この記事の要点
- はちみつの原産国表示は「製造国」ではなく「採蜜国」を指し、食品表示基準上そのように定められています
- 名称欄・原材料名欄・原産国表示の3か所を読めば、花の種類と採蜜国の内訳がわかります
- 「アカシアはちみつ」等の単花蜜表示は100%を意味せず、その花の蜜がおおむね5〜7割程度を占める場合の呼び方とされています
はちみつの瓶を裏返して、「原材料名 はちみつ(中国、アルゼンチン、その他)」という一文を見たことがある方は多いと思います。多くの加工食品なら「製造者」の所在地で国産か輸入かを判断できますが、はちみつのラベルにはそもそも製造国という欄がありません。これは表示漏れではなく、はちみつという食品の扱われ方そのものに理由があります。

はちみつのラベルには「原産国」がある——他の加工食品との違い
はちみつのラベルに書かれている国名は、工場がどこにあるかではなく、蜜蜂がどこで蜜を集めたかを示しています。この違いを知らずにラベルを見ると、「中国で作られた」と誤読してしまいがちです。
「はちみつ(中国、アルゼンチン、その他)」という表示の正体
この表示は、複数の国で採れたはちみつが原材料として使われていることを示す原産国表示です。国名は採蜜国、つまり蜜蜂が花から蜜を集めた土地の国名であり、瓶詰めや加工が行われた場所とは別の情報です。日本国内で瓶詰めされたはちみつであっても、原料が海外産であれば、その採蜜国名がここに並びます。
生鮮食品に近い食品として扱われる理由
はちみつは、採蜜したものをろ過して瓶に詰めるという工程が中心で、原料の性質を大きく変える加工を経ないことが多い食品です。そのため表示制度の上でも、どこで作られたかより、どこで採れたかを示す原産国表示が採用されています。この考え方が、後述する原料原産地表示制度の枠組みとも重なってきます。
表示を支える2つのルール——食品表示基準と公正競争規約
はちみつのラベル表示は、国が定める義務表示と、業界団体が定める上乗せルールという、性質の異なる2つの仕組みが重なって成り立っています。この構造を知ると、なぜここまで細かく国名や花名が書かれているのかが見えてきます。
平成29年から始まった原料原産地表示制度
消費者庁によると、平成29年(2017年)9月1日より、食品表示法にもとづく食品表示基準の改正によって、新たな加工食品の原料原産地表示制度が始まりました。農林水産省の説明では、国内で作られたすべての加工食品について、重量割合上位1位の原材料の原産地表示が原則として義務づけられています。国内で製造されたものは「国内製造」、輸入されたものは「原産国名」を表示する仕組みで、経過措置は令和4年(2022年)3月末で終了し、現在はすべての対象加工食品で表示が求められています。はちみつの場合、原材料そのものがはちみつであるため、この制度が採蜜国の表示という形で現れています。
はちみつ業界だけの上乗せルール——公正競争規約
公正競争規約とは、業界団体が景品表示法にもとづいて自主的に定める表示ルールのことです。はちみつについては、全国はちみつ公正取引協議会が定める「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」があり、国の義務表示に加えて、名称欄の書き方や複数国表示の省略ルールなど、より細かい基準を上乗せしています。つまりはちみつのラベルは、食品表示法という国のルールと、公正競争規約という業界の自主ルールの、両方を満たす形で作られています。
ラベルのどこを見ればいいか——3つの欄の読み方
はちみつのラベルで確認すべき場所は、名称欄・原材料名欄・原産国表示の3か所です。それぞれ書ける内容が決まっているため、順番に見ていくと迷いません。
名称欄——「はちみつ」としか書けない理由
全国はちみつ公正取引協議会の規約では、名称欄には「純粋」という表現や特定の花の名前を書くことができず、「はちみつ」という一般名称のみを表示することになっています。花の種類や品質にかかわる情報は、名称欄ではなく原材料名欄に書く決まりになっているためです。
原材料名欄——花名はここに書かれる
「アカシアはちみつ」「れんげはちみつ」といった花の名前は、原材料名欄に表示されます。花名を名乗るためには一定の条件を満たす必要があり、この条件については後の章で詳しく取り上げます。原材料名欄と原産国表示は隣接して書かれることが多いため、花の種類と採蜜国を一緒に確認できます。
原産国表示——重量順と「その他」の省略ルール
原産国表示は、採蜜国が複数ある場合、重量割合の高い順に国名が並びます。全国はちみつ公正取引協議会の規約では、採蜜国が3か国以上にわたる場合、上位2か国を表示したうえで残りを「その他」とまとめて省略できるとされています。冒頭の「はちみつ(中国、アルゼンチン、その他)」という表示は、中国産の重量割合が最も高く、次いでアルゼンチン産、そのほかの国の蜜も混じっている、という意味になります。純粋・加糖・精製といった区分そのものについては、純粋・加糖・精製という3つの区分の見分け方で扱っていますので、あわせて確認するとラベル全体の理解が深まります。
単花蜜表示を見分ける——「アカシア」と名乗れる条件
「アカシアはちみつ」のような単花蜜表示は、その花の蜜だけで作られていることを保証するものではありません。表示条件と実際の目安の両方を押さえておくと、店頭での見え方が変わってきます。
「全て又は大部分」という基準
全国はちみつ公正取引協議会の規約では、花名表示を行うためには、全て又は大部分をその花から採蜜し、かつその花の特徴を有していることに加えて、採蜜国名の表示が必要と定められています。「大部分」という言葉が使われている時点で、単花蜜表示が100%を意味する言葉ではないことがわかります。単花蜜と、複数の花の蜜が混ざった百花蜜との違いについては、単花蜜と百花蜜の違いと転飼という仕組みで整理しています。
5〜7割が目安——花名表示は100%ではない
一般社団法人日本養蜂協会の説明では、単花蜜の表示があっても、その花の蜜がおおむね5〜7割程度を占めていればベースになっていると考えるのがよいとされています。これは、蜜蜂が特定の花だけを選んで飛ぶわけではなく、周辺に咲くほかの花の蜜もある程度混ざることが自然だからです。「アカシアはちみつ」という表示は、アカシアの蜜が主体であることを示す表示であって、アカシア100%を保証する表示ではないと理解しておくと、ラベルの見方に無理がなくなります。
よくある誤解を整理する
原産国表示をめぐっては、品質や純粋さと混同されやすい誤解がいくつかあります。制度の区分を分けて考えると、こうした誤解は解けます。
「原産国が日本」と「純粋はちみつ」は別の話
原産国表示は、あくまで採蜜国がどこかを示す制度上の区分であり、純粋はちみつかどうかとは別の話です。全国はちみつ公正取引協議会の規約では、純粋はちみつの組成基準として、水分20%以下、果糖・ぶどう糖60g/100g以上、しょ糖5g/100g以下という数値が定められています。国産か輸入かという原産国の区分と、加糖されているか純粋かという区分は、別々の制度上の判断であり、どちらか一方から他方を推測することはできません。
採蜜国が複数でも粗悪品ではない
原産国表示に複数の国名が並んでいると、寄せ集めのような印象を持つ方もいるかもしれません。しかし採蜜国が複数にまたがることは、養蜂という営みの規模や、はちみつの供給量を考えれば自然なことでもあります。国内で流通するはちみつのうち、国産だけでまかなえる量には限りがあり、海外産の採蜜国が混じること自体は品質の優劣を示すものではありません。日本国内での蜜源の状況については、日本で蜜源が減っている話でも触れています。原産国が単一か複数かという情報は、あくまで表示制度上の区分として読むのが適切です。
よくある質問
Q:「原材料名 はちみつ(中国、アルゼンチン、その他)」はどういう意味ですか? 全国はちみつ公正取引協議会の規約にもとづき、採蜜国を重量割合の高い順に並べた表示です。採蜜国が3か国以上にわたる場合は、上位2か国を表示し、残りを「その他」とまとめて省略できることになっています。この例では、中国産の割合が最も高く、次いでアルゼンチン産、そのほかの国の蜜も含まれていることを示しています。
Q:「アカシアはちみつ」と書いてあれば100%アカシアの蜜ですか? 規約上の条件は「全て又は大部分をその花から採蜜し、その花の特徴を有すること」であり、100%を求めているわけではありません。一般社団法人日本養蜂協会の説明では、その花の蜜がおおむね5〜7割程度を占めていればベースになっていると考えるのがよいとされています。単花蜜表示は主成分を示す表示と理解しておくのが実態に近いといえます。
Q:原産国が外国のはちみつは品質が劣りますか? 原産国表示は採蜜国を示す制度上の区分であり、品質や純粋表示の優劣を示すものではありません。純粋はちみつかどうかは組成基準によって別途定められており、原産国とは異なる観点の話です。なお、原産国にかかわらず、1歳未満の乳児にはちみつを与えてはいけません。消費者庁は、乳児は腸内環境が未成熟でボツリヌス菌が増殖するおそれがあり、その芽胞は加熱調理でも死なないため注意が必要だと呼びかけています。詳しくは1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由でも解説しています。
六角門では、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドの立ち上げを準備しています。まだ蜜蜂を迎える前の段階ですが、はちみつを手に取る方が店頭で戸惑わないよう、こうした表示制度についても調べながら準備を進めています。裏ラベルの読み方については、裏ラベル3行の読み方と常温保存の基本でもあわせて紹介しています。
ラベルに書かれていないこと——採蜜年・加熱の有無・混合比率
ここまで読むと「裏ラベルを見れば全部わかる」と思えてきますが、実際には義務表示の範囲はかなり限られています。読み取れることと読み取れないことを分けておくと、店頭で過剰に悩まずに済むかなと思います。
食品表示基準が容器包装に求めているのは、名称・原材料名・内容量・賞味期限・保存方法・製造者などの項目に、原料原産地の情報が加わったものです。逆に言えば、そこに入っていない情報は書かれていなくても表示の不備ではありません。具体的には、採蜜した年や季節、加熱処理をしたかどうか、どの程度ろ過したか、といった情報は義務表示の項目に含まれていません。
混合比率も同じです。原産国表示は重量割合の高い順に国名が並ぶルールなので、「はちみつ(中国、アルゼンチン、その他)」という表示から確実に言えるのは「中国産が最も多い」というところまでで、それが全体の半分強なのか大部分なのかまでは表示からは判断できません。ここを勘違いして「ほとんど中国産だ」と読んだり、逆に「少しだけ混ざっているだけ」と読んだりすると、どちらも表示が保証していない範囲の推測になってしまいます。
「非加熱」「生はちみつ」といった言葉が書かれている商品もありますが、これらは義務表示の項目ではなく、任意に添えられている表現です。事業者ごとに何をもってそう呼んでいるかが違う可能性があるので、そこを重視して選ぶなら、ラベルの文字だけで判断せず、販売元の説明を確認するほうが確実だと思います。
通販で買うときに確認したいこと——裏ラベルが見えない場合
はちみつをネットで買うとき、そもそも裏ラベルが見られないという問題があります。食品表示基準の義務表示は容器包装への表示を対象とした制度なので、通販サイトの商品ページそのものに同じ表示義務がかかるわけではありません。商品が届けば瓶には一括表示が貼られていますが、買う前の画面に同じ情報が載っているかどうかは出品者次第ということになります。
確認の順番としては、まず商品ページに裏ラベルの画像か、原材料名欄をテキストで書き起こしたものがあるかを探します。次に、それがなければ採蜜国についての記載があるかを見ます。ここでつまずきやすいのが「国産」という一語で、採蜜国が日本という意味なのか、国内で瓶詰めしたという意味なのかが、ページの書き方だけでは区別できないことがあります。原産国表示が採蜜国を指すという前提は、あくまで容器包装のラベルの話なので、商品ページの宣伝文には自動的には当てはまりません。
それでもわからなければ、購入前に販売元へ質問するのが早いと思います。聞く内容は、採蜜国はどこか、単花蜜として売られているならその花名表示の根拠はどうなっているか、の2点に絞ると答えが返ってきやすいはずです。あわせて注意したいのは、商品名に「〇〇はちみつ」と入っていても、それは商品名であって原材料名欄の表示とは別物だという点です。量り売りやギフト用の詰め合わせのように、個別の容器包装に一括表示が付かない形態でも同じことが起こります。
表示に疑問が残ったときの相談先
ラベルを見て「これは書き方としておかしいのでは」と感じたとき、相談先は疑問の種類によって分かれます。前章までで見たとおり、はちみつの表示は食品表示法という国のルールと、公正競争規約という業界の自主ルールが重なってできているので、どちらの話なのかを切り分けると窓口が決まります。
花名表示の使い方や「純粋」という言葉の扱いなど、規約に由来する論点であれば、規約を運用している全国はちみつ公正取引協議会が相談先になります。誤認を招く表示という観点であれば、景品表示法には不当な表示について消費者庁に申し出ることができる仕組みが設けられています。一方、原材料名欄そのものが欠けている、賞味期限の記載がないといった義務表示の不備は、食品表示法の話なので、都道府県の食品表示担当窓口や保健所が窓口になります。
相談する場合に備えておくとよいのは、商品名と製造者・販売者の名称、賞味期限やロットの表示、そしてラベル全体が読める写真です。ラベルは同じ商品でもロットによって刷り直されることがあるので、手元の現物がどの時点のものかがわかる情報を残しておくと、話が早く進むのではないかと思います。