この記事の要点

  • はちみつの花粉は後から足したものではなく、蜜集めや採蜜の過程で自然に混じる、はちみつ固有の成分です。
  • 花粉の形は花ごとに違うため蜜源の手がかりになりますが、花粉の多い花と少ない花があり、割合がそのまま蜜の割合にはなりません。
  • 日本の天然はちみつの判定は糖や水分、HMF、電気伝導度が中心で、花粉による産地の保証ではありません。

瓶の底が白っぽく濁っていたり、ラベルに「花粉入り」と書かれていたりすると、「花粉は誰が入れたのだろう」と思う人は少なくありません。結論から言うと、花粉は誰かが加えたものではありません。蜜を集める途中や、巣から蜜を取り出す途中で、もとから混じってしまうものです。この記事では、花粉が混じる経路から、花粉で蜜源をどこまで言い当てられるのか、ろ過の表示、日本の検査の実際までを、公的資料の数字をたどりながら整理します。

朝の窓辺に、蜂蜜の瓶と野の花を挿した小さな花瓶が並ぶ淡彩イラスト。蜜と花粉、蜜源の関係を思わせる。

はちみつには、花の蜜と一緒に花粉が入っている

はちみつに花粉が入っているのは、蜜を集める営みそのものに花粉がついて回るからです。花粉が混じる場面は、大きく二つに分けられます。花で蜜を集めている段階と、巣の中で蜜を扱う段階です。

花の蜜に落ちる花粉、蜂の体につく花粉

はちみつの原料である花の蜜は、花の奥にある蜜腺から出る甘い液です。その同じ花の中には、おしべの花粉があります。蜜を吸いにきたセイヨウミツバチの体には細かな毛が生えていて、花粉が自然にくっつきます。蜂が蜜を吸うあいだに、花粉の一部が蜜の中に落ちたり、蜜を運ぶ蜜胃の中に紛れ込んだりします。

蜂は花粉を後脚にまとめて運び、巣の中で花粉団子にもします。ただ、これは幼虫を育てるための食料としての花粉で、蜜とは別に扱われます。それでも、体についた花粉や、蜜と一緒に取り込まれた花粉は、巣に戻って蜜を貯めるときにわずかに持ち込まれます。花粉が蜂の食料として運ばれる一方で、蜜にも微量が混ざる。この二重の経路が、はちみつの花粉の出発点です。

巣の中で混じる花粉——遠心分離と貯蔵花粉

巣の中には、蜜を貯める巣房のすぐそばに、花粉を貯めた巣房もあります。蜜を取り出すとき、巣枠を遠心分離機にかけると、蜜と一緒にこの貯蔵花粉が混じることがあります。国際はちみつ委員会(IHC:International Honey Commission)の資料でも、ギリシャのタイム蜜で、遠心分離のときに巣房の貯蔵花粉が混じることが、花粉の多い植物の花粉が検出される原因の一つとされています。

つまり、はちみつの花粉は「花で入るもの」と「巣や採蜜の過程で入るもの」の合算です。この二つの経路を知っておくと、後の章で出てくる花粉分析の限界も理解しやすくなります。

花粉は原材料ではない——足したものではなく、もとから入っているもの

花粉は、法令上も「原材料」ではなく、はちみつがもともと持っている自然な構成成分として扱われています。花粉入りと書かれていても、それは何かを混ぜたという意味ではありません。

「原材料」にならない理由

欧州連合(EU)の理事会指令2001/110/EC(食品としてのはちみつに関する指令)は、2014年の指令2014/63/EUで改正され、花粉ははちみつ固有の自然な構成成分であり、「原材料」とはみなさないと定められました。はちみつは、蜂が集めた蜜からつくられる単一の食品です。そのなかに花粉が含まれているのは、成分の一部であって、別の素材を加えたことにはならない、という整理です。

この考え方を知っていると、「花粉入りはちみつ」という言い方に違和感が出てきます。花粉が混じっていないはちみつはむしろ、後から花粉を取り除いたものである可能性があるからです。

花粉を足すことも、抜くことも認められていない

同じ指令は、はちみつに他の物質を加えることも、花粉を含むはちみつ固有の成分を取り除くことも認めていません。取り除いてよいのは、異物を除くうえで避けられない場合に限られます。花粉を大きく取り除いたものは、「ろ過はちみつ(filtered honey)」と定義されます。また、この指令は採蜜国の表示も義務づけています。

行為EU指令での扱い
花粉を後から足す認められない(加えてよいのは、はちみつ以外の物質を加えない原則による)
花粉を意図して除く異物除去で避けられない場合を除き認められない
花粉を大きく除くろ過「ろ過はちみつ」として扱う
採蜜国表示が義務

花粉は足すものでも抜くものでもなく、はちみつの一部として残すものです。これが規格の基本的な立場です。

花粉が瓶の中でしていること——濁り・結晶化・微量成分

朝の窓辺で、白くクリーム色に濁った蜂蜜の瓶に光が当たっている淡彩イラスト。 濁りは花粉だけでなく結晶や粒子でも変わる

花粉は瓶の中で、はちみつの見た目や固まりやすさ、微量成分に関わっていると考えられています。国連食糧農業機関(FAO)の資料に、その記述があります。

透明度は浮遊する粒子の量で決まる

FAOの資料によると、はちみつの透明度は、花粉などの浮遊している粒子の量で決まります。粒子が少なければ澄み、多ければ白っぽく濁って見えます。濁りには花粉以外の微細な粒子も含まれるので、濁っているから花粉が多い、とまでは言えません。

花粉粒は結晶の芽になる

結晶化とは、はちみつに含まれるブドウ糖が溶けきれず、結晶になって固まる現象です。FAOの資料では、花粉粒などの固体粒子が結晶化を早めるとされています。小さな粒子が結晶のきっかけ、いわば芽になるためです。花粉の多いはちみつが固まりやすいことがあるのは、この性質と無関係ではありません。結晶化のしくみと戻し方は結晶化のしくみと戻し方で、固まる=偽物という見方は固まるはちみつは本物?という誤解で整理しています。

微量のタンパク質やアミノ酸の出どころ

はちみつには、ごく微量のタンパク質、酵素、アミノ酸、水溶性ビタミンの一部が含まれます。FAOの資料は、これらの一部が花粉の混入に由来すると考えられている、と述べています。あくまで「考えられている」という記述で、含まれる量は微量です。成分の出どころの話として受け取るのが適切で、体への働きを示すものではありません。

顕微鏡からDNAへ——花粉で蜜源を言い当てる方法

朝の机の上で、顕微鏡のそばに蜂蜜を載せたスライドガラスと一輪の野の花が置かれた淡彩イラスト。 花粉の形から、どの花の蜜かをたどる

花粉は蜜源の手がかりになります。花の種類ごとに花粉の形が違うので、はちみつの中の花粉を調べれば、どの花が関わっているかを推定できるためです。

花粉の形は花ごとに違う

花粉分析(メリッソパリノロジー)とは、はちみつに混じる花粉を顕微鏡で観察し、形や大きさから植物の種類を調べる方法です。花粉の大きさ、表面の模様、発芽口の数などが植物ごとに異なるため、これが身元の手がかりになります。ニセアカシア(Robinia pseudoacacia)、ナタネ(Brassica napus)、クリ(Castanea sativa)といった蜜源も、花粉の特徴で見分けます。

習得に数年かかる顕微鏡の目

農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)の資料は、蜜源を明らかにするには、はちみつに微量に混ざる花粉を顕微鏡で分析する方法が一般的だとしたうえで、その技術の習得には一般に数年以上かかるとしています。花粉の種類を見分ける目は、経験の積み重ねでできあがるものです。

DNAバーコーディングで99%以上を同定した例

その顕微鏡の代わりに、DNAを使う試みもあります。DNAバーコーディングとは、生物ごとに異なる決まった遺伝子の配列を読み取り、種や属を特定する方法です。農研機構の資料では、蜂が巣に持ち帰った花粉団子をDNAで解析し、北海道の夏期の1,000個以上のうち99%以上を、種または属まで同定したとされています。8月上旬の例では、ソバ、ムラサキツメクサ、シナノキ属で7割以上を占めました。

同資料は、蜜源が不明のまま百花蜜として売られているものに、蜜源を示せる可能性があるとしています。解読の費用は、48個で約5万円と示されています。ただしこの数字は花粉団子の解析の例で、瓶詰めのはちみつ全般を同じ精度で判定できるという意味ではありません。

花粉分析の限界——花粉の多い花・少ない花と、申告とのずれ

花粉を調べれば蜜源がすべて分かる、とはいきません。花によって花粉の量に偏りがあり、花粉の割合がそのまま蜜の割合を表すわけではないためです。

クリやユーカリは花粉が多く、割合が大きく出やすい

クリやユーカリのように花粉をたくさんつける植物は、少ない蜜でも分析で花粉の割合が大きく出ます。反対に、花粉が少ない花の蜜は、実際に多く含まれていても、分析上は小さな割合になります。IHCの資料でも、ギリシャのタイム蜜で、クリやユーカリなど花粉の多い植物の混入が問題になったことが紹介されています。前章で触れた、遠心分離での貯蔵花粉の混入も一因です。

アカシアは41件中11件——申告と分析が食い違う理由

IHCの資料には、ポーランドの検査機関が2012年に分析した例があります。単花蜜(特定の1種類の花を主な蜜源とするはちみつ)として申告された204検体のうち、花粉分析で確認できたのは93検体でした。

申告された蜜源申告検体数花粉分析で確認できた数
ニセアカシア4111
ソバ397
ナタネ4741
全体20493

ナタネは47件中41件と高く、アカシアは41件中11件、ソバは39件中7件と低くなっています。食い違いのすべてが誤表示だとは限らず、花粉の少ない花の単花蜜は、もともと分析で確認しにくい面があります。単花蜜と百花蜜の違いは単花蜜と百花蜜の表示ルールにまとめています。

花粉を取り除いてはいけない理由——国際規格とろ過はちみつの表示

花粉を取り除かないことが規格で定められているのは、花粉がはちみつの由来を確かめる手がかりだからです。その経緯はFAOの報告書に残っています。

ごみを取るろ過と、花粉まで取るろ過

食品規格委員会(Codex委員会)のはちみつ規格を審議した食品表示部会では、花粉ははちみつの植物上・地理上の由来を特定するために使われる、という意見が出ました。結論として、異物を取り除く際に避けられない場合を除き、花粉を除去してはならないとされました。花粉を大きく除去するろ過をしたものは「filtered honey(ろ過はちみつ)」と表示することでも合意しています。

巣のかけらや蜜蝋などを網で取るろ過と、花粉まで取り除くろ過は、区別されているということです。EU指令の定義も、この合意と同じ方向を向いています。

限外ろ過で失われるもの

FAOの資料には、専用の膜を使う限外ろ過についての記述もあります。限外ろ過では花粉や微生物、タンパク質が除かれ、風味や色の一部も減るとされています。花粉が除かれれば、蜜源や産地を花粉から確かめる手がかりも失われます。ろ過はちみつという表示は、そうした処理がされたかどうかを知らせる役割を持っています。

日本の検査は花粉を見ているのか——ラベルの採蜜国と裏づけの方法

日本のはちみつ検査は、花粉ではなく糖や理化学値を主に見ています。財務省の税関中央分析所(神戸税関分析部門)が発表した関税中央分析所報第57号が、その実例を示しています。

42検体の分析で見えた基準の違い

この報告では、輸入品と国産のはちみつ42種を分析しています。税関の基準(ショ糖・果糖・全糖)で外れたのは1検体でした。一方、公正競争規約の基準では、別に11検体が外れました。こちらは水分、HMF(ヒドロキシメチルフルフラール)、電気伝導度による判定です。天然はちみつかどうかの判定は糖や理化学値を見るもので、花粉で判定する仕組みではありません。

花粉から産地まで言い切れない理由

花粉の組み合わせは、蜜源の推定には役立ちますが、同じ植物は複数の国に生えています。偏りや遠心分離での混入もあり、花粉だけで産地を断定するのは難しいといえます。ラベルに書かれた採蜜国は、花粉分析で保証されたものとは限りません。表示の読み方はラベルの原産国表示の読み方で整理しています。

台所でできる見方——濁りと花粉、食べる前の注意

家庭では、濁りの有無だけで良し悪しを決めず、表示と合わせて見るのが現実的です。

濁っている瓶、澄みきった瓶をどう見るか

濁りは、花粉だけでなく、結晶の出始めや微細な粒子でも変わります。濁っているから劣化、澄んでいるから上質、とは言えません。見るべきは、原産国や採蜜国の表示、蜜源の表記、「ろ過はちみつ」といった処理の表示です。透明度は、手がかりの一つにとどめておくのが穏当です。

花粉アレルギーがある人と1歳未満の子ども

はちみつには花粉が含まれるため、花粉にアレルギーのある人は慎重に扱う必要があります。気になる場合は、医師に相談してください。詳しくははちみつでアレルギーは起きるのかにまとめています。

また、1歳未満の乳児には、乳児ボツリヌス症の恐れがあるため、はちみつを与えてはいけません。消費者庁や厚生労働省も注意を呼びかけています。理由は1歳未満にはちみつを与えてはいけない理由で説明しています。

よくある質問

Q:はちみつに花粉が入っていても食べて大丈夫ですか?

花粉ははちみつにもともと含まれる成分で、花粉が入っていること自体は異常ではありません。ただし、花粉アレルギーのある方は慎重に判断してください。1歳未満の乳児には、花粉の有無にかかわらず、はちみつを与えないでください。

Q:花粉を調べれば、はちみつの産地は必ずわかりますか?

必ずはわかりません。蜜源の推定には有効ですが、花によって花粉の量に偏りがあり、遠心分離で巣房の貯蔵花粉が混じることもあります。花粉だけで産地を言い切ることはできず、表示などと合わせて見る必要があります。

Q:澄んでいて濁りのないはちみつは花粉が取り除かれているのですか?

そうとは限りません。FAOの資料では、透明度は花粉などの浮遊粒子の量で決まるとされますが、花粉以外の粒子や結晶でも濁りは変わります。透明度だけで判断せず、「ろ過はちみつ」などの表示や蜜源の表記から確かめてください。

Q:国産はちみつかどうかは花粉で検査されていますか?

税関中央分析所の資料を見る限り、日本の判定は糖や、水分・HMF・電気伝導度などの理化学値が中心で、花粉で判定する仕組みではありません。ラベルの採蜜国は、そうした検査とは別に表示されるものです。

Q:地元のはちみつを食べると花粉症の症状が和らぐというのは本当ですか?

効果を示す公的な根拠は、確認できていません。花粉を含む食品でアレルギー症状が出る可能性もあるため、慎重さが必要です。詳しくははちみつでアレルギーは起きるのかをご覧ください。

六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。まだ蜂を迎える前の段階で、はちみつや蜜源について、公開されている資料を読み進めているところです。花粉をはじめ、はちみつが何でできているかを、出典とともに少しずつ書いていくつもりです。蜂と花の関わりについては、花粉交配というミツバチのもう一つの仕事や蜜源植物の花ごよみも読んでみてください。