この記事の要点

  • 結晶化しても瓶全体の成分は変わらず、溶けていたブドウ糖が粒になって居場所を変えるだけです。
  • 結晶のぶん、瓶の中の液の部分だけ水分が増え、水分活性が0.03〜0.04上がるという研究報告があります。
  • 成分が実際に動くのは固まるときより溶かすときの加熱で、HMFは保存や加熱で増えます。

台所の棚で白く固まった瓶を見つけて、「栄養が抜けてしまったのでは」と不安になる人は少なくありません。結論から言えば、瓶全体で見た成分は固まる前と同じです。ただ「変わらない」の一言では、色や口あたりの違い、液の部分の水分の話が説明できません。ここでは瓶全体・結晶・液の三つに分けて、何が変わり何が変わらないのかを仕分けます。

白く結晶した蜂蜜と透明なままの蜂蜜の瓶を木棚に並べた、朝の光の淡彩イラスト

先に結論——瓶全体の成分は変わらず、成分の居場所が変わる

結晶化で起きているのは成分の変質ではなく、溶けていたブドウ糖が固体になるという状態の変化です。

農林水産省は「成分が変化したわけではありません」と答えている

農林水産省の消費者の部屋では、はちみつが白く固まる現象についての相談に、ブドウ糖の作用による結晶であると説明しています。ブドウ糖の割合が多いほど結晶しやすく、15℃前後から結晶しやすくなるとのことです。そのうえで、結晶して成分が変化したわけではない、と回答しています。

化学変化ではなく、溶けていたものが粒になる物理変化

結晶化とは、はちみつに溶けているブドウ糖が、粒状の固体として現れる現象です。FAO(国連食糧農業機関)の資料によれば、この結晶はブドウ糖一水和物の結晶です。砂糖水を冷やすと底に粒が出てくる様子に近く、別の物質に変わったわけではありません。熱を加えれば再び溶けるのも、物理的な変化だからです。

瓶全体・結晶・液の三つの視点で見る

結晶化を理解するには、見る範囲を分けるのが近道です。瓶全体で見れば、糖も水分もそのままです。結晶だけを見れば、ブドウ糖が集まった白い粒です。そして結晶のあいだに残る液を見れば、ブドウ糖が減って水分の割合が少し増えています。この三つを頭に置くと、以降の話が整理しやすくなります。結晶化のしくみと戻し方の全体は結晶化のしくみと戻し方にまとめています。

固まる前と後で変わらないもの

瓶全体で見た糖の総量、水分、そして花の蜜に由来する微量成分は、結晶化では増えも減りもしません。

糖の種類と総量——果糖とブドウ糖は瓶の中にそのままある

はちみつの主成分は果糖とブドウ糖です。FAOの資料に載っている米国産の平均値は、水分17.2%、果糖38.2%、ブドウ糖31.3%でした。結晶化するのはこのうちブドウ糖が中心で、果糖は結晶にならず液に残ります。ブドウ糖が溶けた状態から固体に移っても、瓶に入っているブドウ糖の量は同じです。ナタネのようにブドウ糖の割合が高い蜜は固まりやすく、アカシアのように果糖の多い蜜は固まりにくい、と言われています。花ごとの違いは花ごとに違う結晶化の速さで触れています。

瓶全体の水分と糖度

フタが閉まった瓶の中では、水分が外へ出たり入ったりするわけではありません。ですから瓶全体の水分も糖度も、結晶化の前後で同じです。変わるのは水分の分かれ方で、これは次の章で扱います。

花の蜜に由来する香りや色のもとになる成分

香りや色のもとになる微量の成分は、結晶化という物理的な変化では壊れたり消えたりしません。ただし、結晶化と別に、長い保存や加熱で風味が変わることはあります。固まったことそのものと、保存や加熱の影響は分けて考える必要があります。成分の全体像ははちみつの成分の全体図で整理しています。

1歳未満には与えないという注意も変わらない

結晶していても溶かしても、1歳未満の乳児にはちみつを与えてはいけないという注意は変わりません。厚生労働省によれば、乳児は腸内環境が整っておらず、はちみつに混入することがあるボツリヌス菌が腸内で増えて毒素を作るおそれがあります。この菌は熱に強く、通常の加熱や調理では死なないとされています。湯せんで温めても、この注意は外れません。一方、1歳以上の人にとって、はちみつはリスクの高い食品ではないとも示されています。理由は1歳未満の赤ちゃんに与えてはいけない理由で詳しく書いています。

固まる前と後で変わるもの——色・口あたり・液の部分の水分

木棚の上で、下半分が白く結晶し上に琥珀色の液がたまった蜂蜜の瓶を朝の光で描いた淡彩イラスト 下に結晶、上に液。居場所が変わるだけ

結晶化で変わるのは、見た目と食感、そして瓶の中の液の部分の水分です。

色が淡く白っぽくなるのは、結晶が白いから

FAOの資料には、結晶すると白い結晶のために色が淡くなると書かれています。中の成分が薄まったわけではなく、白い粒が光を散らして、全体が白っぽく見えるのです。濃い琥珀色だった瓶が、固まると乳白色に近づくのはこのためです。

口あたりと甘さの感じ方が変わる理由

液体だったものが細かな粒を含む状態になるため、舌ざわりは確かに変わります。粒が細かければなめらかで、粗ければざらつく、と感じる人が多いようです。甘さの感じ方も、とろりと広がる液と、口の中で溶けていく粒とでは違って受け取られることがあります。これは感じ方の違いで、糖の量が変わったことを示すものではありません。

結晶はブドウ糖を連れていき、液には水と果糖が残る

ここが「成分の居場所が変わる」部分の核心です。ブドウ糖一水和物という名のとおり、結晶はブドウ糖と水を取り込んで固体になります。すると結晶のあいだに残る液では、ブドウ糖が減り、水の割合と果糖の割合が相対的に増えます。FAOは、結晶化すると液相の水分が増え、発酵のリスクも上がると説明しています。瓶全体の水分は同じでも、結晶のすき間にある液だけを取り出せば、少し薄くなっているわけです。

固まると水分活性はどれだけ動くのか——0.03〜0.04という研究値

液の部分の水分活性は、結晶化で0.03〜0.04ほど上がるという研究報告があります。水分活性とは、食品の中で微生物が使える水の度合いを示す数値で、高いほど微生物が増えやすくなります。糖度との違いは糖度と水分活性の違いにまとめています。

結晶はちみつ49検体を溶かし直して比べた研究

アルゼンチン・カトリック大学のZamora氏とChirife氏による論文(Food Control誌 17巻、2006年)では、多くのはちみつがブドウ糖の過飽和溶液であり、室温でブドウ糖一水和物として結晶しうると述べられています。結晶化すると液相のブドウ糖濃度が下がり、水分活性が上がります。アルゼンチン産の結晶はちみつ49検体を加熱して溶かし直して比べたところ、水分活性の差は大半で0.03〜0.04でした。糖のモデル系でも、この差はブドウ糖の結晶化によるものだと確かめられたと報告されています。

水分18%未満という目安と、もともと水分が多い蜜の場合

FAOの資料では、発酵の心配がほぼないのは水分18%未満とされています。結晶化で液の水分活性が上がっても、もともと水分が少なければ、発酵の余裕が少し減る程度にとどまると考えられます。逆に、水分が多めの蜜は、固まったあと液の部分がさらに発酵に近づきます。結晶化で腐らない性質が消えるわけではなく、余裕が減るという理解が近いと思います。

上に液がたまった瓶で確かめる順番(泡・匂い・味)

下が結晶で上に液がたまった瓶は、液の部分が最も薄くなっている状態です。確かめる順番は、まず泡の有無、次に酸っぱい匂い、最後にごく少量の味です。見分け方は泡立ちと酸っぱい匂いの見分け方に、二層になる理由は結晶の上に液が分かれるしくみにあります。

成分が動くのは、固まるときより溶かすとき

蜂蜜の瓶を低めの湯にそっと浸し、温度計を添えた朝の台所の淡彩イラスト 溶かすなら、低めの湯でゆっくりと

結晶化そのものよりも、溶かすための加熱のほうが、はちみつの成分に影響します。

HMFは保存と加熱で生じる——FAOの整理

HMFとは、糖から生じる成分で、はちみつの鮮度や熱履歴の目安として語られることがあるものです。FAOの資料によると、HMFは新しい蜜にはほぼ無く、保存や加熱で生じます。酵素も熱に弱いことが知られています。つまり、結晶化は成分を動かさず、溶かす操作のほうが動かすのです。逆に言えば、結晶の有無は、非加熱かどうかや品質の良し悪し、本物かどうかの証明にはなりません。詳しくは温めたときの酵素とHMFの変化を参照してください。

水からゆっくり温める湯せんと、強い加熱を避ける理由

農林水産省の案内では、フタをゆるめてビンごと水に入れ、少しずつ加熱して混ぜるとされています。電子レンジなどで強く加熱しすぎると、とろりとした特長が損なわれるとも書かれています。湯せんをしても、1歳未満への注意の理由であるボツリヌス菌が死ぬわけではない点には注意してください。

そのまま食べるなら溶かさない、料理に使うなら使う分だけ溶かす

そのまま食べるなら、溶かす必要はありません。粒のある口あたりを楽しむ食べ方もあります。料理や飲み物に混ぜる場合は、使う分だけを取り分けて温めれば、残りは加熱の影響を受けずに済みます。

固まった瓶をどう扱うか——条件で分ける

瓶の状態を三つに分けると、行動が決めやすくなります。

全体が均一に固まっている場合

均一に固まっていて、泡も匂いの異常もなければ、そのまま食べられます。スプーンで削って使えますし、溶かしたければ湯せんで少しずつ戻せます。

下が結晶、上が液の二層になっている場合

液の部分は水分が増えているため、先に上の液の状態を確かめます。泡も酸っぱい匂いもなければ、混ぜてなじませて使えます。気になるなら、かき混ぜてから湯せんで温めると均一に戻りやすくなります。

泡と酸っぱい匂いがある場合

泡が出ていたり、酸っぱい匂いや酒のような匂いがあったりするときは、酵母による発酵を疑います。結晶化とは別の現象で、固まりやすさとは関係なく起こります。この場合は口にせず、処分を考えるほうが無難です。

まとめ——変わるもの、変わらないものの一覧

項目結晶化で補足
糖の総量・種類変わらない瓶全体で果糖とブドウ糖は同じ
瓶全体の水分変わらないフタをしていれば出入りしない
色淡くなる白い結晶のため
口あたり変わる粒の細かさで感じ方が違う
液の部分の水分増える水分活性は0.03〜0.04上がる報告
HMF・酵素結晶化では動かない加熱や長期保存で動く
1歳未満への注意変わらない加熱でも防げない

結晶化は、成分が減る現象ではなく、成分が居場所を移す現象です。蜂を迎える準備の途中にいる私たちも、固まり方や保存で実際にどう違うのかを、これから少しずつ確かめていきたいと考えています。

よくある質問

Q:結晶化したはちみつは、栄養や成分が減っているのですか?

農林水産省は、結晶して成分が変化したわけではないと回答しています。溶けていたブドウ糖が粒になっただけで、瓶全体の成分は同じです。

Q:固まったはちみつは、溶かさずそのまま食べてもよいですか?

そのまま食べられます。泡や酸っぱい匂いがある場合だけ、発酵を疑ってください。1歳未満の乳児には、固まっていても溶かしても与えないでください。

Q:結晶化すると糖度は上がるのですか、下がるのですか?

瓶全体では同じです。ただ、FAOは、結晶化すると液の部分の水分が増えると説明しています。結晶のあいだの液だけを見れば、少し薄くなっている状態です。

Q:結晶化したはちみつは腐りやすくなりますか?

液の部分の水分活性が0.03〜0.04上がるという報告があります。ただ、FAOは水分18%未満なら発酵の心配はほぼないとしています。「腐りやすくなる」というより、発酵への余裕が少し減ると考えるのが近いと思います。

Q:湯せんで溶かすと成分は変わりますか?

成分が動くのは、結晶化よりも加熱のほうです。FAOによれば、HMFは保存や加熱で生じます。水からゆっくり温め、強い加熱は避けるのが無難です。

六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。蜜蜂を迎える前の今は、はちみつや養蜂のことを調べ、わかったことをこの「読みもの」に書きとめています。