店の棚で、ほとんど透明の瓶と、コーヒーのように黒い瓶が並んでいる。色が濃い方が栄養がありそうで、腐りにくそうで、甘さも濃そうに見える。けれど、その印象の多くは、色が何を表しているかを取り違えたところから来ています。
この記事の要点
- はちみつの色を決めているのは糖ではなく、糖と水の外側にある、ごくわずかな微量成分です。
- 色が濃いはちみつは香りが強く、ミネラル等の微量成分が多い傾向がありますが、品質の優劣を示す物差しではありません。
- 糖度・腐りにくさ・結晶化の速さは、色とは別の物差し(水分量・水分活性・糖の組成)で決まります。

色を決めているのは糖ではなく、残りのわずかな成分
はちみつの色を決めているのは、主成分の糖ではありません。糖と水を除いた、ごくわずかな残りの成分が色を担っています。はちみつの全体像ははちみつの成分の全体図にまとめていますが、大半はブドウ糖と果糖、そして水分です。
糖と水だけなら、はちみつはほぼ無色に近い
ブドウ糖と果糖を水に溶かしただけの液は、ほぼ無色透明です。砂糖水が透き通っているのと同じ理屈です。つまり、はちみつに黄色や琥珀色、黒に近い褐色がつくのは、糖以外のものが混ざっているからだと言えます。
はちみつの色の濃さは、Pfundスケールという色の段階表で測られることがあります。流通の場では「淡い」「琥珀色」「濃い」といった区分が使われ、色は品質の優劣ではなく、種類を見分ける手がかりとして扱われています。
色のもとになるミネラル・ポリフェノール・アミノ酸
はちみつの色のもとになる成分は、一つではありません。ミネラル、ポリフェノールなどの色素や香りを持つ成分、アミノ酸が、それぞれ関わっていると考えられています。これらはもともと花の蜜や、蜜を集める植物に由来するものです。
ここで押さえておきたいのは、量の感覚です。どれも全体から見ればごくわずかな量で、糖の量とは比べものになりません。色は、その微量成分の違いを映す鏡のようなものです。糖がつくる味の土台の上に、微量成分が色と香りの個性を重ねている、と考えると整理しやすくなります。
花の蜜が違えば色が違う——淡い蜜と濃い蜜の代表例
はちみつの色を最も大きく左右するのは、蜜蜂がどの蜜源植物から蜜を集めたかです。同じ養蜂場でも、花が変われば色が変わります。ここでは、花の蜜から採れる単花蜜(ひとつの花を主な蜜源とするはちみつ)を中心に見ていきます。
淡い色になりやすい蜜源
アカシア(ニセアカシア)、レンゲ、ナタネは、淡い色のはちみつになる蜜源として知られています。アカシアは水のように澄んだ薄い色で、味もすっきりしています。レンゲは淡い黄色で、やわらかな甘さが特徴とされます。ナタネは淡い色ですが、結晶化しやすいことでも知られています。この点は、あとの章で扱います。
濃い色になりやすい蜜源
ソバやクリは、濃い褐色のはちみつになる蜜源です。ソバは独特の強い香りがあり、クリも個性のはっきりした風味です。また、甘露蜜(かんろみつ)も濃い色の傾向があります。甘露蜜とは、花の蜜ではなく、樹木に付く昆虫が出す甘い排泄物を蜜蜂が集めたもので、森の樹木由来の風味が出ると言われます。花の蜜以外が原料になることがある、という点は意外に知られていません。
百花蜜の色が年や季節で揺れる理由
百花蜜とは、複数の花から集めた蜜が混ざったはちみつのことです。単花蜜と違い、その年の天候や、咲いた花の顔ぶれによって色が変わります。春と夏、年ごとに色合いが違っていても、それは自然な揺れです。蜜源の構成が違えば、微量成分も変わるからです。花ごとの違いは、花ごとに違う色と香りの微量成分でさらに詳しく書いています。
濃い色の蜜ほど香りが強いのはなぜか
色の濃さは、香りを予想する目安になる
濃い色のはちみつに香りの強いものが多いのは、色の成分と香りの成分が、同じ花の個性から来ているためです。色が香りを作っているわけではなく、どちらも同じ根元から出ている、という関係です。
香りの成分も微量成分の一部
香りの成分も、糖の外側にあるごくわずかな成分です。花の蜜にもともと含まれていたものや、蜜が巣の中ではちみつへと変わる過程で残ったものが、香りとして感じられます。色素を持つ成分と香りを持つ成分は、蜜源植物が違えば両方とも違ってくるので、色と香りは連動して見えやすくなります。
ただし、これはあくまで傾向です。色が淡くても個性的な香りのものはありますし、色が濃くても香りが穏やかなものもあります。色は、香りを予想するための目安にとどまります。
クセが強いと感じる蜜・やさしいと感じる蜜の分かれ目
「クセが強い」と感じるか「やさしい」と感じるかは、成分の量だけでなく、人の好みや慣れにも左右されます。ソバの強い香りを好む人もいれば、アカシアの淡泊さを好む人もいます。どちらが上というものではなく、風味の違いとして選ぶものです。初めて濃い色の蜜を試すなら、少量を口にして、香りの強さが自分に合うかを確かめてからにするのが穏当だと思います。
よくある誤解:色が濃いと糖度が高い・腐りにくい?
色が濃いからといって、糖度が高いわけでも、腐りにくいわけでもありません。糖度も腐りにくさも、色とは別の物差しで決まります。
糖度は水分量の裏返しで、色では読めない
糖度とは、はちみつに含まれる糖の割合の目安です。言い換えれば、水分量の裏返しです。水分が少なければ糖度は高く、多ければ低くなります。色はこの水分量とは直接つながっていないので、淡い色でも濃い色でも、糖度が高いものも低いものもあります。糖度と水分活性の関係は、糖度と水分活性の違いで整理しています。
腐りにくさを支えるのは水分活性と酸性度
腐りにくさを支えているのは、水分活性と酸性度です。水分活性とは、食品の中で微生物が使える水の割合を示す指標のことです。はちみつは糖が水を強く抱え込むため、微生物が使える水がごく少なく、増えにくい環境になっています。さらに弱い酸性であることも、増殖を抑える方向に働きます。詳しくははちみつが腐らないしくみにまとめました。
この仕組みに、色の成分は主役として関わっていません。濃い色のはちみつだから腐りにくい、という理屈は成り立たないのです。
結晶化の速さはブドウ糖の割合で決まる
結晶化とは、はちみつの中のブドウ糖が固まって白く濁る現象のことです。ブドウ糖の割合が多い蜜は結晶化しやすく、果糖が多い蜜は結晶化しにくくなります。淡い色のナタネは結晶化しやすく、同じく淡い色のアカシアは結晶化しにくいのが、その例です。つまり、色が薄いか濃いかでは結晶化の速さは決まりません。花ごとの違いは花の蜜ごとに違う結晶化の速さに書いています。
色から分かること・分からないこと早見表
色から読み取れるのは、香りの傾向や微量成分の傾向、経年の変化です。糖度や腐りにくさ、結晶化の速さは、色からは読み取れません。
色で見当がつくもの
| 項目 | 色からの読み取り | 条件・注意 |
|---|---|---|
| 香りの強さ | 濃いほど強い傾向 | 蜜源によって例外がある |
| ミネラル等の微量成分 | 濃いほど多い傾向 | 量はわずかで、優劣を示すものではない |
| 経年の変化 | 濃くなっていれば進んだ可能性 | 蜜源本来の色との区別が必要 |
ラベルや保存状況で確かめるべきもの
| 項目 | 色で読めるか | 確かめる手がかり |
|---|---|---|
| 糖度・水分量 | 読めない | 製品表示、問い合わせ |
| 水分活性・腐りにくさ | 読めない | 保存方法、表示された期限 |
| 結晶化の速さ | 読めない | 蜜源名(花の種類) |
| 精製の有無 | 読めない | 原材料や製法の表示 |
蜜源の色か、保存中の褐変か——瓶の見分け方
置き場所によって、瓶の色の進み方は変わる
瓶の色が蜜源由来か、保存中の褐変かは、ラベルの蜜源名と期限、香りの変化を合わせて判断できます。色だけで決めないことが大切です。
ラベルの蜜源名と賞味期限を先に見る
まず、ラベルの蜜源名を確認します。ソバやクリと書かれていれば、濃い色は蜜源由来と考えるのが自然です。アカシアと書かれているのに茶色が強ければ、保存による変化も疑えます。あわせて賞味期限も見ておくと、経年の目安になります。年月による色と香りの変化は、年月で変わる色と香りで触れています。
香りの変化と色の変化を合わせて判断する
褐変とは、時間とともに色が茶色く濃くなる変化のことで、糖とアミノ酸が反応するメイラード反応が関わるとされます。パンが焼けて色づくのと同じ種類の反応です。色が濃くなるだけでなく、香りが変わっていないかを合わせて見ます。香りに明らかな異臭がなく、風味がおおむね保たれていれば、自然な変化の範囲と考えられます。
温かい場所に長く置いた瓶は濃くなる
褐変は、温かい場所で進みやすいと言われます。日の当たる窓辺や、コンロの近くに長く置いた瓶は、涼しい場所の瓶より色が濃くなりやすいということです。保存は直射日光を避け、涼しい場所に置くのが基本です。
色で選ぶときの使い分けと、食べる前の注意
用途で選ぶなら、料理や飲み物には淡色、香りを楽しむなら濃色が一つの目安になります。ただし好みで選んで構いません。
料理や飲み物に合わせるなら淡色、香りを楽しむなら濃色
淡い色の蜜は味がすっきりしていて、素材の風味を邪魔しにくいので、料理や飲み物に合わせやすいです。濃い色の蜜は香りが主役になるので、そのまま味わったり、パンやヨーグルトに少量添えたりして楽しむのに向いています。なお、紅茶に入れて黒っぽく変わることがあります。この理由は紅茶に入れると黒くなる理由で書いています。
1歳未満の乳児には色に関係なく与えない
1歳未満の乳児には、色の濃淡や種類に関係なく、はちみつを与えてはいけません。乳児ボツリヌス症を防ぐためで、消費者庁や厚生労働省も注意を呼びかけています。理由は1歳未満に与えてはいけない理由に書いています。加熱しても避けるべきとされています。
よくある質問
Q:色の濃いはちみつは栄養が多いのですか?
ミネラルなどの微量成分が多い傾向はありますが、その量はごくわずかです。成分の違いとして知っておく程度で、体への働きを示すものではありません。
Q:色が濃いはちみつの方が腐りにくいのですか?
いいえ。腐りにくさは、水分活性と酸性度で決まります。色の濃淡とは関係しません。
Q:買ったときより色が濃くなったのは劣化ですか?
保存中の褐変は、自然に起こる変化です。香りに異変がないか、期限が過ぎていないかをあわせて確認し、判断するのが良いと思います。
Q:色の薄いはちみつは加工されているのですか?
アカシアなど、蜜源の性質で淡い色になるものが多くあります。色だけで精製の有無は判断できないため、ラベルの表示を確認するのが確実です。
六角門は、京都で養蜂を主軸にした健康ブランドの準備を進めています。蜜蜂を迎える前の今は、はちみつや養蜂について調べ、分かったことをこの「読みもの」に少しずつ書き留めています。これからも、確かめられたことを静かに共有していきたいと思っています。