この記事の要点

  • 焼いたパンや菓子でも、はちみつが入っていれば1歳の誕生日までは与えないのが行政の案内です。
  • 芽胞は120℃で4分以上の加熱をしないと死滅せず、パン生地の中心は通常そこまで上がりません。
  • はちみつは重量順の原材料欄や、複合原材料の括弧の中に書かれます。アレルゲン欄には載りません。
  • 店で焼いて売るパンは原材料名の表示義務がないため、表示が無いときは店員に直接たずねます。

「パンだから、オーブンで焼いてあるから、もう大丈夫でしょう」。離乳食期の子がいる家庭で、はちみつ入りのパンや焼き菓子を前にすると、こう考えたくなる方は少なくないと思います。加熱すれば菌は死ぬ、という感覚は、台所の経験としてはごく自然なものです。

ただ、この問題に限っては、その感覚が当てはまりません。乳児にはちみつを与えてはいけない理由そのものは、1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由で詳しく扱っています。この記事では、店頭で手に取った一品を前にして、袋の表示をどう読み、表示が無いときにどう動くかに絞って整理します。

朝の台所の卓上に焼いたパンと焼き菓子が並び、包装袋の原材料欄を手に取って確かめている情景

先に結論——焼いたパンや菓子も、1歳の誕生日までは与えない

結論から言えば、焼いたパンや焼き菓子でも、はちみつが入っていれば1歳未満の乳児には与えません。島根県は、1歳未満の乳児には、はちみつや、はちみつを使ったり混ぜたりした食品を与えないよう案内しています。厚生労働省も、ハチミツ入りの飲料やお菓子などの食品を与えないよう呼びかけています。

この案内に「少量なら」「加熱してあれば」という例外はありません。パンやクッキーのように、はちみつが生地に練り込まれている食品も、「はちみつを使った食品」に含まれます。

厚生労働省と自治体が挙げる対象食品

乳児ボツリヌス症とは、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の芽胞が乳児の腸内で発芽し、増えて毒素を出すことで起こる病気です。芽胞とは、菌が厳しい環境をやり過ごすために作る、殻に守られた休眠状態のことです。

厚生労働省が挙げる対象は、はちみつそのものだけではありません。飲料やお菓子など、はちみつを含む食品が幅広く含まれます。島根県の案内には、東京都足立区の死亡事案が、離乳食としてジュースにはちみつを混ぜて与えたことが原因と特定されたという経緯も示されています。身近な使い方のなかに、危険は紛れ込みます。

1歳を過ぎたら通常は問題にならない理由

この注意は「1歳未満」が対象です。腸内の環境が整っていない乳児の時期に限った話で、1歳を過ぎれば通常は問題にならないとされています。ただし、1歳の誕生日を迎えた翌日に、急に何でも食べられるというわけではありません。初めての食品は少量から、体調のよい日に試すという離乳食の基本は変わりません。

なお、はちみつ入りのおやつについて、体に良いとか悪いとかを語る材料はここにはありません。この記事で扱うのは、与えてよい時期の線引きと、表示の読み方だけです。

焼いても残るのは毒素ではなく芽胞

はちみつで焼いた焼き菓子の縁が濃い焼き色になったトレイ。表面が色づいても中は100℃前後にとどまる 焼き色がついても、中の温度は別の話

焼いたパンが安全とは言えないのは、焼いても芽胞が残るからです。島根県は、ボツリヌス菌の芽胞は120℃で4分以上の加熱殺菌などをしなければ死滅しないとして、100℃程度で加熱したはちみつも与えないよう求めています。厚生労働省も、ボツリヌス菌は熱に強く、通常の加熱や調理では死なないとしています。

芽胞が死滅する温度と時間

目黒区(東京都)は、はちみつを加熱すれば安全と思われがちだが、芽胞は通常の加熱では死滅しないと説明しています。つまり、問題の中心は「毒素」ではなく「芽胞」です。毒素が熱で壊れるかどうかとは別に、芽胞が生き残って乳児の腸で育つことが問題とされています。

120℃で4分以上という条件は、家庭の鍋やオーブンで再現する温度帯ではありません。圧力をかけた装置で行う、殺菌の水準です。

焼き色がついても中は100℃前後

オーブンの庫内は180℃や200℃になることがあります。それでも、水分を含むパン生地や菓子生地の内部は、水が蒸発する際の熱を奪うため、100℃前後にとどまるのが一般的です。表面にこんがり焼き色がついていても、芽胞が死滅する温度と時間に、生地の内部が達している保証はありません。

トーストやハニートーストのように、焼いたパンにはちみつを塗る食べ方は、そもそも加熱の対象になっていないものもあります。加熱の有無を考える以前に、はちみつが入っているかどうかを見るのが先です。加熱の影響については、加熱しても変わらないことでも整理しています。

原材料表示の読み方——はちみつはどこに書かれるか

朝の台所で蜂蜜の瓶を虫眼鏡越しに見つめる情景。原材料欄を細かく読む姿勢を思わせる 欄の先頭から括弧の中まで、順に読む

包装されたパンや菓子で、はちみつの有無を確かめる場所は、原材料名の欄です。目黒区は、食品表示ラベルをよく確認し、はちみつが含まれていないか注意するよう案内しています。ここでは、表示の仕組みを3つの面から見ます。

なお、以下の表示例はすべて、説明のための架空の書き方です。実在の商品の表示ではありません。

重量の多い順に並ぶ

大阪府の食品表示基準Q&A(加工-51)の解説によれば、原材料は使用重量の割合の高い順に表示します。つまり、はちみつが欄の前のほうにあれば多く、後ろのほうにあれば少ない、ということです。ただし、後ろのほうにあっても、入っていることに変わりはありません。

たとえば、次のような架空の表示があったとします。

原材料名:小麦粉、砂糖、バター、卵、はちみつ、食塩、イースト

この場合、はちみつは5番目です。量は少なめだと読み取れますが、1歳未満の乳児に与えない理由として、量の多寡は関係しません。

「フラワーペースト(…はちみつ…)」のような括弧の中

もう一つ見落としやすいのが、複合原材料の括弧書きです。複合原材料とは、複数の原材料からできている原材料のことで、フラワーペーストやフィリング、チョコレートなどがその例です。複合原材料は、名前の後ろに括弧で内訳が示されます。

原材料名:小麦粉、砂糖、フラワーペースト(砂糖、水あめ、はちみつ、乳等を主要原料とする食品)、植物油脂

こうした表示では、はちみつは括弧の中にあります。欄の先頭から順に読んで「はちみつ」の文字が見つからなくても、括弧の中まで読む必要があります。

蜂蜜・ハチミツ・はちみつなど表記の違い

表記も一つではありません。「はちみつ」「ハチミツ」「蜂蜜」のほか、「はち蜜」と書かれることもあります。探すときは、文字の表記を一つに決めつけず、読みが同じものを拾います。次の表に、よくある見え方を整理しました。

表示の見え方読み取り方
原材料名の欄に「はちみつ」「ハチミツ」「蜂蜜」含まれている。避ける
複合原材料の括弧の中に「はちみつ」含まれている。避ける
「ハニー」「ハニーパウダー」などの語はちみつ由来かを、欄全体や販売元への問い合わせで確かめる
「はちみつ風味」と商品名にあるだけ商品名だけでは決められない。原材料欄で有無を確かめる

商品名や宣伝の文句より、原材料名の欄を信頼の置き場所にします。

表示に出てこない場合がある——省略と例外のルール

原材料欄に「はちみつ」と書かれていないから入っていない、とは言い切れません。表示制度には、内訳を省いてよい場合と、表示そのものが義務でない場合があります。

複合原材料が5%未満なら内訳を省ける

大阪府の解説では、複合原材料が製品の原材料に占める重量割合が5%未満の場合、または名称から原材料が明らかな場合は、その内訳の表示を省略できるとされています。たとえば、ごく少量のフィリングの中にはちみつが使われていても、フィリングの内訳が書かれないことがあり得ます。

また、複合原材料の原材料が3種類以上あるときは、3位以下かつ5%未満のものは「その他」とまとめられます。このため、「その他」の中にはちみつが含まれている可能性も、制度のうえではあります。

店で焼いて売るパンには原材料名の義務がない

大阪府の食品表示基準第5条の解説によれば、義務表示は、容器包装に入れられた一般用加工食品が前提です。食品を製造し、または加工した場所で販売する場合は、原材料名、内容量、栄養成分、事業者の氏名住所、原料原産地名などの表示が除外されます。

そのため、パン屋が店内で焼いて、その場で売るパンには、原材料名の表示がなくても違法ではありません。表示が無いのは、入っていないからではなく、表示しなくてよい制度だからです。

量り売り・カフェで出されるもの

量り売りの焼き菓子、カフェで出されるパンケーキやフレンチトースト、イベントで売られる手作り菓子も、同じ考え方が及ぶ場面があります。包装の有無や販売の形で、表示があるかないかが変わります。ハニートーストのようなメニューは名前から気づけますが、生地やソースに加えられたはちみつは、見た目では分かりません。

アレルギー表示欄では見つからない

はちみつの有無は、アレルギー表示の欄を見ても分かりません。アレルギー表示欄は、特定の品目にだけ用意されたものだからです。

義務・推奨の品目に含まれない

特定原材料とは、食物アレルギーを起こしやすい原材料のうち、食品表示基準で表示が義務づけられている品目のことです。消費者庁は、容器包装された加工食品について、特定原材料を含む旨の表示を義務付けています。くるみは2023年3月9日に、カシューナッツは2026年4月1日に、特定原材料に追加されました。

はちみつは、この特定原材料にも、表示が推奨される特定原材料に準ずるものにも含まれていません。ですから、アレルゲン欄や「本品には〜を含みます」の一文だけを見て、はちみつが無いと判断することはできません。はちみつとアレルギーの関係そのものは、はちみつでアレルギーは起きるのかで扱っています。

「1歳未満の乳児には与えないで下さい」の一文は要請ベース

厚生労働省は、食品事業者に対し、ハチミツおよびハチミツを含む食品について「1歳未満の乳児には与えないでください」という情報を、表示などで分かりやすく提供するようお願いしています。これは法令上の義務ではなく、要請です。

したがって、注意書きがあれば気づきやすい一方、注意書きが無いことは、はちみつが入っていないことの根拠になりません。注意書きの有無ではなく、原材料名を自分で読む、という順序になります。

確かめられないときの判断の分かれ目

ここまでの内容を、場面ごとに整理します。表示があるか、聞けるか、聞けないか、で取る行動が変わります。

場面確かめ方確かめられなければ
袋の表示がある市販品原材料名の欄と括弧の中を読む販売者の問い合わせ先に連絡する
店で焼くパン・手作り菓子店員や作り手に、はちみつの使用を聞く与えない
祖父母宅・保育の場の食べ物作った人に使った材料を聞く与えない

袋の表示がある市販品なら

原材料名の欄を、最初から最後まで読みます。「はちみつ」の表記の違いを意識しつつ、複合原材料の括弧の中も確認します。「その他」や「香料」「調味料」など、内訳がひとまとめになった語があって気になるときは、袋に書かれた販売者の問い合わせ先に連絡する方法があります。

パン屋や手作り菓子なら店に聞く

表示が無いのは、制度上は普通のことです。聞くときは「はちみつを使っていますか」と、一言でたずねれば足ります。生地、トッピング、塗りもの、ソースまで含めて確認してもらうと、見落としが減ります。分からない、確認できない、という返事なら、与えないという判断が安全側です。

祖父母宅・保育の場で気をつけたいこと

家庭の外では、手作りのおやつや、いただきものが出る場面があります。善意で出された食べ物を断りにくいという事情も、現実にはあると思います。あらかじめ「1歳になるまで、はちみつは使わないでほしい」と、使った材料を教えてもらうことの二つを伝えておくと、その場で迷わずに済みます。妊娠中・授乳中にはちみつを食べてよいかのように、家族それぞれの立場から気になる点がある場合も、同じ考え方で整理できます。

うっかり食べさせてしまったら

気づいたときに慌てる必要はありません。ただし、判断を自分だけで抱えず、小児科に相談する流れを持っておくことが大切です。

様子を見る期間の目安

ここで示せる出典つきの数字は、この記事の元になった資料にはありません。そのため、何日間様子を見れば安心、という線引きは書けません。症状が出るまでの時間や重さには個人差があります。食べさせてしまった事実が分かったら、量が少なくても、普段と違う様子がないか、日をまたいで見守ってください。

見守るときは、便秘が続く、ミルクや母乳を飲む力が弱くなる、泣き声が弱い、といった変化に注意します。症状が無いことを理由に、安全だと言い切ることはできません。

症状があれば小児科へ

上のような変化に気づいたら、小児科を受診してください。その際、何をいつ食べたか、袋の原材料表示があればその写真や現物を持参すると、状況を伝えやすくなります。症状が強い、ぐったりしているなど、急を要する様子のときは、夜間や休日でも救急の窓口に相談します。症状が出ていなくても、不安が続くときは、受診や電話相談をためらう必要はありません。

よくある質問

Q:はちみつ入りのパンは焼いてあるので、1歳未満でも大丈夫ですか?

大丈夫ではありません。芽胞は120℃で4分以上の加熱をしなければ死滅せず、パン生地の内部は通常そこまで上がらないためです。島根県も厚生労働省も、はちみつを含む食品を与えないよう案内しています。

Q:原材料表示の最後のほうに少しだけ「はちみつ」とあります。少量なら平気ですか?

量にかかわらず避けます。目黒区など自治体は、食品表示ラベルをよく確認し、はちみつが含まれていないか注意するよう案内しています。重量順で後ろのほうにあるのは量が少ないという意味で、与えてよいという意味ではありません。

Q:アレルギー表示欄にはちみつが書かれていないなら、入っていないと考えてよいですか?

よくありません。はちみつは特定原材料にも、特定原材料に準ずるものにも含まれていないため、アレルゲン欄には載りません。原材料名の欄を自分で読んで確かめます。

Q:パン屋で買ったパンに表示がありません。どう確かめればいいですか?

店で焼いて売る品は、原材料名の表示義務が除外されています。表示が無いのは制度上ふつうのことなので、店員に「はちみつを使っていますか」と直接たずねます。確認できなければ、与えないという判断が安全側です。

Q:ハニーシロップやはちみつ風味の菓子も避けるべきですか?

原材料にはちみつがあれば避けます。風味の表記だけで原材料にはちみつが無ければ、はちみつ自体は使われていません。商品名ではなく、原材料名の欄で有無を確かめてください。表示の見方については、純粋・加糖・精製のラベルの見分け方や裏ラベルの読み方も参考になります。

六角門は、京都で養蜂を軸にした暮らしのブランドを準備しています。まだ蜜蜂を迎える前の段階で、いまは、はちみつの扱い方や表示の制度について、公開されている情報を調べて整理しているところです。ここに書いたのは、その途中で確かめたことの一部です。これからも、食べ方や選び方を、できるだけ丁寧に言葉にしていきたいと思っています。