この記事の要点
- ミツバチヘギイタダニは体長1.15×1.75mmほどで肉眼で確認でき、バロア病は家畜伝染病予防法上の届出伝染病です。
- 交尾済みの雌ダニは蓋がけ直前の巣房に侵入して約3日潜伏し、雄の卵を1個産んだあと30時間ごとに雌の卵を産みます。
- 春夏は雄蜂児に偏って寄生しますが、秋に雄蜂の生産が止まると働き蜂の蜂児へ一斉に寄生が広がります。
- 農林水産省の資料では、越冬前に駆除しないと寄生率が50%を超えて春を迎える群れもあるとされています。
- 内検ではシュガーロール法で寄生率を数値化し、2%未満は経過観察、4%超は防除が目安とされています。
養蜂を調べ始めると、多くの人がまず「はちみつをどう採るか」に目が向きます。けれども、実際に飼育の現場で群れを弱らせる最大の要因のひとつは、蓋の下で静かに増え続ける小さなダニだと言われています。ミツバチヘギイタダニは、巣箱を外から眺めているだけでは気づきにくい場所で、時間をかけて群れの体力を奪っていきます。この記事では、そのダニが巣房の中で何をしているのか、なぜ秋になると急に被害が目立つのか、そして飼育者がどのような手順で見つけ、どう対処するとされているのかを、公的な資料に沿って順に整理します。

ミツバチヘギイタダニとは——肉眼で見える、へぎ板のように扁平なダニ
ミツバチヘギイタダニ(学名:Varroa destructor)とは、ミツバチに寄生するダニの一種で、体長約1.15mm×1.75mmと、肉眼でも確認できる大きさを持つ生物です。名前の由来と法的な位置づけを最初に押さえておくと、以降の話が理解しやすくなります。
「へぎ板」は薄く剝いだ板のこと——名前が示す扁平な体
「へぎ板」とは、木材を薄く剝いだ板のことを指します。このダニの体は上から押しつぶしたように扁平で、赤褐色の甲羅のような外見をしており、その形が「へぎ板」に似ていることが名前の由来とされています。働き蜂の背中や腹部の節にしがみついている姿は、慣れてくると内検の際に肉眼でも見分けがつくようになると言われています。
バロア病は家畜伝染病予防法の届出伝染病
ミツバチヘギイタダニの寄生によって群れに障害が生じる状態は、バロア病(バロア症)と呼ばれます。農研機構 動物衛生研究部門によれば、バロア症は家畜伝染病予防法における届出伝染病に指定されており、発生を確認した養蜂家には届出の義務が課されています。「届出伝染病」とは、家畜の伝染性疾病のうち、発生状況を把握するために国への報告が義務づけられているものを指します。これから飼育を始める人にとっては、ダニの存在が単なる害虫被害ではなく、制度上も管理対象として扱われている点をまず知っておく必要があります。
蓋の下で何が起きているのか——封蓋巣房のなかの繁殖サイクル
ミツバチヘギイタダニの繁殖は、蜂児が育つ封蓋巣房の中で完結します。日本養蜂協会の資料によれば、交尾を終えた雌ダニは蓋がけ直前の巣房に入り込み、そこで約3日間潜伏したあと産卵を始めるとされています。封蓋巣房とは、幼虫が蛹になる前に働き蜂が蜜蝋の蓋で閉じた巣房のことです。
蜂に乗って移動する「便乗期」と、巣房にこもる「繁殖期」
ミツバチヘギイタダニの生活史は、大きく二つの段階に分けて説明されます。ひとつは成虫の蜂の体表にしがみついて巣の中を移動する時期、もうひとつは巣房にこもって産卵・繁殖する時期です。移動の段階では蜂の体液を吸いながら次の宿主となる巣房を探し、蓋がけ直前のタイミングを見計らって侵入すると考えられています。
最初の卵は雄、あとはすべて雌——蓋の中で完結する交尾
巣房に入って約3日が経つと、雌ダニは産卵を始めます。日本養蜂協会の資料では、最初に産む卵は雄で、その後は約30時間おきに雌の卵を産み続けるとされています。産卵数の上限は宿主によって異なり、働き蜂児では最高5卵、雄蜂児では6卵に達するとされています。蓋の中で孵化した雄と雌のダニはそこで交尾を済ませ、宿主の蜂が羽化して蓋が開くタイミングに合わせて、交尾済みの雌ダニだけが巣房の外へ出ていきます。一つの巣房という閉じた空間の中に、次世代を残すための一連の流れがすべて収まっていることになります。
3か月で12倍——晩夏からの爆発的な増殖
日本養蜂協会の資料は、ミツバチヘギイタダニの個体数が3か月でおよそ12倍に達するという増殖ペースを紹介しています。とりわけ晩夏から晩秋にかけての増え方は爆発的だとされ、この時期に対策を怠ると、越冬前に群れの中のダニの数が大きく膨らんでしまうことになります。増殖の起点となる封蓋巣房への侵入が繰り返されるほど、次の世代のダニも同じサイクルを踏んで増えていくため、時間が経つほど対応が難しくなる構造だと言えます。
なぜ秋に群れが弱るのか——雄蜂児への偏りと、ウイルスの媒介
雄蜂の生産が止まる秋、ダニの寄生先が働き蜂へ移る
ミツバチヘギイタダニによる被害が目立つのは、多くの場合、夏の終わりから秋にかけてです。農研機構 動物衛生研究部門の資料によれば、このダニは春から夏にかけては雄蜂児を選んで寄生する性質を持ち、秋に雄蜂の生産が止まると働き蜂の蜂児へ一斉に寄生先を切り替えるとされています。
春夏は雄蜂の部屋がダニを引き受けている
日本養蜂協会の資料では、雄蜂児は働き蜂児に比べて10〜12倍もダニを誘引するという性質が紹介されています。オス蜂の役割と一生で触れられているように、雄蜂は女王蜂との交尾を担う存在ですが、繁殖期を通じてダニの寄生先を引き受ける役割も結果的に果たしていることになります。この偏りがある間は、働き蜂児への被害は相対的に抑えられていると考えられています。
翅の縮れた蜂はサイン——チヂレバネウイルス(DWV)
秋になり雄蜂の生産が止まると、ダニは行き場を失い、働き蜂の蜂児に一斉に寄生するようになります。農研機構の資料によれば、1つの蜂児に5匹以上のダニが寄生すると、羽化した成蜂に腹部の萎縮や翅の奇形が現れる割合が増えるとされています。この翅の奇形と関わりが深いとされるのが、チヂレバネウイルス(DWV)です。農林水産省の資料では、ミツバチヘギイタダニはDWVを含む少なくとも5種類のミツバチ病原性微生物を媒介するとされています。羽化してきた蜂の翅が縮れている場合、ダニの寄生とウイルスの広がりを疑う一つのサインとして扱われています。
放置すると寄生率50%で冬を迎えることも
農林水産省の資料は、越冬前に駆除を行わなかった場合、寄生率が50%を超えた状態で春を迎える群れもあると指摘しています。寄生率とは、働き蜂の個体数に対するダニの数の割合を示す指標です。秋の一斉寄生から越冬までの期間に対策を取らずに過ごすと、翌春に群れを立て直すこと自体が難しくなる可能性があるとされています。
内検でどう見つけるのか——目視・粉砂糖・寄生率という数字
内検での目視と粉砂糖検査で寄生率を数値で確かめる
ミツバチヘギイタダニの有無や程度は、内検で巣箱の中に確かめることの一環として、目視と検査の両方から把握するとされています。まず結論を言えば、確認方法には手軽な目視と、より正確な粉砂糖を使った検査があり、後者で得られる寄生率という数字が対応を決める基準になります。
働き蜂の背中の赤い点を数える
もっとも簡単な確認方法は、働き蜂の体表にしがみつく赤褐色のダニを目視することです。農林水産省の資料では、巣板1枚あたり30匹以上の働き蜂にダニが目視できる状態は、寄生率10%を超えているサインとされています。この段階まで進んでいる場合、すでに軽視できない状況にあると考えられます。
粉砂糖でダニだけを落とす「シュガーロール」
より正確に把握する方法として紹介されているのが、シュガーロール法と呼ばれる粉糖法です。これは、一定数の働き蜂に粉砂糖をまぶして振り、蜂の体表から外れて落ちたダニの数を数えるという、蜂を殺さない非破壊の検査方法です。日本養蜂協会の資料によれば、この方法で得られる寄生率は「ダニの数÷働き蜂100匹」という形で算出されるとされています。数を数えるという地道な作業ですが、群れごとの状態を数値で比較できる点が、目視だけの確認と大きく異なるところです。
寄生率2%なら様子見、4%超なら即防除——IPMの考え方
日本養蜂協会の資料では、寄生率に応じて対応を変えるIPM(総合的病害虫管理)の考え方が示されています。春の時点で寄生率が2%未満であれば経過観察でよいとされる一方、4%を超えている場合は速やかな防除が推奨されるとされています。この二つの数字の間に、様子を見るか、すぐに手を打つかという判断の分かれ目があることになります。寄生率という一つの数字を定期的に確認する習慣が、群れの状態を早い段階でつかむための手がかりになると言われています。
飼育で行う対策——承認薬剤と、薬に頼らない方法の組み合わせ
ミツバチヘギイタダニへの対策は、承認された動物用医薬品を使う方法と、薬剤に頼らない方法を組み合わせて行うことが基本とされています。どちらか一方だけで根絶を目指すのではなく、複数の手段を状況に応じて使い分ける発想が前提になっています。
動物用医薬品はルールが細かい——6週間・巣板4枚に1枚・採蜜前は使わない
農林水産省の資料によれば、国内で認可されている動物用医薬品としてアピスタンとアピバールが紹介されています(資料発行当時)。使用にあたっては、使用期限を6週間とすること、巣板4枚あたり1枚を目安に薬剤を配置すること、採蜜の1か月以内は使用しないことといった細かなルールが定められています。また、春季の2〜3月と秋季の10〜11月にそれぞれ1回ずつ処理を行い、ダニが薬剤に対する抵抗性を持たないよう、同じ薬剤を続けて使わず切り替えることも推奨されています。市販の農薬や、国内で未承認の蟻酸・シュウ酸・チモール製剤などを使用することはできません。実際の使用にあたっては、製品の説明書に従うとともに、獣医師や家畜保健衛生所への相談が前提になるとされています。
雄蜂児トラップ——ダニの好みを逆手に取る古典的な方法
薬剤を使わない方法として知られているのが、雄蜂児トラップです。ミツバチヘギイタダニが雄蜂児を強く好む性質を逆手に取り、雄蜂の巣房だけをまとめて作らせ、ダニが集中的に寄生したところで巣房ごと取り除くという考え方に基づく手法です。あわせて、女王蜂を一定期間隔離して産卵を止め、群れ全体の蜂児が封蓋される時期を意図的にそろえたうえで駆除を行う方法も紹介されています。日本養蜂協会の資料では、この隔離期間は通常20日間程度とされています。
根絶はできない前提で、組み合わせて抑え込む
ここまで見てきた薬剤と物理的な方法は、いずれも「完全に根絶する」ためというより、「寄生率を管理できる水準に抑え続ける」ための手段として位置づけられています。内検による定期的な確認、寄生率という数字での判断、承認薬剤の適切な使用期間、雄蜂児トラップといった手段を組み合わせることが、飼育の現場では基本的な考え方とされています。
世界の養蜂とダニ、そしてこれから確かめたいこと
ミツバチヘギイタダニは、日本だけの問題ではなく、世界の養蜂に広く関わる存在です。あわせて、日本にもともと生息するニホンミツバチとセイヨウミツバチの違いによって、ダニへの向き合い方にも差があるとされています。
ダニのいない養蜂大国はオーストラリアだけ
日本養蜂協会の資料によれば、日本国内でミツバチヘギイタダニの寄生が確認されたのは1958年のことです。そして、主要な養蜂国の中でこのダニの発生が確認されていないのは、オーストラリアのみとされています。世界の多くの養蜂地域にとって、このダニへの対策は避けて通れない前提になっているということになります。
ニホンミツバチが大きな被害を受けにくい理由
ミツバチヘギイタダニは、もともとトウヨウミツバチ(ニホンミツバチ)に寄生していたダニが、セイヨウミツバチにも寄生するようになったものだとされています。トウヨウミツバチは、体をなめて異物を取り除くグルーミングと呼ばれる行動などの性質を持つことから、セイヨウミツバチに比べて壊滅的な被害を受けにくいと言われています。準備を進めるなかで調べていくと、同じダニでも宿主となる蜂の系統によって被害の出方が異なるという点は、飼育を考えるうえで押さえておきたい前提の一つだと感じています。これから蜂球で身を寄せ合う越冬のしくみや採蜜の手順と道具についても、公的な資料をもとに一つずつ確かめていきたいと考えています。
よくある質問
Q:ミツバチヘギイタダニは人を刺したり、家の中のダニのように人に付いたりしますか? ミツバチヘギイタダニは、ミツバチに寄生することで生活史が完結する専門的な寄生ダニです。人間の皮膚に付着して吸血する家庭内のダニとは生態が異なり、人やペットに寄生する心配は基本的にないと整理されています。
Q:ダニがいた巣箱のはちみつは食べても大丈夫なのでしょうか? ミツバチヘギイタダニ自体は蜂に寄生するものであり、はちみつに直接混入するものではありません。また、アピスタンやアピバールといった承認薬剤は、採蜜の1か月以内は使用しないという制度上のルールが定められています。なお、はちみつ全般の注意点として、1歳未満の乳児には乳児ボツリヌス症のおそれがあるため与えないことが、消費者庁・厚生労働省から周知されています。
Q:ニホンミツバチにもヘギイタダニは寄生しますか? ミツバチヘギイタダニは、もともとトウヨウミツバチ(ニホンミツバチ)を宿主としていたダニです。ただし、ニホンミツバチはグルーミングと呼ばれる行動などの性質を持つため、セイヨウミツバチのような壊滅的な被害には至りにくいとされています。
六角門は、京都で蜜蜂を迎える準備を進めている段階の健康ブランドです。まだ巣箱もはちみつもありませんが、こうしたダニと蜂の関係のように、飼育を始める前に知っておくべき事柄を一つずつ調べているところです。公的な資料に基づいて理解を積み重ねながら、これから蜂を迎える日に備えたいと考えています。
数字を正しく読むためのつまずきポイント——検査結果が「低く出る」場面
シュガーロール法で出した寄生率は、そのまま群れ全体の状態を表しているわけではありません。ここを押さえずに数字を見ると、判断を誤りやすいと思います。
封蓋巣房の中のダニは数に入らない
粉砂糖で落とせるのは、成蜂の体表にしがみついている「便乗期」のダニだけです。前半で見たとおり、繁殖中のダニは蓋の下にいるため、検査には出てきません。蜂児が多い時期ほど、多くのダニが巣房の中にいます。なので、同じ寄生率でも「蜂児がたくさんある時期の数字」は実際より低く出ている可能性があると考えた方がいいかなと。1回の結果で安心しきらず、時期を空けて何度か測り、増えているのか横ばいなのかを見る方が実態に近づけると思います。
どの巣板から蜂を取るかで結果が変わる
一般的には、蜂児のある巣板に付いている働き蜂を取るのがよいとされています。外勤の蜂より、育児をしている内勤の蜂の方がダニを多く運んでいると考えられているためです。巣箱の端の蜜ばかりの巣板から取ると、低めの数字が出やすくなるかなと。もうひとつ、採取した蜂の中に女王蜂が紛れ込んでいないかを、事前に必ず確かめるよう注意されています。
粉砂糖が湿っているとダニが落ちにくい
粉砂糖がしけっていたり、振る時間が短かったりすると、ダニが蜂の体から外れにくくなると言われています。落ちた粉砂糖を白い容器や水に移すと、赤褐色のダニが見分けやすくなる、というのもよく紹介される工夫です。
蜂を触らずに傾向をつかむ「自然落下ダニ」の確認
巣箱を開けて蜂を取る検査とは別に、巣箱の底に白い板や粘着シートを敷いて、自然に落ちてきたダニを数える方法も知られています。蜂への負担がほとんどないので、内検の合間に傾向をつかむ手段として使われています。
ただ、落ちる数は群れの大きさや蜂児の量、季節によって大きく変わります。数字そのものを寄生率の基準と同じように扱うのは難しく、同じ群れの中で「前回より増えたか減ったか」を見るための目安と考えた方がよさそうです。もうひとつ、薬剤を入れた後にこのシートで落下数を見ておくと、薬が効いているかを確かめる材料になると言われています。
対策でつまずきやすい点——「やったのに減らない」を防ぐために
薬剤を入れたら、終わったあとにもう一度測る
前半で触れたとおり、同じ薬剤を続けて使うと抵抗性の問題が出てきます。薬剤を使ったあとに改めて寄生率を測り、思ったほど下がっていないなら「効いていないかもしれない」と気づけるようにしておくのが大事かなと思います。使う期間を守らずに長く入れっぱなしにすることも、抵抗性を持つダニを残す原因になりうるとされています。
雄蜂児トラップは「切り取り忘れ」が一番こわい
雄蜂児トラップは、ダニを雄蜂の巣房に集めたうえで、羽化する前に取り除いて初めて意味があります。取り除くのが遅れて雄蜂が羽化してしまうと、ダニを集めた分だけまとめて巣に戻してしまう形になります。トラップとして機能させるには、封蓋されたら取り除く日を先に決めておくことが前提になると思います。
自分の群れだけ抑えても戻ってくることがある
ダニは成蜂に乗って移動するので、近くにダニの多い群れがあると、迷い込んだ蜂や盗蜂を通じてダニが入ってくることがあると言われています。自分の巣箱では対策したのに寄生率が下がらないときは、周りからの持ち込みも疑ってみる必要がありそうです。地域の養蜂家どうしで防除の時期を合わせることや、家畜保健衛生所に相談することにも、この点で意味があるのかなと僕は考えています。