クリームはちみつはなぜなめらかなのか
この記事の要点
- クリームはちみつは、バターや乳を足したものではなく、ブドウ糖の結晶を舌で分からないほど細かくそろえたはちみつです。
- 結晶の大きさは種の作り方と温度で変わり、ドイツの試験では仕上がりの粒が146μmから59μmまで細かくなりました。
- クリームに向くかどうかは、ブドウ糖と水分の比で見分けられ、ナタネは2.78で向き、アカシアは1.55で向きません。
パン売り場でクリームはちみつを手に取ると、バターのようにすっと塗れます。同じ「固まったはちみつ」なのに、瓶の底でジャリジャリになったものとは口あたりがまるで違います。何か混ぜてあるのだろうか、と思う人は少なくないはずです。

クリームはちみつは、何も足していない「固まったはちみつ」
クリームはちみつとは、柔らかく細かく結晶させたはちみつのことです。国連食糧農業機関(FAO)は、クリームはちみつを「柔らかく、細かく結晶した蜜」と定義しています。クリームを混ぜたのではなく、はちみつそのものが固まった姿です。
ジャリジャリの瓶とクリームの瓶は、同じ結晶
農林水産省の説明によると、はちみつの結晶はブドウ糖によるもので、ブドウ糖の割合が多いほど結晶しやすく、15℃前後で結晶しやすいとされています。そして、結晶しても成分が変わったわけではありません。
つまり、瓶の底で粗く固まったはちみつも、クリームはちみつも、できているものは同じブドウ糖の結晶です。違うのは中身ではなく、粒の大きさと、そろい方です。結晶が白く見える理由は、結晶したはちみつが白く見える理由でも触れています。
バターや乳は入っていない——種に使えるのも結晶したはちみつだけ
クリームはちみつの製法では、細かく結晶したはちみつを少量混ぜて、結晶の「種」にすることがあります。種はちみつとは、結晶を育てるきっかけとして加える、すでに結晶したはちみつのことです。
学術誌Foods(MDPI)に2023年に載った、ドイツ・アンハルト応用科学大学のMeixnerらの報告によると、ドイツの食品法では、結晶の種として使えるのは結晶したはちみつだけです。砂糖や他の材料で代用することはできません。なめらかさは、はちみつ自身の結晶から生まれています。
なめらかさの正体は、舌で分からないほど細かい粒
なめらかさを決めているのは、結晶の数です。数が多ければ一粒が小さくなり、舌が粒として感じ取れなくなります。
結晶核が多いと、粒は小さいまま止まる
結晶核とは、そこを起点に結晶が育っていく小さな芯のことです。Meixnerらの報告では、結晶核が多いほど粒は細かくなり、口の中でとろけるような感触になりました。核が少ないと、舌にはっきり分かる粗い結晶になります。
ブドウ糖の量は決まっていますから、核が多ければ一つひとつに分け与えられる量が少なく、どの粒も大きく育てません。少ない核に集まれば、粒は太ります。
146μmと59μm——種の作り方で変わった粒の大きさ
この試験は、ナタネ畑の多い地域の春の蜜(ブドウ糖37〜39%、果糖38〜39%)を、25kg単位で撹拌したものです。17.5℃前後で撹拌したときの、仕上がりの結晶の大きさは次のとおりでした。
| 種の有無 | 仕上がりの結晶の大きさ |
|---|---|
| 種なし | 146μm |
| 羽根で作った種 | 101μm |
| 台所のフードプロセッサーで作った種 | 59μm |
種そのものを細かく砕いて作るほど、仕上がりの粒も細かくなったという報告です。種の作り方ひとつで、粒の大きさは半分以下になっています。結晶の大きさと温度の関係は、はちみつの結晶が粗くも細かくもなるしくみでも整理しています。
細かい結晶をそろえる進め方——種・温度・撹拌
冷える窓辺と暖かい棚で、固まり方は変わる
細かい結晶をそろえるには、種と温度、そして撹拌が関わります。FAOは、花粉などの粒子やゆっくりした撹拌も結晶を速めると説明しています。
なぜ14℃なのか——25℃超と5℃未満では進まない
FAOによると、結晶化が最も速いのは14℃前後です。25℃を超える温度と5℃未満では、結晶はほとんど進みません。暖かすぎると、ブドウ糖が液に溶けたままでいられます。冷たすぎると、蜜が粘って分子が動きにくくなるためだと考えられます。農林水産省が挙げる「15℃前後」とも、ほぼ重なる温度帯です。
14℃なら種の差は出ず、18℃なら種が効く
Meixnerらの試験で興味深いのは、撹拌温度が最も強く効いた点です。14℃で撹拌したときは、種の有無で粒の大きさは変わりませんでした。結晶化がもともと速い温度では、種がなくても核が十分にできるのでしょう。一方、18℃では、種を加えると粒が有意に細かくなりました。
条件を整理すると、次のようになります。
| 撹拌温度 | 種の効果 |
|---|---|
| 14℃前後 | 種の有無で粒の大きさは変わらない |
| 18℃前後 | 種を加えると粒が有意に細かくなる |
温度が結晶化に向いていれば種は要らず、外れたときに種が助けになる、という分かれ目です。
ゆっくり固まると粒が粗く不ぞろいになる理由
FAOは、ゆっくり結晶すると粒が大きく不ぞろいになると説明しています。少ない核にブドウ糖が集まり続けるため、先に育った粒だけが太るからです。瓶の底でいつの間にかジャリジャリになったはちみつは、この経過をたどったものと考えられます。
スイスの養蜂情報サイトApiSavoirに掲載されたDaillyらの報告では、細かく結晶した蜜を8〜10%混ぜた試験で、細かい結晶に仕上がっています。ナタネ蜜は結晶が速く、粒が細かく均一なら種に使える、とも述べられています。
クリームに向く花の蜜、向かない花の蜜
菜の花は固まりやすく、アカシアは固まりにくい
向くのは、ブドウ糖が多く水分が少ない蜜です。ナタネ(菜の花)は向き、ニセアカシア(ハリエンジュ)の蜜は向きません。この違いは、ブドウ糖と水分の比で見分けられます。ブドウ糖と水分の比とは、蜜に含まれるブドウ糖の量を水分の量で割った値で、結晶のしやすさの目安になります。
物差しはブドウ糖と水分の比——1.6未満は液状、2.2超は固まる
Daillyらの報告では、この比が1.60未満の蜜は79%が液状のまま、2.20を超える蜜は97%が固形から塗れる硬さでした。果糖とブドウ糖の比でも見ており、1.05未満では89%が固まり、1.45を超えると90%が液状でした。ルーマニア・スチャヴァ大学のScripcăとAmarieiが2021年に学術誌Foodsへ載せた報告では、比が1.7未満なら結晶はゆっくり、2.0を超えると速いとされています。
ただしDaillyらは、これが一つのデータセットからの経験則であり、1.60〜2.20の間は予測しにくいと断っています。糖の比率と結晶化の関係は、糖の比率と結晶化の関係で詳しく扱っています。
ナタネ2.78、アカシア1.55——数字で並べる
ScripcăとAmarieiの測定例(100gあたり)を並べます。
| 蜜 | ブドウ糖 | 果糖 | ブドウ糖と水分の比 |
|---|---|---|---|
| アカシア | 27.24g | 43.58g | 1.55 |
| ナタネ | 46.30g | 23.70g | 2.78 |
| 百花蜜 | — | — | 2.34 |
| 甘露蜜 | — | — | 2.62 |
甘露蜜とは、花の蜜ではなく、樹液を吸う昆虫が出す甘い排せつ物から集められる蜜のことです。ナタネは9か月後に、大きな五角形・六角形の結晶が視野を覆ったと報告されています。アカシアの1.55は、先ほどの1.7を下回っています。
日本で手に入る蜜の目安——ナタネ・ソバ・ウド/レンゲ・クローバー/アカシア
全国はちみつ公正取引協議会は、結晶のしやすさを次のように分けています。
| 結晶のしやすさ | 蜜の例 |
|---|---|
| しにくい | アカシア(ニセアカシア、ハリエンジュ) |
| 中程度 | レンゲ、ミカン、クローバー |
| しやすい | ナタネ、ウド、ソバ |
アカシアが結晶しにくいのは、果糖の割合が多いためです。クリームはちみつ向きなのは、結晶しやすい側のナタネ、ウド、ソバということになります。花の蜜ごとの違いは、花の蜜ごとに違う結晶化の速さにまとめました。
中間の蜜は、条件しだいでどちらにも転ぶ
レンゲやクローバーのような中程度の蜜は、比がちょうど1.6〜2.2あたりに入りやすく、予測が難しい領域です。同じ花の名前でも、年や産地で糖の組成は動くため、花の名前だけで決めつけるのは避けたいところです。
固め切ると、かえって発酵しにくくなる
均一に固め切ったはちみつは、半端に固まったはちみつよりも発酵しにくいと、FAOは説明しています。固まったほうが傷みやすそうに思えますが、実際は逆の面があります。
結晶が水を置いていく——液の部分の水分が上がる
結晶になるのはブドウ糖で、水分は結晶に取り込まれません。そのため、結晶が育つと、残った液の部分の水分が相対的に上がります。FAOは、部分的に結晶した蜜は発酵しやすいとしています。液の部分が水っぽくなるためです。仕組みは、固まると液の部分が発酵しやすくなる理由でも説明しています。
半端に固まった瓶と、そろって固まった瓶の違い
粗い結晶が底に沈み、上に液がたまった瓶は、水分の高い液の層ができやすい状態です。クリームはちみつのように均一に固め切った蜜は、そうした液の層ができにくくなります。細かい結晶が全体にそろうことは、なめらかさだけでなく保存の面でも意味を持っています。
買ったクリームはちみつの扱い方と、1歳未満への注意
クリームはちみつは、涼しい場所に置き、ふたを閉めて水を入れないのが基本です。
暖かい台所ではゆるみ、液がにじむことがある
25℃を超えると結晶は進みにくく、すでにできた結晶の状態も保ちにくくなると考えられます。夏の台所のように暖かい場所では、表面がゆるんで液がにじむことがあります。置き場所は、直射日光や火のそばを避けます。
溶かすなら60℃を超えない湯せんで——溶かすとなめらかさは戻らない
溶かす場合、全国はちみつ公正取引協議会は、湯せんで60℃以上にならないよう、かき混ぜながらゆっくり温めるよう案内しています。農林水産省も、ふたを緩めて湯せんし、電子レンジなど強い加熱は避けるよう説明しています。温度の考え方は、60℃を超えない溶かし方に詳しく書きました。
注意したいのは、溶かすと細かい結晶も消えることです。その後、同じなめらかさに戻るとは限りません。
1歳未満の赤ちゃんには与えない
厚生労働省は、1歳未満の赤ちゃんがはちみつを食べると、乳児ボツリヌス症にかかることがあるとしています。原因のボツリヌス菌の芽胞は耐熱性が高く、120℃4分とされ、通常の加熱や調理では死にません。はちみつ入りの飲料やお菓子も、1歳未満には与えません。クリームはちみつも同じです。理由は、1歳未満にはちみつを与えてはいけない理由で整理しています。
よくある質問
Q:クリームはちみつには、バターや生クリームが入っているのですか?
入っていません。クリームはちみつは、純粋なはちみつを細かく結晶させたものです。結晶の種に使えるのも、ドイツの食品法では結晶したはちみつだけとされています。
Q:アカシアはちみつでクリームはちみつは作れますか?
向いていません。アカシアはブドウ糖と水分の比が1.55前後と低く、固まりにくい蜜です。ナタネのようにブドウ糖の多い蜜のほうが、細かい結晶をそろえやすいとされます。
Q:家で固まったジャリジャリのはちみつは、混ぜればなめらかになりますか?
すでに育った粗い粒は、混ぜても小さくなりません。なめらかさを目指すなら、一度60℃を超えない湯せんで溶かし、細かい種を加えて14℃前後で結晶させ直す、という筋道が考えられます。ただし、種の質や蜜の種類で結果は変わり、確実に戻るとは言えません。
Q:クリームはちみつは冷蔵庫に入れるべきですか?
25℃を超える暑い時期は、ゆるみやすくなります。その場合は涼しい場所か冷蔵庫が選択肢になります。冷やしても、腐りにくさが変わるわけではありません。涼しい季節なら、常温の涼しい場所で足ります。
Q:クリームはちみつは腐りやすいのですか?
むしろ逆の面があります。FAOは、均一に固め切った蜜は、半端に固まった蜜より発酵しにくいと説明しています。ふたを閉め、水やぬれたスプーンを入れないようにします。
Q:赤ちゃんにクリームはちみつを塗ったパンを与えてもよいですか?
与えません。1歳未満の赤ちゃんには、はちみつを使った食品も含めて避けます。厚生労働省は、ボツリヌス菌の芽胞が120℃4分の加熱でも死なないと説明しています。パンに塗って焼いても、安全にはなりません。
六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドを準備しています。まだ蜜蜂を迎える前の段階で、はちみつの結晶のような身近な現象も、まず公開されている研究や資料から調べているところです。ここに書いたことは、これから自分たちの目でも確かめていきたいと考えています。