この記事の要点
- はちみつが固まるかどうかは、ブドウ糖の比率と置き場所の温度で決まり、本物か偽物かの判断材料にはなりません。
- はちみつの純度を決めているのは、水分・果糖とぶどう糖の合計・しょ糖などの組成基準と、それを確かめる分析です。
- 水に落とす、指に垂らすといった家庭のテストでは判定できず、家庭での現実的な確認方法は裏ラベルの表示を読むことです。

結論:固まるかどうかで本物かは分からない
冬になっても固まらないはちみつは偽物で、白く固まったものこそ本物。台所でそう思い込んで瓶を見つめた経験のある人は、少なくないと思います。結論から言えば、固まるかどうかと純度は、まったく別の軸にあります。
「固まる=本物」「固まらない=偽物」はどちらも誤解
FAO(国連食糧農業機関)の資料は、結晶化を砂糖を混ぜた証拠とみなす考え方を、広く信じられているものの誤った考えだと明記しています。逆向きの「固まる=本物」も同じ理由で成り立ちません。固まるかどうかは、そのはちみつに含まれるブドウ糖の量と、置かれた温度で決まる現象だからです。
混ぜ物があっても条件次第で固まることはありますし、混ぜ物がなくても固まらないことはあります。固まり方は、純度を映す鏡ではありません。
結晶化は品質の良し悪しも示さない
全国はちみつ公正取引協議会も、結晶の有無だけではちみつの良し悪しは判断できないとしています。農林水産省も、結晶しても成分が変わったわけではなく、食べられると説明しています。固まったから劣化した、固まらないから上質だという見方も、根拠を持ちません。
この記事では、固まる仕組みを数字で確かめたうえで、純度を実際に決めているものは何か、そして家庭で確かめられる範囲はどこまでかを順に整理します。
はちみつはなぜ固まるのか——過飽和のブドウ糖
はちみつが固まるのは、糖が溶けきれないほど入った液体の中で、ブドウ糖が結晶になるからです。過飽和とは、水に溶けられる限度を超えて溶質が入っている不安定な状態のことで、はちみつはまさにその状態にあります。
糖8割・水2割という濃さ
京都府の消費生活安全センターによると、はちみつは糖分が約80%、水分が約20%です。この水の量では、すべての糖を溶かしておくことができません。FAOは、はちみつを過飽和溶液と説明し、できる結晶はブドウ糖の一水和物だとしています。一水和物とは、ブドウ糖が水分子を1つ抱え込んだ形の結晶のことです。
農林水産省も、白く固まるのはブドウ糖のはたらきで、ブドウ糖の割合が高いほど固まりやすいとしています。果糖は水に溶けやすく、結晶になりにくい糖です。
14℃前後で最も速く、5℃より下と25℃より上では進みにくい
温度も大きく関わります。FAOは、約14℃で結晶が最も速く進み、25℃より上と5℃より下ではほとんど結晶しないとしています。国内の資料では、農林水産省が約15℃前後から結晶しやすいとし、京都府は13〜14℃ぐらいで結晶ができやすく、10℃以下ではゆっくり進み、16℃以上ではほとんど結晶しないとしています。
| 資料 | 結晶しやすい温度 | 進みにくい温度 |
|---|---|---|
| FAO | 約14℃で最も速い | 5℃より下、25℃より上 |
| 農林水産省 | 約15℃前後から | (記載なし) |
| 京都府 | 13〜14℃ぐらい | 10℃以下はゆっくり、16℃以上はほとんど結晶しない |
資料によって数字に幅がありますが、共通して言えるのは、暖房の効いた部屋でも冷蔵庫の中でもない、涼しい場所がもっとも固まりやすいということです。秋から冬にかけて、台所や納戸の気温が下がる頃に急に白くなるのは、この温度帯に入るためだと考えられます。
固まらないはちみつ・固まりやすいはちみつ——花の蜜で決まる違い
アカシアと菜の花——蜜源で固まりやすさは変わる
固まりやすさは、どの花の蜜から集められたかと、どこに置かれているかの2つで決まります。偽物かどうかとは関係がありません。
アカシアは固まりにくく、ナタネやソバは固まりやすい
全国はちみつ公正取引協議会によると、アカシアは結晶しにくく、レンゲ・ミカン・クローバーがそれに続きます。ナタネ・ウド・ソバは結晶しやすい蜜です。京都府の資料も、ブドウ糖の多いナタネ蜜やレンゲ蜜は固まりやすく、果糖の比率が高いアカシア蜜は固まりにくいと説明しています。
なお、協議会の資料ではレンゲは固まりにくい側に、京都府の資料では固まりやすい側に挙がっています。同じ蜜源でも、採れた年や地域、混ざり具合で性質に幅が出ることの表れだと思います。
FAOによれば、米国産のはちみつの平均はブドウ糖31.3%、果糖38.2%ですが、ブドウ糖は22.0〜40.7%と大きな幅があります。つまり、本物のはちみつの中だけでも、固まりやすさには大きな個体差があるということです。蜜源ごとの違いは、花の蜜ごとに違う結晶化の速さや、果糖とブドウ糖の比率で変わる固まりやすさでも詳しく扱っています。
暖かい部屋に置けば本物でも固まらない
もうひとつ見落とされがちなのが、置き場所です。上で見たとおり、25℃を超える環境ではブドウ糖はほとんど結晶しません。ブドウ糖の多いナタネ蜜であっても、暖かい部屋に置いた瓶は長く液体のままでいることがあります。
「冬なのに固まらない」という現象は、蜜源の性質か、置き場所の温度で説明がつく場合が多いと考えられます。それだけで混ぜ物を疑う理由にはなりません。
本物かどうかを決めているのは何か——組成基準という物差し
はちみつの純度は、見た目や固まり方ではなく、成分の数値を定めた組成基準で決まります。日本では、公正競争規約と関税分類上の定義が、その物差しになっています。
公正競争規約の数字を読む
全国はちみつ公正取引協議会の「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」では、はちみつの組成基準を次のように定めています。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 水分 | 20%以下(国産は22%以下) |
| 果糖とぶどう糖の合計 | 60g/100g以上 |
| しょ糖 | 5g/100g以下(ニセアカシアや柑橘類などは10g以下) |
| HMF | 5.9mg/100g以下 |
| でん粉デキストリン | 陰性反応 |
HMFとは、糖が分解・加熱されるときにできる物質で、鮮度や加熱の目安として使われます。水分が基準より多ければ、水分活性(微生物が使える水の割合)が上がり、発酵しやすくなります。この点は花の蜜からはちみつになるまでに飛ばす水でも触れています。
協議会は、毎年全会員に製品を提出させ、民間の研究機関に委託して基準への適合を確認しているとしています。純度は固まり方ではなく、こうした数値と検査で見られているわけです。
税関の定義が果糖寄りから合計値に変わった
関税分類にも、はちみつの定義があります。財務省 税関の通達によると、関税分類上の天然はちみつは、20℃で水分20%以下、しょ糖が全重量の5%以下、かつ果糖とぶどう糖の合計が全重量の60%以上のものです。この定義は平成30年に改正されたものです。
改正前は、しょ糖5%以下、果糖30%以上、全糖分に占める果糖50%以上という、果糖寄りの基準でした。果糖が多いことを求める基準では、ブドウ糖の比率が高い、つまり固まりやすい天然のはちみつが基準から外れてしまいかねません。改正後は果糖とぶどう糖の合計で見る形になりました。基準の側も、天然のはちみつの幅広さに合わせて見直されてきたと読めます。
混ぜ物は見た目で分かるのか——検査室で行われていること
混ぜ物は、見た目や簡単な方法ではまず分かりません。専門の機関でも、複数の分析を組み合わせる必要があるのが実情です。
糖組成が似せられると糖の比率では見抜けない
異性化糖とは、ブドウ糖の一部を酵素で果糖に変えて作る液状の糖のことで、清涼飲料などにも使われます。東京税関 分析部門の報告(関税中央分析所報 第44号、2004年)は、異性化糖の中にはちみつとよく似た糖組成をもつものがあり、糖組成の基準だけでは天然はちみつと区別しにくいとしています。
そこで同報告では、薄層クロマトグラフィー・高速液体クロマトグラフィー・キャピラリー電気泳動でオリゴ糖を分析しました。異性化糖やオリゴ糖を加えたものではピークが出て、天然はちみつでは目立つピークが出なかったと報告されています。糖の比率に加えて、微量成分まで見てはじめて差が見えるということです。これは偽和検査、つまり混ぜ物を調べる検査の難しさを示しています。
EUの調査では疑い46%、簡単な検査一つでは足りない
欧州委員会 共同研究センター(JRC)は、2021年11月から2022年2月にかけて、EUへの輸入品から無作為に抜き取った20か国320ロットを調べました。そのうち147件、46%に混ぜ物の疑いがあったと発表しています。ここで言う46%は「疑い」の割合で、追跡調査で確かめる前の数字です。
JRCによれば、混ぜ物にはトウモロコシ由来のシロップはほとんど使われなくなり、米・小麦・テンサイ由来のシロップに置き換わっています。そして、簡単な検査一つでは見抜けず、結果を追跡調査で確かめる必要があるとしています。この調査は特定の国や銘柄の問題を指すものではなく、検査そのものの難しさを伝える材料として読むのが適切だと思います。
水に落とす・指に垂らすといった家庭テストの限界
水に落として溶け方を見る、指に垂らして広がり方を見る、といった方法がよく紹介されます。しかし上で見たように、糖組成を似せた混ぜ物は専門機関でも高度な分析を必要とします。コップの水や指先で判定できるとする根拠は、今回参照した公的な資料の中には見当たりませんでした。
家庭テストは、うまくいくと安心感を与えますが、結果が正しい保証はありません。結果に一喜一憂するより、確かめられる範囲を絞るほうが、現実的だと考えています。
家庭でできる確かめ方——裏ラベルの3行
確かめられるのは、裏ラベルの表示まで
家庭で確認できる手段として現実的なのは、裏ラベルの表示を読むことです。見るのは名称・原材料名・採蜜国の3か所です。
名称欄と原材料名に「はちみつ」以外が並んでいないか
はちみつ類の表示では、純粋なものだけでなく、加糖や精製といった区分があります。名称欄に「加糖はちみつ」などの表記がないか、原材料名に「はちみつ」以外の糖類が並んでいないかを見ます。異性化液糖などが書かれていれば、はちみつ100%ではないことが表示から分かります。区分の違いは、純粋・加糖・精製の3つの区分と見分け方で整理しています。
採蜜国と協議会のマーク
原材料の原産地として、採蜜国の表示も確認できます。全国はちみつ公正取引協議会の規約に沿った表示やマークは、規約に基づく表示がなされていることの手がかりになります。ただし、マークがあれば絶対に本物と言い切れるものではありません。ラベルで確かめられるのは、あくまで表示の範囲までです。
1歳未満の赤ちゃんには与えない
純度とは別に、必ず守ってほしい注意があります。厚生労働省は、1歳未満の赤ちゃんにハチミツや、ハチミツ入りの飲料・お菓子などを与えないよう呼びかけています。ボツリヌス菌の芽胞は120℃で4分の加熱に耐えるとされ、通常の加熱や調理では死にません。ハチミツは包装前に加熱処理をしないのが一般的です。固まっていても液体でも、純粋でも加糖でも、この注意は変わりません。理由は1歳未満に与えてはいけない理由で詳しく書いています。
固まったはちみつ、固まらないはちみつとのつきあい方
固まったはちみつは、温めればもとの状態に戻せます。固まり方は、置き場所の温度である程度調整できます。
瓶ごと水から温め、60℃を超えないように
農林水産省は、瓶ごと水から少しずつ温めて溶かし、電子レンジで強く加熱するのは避けるよう案内しています。全国はちみつ公正取引協議会も、湯せんで60℃を超えないようにとしています。蓋を少しゆるめ、水から入れてゆっくり温めると、急な温度変化を避けられます。詳しくは結晶をもとに戻すときの手当ても参考になります。
固まらせたくないなら15℃前後を避ける
固まらせたくない場合は、結晶が最も進みやすい13〜15℃前後の場所を避けるのが基本です。ただし、暖かすぎる場所は風味や品質の面で別の心配が出てきますので、直射日光や高温になる場所は避けたほうが無難だと考えます。反対に、固まったクリーム状の食感を楽しむ人もいます。固まりは欠点ではなく、はちみつの一つの表情です。
よくある質問
Q:冬になっても固まらないはちみつは偽物ですか?
偽物の証拠にはなりません。アカシアのように果糖の多い蜜は固まりにくく、暖かい部屋に置いた瓶も固まりにくくなります。固まらない理由は、蜜源と温度で説明できる場合が多いと考えられます。
Q:白く固まったはちみつは本物だという証拠になりますか?
なりません。結晶化はブドウ糖の比率と温度で決まる現象で、混ぜ物の有無とは別の話です。FAOも、結晶化を砂糖を混ぜた証拠とみなす考えを誤りとしています。同じ理由で、固まったことが本物の証明にもなりません。
Q:水に垂らしたり指に乗せたりする見分け方は信用できますか?
家庭テストでは判定できないと考えたほうがよいです。糖組成を似せた混ぜ物は、専門機関でも複数の高度な分析が必要とされています。確かめる手段としては、裏ラベルの表示を読むことをおすすめします。
Q:加糖はちみつはどうすれば見分けられますか?
名称欄に「加糖はちみつ」と書かれていないか、原材料名に異性化液糖などが並んでいないかを確認します。見た目や固まり方ではなく、表示で見分けるのが基本です。
Q:固まったはちみつは食べても大丈夫ですか?
食べられます。農林水産省が説明するとおり、結晶しても成分が変わったわけではありません。ただし、泡が出ている、酸っぱい匂いがするといった場合は発酵が疑われますので、口にせず様子を見てください。なお、1歳未満の赤ちゃんには、固まっていても与えないでください。
六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。蜜蜂を迎える前の今は、はちみつや養蜂について、公的な資料をもとに調べたことを「読みもの」として少しずつ書き留めています。固まり方や純度のような身近な疑問も、数字と出典をたどって、静かに確かめていきたいと思っています。