この記事の要点

  • はちみつは糖が水を強く抱え込む液体で、まわりの空気が湿っていれば、その水分を吸って薄まっていきます。
  • FAO(国連食糧農業機関)の対応表では、湿度65%の空気と釣り合う水分は20.9%で、規約の上限20%を超えます。
  • 瓶に水が入る経路は、空気の湿気・結露・濡れた道具の三つで、一度に入る量が最も多いのは濡れたスプーンです。
  • 吸った水はまず表面に溜まるため、少量でも表層だけは発酵しうる水分に近づきます。

ふたを開けたまま置いてしまった瓶や、濡れたスプーンを入れてしまった瓶を前に、「湿気を吸って傷んだのでは」と気になった方は多いと思います。はちみつは腐らないと聞くのに、開けたままだと何が起こるのか。そこには、腐らない理由と同じ仕組みが逆向きに働くという事情があります。

梅雨の台所で、蓋を開けたままの蜂蜜の瓶が雨に曇る窓辺に置かれている淡彩イラスト

はちみつは、空気の湿度と釣り合おうとする液体

はちみつは、周囲の空気が自身より湿っていれば水を吸い、乾いていれば水を手放して、空気の湿度と釣り合うところまで動く液体です。この性質を吸湿性といいます。腐りにくさの裏側にある性質で、はちみつが空気中の水分を吸う吸湿性という性質は、別の記事で詳しく扱っています。

糖が水を抱え込むと、蜜は空気より「乾いた」状態になる

はちみつの大部分は糖で、水分は2割ほどしかありません。糖の分子は水の分子と強く結びつくため、はちみつの中の水は自由に動き回れず、空気中へ逃げにくくなっています。この「水の動きやすさ」を表す数値が水分活性で、はちみつは非常に低い値をとります。細菌や酵母が使える水が少ないことが、腐りにくさの理由です。詳しくははちみつの水分活性はなぜ低いのかにまとめています。

ここで大切なのは、低いという状態は「空気との比較で決まる」ということです。はちみつの水が空気中の水蒸気より動きにくければ、水は空気からはちみつへ移ります。

果糖が多い蜜ほど水を引き寄せやすい

はちみつの糖は主に果糖とぶどう糖です。果糖はぶどう糖より水と馴染みやすく、果糖の割合が高い蜜は湿気を引き寄せやすいと言われます。同じ湿度の部屋に置いても、蜜源によって吸い方に差が出うるということです。ただし、この記事で扱う数字は、後述するクローバー蜜のものです。蜜源ごとの差は一般論にとどめます。

湿度何%から吸い始めるのか——FAOの対応表を読む

朝の台所の棚に、蓋を開けた蜂蜜の瓶と湿度計が並んでいる淡彩イラスト 湿度計の数字と、瓶の中の水分は釣り合っていく

水分18.3%のはちみつは、湿度60%を超える空気から水を吸い始めます。FAO(国連食糧農業機関)の資料には、クローバー蜜が空気の湿度とどの水分で釣り合うかが示されています。

湿度と水分の対応表(50〜80%)

空気の湿度釣り合うはちみつの水分
50%15.9%
55%16.8%
60%18.3%
65%20.9%
70%24.2%
75%28.3%
80%33.1%

この「釣り合う水分」を、平衡相対湿度という考え方で読み替えることもできます。水分18.3%のはちみつの平衡相対湿度は60%で、空気の湿度がそれを上回れば吸い、下回れば放す、ということです。

湿度65%の空気と釣り合う水分は、規約の20%を超える

全国はちみつ公正取引協議会の「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」では、はちみつの水分は20%以下(国産は22%以下)と定められています。FAOの表で湿度65%と釣り合う水分は20.9%ですから、湿度65%の空気にじゅうぶん長く触れた蜜は、いずれ規約の基準を上回る水分に近づく計算になります。日本の梅雨や夏の室内は、これを超える日が珍しくありません。

瓶に水が入る三つの入り口——空気・結露・濡れた道具

瓶の中へ水が入る経路は、空気の湿気、結露、濡れた道具の三つです。入る量と速さがそれぞれ違うので、分けて考えると対策が立てやすくなります。

入り口入る速さ入る量の目安
開けたままの空気ゆっくり、ただし止まらない少量ずつ、表面から
冷えた瓶の結露出した直後に一気に瓶の口まわりやふたの内側に水滴
濡れたスプーン一度に三つのなかで最も多くなりやすい

開けたままの瓶:ゆっくりだが止まらない

湿度が釣り合う水分より高い限り、瓶の口が開いていれば水は入り続けます。一晩程度であれば、吸う水は表面のごく薄い層にとどまるのがふつうです。ただし、数日、数週間と開けたままにすれば、積み重なって無視できない量になります。

冷えた瓶の結露と、湯気の立つコンロの横

冷蔵庫から出した冷たい瓶は、室内の暖かく湿った空気に触れると、瓶の外側や口まわり、ふたの内側に水滴がつきます。これが結露です。ふたを開けた瞬間に、その水滴が蜜に落ちたり、スプーンで運ばれたりします。コンロの横のように湯気が立つ場所も、局所的に湿度が高くなるため、置き場所としては向きません。

濡れたスプーン一杯の水は、空気から吸う量よりはるかに多い

洗ったばかりで水気の残るスプーンを入れると、一度に水滴ごと蜜へ持ち込むことになります。空気から吸う水は一晩で表面だけの薄い量ですが、スプーンの水は目に見える塊で入ります。しかも入るのは表面ではなく、スプーンを差し込んだ場所の蜜の中です。台所で最も起こりやすく、最も量が多い経路といえます。

吸った水は、まず表面に溜まる

吸った水は、蜜の内部へはゆっくりしか広がらないため、まず表面に溜まります。はちみつは粘りが強く、水が全体へ混ざるには時間がかかるからです。結果として、瓶全体の平均水分は基準内でも、表層だけが先に薄まるという状態が起こります。

試算:1kg瓶全体なら約25g、表面50gなら約1.25gで水分20%

ここからは筆者による概算の試算です。水分18%の蜜1kgには、糖などの固形分が約820g入っています。これを水分20%にするには、全体が約1,025gになる必要があり、足す水は約25gです。

一方、表面の50gだけを考えます。水分18%なら固形分は約41gで、水分20%にするには全体が約51.25gになればよく、足す水は約1.25gです。同じ水分20%という線でも、瓶全体なら25gの水が要り、表面だけなら1.25gで届きます。20分の1の量です。濡れたスプーンの水滴や、湿気を吸った表面の薄い層でも、表層は境目を越えうるということです。

酵母は表面から現れる——水分活性0.7という境目の研究報告

Journal of Apicultural Science に載った研究(Arslan & Turhan, 2022)では、松の甘露蜜と柑橘の花蜜を20・30・40℃に置いて、水分活性の変化を調べています。報告によると、水分活性が0.7を超えると、どの温度でも試料の表面に酵母が現れました。0.7より下では水を手放し、上では吸う方向に転じる、J字型の吸湿曲線が描かれたとされています。酵母が出るのは表面からで、松の蜜の方が早かったとも報告されています。

水分活性が上がる、とは、蜜の中の水が動きやすくなり、微生物が使える水が増えることを指します。薄まった表面は、まさにその条件に近づいていきます。水で薄めたときに腐らない性質が消える理由は、水で薄めると腐らない性質が消える理由でも整理しています。

糖度が下がった先にある発酵

水分が増えて糖度が下がった先に待っているのは、腐敗というより、耐糖性酵母による発酵です。耐糖性酵母とは、糖の濃い環境でも増えられる酵母のことです。はちみつはもともと酵母が使える水が少ないので増えませんが、水分が上がると条件が変わります。

水分18%・20%という二つの目安

FAO(国連食糧農業機関)の資料では、水分18%未満であれば発酵の心配はほぼないとされています。一方、規約の上限は20%です。この二つの数字を、実際の判断では次のように使えます。18%未満は心配が少ない範囲、18〜20%は規約内でも条件が重なれば注意、20%を超えると品質面で注意が必要、という見方です。

泡・酸っぱい匂い・表面のゆるさは、発酵のサイン

発酵が進むと、表面に細かな泡が出たり、酸っぱい匂いや酒のような匂いがしたり、表面がゆるく水っぽくなったりします。泡立ちや酸っぱさで見る発酵のサインも参考になります。発酵した蜜は、風味が変わっています。泡や匂いがはっきりあるなら、食べずに手放すという判断もあります。安全だと言い切れるものではないので、迷ったら控える方に倒すのが無難です。

結晶した瓶では、液の部分が先に危ない

結晶した瓶では、上に分かれた液の部分の水分が、最初から高くなっています。FAOの資料によると、結晶化が進むと液の部分の水分が上がり、発酵しやすくなります。

白い結晶と上の液、水分が多いのはどちらか

ぶどう糖は水を抱えにくく先に結晶になるため、結晶は水をあまり含まずに固まります。そのぶん、結晶に入らなかった水が残った液の側に集まります。つまり瓶の中では、白い結晶の部分より、上や隙間にたまった液の方が水分が多い状態です。そこへ湿気や濡れたスプーンの水が加わると、もともと条件が近い層に追い打ちがかかります。

二層になった瓶の扱い

結晶した瓶の上に液がたまる理由は、結晶した瓶の上に液がたまる理由に書きました。二層になった瓶は、ふたをきちんと閉め、乾いたスプーンで扱うことが特に大切です。液の層を先に使い切ろうとするより、匂いと泡を確かめながら、全体を使い進める方が無理がありません。

台所での手当て——入り口ごとにふさぐ

乾いたスプーンで蜂蜜をすくい、使い終えて蓋を閉める朝の台所を描いた淡彩イラスト 乾いたスプーンで取り、使ったらすぐ蓋を閉める

三つの入り口は、それぞれ別の手当てでふさげます。全国はちみつ公正取引協議会は、保存は常温が基本で、賞味期限内に食べるのがよいとし、開封後は吸湿性があるため、きちんとフタを閉め、高温多湿を避けて保存するよう案内しています。

ふたは「使ったらすぐ閉める」

空気の経路には、使ったらすぐふたを閉める、が最も単純で効果的です。スプーンですくうあいだだけ開けるくらいが目安です。置き場所は、直射日光を避けた、湿度の上がりにくい場所を選びます。常温保存と置き場所の決め方は、常温保存と置き場所の決め方にまとめています。コンロや湯沸かしの近くは避け、スプーンは必ず乾いたものを使います。

冷蔵庫を避ける理由は結晶だけではない

冷蔵庫は、低温で結晶が進みやすいうえ、出し入れのたびに結露を呼びます。冷えた瓶の口やふたの内側につく水滴は、先ほど見たとおり、蜜へ水を運ぶ入り口です。規約でも、保存は「直射日光を避け、常温で保存すること」などと表示することになっています。常温でふたを閉める、が基本です。

1歳未満の乳児には与えない

はちみつを扱う際の大切な注意として、1歳未満の乳児には与えないでください。消費者庁によると、1歳未満の乳児は腸内細菌のバランスが整っておらず、はちみつに混じることがあるボツリヌス菌の芽胞が腸で増えて毒素を作ることがあります(乳児ボツリヌス症)。はちみつと、はちみつを含む食品には「1歳未満の乳児には与えないで下さい。」という表示が必要とされています。1歳を過ぎれば避ける必要はありません。理由は1歳未満にはちみつを与えてはいけない理由にも書いています。保存の工夫とは別に、必ず守ってほしい点です。

よくある質問

Q:ふたを開けたまま一晩置いたはちみつは、食べても大丈夫ですか

一晩で吸う水は、ふつう表面のごく薄い層だけで、わずかです。泡や酸っぱい匂いがなければ、ふたを閉めて様子を見ます。匂いがあるときは、表面の層を取り除く方法もありますが、風味が変わっているので、食べるかどうかは慎重に決めてください。

Q:梅雨や夏の台所では、どれくらい湿気を吸いますか

FAO(国連食糧農業機関)の表では、湿度70%の空気と釣り合う水分は24.2%です。湿度が高い時期ほど、釣り合う水分は大きく上がります。吸う量そのものは置く時間で決まるので、ふたを開けている時間を短くすることが要点です。

Q:はちみつが湿気を吸うと、腐るのですか

腐るより先に、酵母による発酵が起きうると考えるのが適切です。水分18%未満なら心配はほぼなく、20%を超えると注意が必要です。腐りにくさは糖の濃さという物性によるもので、水が増えればその守りは弱まります。

Q:冷蔵庫に入れれば湿気を防げますか

かえって結晶しやすくなり、出したときに結露して水が入る原因になります。常温で、ふたをきちんと閉めるのが基本です。

Q:表面だけ水っぽくなったら、混ぜればいいですか

匂いや泡がなければ、混ぜて全体を均すという考え方もあります。ただし、発酵の兆しがあるなら、表面を取り除く方をお勧めします。1歳未満の乳児には、はちみつ自体を与えないでください。

六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。蜜蜂を迎える前の段階ですが、はちみつがどう守られ、どう傷むのかを、いまのうちに調べて残しておきたいと考えています。日々の食卓で、静かにととのえるための手がかりになればと思います。