分活性が低いこと(0.5〜0.8)、酸性(pH3.2〜4.9前後)であることを挙げています。三つのうち中心になるのは、糖と水分活性です。水を足せば、この土台が真っ先に変わります。

はちみつ水は食品としては別物

はちみつ水とは、はちみつを水や湯で溶いた飲み物のことです。瓶の中のはちみつと同じ食品として扱うと、判断を誤ります。全国はちみつ公正取引協議会の規約が定める組成基準は、水分20%以下(国産は22%以下)という瓶詰めのはちみつを対象にしたもので、水で割った飲み物は対象外です。濃さの前提が崩れた液体は、果汁やシロップに近い、傷みうる飲み物として考えるのが安全です。はちみつがなぜ腐らないのかは、はちみつはなぜ腐らないのかでも整理しています。

はちみつの守りは三つ——水を足すと外れるもの、残るもの

三つの守りのうち、水を足して外れるのは水分活性と浸透圧です。酸性はほぼ残り、過酸化水素はむしろ生じやすくなります。ただし最後のものは、保存の保証にはなりません。三つの守りの全体像は、糖と水・酸・過酸化水素、三つの守りに譲ります。

外れるもの:水分活性と浸透圧

浸透圧とは、水が濃度の低い側から高い側へ移ろうとする力のことです。農研機構の『畜産技術』(J-STAGE、2018年4月号)には、高い糖濃度と浸透圧が細菌を脱水させる、という趣旨の説明があります。糖が濃いほど微生物の細胞から水が奪われ、育てません。水を足してこの差が小さくなれば、脱水の力も弱まります。

ほぼ残るもの:酸性(pH約3.9)

農研機構の同資料では、はちみつのpHは平均約3.9(3.2〜4.5)です。水を足しても酸そのものが消えるわけではないので、酸性の守りは多少残ります。とはいえ、酸性に強い酵母やカビは多く、酸性だけで傷みを止められるとは言えません。

増えるもの:薄まると働く過酸化水素

国連食糧農業機関(FAO)の資料によると、はちみつに含まれるグルコースオキシダーゼという酵素は、濃いはちみつではほとんど働かず、薄まると抗菌に働くとされます。この働きは、第5章で扱うように、保存の保証としては頼れません。

水分活性の数字で見る、守りの変わり目

微生物の増えやすさは、水分の量ではなく水分活性で決まります。細菌は0.90、酵母は0.88、カビは0.80を下回ると増えられなくなります。数字の出どころは、愛知県産業技術研究所 食品工業技術センターの資料です。

水分活性は水の自由さ

水分活性とは、食品の中の水のうち、微生物が使える自由な水の割合を示す物差しで、0から1の間の値をとります。同センターの資料は、食品の変質は水分含量そのものではなく、水の自由さで決まると説明しています。糖が水をしっかり抱え込んでいれば、同じ水分量でも微生物は使えません。糖度と水分活性の違いは、糖度と水分活性はどう違うのかで詳しく扱っています。

細菌・酵母・カビの下限

同センターの資料にある、増殖の下限を表にまとめます。

微生物水分活性の下限
細菌0.90
酵母0.88
カビ0.80

ショ糖水では、濃度58.4%で水分活性0.90、67.2%で0.85に対応します。はちみつの糖は主に果糖とぶどう糖で厳密には同じではありませんが、目安としては十分に使えます。

瓶の中は水分約2割で守られている

瓶のはちみつの水分は、前述の規約で20%以下(国産は22%以下)です。FAOは、水分18%未満なら発酵の危険がほとんどなく保存できるとしています。その一方で、水分18.3%以下のはちみつは相対湿度60%を超える空気から水分を吸い、湿度55%で水分16.8%、65%で20.9%と釣り合うとも述べています。瓶の中の守りは、思ったより繊細です。保存中に糖度が下がる経路は、保存中に糖度が下がる湿気の話にあります。

はちみつ100gに水を何g足すと境目に届くか——概算の計算

朝の台所で、蜂蜜の瓶と水の入った計量カップ、小さなスプーンが並ぶ。水を足して薄める前の場面 濃さを保つか、水を足すか。その分かれ目

糖が約8割のはちみつ100gに、水を約37g足すと、ショ糖水の目安で細菌の下限に届きます。ここでは、愛知県産業技術研究所の対応表をそのまま当てはめた概算です。

計算の考え方と前提

はちみつの糖を約80g(全国はちみつ公正取引協議会の言う約8割)とし、糖の量は変わらず水だけが増えると考えます。糖濃度58.4%に薄めたときの全体量は、80÷0.584で約137gです。もとの100gとの差、約37gが足す水の量にあたります。

同じ計算を他の目安にも当てはめると、次のようになります。酵母の下限0.88は、58.4%(0.90)と67.2%(0.85)の間を直線で結んだ私の見積もりで、糖濃度は約62%、水は約29gです。

目安糖濃度水の足し量(はちみつ100gあたり)
水分活性0.8567.2%約19g
水分活性0.88(酵母・見積もり)約62%約29g
水分活性0.90(細菌)58.4%約37g

実際のはちみつは糖の組成も水分も一様ではなく、この数字は境目の位置を感覚としてつかむための概算です。

小さじ1杯を湯のみで溶けば確実に超える

仮に、はちみつ20gを水180gで溶いたとします。糖は約16g、全体は200gなので、糖濃度は約8%です。細菌の下限の58.4%と比べて、はるかに薄い状態です。通常の飲み物の濃さなら、境目はとうに超えています。

作り置きは「濃さ」を超えている

はちみつ100gに水が約37gという境目は、おおよそ「水が全体の3割弱」にあたります。飲み物に使う量は、これよりずっと水が多くなります。作り置きは、腐らない濃さの範囲にはまず入りません。

過酸化水素は守りになるのか——薄まると働く酵素の限界

過酸化水素は薄まったはちみつで生じますが、腐らないことの保証にはなりません。生じる量が一定ではないからです。

濃いままでは酵素は静か

過酸化水素とは、酸化力で微生物に作用する物質で、はちみつではグルコースオキシダーゼという酵素が、ぶどう糖から作ります。FAOの資料によると、この酵素は濃いはちみつでほとんど働かず、薄まったときに抗菌に働きます。全国はちみつ公正取引協議会も、薄まった状態で抗菌に関わると説明しています。

生じる量は一定でなく、保存の保証にならない

農研機構の同資料によれば、過酸化水素の量は、グルコースオキシダーゼとカタラーゼ(過酸化水素を分解する酵素)の相対的な水準で決まります。つまり、はちみつごとに量が異なります。さらに、生じた過酸化水素の量が、傷みを抑えるのに足りるかどうかは、本文の出典からは分かりません。そのため、「過酸化水素ができるから作り置きしてよい」とは言えません。

薄めたあとは発酵が先に来る——泡・酸っぱい匂いの見分け方

ふたを開けた蜂蜜の瓶から細かい泡が立ちのぼる朝の台所。発酵が始まったサインを示す 細かい泡は、発酵が始まったサイン

薄めたはちみつ液では、糖を好む酵母による発酵が起こりえます。浸透圧耐性酵母とは、糖の濃い環境でも増えられる酵母のことで、水分が増えると活動しやすくなります。水分と酵母の関係は、はちみつが発酵する水分と酵母の関係で扱っています。

泡・濁り・酸っぱい匂いはやめどき

細かい泡が立つ、液が濁る、酸っぱい匂いやアルコールのような匂いがする。こうした変化は、発酵や雑菌の増殖のしるしです。見つけたら、味見をせずに処分します。もったいなく感じても、迷う時点で飲まない方に倒すのが無難です。

におい・味が普通でも長く置かない

見た目や匂いに変化がなくても、傷んでいないとは限りません。細菌が増えても、においや味に出ないことがあります。そのため、「大丈夫そうだから」と数日置くのは避けた方がよいと考えます。

条件で分ける:はちみつ水・はちみつ湯・はちみつレモンの扱い

扱いは条件で変わりますが、基本はその日のうちに飲み切ることです。日数の断定はできないため、以下は目安として読んでください。

条件扱いの目安
その場で飲む作ったその日のうちに飲み切る
作り置きする冷蔵、清潔な容器、早めに
濃いシロップにする濃さを保てる範囲で。ただし保存性は別途考える

その日のうちに飲み切る

はちみつ水・はちみつ湯・はちみつ入りの紅茶は、飲む分だけ作ります。余りが出そうなら、はじめから量を減らします。

作り置きは冷蔵・清潔な容器・早めに

どうしても作り置くなら、清潔な容器に入れて冷蔵し、できるだけ早く飲み切ります。冷蔵は微生物の増えるスピードを遅らせるだけで、止めるわけではありません。はちみつレモンのように果実が入るものは水分も増えるので、冷蔵が基本です。

濃いシロップを作る場合の考え方

濃いシロップであっても、水分活性は瓶のはちみつより高くなります。前述の表のとおり、水を少し足しただけで酵母の下限に近づきます。濃いから大丈夫と思い込まず、冷蔵と早めの消費を前提にします。

瓶の中に水を入れない——薄まりは瓶の口からも始まる

瓶の中のはちみつにも、水は思わぬ経路で入ります。濡れたスプーンや湿気がその入り口です。

乾いたスプーンを使う

濡れたスプーンを瓶に入れると、水が瓶の中に持ち込まれ、そこから糖度が下がります。FAOが述べるとおり、はちみつは空気中の水分も吸います。使うスプーンは乾いたものにして、蓋はしっかり閉めます。

1歳未満にはちみつ入りの飲み物も与えない

1歳未満の乳児がはちみつを食べると、乳児ボツリヌス症にかかることがあります。厚生労働省は、ボツリヌス菌の芽胞が熱に強く、120℃で4分加熱しても死滅しないとしています。はちみつを使った飲み物も、1歳未満には与えません。理由は、1歳未満に与えてはいけない理由でも整理しています。

よくある質問

Q:はちみつを水で薄めて作り置きしてもいいですか?

薄めた液は腐らない性質を失うので、その日のうちに飲み切るのが基本です。作り置くなら、清潔な容器に入れて冷蔵し、早めに飲み切ります。

Q:はちみつレモンは常温で何日もちますか?

日数は断定できません。果実と水分が入るため、冷蔵が基本です。泡や酸っぱい匂いが出たら、食べずに処分します。

Q:はちみつ水に過酸化水素ができるなら、薄めても腐らないのでは?

過酸化水素が生じる量は一定ではなく、腐らない保証にはなりません。作り置きの根拠にはしないでください。

Q:はちみつ湯や紅茶に入れた飲み物は赤ちゃんにあげてもいい?

1歳未満には与えません。厚生労働省によれば、ボツリヌス菌の芽胞は120℃4分の加熱でも死滅しないため、加熱しても安全にはなりません。

六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。蜜蜂を迎える前の今は、はちみつや養蜂について、公開されている情報を調べ、整理しているところです。ここで書いたのは、そのなかで確かめた一般的な話です。これからも、わかったことを静かに書き留めていきます。