赤ちゃんには禁止なのに、自分はトーストにはちみつを塗ってよいのだろうか。紅茶に落とそうとして、ふと手が止まった人は少なくないと思います。

この記事の要点

  • 妊娠中・授乳中の本人がはちみつを食べることと、1歳未満の赤ちゃんの口に入ることは、別の経路の話です。
  • 米フロリダ大学の資料は、ボツリヌス症は母乳では伝播せず、授乳中の母親が芽胞を子に渡すことはないと明記しています。
  • 気をつけるのは、スプーン・指・乳頭に塗る・加工食品など、赤ちゃんの口に直接入る経路です。1歳未満には与えません。

朝の台所で、はちみつの瓶の脇に置かれた小さなスプーンと、洗い桶の水に濡れた手のイメージ

先に結論——母親が食べることと、赤ちゃんに与えることは別の話

結論から言うと、妊娠中・授乳中の本人がはちみつを食べることと、1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えることは、まったく別の問題として扱われています。前者は公的資料の記述から差し支えないと読め、後者は厚生労働省や消費者庁が周知する重要な注意喚起です。

妊娠中・授乳中の本人が食べる場合

東京都南多摩保健所は、大人や1歳以上の子どもは食べても心配はありませんと記しています。妊娠中・授乳中の人が対象に含まれるかどうかを、この文言だけで言い切ることはできません。ただ、後の章で見るとおり、芽胞が問題になる仕組みから考えると、本人が食べること自体は差し支えないと読めます。体調や食事の制限がある場合は、主治医の指示が先です。

1歳未満の赤ちゃんの口に入る場合

こちらは明確です。1歳未満の乳児がはちみつを食べると、乳児ボツリヌス症にかかることがあります。乳児ボツリヌス症とは、ボツリヌス菌の芽胞が乳児の腸の中で増え、毒素を出すことで起きる病気です。1歳未満の赤ちゃんには、はちみつを与えません。詳しくは1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由にまとめています。

この記事でたどる「経路」という見方

「食べてよいか」を白黒で考えると、不安だけが残ります。この記事では、芽胞がどこから赤ちゃんの腸まで届きうるのかを、経路として一本ずつたどります。届かない経路は安心して手放し、届きうる経路だけを台所で断つ。その順に進めます。

そもそもなぜ1歳未満だけなのか——芽胞と腸内細菌叢

乳児の手が届かない高い棚に、蜂蜜の瓶が静かに置かれている淡彩イラスト 1歳未満の赤ちゃんには、はちみつを与えません

1歳未満だけが対象なのは、乳児の腸内細菌叢が大人と異なるためです。腸内細菌叢とは、腸の中に暮らす細菌たちの集まりのことで、この違いが発症を分けます。

はちみつの中で眠っている芽胞

芽胞とは、ボツリヌス菌が厳しい環境をしのぐためにつくる、殻のように硬い休眠の状態です。東京都南多摩保健所によると、市販のはちみつの4〜6%に芽胞が含まれることがあります。米フロリダ大学IFAS Extensionの資料では、米国の調査ではちみつ試料の10%から芽胞が見つかったとされています。調べた対象が違うため数字は一致しませんが、芽胞が含まれうること自体は公的な資料に共通しています。

加熱でこの芽胞を壊すのは容易ではありません。厚生労働省は、芽胞は通常の加熱や調理では死なず、耐熱性は120℃4分だと説明しています。

乳児の腸で起きること、大人の腸で起きないこと

仙台市健康福祉局は、大人の腸内では、ボツリヌス菌が他の腸内細菌との競争に負けてしまうため、通常は何も起こらないと説明しています。乳児の腸ではその競争相手がまだ育っていません。厚生労働省医薬・生活衛生局が別添した東京都福祉保健局の報道発表も、乳児の腸内細菌叢が成人と異なるために起こる疾病としたうえで、「はちみつ自体はリスクの高い食品ではありません」と書いています。

国内の報告数と昭和62年から続く注意喚起

厚生労働省によると、国内の報告は、保健所報告が1986年以降3例、医師報告が1999年以降16例です。予防対策は、昭和62年10月20日付の通知「乳児ボツリヌス症の予防対策について」以来続いています。平成29年には、東京都足立区で、約1か月前から市販のジュースにはちみつを混ぜて与えられていた5か月の男児が発症し、亡くなりました。数は少なくても、起きれば重い病気です。

妊娠中に食べたはちみつは、おなかの赤ちゃんに届くのか

妊娠中に食べたはちみつについて、公的資料は直接には何も述べていません。ただ、資料が書いていることを組み合わせると、読み取れることはあります。事実と読み取りを分けて整理します。

公的資料に書いてあること、書いていないこと

厚生労働省のページには、妊娠中・授乳中・母乳への言及がありません。東京都南多摩保健所や仙台市のページも同じです。書いてあるのは、乳児ボツリヌス症が乳児の腸で起こる病気だということ、大人は食べても心配がないということです。「妊娠中は問題ない」と明記した日本の公的資料を、準備のなかで調べた範囲では確認できていません。この空白は、空白のままお伝えするのが正直だと考えています。

「1歳以上の方が摂取しても本症の発生はありません」の読み方

東京都福祉保健局の別添は、「1歳以上の方が摂取しても本症の発生はありません」と明記しています。発症の場は乳児の腸であり、1歳以上であれば摂取しても発生しない、という整理です。妊娠中の人は、1歳以上の大人にあたります。この記述から、本人が食べることで本人に症状が出る心配は読み取れません。一方で、おなかの赤ちゃんへの影響そのものについて、この文は何も語っていません。そこは別の話として、次の章以降で扱います。

体調や食事制限があるときは主治医に

妊娠中は、体調や検査の結果によって食事の指示が出ることがあります。そうした指示がある場合は、一般的な資料よりも主治医の説明が優先です。量や頻度についても、この記事で目安を示すことはしません。

授乳中に食べたはちみつは、母乳に出るのか

母乳については、海外の大学と医療機関に、はっきりした記述があります。日本の公的ページには見当たりませんが、否定する記述が複数あるという点が手がかりになります。

フロリダ大学の資料が明記していること

フロリダ大学IFAS Extension(UF/IFAS)の資料は、「ボツリヌス症は母乳では伝播しない。はちみつを食べた授乳中の母親が芽胞を子に渡すことはない」と明記しています。母乳を通じた経路について、直接答えている資料です。

毒素は大きな分子という医師の説明

米国の医療機関であるクリーブランド・クリニックは、家庭医のJeffrey Brown医師の説明として、ボツリヌス毒素はかなり大きな分子で、母乳には入らないと紹介しています。同じ記事は、母親自身がボツリヌス症を発症した状態で授乳を続けても、乳児に害がなかった症例報告があることにも触れています。なぜ入らないのかという仕組みを、これ以上の言葉で断定できる材料は、手元の資料にはありません。ここでは医師の説明の紹介にとどめます。

日本の公的ページに記載がないことをどう受けとめるか

記載がないことは、「危険だから書けない」ことを意味しません。日本の資料は、はちみつを乳児に与える場面の注意喚起に焦点を絞っているためと考えられます。母乳経由を否定する記述は海外の資料にあり、日本の資料に矛盾する記述は見つかっていません。それでも不安が残る場合は、助産師や小児科医に尋ねるのが確実です。

気をつけるのは母乳ではなく、口に直接入る経路

気をつけるべきなのは母乳ではなく、はちみつが赤ちゃんの口に直接入る場面です。米国疾病予防管理センター(CDC)は、乳児ボツリヌス症の大半は防ぐことができないとしたうえで、はちみつは乳児に安全でないと分かっているとして、1歳未満には与えないよう呼びかけています。はちみつは、数少ない避けられる経路です。

はちみつのついたスプーンと指

自分のトーストに使ったスプーンで離乳食をすくう。はちみつを触った指で赤ちゃんの口元に触れる。台所と授乳のあいだには、こうした小さな接点があります。はちみつを使ったあとは、手とスプーンを洗ってから赤ちゃんに触れる。それだけで、この経路は断てます。

乳頭のケアにはちみつを塗らない

乳頭の傷のケアにはちみつを塗る方法が、民間療法として語られることがあります。効果の有無はここでは扱いません。避ける理由は一点だけで、塗った乳頭を赤ちゃんが吸うと、はちみつが口に直接入るからです。ケアの方法は、助産師や医師に相談してください。

はちみつ入りの加工食品は原材料名で確かめる

ジュース、パン、焼き菓子、乳酸菌飲料など、はちみつは身近な加工食品にも使われます。前述の足立区の事例も、市販のジュースに混ぜたはちみつから起きました。手がかりは原材料名です。はちみつの原材料表示については、はちみつのラベルの読み方も参考になります。

注意喚起表示は義務ではないということ

「1歳未満に与えないで」という注意喚起表示は、食品表示法上の義務ではありません。東京都南多摩保健所は、はちみつ入りの加工食品には表示がないものも多いと注意しています。表示がないから安全、とは言えないのです。

「加熱すれば大丈夫」という誤解——120℃4分という壁

蜂蜜の瓶を低めの湯にそっと浸し、温度計を添えた朝の台所の淡彩イラスト 家庭の湯や調理の温度は、芽胞には届きません

加熱しても、家庭の調理では芽胞は壊れません。理由は温度にあります。

水分のある食品は100℃までしか上がらない

芽胞を死滅させるには、120℃で4分以上の加熱が必要だと、厚生労働省、東京都、仙台市はそろって説明しています。フロリダ大学の資料も、食品中の芽胞を壊すには華氏240〜250度が必要で、煮沸では6時間を超えるとしています。東京都南多摩保健所によれば、水分の多い食品は100℃までしか加熱できません。160℃のオーブンや180℃の油で調理しても、食品の中に菌が残りうるとしています。焼き菓子や煮物にしたから大丈夫、とは言えない理由です。加熱で変わること、変わらないことははちみつを加熱しても変わらないことで整理しています。

母親が食べる料理には関係がなく、取り分けには関係がある

この数字が意味を持つのは、赤ちゃんに与える場合です。母親が自分で食べる料理なら、芽胞が残っていても、腸内の競争で問題にならないと前述の資料は説明しています。一方、はちみつ入りの料理を離乳食に取り分けるのは、加熱してあっても避けます。

もしものときに気づきたいサインと、アレルギーの話

万が一に備えて、サインと考え方を知っておくと落ち着いて行動できます。

便秘、哺乳力の低下、泣き声の変化

厚生労働省が挙げる乳児ボツリヌス症の症状は、便秘、哺乳力の低下、元気の消失、泣き声の変化、首のすわりが悪くなる、などです。こうした変化が続くときは、いつ何を口にしたかを伝えたうえで、医療機関を受診してください。

少量なめてしまったときの考え方

はちみつの付いた手やスプーンに赤ちゃんが触れてしまったとき、あわてる必要はありません。様子を見て、上のサインが続くときだけ医療機関へ相談する、という順番で考えます。

ボツリヌスとアレルギーは別の注意

アレルギーは、ボツリヌスとは別の論点です。はちみつで起こりうるアレルギーについては、はちみつでアレルギーは起きるのかに分けて書きました。気になる症状があれば、医師に相談してください。

まとめ——経路で分ければ、こわがりすぎずにすむ

経路を整理すると、次のようになります。

経路公的資料などの記述対応
妊娠中・授乳中の本人が食べる1歳以上の摂取で本症の発生はない(東京都)差し支えない。食事制限は主治医へ
母乳を通る母乳では伝播しない(フロリダ大学)心配しすぎなくてよい
スプーン・指口に直接入りうる洗ってから赤ちゃんに触れる
乳頭に塗る口に直接入る塗らない
加工食品・取り分け120℃4分でも家庭では残りうる原材料名を確かめる。取り分けない

届く経路はどれも、台所で断てるものです。そして、1歳未満の赤ちゃんには、はちみつを与えません。この一点は、離乳食が始まってからも変わりません。

よくある質問

Q:授乳中にはちみつを食べると、母乳を通して赤ちゃんが乳児ボツリヌス症になりますか?

フロリダ大学の資料は、ボツリヌス症は母乳では伝播しないと明記しています。注意するのは、スプーンや指、加工食品など、赤ちゃんの口に直接入る経路です。

Q:妊娠中にはちみつを食べると、おなかの赤ちゃんに影響しますか?

東京都福祉保健局の別添は、1歳以上の方が摂取しても本症の発生はないと記しています。妊娠への影響に直接触れた日本の公的資料は確認できていません。食事制限のある場合は、主治医に確認してください。

Q:はちみつを加熱した料理やお菓子なら、赤ちゃんに取り分けてもよいですか?

取り分けられません。芽胞の死滅には120℃4分以上が必要で、水分の多い食品は100℃までしか上がらないため、家庭の加熱では残りうるからです。

Q:乳首の傷のケアにはちみつを塗ってもよいですか?

避けてください。赤ちゃんの口に直接入る経路になるためです。ケアの方法は、助産師や医師に相談してください。

Q:はちみつを食べた手やスプーンで赤ちゃんに触れてしまいました。どうすればよいですか?

あわてず様子を見てください。便秘や哺乳力の低下などが続くときは、医療機関に相談します。

Q:授乳中のはちみつで、赤ちゃんにアレルギーが出ることはありますか?

ボツリヌスとは別の論点です。はちみつでアレルギーは起きるのかを参考に、気になる症状があれば医師に相談してください。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの準備を進めています。蜜蜂を迎える前の今は、はちみつをめぐる公的な資料を読み、暮らしの場面に合わせて整理しているところです。はちみつは、腐らないことと無菌であることが別のものです。そうした背景は腐らないことと無菌であることは別に書いています。赤ちゃんのいる家庭に贈る場面については、赤ちゃんのいる家庭にはちみつを贈るときもあわせてご覧ください。

家族やほかの人が与えてしまう経路

台所の経路を断てても、赤ちゃんの口にものを運ぶのは母親だけではありません。パートナー、祖父母、上の子、ベビーシッターや一時保育の人など、関わる人が増えるほど、はちみつが入り込む場面も増えるかなと思います。

祖父母の世代に伝えるときの言い方

乳児ボツリヌス症の予防対策は昭和62年から続いていますが、子育てをした時期によっては、この注意に触れていない人もいます。「昔は平気だった」と言われたときに言い争う必要はありません。厚生労働省のページや母子健康手帳の記載を一緒に見るほうが、気持ちよく伝わりやすいと思います。伝える内容は「1歳未満の口にははちみつを入れない」「加熱したお菓子や料理でも同じ」の2つに絞ると、覚えてもらいやすいです。

上の子が食べているものを分けてしまう場面

1歳以上の上の子がはちみつ入りのパンやヨーグルトを食べていて、それを下の子に「どうぞ」と差し出す。これは大人がそばにいても起こりうる場面です。上の子に禁止を言い聞かせるより、1歳未満の子がいる時間帯や場所では、はちみつを使ったものを食卓に出さない、と配置で区切るほうが確実かなと思います。

預け先には、離乳食のメモと一緒に書いておく

保育園は乳児の食事の注意を前提に運営されていることが多いはずです。一方、親族の家や一時的な預け先では、口頭で伝えただけだと抜けやすくなります。アレルギーの有無を伝えるメモがあれば、そこに「はちみつ不可(加熱したものも)」と一行足しておく。それだけで、伝え忘れの経路はかなり細くなると思います。

原材料名が手がかりにならない場面

前の章で「原材料名で確かめる」と書きましたが、そもそも表示がない、または見られない食べものもあります。ここで判断に迷うことが多いかなと思います。

表示がない、または見られない食べもの

食品表示法による原材料表示は、容器包装に入った加工食品が主な対象です。レストランなどの外食や、店内で作ってその場で売る総菜・パンは、原則として義務表示の対象外です。手作りのお菓子のおすそ分けにも、当然ラベルはありません。こうした食べものは、原材料名で確かめる方法がそもそも使えません。

判断に迷ったときの順番

表示がない食べものを1歳未満の子に与えるかどうかは、次の順で考えると迷いにくいと思います。

  1. 作った人やお店に「はちみつは入っていますか」と聞けるなら、聞く
  2. 聞けない、または答えがあいまいなら、その場では与えない
  3. 赤ちゃんには、原材料が分かっている離乳食やベビーフードを持参する

「たぶん入っていない」は判断の材料になりません。照り焼きのたれ、ドレッシング、グラノーラ、のど飴のように、甘みづけにはちみつが使われることのある食品は、名前からは見分けにくいものです。分からないものは与えない、という単純な線のほうが続けやすいのかなと思います。

包装のある食品でも見落としやすいところ

原材料名は、使った量の多い順に並べて書くルールです。はちみつが少しだけ使われていると、長い原材料名の後ろのほうに埋もれます。商品名に「ハニー」とないから、甘さ控えめだから、という理由で読み飛ばさずに、最後まで目を通すのが確実です。逆に、商品名に「ハニー」とあっても、香料などで風味をつけているだけの場合もあるので、名前より原材料名を見るのが基本だと思います。