この記事の要点

  • クリームはちみつは、バターや生クリームを加えず、はちみつだけを細かい結晶にして柔らかく固めたものです。
  • なめらかさは結晶の粒の細かさで決まり、先に入れる細かい結晶(種)と約14℃の温度管理で整えられます。
  • 結晶が育つと液の部分の水分が上がって発酵しやすくなるため、クリーム状でも保存と水分には注意が要ります。

クリームはちみつに、乳製品が入っていると思っている人は少なくありません。白くてなめらかで、スプーンですくっても垂れないのですから、無理もない見方です。けれども原料は、はちみつだけです。

粗い結晶の半透明なはちみつと、細かい結晶の白いクリームはちみつを匙で並べた、朝の台所の淡彩イラスト

クリームはちみつは、何も足していない「結晶したはちみつ」

クリームはちみつとは、はちみつ中のブドウ糖が細かい結晶になり、全体が柔らかく固まったものです。FAO(国連食糧農業機関)の資料では、垂れない、柔らかく細かい結晶の蜜と説明されています。液体の蜜との違いは、結晶があるかどうか。そして、その結晶がどれだけ小さくそろっているかにあります。

白く柔らかいのは、ブドウ糖の細かい結晶

はちみつは糖が水にたっぷり溶けた液で、置いておくうちにブドウ糖が結晶になって出てきます。結晶が細かいほど光が散らばり、白く不透明に見えます。クリームはちみつの白さは、混ぜ物ではなく、細かい結晶そのものの色です。細かい結晶ほど白く見える理由は、細かい結晶ほど白く見える理由で詳しく扱っています。

自然に固まった瓶がジャリジャリするのとの違い

棚に置いたままのはちみつが固まると、舌に粒を感じることがあります。FAOの資料によれば、ゆっくり結晶すると粒は大きく、不ぞろいになります。つまり自然に固まった瓶とクリームはちみつは、成分としては同じで、結晶の粒の大きさと均一さだけが違います。

なめらかさを決めるのは「粒の数」——結晶核という考え方

なめらかさは、結晶の粒の数で決まります。結晶核とは、結晶が育つ出発点になる小さな粒のことです。出発点が多ければ、同じ量のブドウ糖が多数の粒に分かれて育つため、一粒ずつは小さくなります。

ゆっくり固まると粒は大きく、不ぞろいになる

液体の蜜では、結晶核になる微粒子が少ないまま結晶化が始まります。数少ない出発点にブドウ糖が集まるので、粒は大きく育ちます。始まる時期もばらつくため、大きさも不ぞろいになります。FAOの資料が述べる「ゆっくり結晶すると粒は大きく不ぞろい」は、この仕組みのことです。結晶の粒が粗くも細かくもなる背景は、結晶の粒が粗くも細かくもなるしくみにまとめています。

先に細かい結晶を入れておく「種付け」

そこで考えられたのが、最初から結晶核を大量に入れておく方法です。種付けとは、細かく結晶したはちみつ(種はちみつ)を液体の蜜に混ぜ、結晶の出発点を人為的に増やすことをいいます。出発点が最初から多いので、粒は小さいまま、そろって育ちます。

状態結晶核の数粒の大きさ
自然に固まる少ない大きく、不ぞろい
種付けして固める多い小さく、そろう

1930年代のダイス法——加熱・冷却・種付け・14℃

この考え方を工程にしたものが、ダイス法です。米国特許商標庁に登録された米国特許1,987,893号(Google Patents掲載)によれば、発明者はコーネル大学のエルトン・J・ダイス(Elton J. Dyce)。1931年3月に出願され、1935年1月に登録されています。

最初に温めるのは、結晶を溶かして酵母を止めるため

特許には、酵母を殺すために約160°F(約71℃)に加熱する工程が書かれています。目的は食感ではなく、発酵の原因になる酵母を止めることです。もともとある粗い結晶も、このとき溶けます。なお、加熱で酵素や成分がどう変わるかは別の話で、温めたときに酵素やHMFがどう変わるかで成分の面から整理しています。

24℃前後まで冷ましてから種を約5%

加熱した蜜は、約75°F(約24℃)まで急冷します。そこへ細かく結晶した蜜を約5%加えます。請求範囲は1〜約20%と広く取られていますが、中心となる数字は5%です。加えたあと、約15分撹拌して種を全体に行き渡らせます。

14℃に保つ——温度が2〜3度ずれると時間が倍に

撹拌のあとは、約57°F(約14℃)に保ちます。特許には、温度が2〜3°Fずれると所要時間が倍になることもある、と記されています。つまり工程の肝は、種の量と同じくらい、温度を一定に保つことにあります。

工程特許の数字目的
加熱約71℃酵母を止める
急冷約24℃種が溶けない温度にする
種付け約5%(1〜約20%)、約15分撹拌結晶核を全体に配る
保持約14℃結晶を速く育てる

なぜ14℃なのか——結晶がいちばん速く育つ温度

冷蔵庫で白く結晶した蜂蜜の瓶と、冷凍庫で透明な液状のままの瓶を上下に並べた朝の台所の淡彩イラスト 冷やせば固まるとは限らない、温度と結晶の関係

14℃という数字には根拠があります。FAOのAgricultural Services Bulletin 124(Krell, 1996)によれば、結晶化がもっとも速く進むのは約14℃です。

25℃より上でも5℃より下でも、ほとんど進まない

同じ資料では、25℃より上と5℃より下では、結晶化はほぼ起きないとされています。温度が高いと糖が溶けた状態を保ちやすく、低いと蜜が粘って糖が動きにくくなります。そのあいだの約14℃が、結晶の育つ速さの頂点です。

冷蔵庫の温度ではかえって進みにくい

一般の冷蔵庫の庫内は、FAOが示す5℃付近に近い温度帯になることがあります。結晶化のための保管場所としては、冷蔵庫はかえって不向きと考えられます。冷やせば固まる、という直感とは少しずれる点です。花の蜜ごとに結晶化の速さが違うことも、あわせて知っておくと判断しやすくなります。詳しくは花の蜜ごとに違う結晶化の速さにあります。

種と温度、どちらが効くのか——2023年の撹拌試験から

種の細かさと温度のどちらが大きく効くのか。この問いに、Meixner M. ほかが学術誌Foods(12巻48号、MDPI、2023年)で答えています。春の花の蜜を25kg単位で扱い、撹拌条件を比べた研究です。もっとも効いたのは撹拌温度で、最適は14℃でした。

種の細かさで、粒の大きさは倍以上違う

種を7%入れた試験では、粒の大きさは次のとおりでした。

種の作り方結晶の粒の大きさ
フードプロセッサーで作った種59μm
羽根で撹拌した種101μm
種なし146μm

種の細かさの違いだけで、粒の大きさは倍以上開いています。種そのものを細かくしておくことが、仕上がりに響くということです。

14℃を保てるなら種の差は目立たない、18℃なら種が効く

一方、14℃では種の有無で粒の大きさは変わりませんでした。18℃では、種を入れたほうが有意に細かくなっています。14℃なら蜜が自力で細かい結晶を作れるため、種の出番が小さくなるのだと読めます。研究者は、14℃を保てない場合の対策として、200μmの網でこすこと、種を足すこと、1日に数回撹拌することを挙げています。

固めると発酵しやすくなる——加熱の工程がある理由

下が白く結晶し、上に液の層ができた蜂蜜の瓶を朝の台所の棚に置いた淡彩イラスト 結晶が水を手放すと、上の液の部分が薄まる

ダイス法がわざわざ加熱から始まる理由は、ここにあります。FAOの資料によれば、結晶化で水が離れると、液の部分の水分が上がり、発酵の危険が増します。固めること自体が、保存のうえでは不利に働く面を持っています。

結晶が水を手放し、液の部分が薄まる

ブドウ糖が結晶になるとき、結晶は水をほとんど含みません。すると、まだ結晶になっていない液の部分には水が残り、相対的に薄まります。瓶全体の水分は変わらなくても、液の部分だけを見ると水分が上がっているわけです。固まると発酵しやすくなる理由は、固まると発酵しやすくなる理由でも整理しています。

水分の多い蜜ほど、クリーム状にしたあとが危ない

FAOの資料は、水分18%未満なら発酵の危険はほとんどない、としています。裏を返せば、水分がこの目安に近い、あるいは超える蜜ほど、結晶で液の部分が薄まったときの影響を受けやすくなります。ダイス法の加熱は酵母を止める手立てで、固めたあとの発酵リスクに先回りした工程だと位置づけられます。

家で試すなら——条件で分かれる判断

ここからは一般論です。種と14℃という筋道が分かると、家庭で向く条件と向かない条件が見えてきます。

ナタネのように固まりやすい蜜なら向く、アカシアは向きにくい

ナタネ(菜の花)の蜜は結晶化しやすい蜜として知られ、アカシアの蜜は結晶化しにくい蜜として知られています。結晶化しやすい蜜は、結晶核ができやすく、細かい結晶に育てやすいと考えられます。反対に、アカシアのように固まりにくい蜜では、時間がかかりやすく向きにくいといえます。

14℃を保てる季節・場所があるか

温度が結晶化の速さを決める以上、14℃前後を保てるかどうかが分かれ目です。特許には、2〜3°Fのずれで所要時間が倍になることがあると書かれ、2023年の試験でも18℃では結果が変わっています。涼しい場所を確保できないなら、14℃で保つ前提の方法は難しくなります。保てない場合の対策は、先に挙げた網でこす、種を足す、1日数回撹拌する、の3つです。

加熱の工程は家ではすすめない理由

71℃への加熱は、工業的な工程の一例として紹介したものです。温度管理を誤れば、酵素や風味の面で蜜の性質を変えてしまいますし、種を入れる24℃まで急冷する設備も家庭にはありません。この記事は家庭での加熱をすすめるものではありません。

食べ方と保存——クリームはちみつの扱いと1歳未満への注意

クリームはちみつは、柔らかくて塗りやすい点が持ち味です。パンに塗る、ヨーグルトに添えるなど、食べ方は普通のはちみつと変わりません。変わるのは保存の考え方です。

25℃を超える場所では、ゆるんで分かれてくる

FAOの資料にあるとおり、25℃より上では結晶化はほぼ起きません。逆にいえば、25℃を超える場所に置くと、細かい結晶を保てずゆるんできます。さらに、結晶が溶けると、液の部分と結晶の部分が分かれて見えることもあります。常温のなかでも涼しく、直射日光の当たらない場所を選ぶのが基本です。水分が入ると発酵しやすくなるため、清潔な乾いたスプーンを使い、湿気を避けます。

クリーム状でも1歳未満には与えない

1歳未満の乳児にはちみつを与えてはいけません。厚生労働省は、1歳未満は腸内環境が整っておらず、ボツリヌス菌が腸内で増えて毒素を出すことがあると周知しています。芽胞の耐熱性は120℃・4分とされ、通常の加熱や調理では死にません。クリーム状のはちみつも同じ扱いで、離乳食に加えることもできません。

よくある質問

Q:クリームはちみつには、バターや生クリームが入っているのですか?

入っていません。はちみつを細かく結晶させただけです。名前の「クリーム」は、白くなめらかな見た目と口あたりを指しています。

Q:固まったはちみつを混ぜれば、クリームはちみつになりますか?

粗い結晶は、混ぜても細かくなりません。細かい種と14℃前後の温度という条件が要ります。2023年の試験では、種の細かさで粒が59μmから146μmまで変わり、14℃を保てるときは種の差が目立たなくなりました。

Q:クリームはちみつは冷蔵庫で保存した方がよいですか?

冷蔵庫は基本ではありません。FAOの資料では、25℃より上では結晶化がほぼ起きず、結晶がゆるんでくることもあります。常温のなかの涼しい場所に置くのが基本です。

Q:クリームはちみつは腐りにくいのですか?

むしろ発酵しやすい面があります。結晶で水が離れると液の部分の水分が上がるためです。FAOの資料では、水分18%未満なら発酵の危険はほとんどないとされます。湿気と、水分の多い蜜には注意が要ります。

Q:赤ちゃんにクリームはちみつを食べさせてもよいですか?

1歳未満には与えられません。厚生労働省は、芽胞が120℃・4分の加熱でも残るため、通常の加熱や調理では防げないと周知しています。クリーム状でも同じです。

六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドを準備しています。まだ蜜蜂を迎える前の段階で、はちみつのことを、まず調べて書き留めているところです。結晶ひとつにも筋道があることを、これからも読みものとして残していきます。