瓶の底で白く固まったはちみつを見て、「では巣の中ではどうなっているのだろう」と思ったことはないでしょうか。蜂が貯めた蜜が、巣房の中で固まって困らないのか。固まった蜜を蜂は食べられるのか。そんな素朴な疑問を、公開されている資料をもとに整理します。

この記事の要点

  • 巣の中は35℃付近に保たれ、はちみつがほとんど結晶しない温度帯に入るため、巣房の蜜は固まりにくいです。
  • ナタネ蜜のようにブドウ糖の多い蜜や、巣の端の冷える場所では、巣の中でも結晶が起こります。
  • 巣蜜の白い粒の多くは瓶の結晶と同じブドウ糖で、劣化ではありません。泡や酸っぱい匂いがあれば発酵を疑います。

朝の光の中、琥珀色の蜜で満ちた巣房のなかに、白い結晶の粒が見える巣板のイラスト

そもそもはちみつの結晶とは何か

はちみつの結晶とは、溶けきれなくなったブドウ糖が粒になって出てくる現象です。品質が変わったのではなく、糖が液から固体へ移っただけで、国連食糧農業機関(FAO)は、温帯ではほとんどのはちみつが常温で結晶すると説明しています。

溶けきれないブドウ糖が粒になる

はちみつは糖が水に高い濃度で溶けた液で、その主役はブドウ糖と果糖です。このうちブドウ糖は水に溶ける量に限りがあり、限界を超えた分が小さな粒として現れます。FAOによると、水分が少なく、ブドウ糖が多いはちみつほど結晶は速く進みます。花の種類によって糖の割合が違うため、固まりやすい蜜と固まりにくい蜜が生まれます。花ごとの違いは花の蜜ごとに違う結晶化の速さで詳しく扱っています。

速く固まる条件・ほぼ固まらない条件

温度も結晶を大きく左右します。FAOの説明では、14℃前後がもっとも速く、25℃より上と5℃より下ではほぼ結晶しません。

温度結晶の進み方(FAOの説明)
5℃以下ほぼ結晶しない
14℃前後もっとも速い
25℃より上ほぼ結晶しない

台所や室内の温度が、ちょうど結晶しやすい帯に入りやすいことがわかります。瓶の中で固まる理由と戻し方ははちみつが白く固まるしくみと戻し方にまとめています。

巣の中のはちみつはなぜ固まりにくいのか

巣の中のはちみつが固まりにくいのは、巣内が結晶しにくい温度に保たれているからです。この仕組みを知ると、瓶と巣の違いがよく見えてきます。

巣は35℃前後に保たれている

JSTサイエンスポータルが紹介する名古屋大学大学院生命農学研究科と自然科学研究機構 生理学研究所の研究によると、ミツバチは個体どうしの協調によって、巣箱の中の温度を常に35℃付近に保っています。また、触角にある温度感受性のイオンチャネル「AmHsTRPA」が34℃付近で活性化することも見つかりました。蜂は温度を感じ取り、集団で調節しているわけです。

35℃は、FAOが「ほぼ結晶しない」とする25℃より上の温度帯です。巣の中に貯まった蜜は、巣房に入っている間、結晶しにくい環境に置かれていることになります。蜜が熟成し、蜜蓋で封じられる過程はミツバチが蜜の水分を飛ばす四段階で紹介しています。

巣から出すと固まりはじめる理由

巣から取り出した蜜は、温かい環境を離れます。室温や冷蔵庫の温度は、先ほどの表で見たとおり結晶が進みやすい帯を含んでいます。養蜂家が搾った蜜が瓶の中で固まるのは、このためです。つまり、巣の中で固まりにくいことと、瓶で固まることは、同じ「温度と糖の性質」から説明できます。

それでも巣の中で固まる蜜がある

巣板の中心は透明な蜜、端の巣房だけが白く固まった様子を描いた菜の花の季節のイラスト 温かい中心と冷える端で、蜜の様子は変わる

巣の中でも、条件がそろえば蜜は固まります。ブドウ糖の多い蜜であることと、温度の低い場所にあることが、その二つの条件です。

ナタネ蜜は巣板の上でも固まる

ナタネ(菜の花)の蜜は、ブドウ糖が多く、すぐに結晶する蜜として知られています。英国養蜂家協会(BBKA)は、蜂の体温がある間は液体のままですが、巣から離すと固まると紹介しています。部分的に固まってしまうと、遠心分離では全部を搾りきれません。遅れると、固まった部分を削るか、巣ごと溶かすことになるそうです。さらにBBKAは、ナタネ蜜を巣に残すと、あとから入る蜜も固まりやすくなると述べています。

暖かい中心と冷える端、巣の中にも温度差がある

巣内が35℃付近といっても、どこも同じ温度とは限りません。蜂が集まり温度を保つ育児圏の温度に比べ、巣の端は外の気温の影響を受けやすいと考えられます。出典にそこまでの細かな温度分布は書かれていませんが、結晶が温度に左右される以上、冷える場所ほど固まりやすいという理解は自然です。この記事ではそこを「推測を含む整理」と区別しておきます。

甘露蜜のセメントハニーという極端な例

セメントハニーとは、メレジトースという糖を非常に多く含む甘露蜜が、巣房の中で固まったものです。ここまで来ると、搾ることも難しくなります。

メレジトースが多いと巣房で固まる

甘露蜜とは、植物の汁を吸う昆虫が出す甘い排せつ物を、蜂が集めてつくるはちみつです。花の蜜とのちがいは甘露蜜と花蜜のはちみつの違いで整理しています。スイス連邦農業研究機関のAgroscopeは、メレジトースを非常に多く含み、固まった甘露蜜をセメントハニーと呼んでいます。メレジトースが20%を超えると、遠心分離では搾れないとされます。

固まった甘露蜜だけで冬を越すと群が弱る

問題は搾りにくさだけではありません。Agroscopeによると、メレジトースを含む餌だけで冬を越した群は、冬のあいだか翌春に滅びるおそれがあります。そのためAgroscopeは、そうした巣板を空の巣板と取り替えるよう勧めています。冬の蜂が身を寄せ合う様子は蜂球で冬を越すしくみで扱っています。結晶は、蜂の越冬にも関わる現象なのです。

ミツバチは固まった蜜をどう扱うか

冬の巣箱で蜜蜂が結露の水滴を使い、巣房の固まった蜜を溶かして食べる様子のイラスト 水を含ませ、表面から溶かして食べるとされる

ミツバチは、固まった蜜に水を含ませて、表面から溶かして食べるとされています。ただしこれは研究結果ではなく、養蜂家の観察にもとづく説明です。

結露した水で溶かして食べるとされる

養蜂家による解説サイトのHoney Bee Suiteは、冬の蜂が呼吸で生じ、巣内の冷たい面に結露した水を使って、結晶に水を含ませると紹介しています。そうして表面から溶かしながら食べるという説明です。学術論文ではなく経験にもとづく解説ですので、本記事では「とされます」という形でお伝えします。

固まった蜜は水分の少ない保存食でもある

結晶した蜜には、別の見方もあります。FAOによると、結晶するときには水が放たれ、液の部分の水分が上がります。水分が上がると発酵の危険が増しますが、水分18%未満であれば、発酵の危険はほぼないとされます。固まった部分は糖の粒がぎっしり詰まった状態で、蜂にとっては、水を加えて崩せる保存食と見ることもできます。結晶と発酵の関係は固まると発酵しやすくなる理由に詳しく書きました。

養蜂家は巣の中の結晶にどう向き合うか

養蜂家は、固まる前に搾ること、そして搾り残した巣板を蜂に掃除させることで対応します。以下は英国養蜂家協会(BBKA)が紹介している実務の一般論で、六角門が実践していることではありません。

固まる前に搾る

BBKAの紹介では、ナタネ蜜は遅れると遠心分離で搾れなくなるため、固まる前に早く搾ることが基本です。それでも間に合わず固まった場合は、蜜を削り取るか、巣ごと溶かすことになります。搾る道具と手順は採蜜の手順と道具で紹介しています。

搾り残した巣板は蜂に掃除させる

搾り残した巣板については、BBKAは水を入れたバケツに浸してから群に戻す方法を紹介しています。水を含んだ巣板は、蜂が中の蜜を回収し、きれいにしてくれます。前の章で見た「水で溶かす」という蜂の扱いと、方向がそろっています。

六角門はまだ蜂を迎える前の準備の段階です。こうした作業は、これから学び、実際に確かめていきたいことだと考えています。

巣蜜の白い粒をどう見るか

巣蜜の白い粒は、多くの場合、瓶のはちみつと同じブドウ糖の結晶です。劣化のしるしではありません。

巣蜜とは、巣房に蜜を入れたまま食べる形のはちみつです。東京都 保健医療局の表示に関する資料では、はちみつは、みつばちが植物の花みつを採集して巣房に貯え、熟成させた天然の甘味物質とされ、精製はちみつや加糖はちみつに加えて、巣はちみつ、巣はちみつ入りはちみつという区分があります。

白い粒は結晶、泡と酸っぱい匂いは発酵を疑う

ざらつきや白い粒は結晶のサインで、食べても問題ないことがほとんどです。一方、泡立ちや酸っぱい匂いがあるときは、発酵を疑って口にしないほうが安心です。結晶で水が放たれて水分が上がると、発酵の危険が増すとFAOが説明しているためです。

1歳未満の赤ちゃんには与えない

巣蜜でも、瓶入りでも、1歳未満の乳児にはちみつを与えてはいけません。厚生労働省によると、乳児は腸内環境が整っておらず、ボツリヌス菌が腸内で増えて毒素を出すことがあります。芽胞の耐熱性は120℃・4分でも死なず、通常の加熱では防げません。はちみつは包装前に加熱しないことが多いのも理由です。詳しくは1歳未満にはちみつを与えてはいけない理由をご覧ください。

よくある質問

Q:巣の中のはちみつは結晶しないのですか?

巣内は35℃付近に保たれており、FAOがほぼ結晶しないとする温度帯に入ります。そのため固まりにくいのですが、ブドウ糖の多い蜜や、冷える場所では固まることがあります。

Q:ミツバチは固まったはちみつを食べられますか?

水を含ませて、表面から溶かして食べるとされます。これは研究ではなく、養蜂家の観察にもとづく説明であることを添えておきます。

Q:巣蜜が白くザラザラしているのは傷んでいるのですか?

多くはブドウ糖の結晶で、劣化ではありません。泡や酸っぱい匂いがあるときは、発酵を疑ってください。

Q:菜の花のはちみつが巣の中で固まるのはなぜですか?

ブドウ糖が多いためです。BBKAによると、巣から出すとすぐ固まり、遠心分離では搾りきれないこともあります。

Q:セメントハニーとは何ですか?

メレジトースの多い甘露蜜が、巣房で固まったものです。Agroscopeは、メレジトースが20%を超えると遠心分離では搾れないとしています。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの準備を進めています。蜂を迎える前の今は、巣の中で何が起きているのかを、公開されている資料から少しずつ学んでいる段階です。確かめたいことが増えたら、またこの「読みもの」に書いていきます。