この記事の要点

  • 瓶の下が白い塊、上が透明な液というはちみつは、腐敗ではなく結晶化が途中で止まった状態であることが多いです。
  • 結晶化の際には水が遊離し、液の部分の水分が増えて発酵しやすくなるとFAOは説明しています。
  • 泡や酸っぱい匂いがなければ食べられますが、分離した瓶は放置せず、湯せんで全体を溶かし切るのが基本です。

棚から出したはちみつが、下は白い塊、上は透きとおった液に分かれている。腐ってしまったのか、混ぜれば使えるのか、迷って手が止まる場面です。結論から言えば、この二層は多くの場合、傷んだ姿ではありません。ただ、「放っておいても変わらない」と考えるのも少し違います。液の側で静かに起きていることがあるためです。

この記事では、二層に分かれる理由と、固まった瓶の中で水分がどう動くのかを、公開されている資料をもとに整理します。

瓶の中で二層に——下の白い塊と上の液の正体

二層に分かれたはちみつは、腐敗ではなく、結晶化が途中で止まった姿であることが大半です。結晶化とは、はちみつに含まれる糖の一部が固体の粒になって析出する現象のことです。下に沈む白い部分と上の液は、同じはちみつの中の別の顔といえます。

沈んでいる白い層はブドウ糖の結晶

農林水産省によると、はちみつが白く固まるのは、主成分のうちブドウ糖(グルコース)の作用によるものです。ブドウ糖の多いはちみつほど結晶しやすいとされています。瓶の底に溜まる白くざらついた層が、このブドウ糖の結晶にあたります。

同じく農林水産省は、結晶しても成分が変化したわけではない、と説明しています。見た目や口当たりは変わっても、成分としては別のものに変わったのではない、という整理です。ここでは成分の話にとどめ、体への働きについて何かを示すものではありません。

結晶のしやすさがはちみつごとに違う背景には、糖の比率があります。くわしくは果糖とブドウ糖の比率が決める結晶のしやすさで触れています。

上に残る液は果糖の多い部分

ブドウ糖が結晶になって下へ集まると、その上には結晶にならなかった部分が残ります。果糖(フルクトース)を多く含む、とろりとした液の層です。

はちみつは、果糖とブドウ糖を主成分とする糖の濃い液体です。全国はちみつ公正取引協議会の規約では、果糖及びぶどう糖の合計含有量は100gあたり60g以上と定められています。この二つの糖のうち、片方だけが先に固まるために、瓶の中で偏りが生まれます。上の液が色濃く、さらさらして見えるのは、そのためと考えられます。

結晶化の全体像ははちみつが白く固まる結晶化のしくみと戻し方にまとめています。

なぜブドウ糖だけが固まるのか——結晶化が途中で止まる理由

ブドウ糖だけが先に固まるのは、はちみつの中でブドウ糖が結晶になりやすい糖だからです。そこに温度という条件が加わり、全体が固まりきらないまま落ち着くと、二層ができあがります。

結晶が始まりやすい15℃前後という温度

農林水産省は、15℃前後から結晶しやすくなると説明しています。FAO(国連食糧農業機関)の資料では、結晶化がもっとも速く進むのは14℃前後で、25℃を超える環境や5℃を下回る環境ではほとんど進まないとされています。

二つの資料はやや数字が違いますが、どちらも「涼しいが冷えきってはいない」温度帯を指しています。高温でも低温でも進みにくく、中間で進みやすい。この山型の関係が、台所での結晶化の気まぐれさを生んでいます。

温度の目安結晶化の進み方(FAOの説明)
25℃超ほとんど進まない
14℃前後もっとも速く進む
5℃未満ほとんど進まない

冷えては緩む台所で結晶化が途中で止まる

秋から冬にかけての台所は、朝晩に冷え、日中に緩みます。結晶が育つ温度帯に入ったり、そこから外れたりを繰り返すと、結晶化は進んだり止まったりします。その結果、すべてが固まるのでも、すべてが液のままでもない、中途半端な二層で落ち着くことがあります。

ここまでは、二層の成り立ちの話です。次の節からが、この記事でいちばん伝えたい部分になります。

固まると液の水分が上がる——結晶が水を手放すしくみ

結晶ができると、液として残った部分の水分の割合は上がります。FAOは、結晶化の際に水が遊離し、液相の水分含量が増えて発酵のリスクが高まると説明しています。分離は無害に見えて、液の側では条件が少しずつ変わっているわけです。

結晶化のとき水が遊離するというFAOの説明

ブドウ糖が結晶になるとき、結晶の側は水をほとんど抱え込みません。それまでブドウ糖と一緒にいた水が、結晶の外へ放り出されるイメージです。その水は、まだ固まっていない液の部分へ移ります。

瓶全体の水の量は変わらなくても、液の部分に限れば、水の割合は上がります。分離した瓶の上層が、元のはちみつより水っぽい状態になっている可能性がある、ということです。

水分20%という基準と、発酵しにくい18%の目安

水分の数字を二つ並べてみます。全国はちみつ公正取引協議会の規約では、はちみつの水分は20%以下(国産はちみつは22%以下)と定められています。一方FAOは、水分18%未満のはちみつは、ほぼ発酵の心配なく貯蔵できるとしています。

出典数字意味
全国はちみつ公正取引協議会20%以下(国産は22%以下)組成基準
FAO18%未満ほぼ発酵の心配なく貯蔵できる目安

規約の基準の範囲内であっても、18%という目安より上にあるはちみつは、発酵の側に近づきます。もともと水分が高めのはちみつが結晶化すれば、液の層はさらに上がります。分離した瓶を放置しない方がよい理由が、この数字の差にあります。水分と菌の育ちやすさの関係は、はちみつの水分活性が低く菌が育ちにくい理由で詳しく触れています。

部分結晶のはちみつがいちばん発酵しやすい理由

発酵しやすいのは、全部が固まったはちみつでも、全部が液のままのはちみつでもなく、部分的に結晶したはちみつです。液の層の水分が上がり、そこで糖に強い酵母が活動できる条件が整うからです。ここでの発酵は、品質と風味の問題として捉える話です。

糖に強い酵母が目を覚ます条件

耐糖性酵母とは、糖の濃度が高い環境でも生き延びられる酵母のことです。はちみつのような濃い糖液の中でも、水分が上がれば活動を始めることがあります。FAOの説明に沿えば、結晶化で水分が増えた液相は、まさにその条件に近づく場所です。

もともと水分活性の低いはちみつは、菌が育ちにくい食品です。ただし「腐りにくい」ことと「絶対に傷まない」ことは別で、水分が上がれば話が変わります。無菌の食品ではなく、条件がそろえば酵母が働く余地がある、と考えておく方が実際的です。

泡と酸っぱい匂いは発酵のサイン

発酵が進んでいると、瓶の液の層に細かな泡が見えたり、ふたを開けたときに酸っぱい匂いやお酒のような匂いがしたりします。口に含むと、はちみつ本来の甘さに加えて、ツンとした酸味を感じることもあります。

こうした変化は、風味と品質の問題です。見分け方ははちみつが泡立ち酸っぱくなる発酵の見分け方でも整理しています。

分離した瓶の手当て——見分けてから、湯せんで溶かし切る

蜂蜜の瓶を低めの湯にそっと浸し、温度計を添えて温める朝の台所の様子 水からゆっくり、瓶ごと温めて溶かし切る

分離した瓶は、まず泡と匂いを確かめ、異常がなければ湯せんで全体を溶かし切ります。混ぜるだけでは、結晶は残ったままです。

食べられるかを確かめる順序

確かめる順は次のとおりです。

  1. ふたを開ける前に、液の層や瓶の肩に泡が出ていないかを見る
  2. 開けたときに、酸っぱい匂いやアルコールのような匂いがないかを嗅ぐ
  3. 泡も匂いもなければ、結晶が成分の変化ではなく分離の姿と判断して湯せんに進む
  4. 泡や酸味、アルコール臭がある場合は、発酵が進んでいるとみて、食用にするかどうかは慎重に判断する

泡や酸味がある瓶まで湯せんで戻して使うかどうかは、風味の面からも、無理をしない方がよいでしょう。

水からゆっくり温める湯せんの手順

農林水産省は、戻すときは瓶ごと水から徐々に温め、かき混ぜながら溶かす方法を案内しています。電子レンジは、とろみを損なうため避けるよう勧められています。

手順は次のようになります。

  1. 鍋に、瓶が入る深さの水を張り、瓶を入れてから火にかける
  2. 水の温度が上がるのに合わせて、瓶をゆっくり温める
  3. ときどきふたを開け、清潔なスプーンでかき混ぜる
  4. 底の結晶が見えなくなるまで続ける

ポイントは、上の液だけでなく、全体を溶かし切ることです。溶かし切れば、水分が偏った状態が均されます。ガラス瓶は急な温度変化で割れることがあるため、水から入れる方法が向いています。

分離を繰り返さないために——置き場所と、ひとつだけ大切な注意

分離を繰り返しにくくするには、温度差の少ない場所に置くことが基本です。そして、はちみつを食卓に出す場面では、1歳未満の乳児には与えないことを覚えておく必要があります。

温度差の少ない場所を選ぶ

結晶は、14〜15℃前後の温度帯でよく進みます。日の当たる窓辺や、コンロの近くのように温度が大きく上下する場所は、結晶が進んでは止まる状態をつくりやすいと考えられます。直射日光を避け、一日の温度変化の小さい戸棚などが向いています。

冷蔵庫は結晶が進みやすい温度帯に近い場合もあるため、置き場所は家の環境に合わせて考えるとよいでしょう。

1歳未満の赤ちゃんには与えない

消費者庁は、1歳未満の乳児は腸内環境が成人と異なり、腸管内でボツリヌス菌が定着・増殖しやすいとして、はちみつを与えないよう注意を呼びかけています。ボツリヌス菌の芽胞は、100℃で数分間の加熱でも生き残ることがあるとされ、湯せんや加熱で取り除けるものではありません。1歳以上になれば避ける必要はありません。

結晶を溶かした後のはちみつも、この注意は同じです。理由の詳細は1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由にまとめています。

よくある質問

Q:分離したはちみつは、スプーンで混ぜるだけで元に戻りますか?

混ぜるだけでは、結晶は溶けません。一度は混ざったように見えても、時間がたつとまた分かれてきます。農林水産省が案内するように、瓶ごと水から徐々に温め、かき混ぜながら全体を溶かし切るのが基本です。

Q:上の液体だけをすくって食べても大丈夫ですか?

泡や酸っぱい匂いがなければ、食べられます。ただし、液の部分は結晶化で水分が上がっているため、発酵しやすい状態にあります。早めに食べ切るか、湯せんで全体を溶かして均してから使う方が安心です。1歳未満の乳児には与えないでください。

Q:二層に分かれたはちみつは腐っているのでしょうか?

多くは、結晶化が途中で止まった姿です。泡、酸っぱい匂い、アルコールのような匂いがある場合にだけ、発酵を疑ってください。それらがなければ、まず分離として扱い、湯せんで溶かし切る手当てをします。

六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドの準備を進めています。蜜蜂を迎える前の段階ですが、はちみつのしくみや暮らしへの取り入れ方を、調べたことから少しずつ「読みもの」にまとめています。不調が形になる手前の日々をととのえる、という考え方を、これからも静かに掘り下げていきたいと思っています。

泡や白い筋があっても発酵とは限らない——見間違えやすい姿

分離した瓶をよく見ると、泡や白っぽい筋が見つかることがあります。ただ、泡がある瓶がすべて発酵しているわけではないと思います。見間違えやすいのは次の三つです。

見え方考えられる正体見分けるところ
液面にうっすら白い泡の層があり、増えていかない瓶詰めや注ぎ分けのときに入った空気の泡匂いに変化がなく、日をおいても泡が増えない
瓶の肩や側面に白い筋や、霜のような模様がある結晶が育つときに、ガラスとのすき間に空気が入りこんだ跡と考えられているもの筋は結晶の層に沿って出ていて、液の層には出ていない
液の中や底に細かい泡が出つづけ、ふたを開けると「プシュッ」とする発酵でガスが出ている可能性酸っぱい匂いやアルコールのような匂いもする

判断の軸は、泡が「あるかどうか」よりも、「増えつづけているか」と「匂いが変わっているか」にあるのかなと思います。止まったままの泡や、結晶の層に沿った白い筋だけなら、まず分離として扱ってよさそうです。反対に、ふたが少しふくらんでいる、開けたときにガスが抜ける感じがある、というときは発酵の側を疑う方が自然だと思います。迷ったときは、数日おいてもう一度同じところを見比べると判断しやすくなります。

湯せんでつまずきやすい点——溶かし残し・ふたの締め方・内側の水滴

湯せんの手順そのものは単純ですが、やり方によっては、溶かしたはずの瓶がすぐまた分かれてしまうことがあります。とくに起きやすいのは次の三つです。

底の小さな結晶を残してしまう。 上のほうがとろりとして見えても、底や瓶の角に細かい結晶が残っていることがあります。残った結晶が種になって、そこからまた結晶化が進みやすくなると考えられます。スプーンを底までしっかり入れてかき混ぜ、すくい上げたときにざらつきがないかを確かめてから終えるのがよいと思います。

ふたを固く締めたまま温める。 密閉したまま温めると、中の空気がふくらんでふたが開けにくくなったり、容器に負担がかかったりします。ふたは軽くのせる程度にゆるめておくと扱いやすいです。プラスチックの容器は熱で変形することがあるので、湯せんする前に耐熱のガラス瓶へ移しておく方が安心かなと思います。

ふたの裏の水滴を戻してしまう。 温めているあいだに、ふたの裏や瓶の口のあたりに水滴がつくことがあります。この水が液面に落ちると、せっかく均した水分がまた上の層だけで増えてしまいます。湯せんの水が瓶の口より高くならないようにし、終わったらふたの裏と瓶の口を乾いた布でふいてから締めると、この記事で見てきた「液の層の水分が上がる」流れを止めやすいと思います。

また、何度も温め直すと香りや風味が落ちやすいとされています。大きな瓶のときは、一度に全部ではなく、使う分だけ小さな耐熱瓶に分けて溶かすのもひとつの方法です。

液の層に水分を足さないための、ふだんの扱い方

はちみつには、空気中の水分を吸いやすい性質があるとFAOは説明しています。分離した瓶では、上の液の層がいちばん空気にふれやすく、水分が入ってくるのもまずこの層です。結晶化で上がった水分に外からの水分が加わる、という重なりは避けたいところです。

気をつけたいのは、ごく日常的な場面です。

  • 洗ったあと乾ききっていないスプーンや、紅茶やヨーグルトに一度入れたスプーンをそのまま瓶に戻さない
  • 使い終わったら、ふたは早めに締める。湯気の立つ鍋やケトルのそばで開けっぱなしにしない
  • 冷えたところから暖かい部屋へ移したときは、瓶の外側の結露がふたのすき間から入らないよう、ふいてから開ける

どれも小さなことですが、二層に分かれた瓶では、こうした水分がそのまま発酵しやすい層にたまっていきます。湯せんで溶かし切ったあとも同じで、扱い方しだいで、次に分離したときの液の層の状態が変わってくるのかなと思います。